MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-05-01 to 1 month

「アヴィニョン五重奏V クインクス」

ロレンス=ダレル著イギリス作家五重奏(Quintet):終幕の洞穴<アヴィニョン>“投げ終えた賽あるいは暴かれる秘密”アヴィニョン橋と世界最古の演劇の街苦悩と希望を携えて人々は再びアヴィニョンへ水道橋の地下で明かされる真実韜晦と想像と真実と誇張の物語

「アヴィニョン五重奏IV セバスチャン」

ロレンス=ダレル著イギリス作家四重奏(Quartet):戦後の憂鬱<ジュネーブ>“贄なる洗礼者あるいは情熱の争い”アヴィニョン騎士団の街戦争のトラウマ治癒を求めてジュネーブへグノーシス帰化の”死”の代償シオニスト会議と戦後処理崩壊者と恢復者の巣立ち

「アヴィニョン五重奏lll コンスタンス」

ロレンス=ダレル著イギリス作家ブッカー賞最終候補三重奏(Trio):戦禍の愛<アヴィニョン&ヴェネツィア>“精神分析あるいは孤独な務め”アヴィニョン捕囚の街フランス陥落営みと企みは全て一時中断各自離散し死と愛に向き合う中で捕囚と逃避と密会が続く

「アヴィニョン五重奏II リヴィア」

ロレンス=ダレル著イギリス作家重奏(Duet):騎士団の財宝<プロヴァンス>“密会あるいは生きながら埋められて”アヴィニョン異端派の街プロヴァンスでの快楽エジプト王子との青春の日々妹の失踪友人の死財宝探しと諜報戦ナチの暗雲が垂れ込めるひと夏の海街

「アヴィニョン五重奏I ムッシュー」

ロレンス=ダレル著イギリス作家独奏(Solo):多重人格<プロヴァンス&アレクサンドリア>“創造譚あるいは闇の君主”アヴィニョン教皇の街“ある小説家”の数奇な運命グノーシス主義・テンプル騎士団・カタリ派…<ユダヤ学者>マルクスフロイトアインシュタイン

「文庫で読む100年の文学」

世界文学:60冊(うち50冊読了)日本文学:40冊(うち10冊読了)各界第一人者が第一次世界大戦〜現在までの手軽に入手可能な文庫に限り紹介世界文学はどれもハズレなしの傑作揃い日本文学も詳しくない身だが興味深い選著“自分ならこれ選びたいな〜”など読む&知る楽…

スヴェトラーナ=アレクシェーヴィッチ全7冊読破記念総書評

ジャーナリスト初のノーベル文学賞受賞自身の言葉を抑え聞き役に徹し旧ソ連と戦争の最前線で生きた人々の声を掬う1つですら言葉を失うほど凄絶な証言が何百と続く女性・子供・左遷者・老人・若者…弱者に寄り添い権力に抗う報道人の鑑だ 以下個人的ランキング…

「死に魅入られた人びと」

スヴェトラーナ=アレクシェーヴィッチ著ノーベル賞ベラルーシ作家激動の政変は何を齎したか?“幻の大祖国”ソ連崩壊と共に自我と存在意義を喪失した救済の術は本当に自殺以外ないと思わせてしまう実話の数々戦争や支配は終わった後こそ全貌が見えてくるだか…

「オルフェウ・ダ・コンセイサォン」

ヴィニシウス=デ=モライス著ブラジル作家ギリシア悲劇「オルフェウス」をリオデジャネイロ舞台でリライト祈り代わりにカーニバルハープ代わりにブラジル伝統楽器冥界の代わりに丘(コルコバード?)父アポロ同様モテモテ音楽男子の熱帯感満載なリオ式悲恋劇

「アレクサンドリア四重奏」完奏の感想

私小説恋愛小説芸術小説推理小説耽美小説戦争小説歴史小説写実小説宗教小説都市小説民俗小説陰謀小説群像小説告白小説あらゆるジャンルを網羅した4部作1冊ごとに期待を鮮やかに裏切ってくるから堪らない悠久と混沌の国際都市の熱気が伝わる傑作

「アレクサンドリア四重奏IV クレア」

ロレンス=ダレル著イギリス作家四重奏(Quartet):戦後の白日<未来>“クレアあるいは囚われの告解者”灯台と錬金術師の面影を残す街アレクサンドリア出会いと別れと旅立ちと再会…変わりゆく物憂げな追憶の街全宇宙が親しげに”ぼく”を小突いたような気がした

「アレクサンドリア四重奏lll マウントオリーヴ」

ロレンス=ダレル著イギリス作家三重奏(Trio):諜報と陰謀<過去>“マウントオリーヴあるいは暗躍の外交官”今はなき図書館の街アレクサンドリアコプト教名家民族運動3枚舌外交そして翻弄されるfemme fataleナイルに流れる血と涙世界大戦の足音

「アレクサンドリア四重奏II バルタザール」

ロレンス=ダレル著イギリス作家重奏(Duet):真実と虚実<現在&過去>“バルタザールあるいは物語る医師”2000年の歴史を持つ総主教座の街アレクサンドリア信じていた事実とは異なる手記を手に入れた”ぼく”謝肉祭と舞踏会に華やぐ国際都市砂漠の中の真実

「アレクサンドリア四重奏I ジュスティーヌ」

ロレンス=ダレル著イギリス作家独奏(Solo):悲恋の群像劇<現在>“ジュスティーヌあるいは略奪愛のfemme fatale”大王の名を冠する地中海の真珠アレクサンドリア作家の”ぼく”と破滅的な恋愛の辿る結末紺碧の海と蒼天の蜃気楼交わるはずのなかった運命

「過去を売る男」

ジョゼ=エドゥアルド=アグアルーザ著アンゴラ作家内戦終結新興ブルジョワ台頭が著しいアンゴラだが成り上がり者ゆえ”由緒正しい過去”が足りないその過去を再構築する仕事を営む男そこに大金を積む奇妙な依頼人が現れ…?男の家に棲む夢と不条理を交えた饒舌…

「星に仄めかされて」

多和田葉子著ドイツ・日本作家3部作2章祖国(=日本)滅亡でコペンハーゲンの病院に集う”言語受難者たち”6人の男女北欧言語を基にした人工言語パンスカが紡ぐ現代文明批判「オン・ザ・ロード」的ロードノベルに深い寓意を孕む軽妙洒脱な会話亡国への船出と共に…

「象の旅」

ジョゼ=サラマーゴ著ノーベル賞ポルトガル作家再読寝て食うだけの珍獣”象のソロモン”をハプスブルグ家への婚儀に決めたポルトガル国王象使いのインド人スブッロと共にリスボン〜ウィーン間の珍紀行諧謔と慈愛に満ちた現代からの著者の声を挟む旅先地元人と…

「チェーホフ傑作選」

アントン=チェーホフ著ロシア作家6中短編集日常的な物語ながら会話と心理描写だけで伏線回収する”チェーホフの銃”の本領発揮喜劇を皮肉と諧謔の絶妙なリズムとバランスで締める様は寧ろ演劇に近い“ヴェーロチカ”“カシタンカ”“退屈な話”“グーセフ”“流刑地に…

「魔法の庭」

イタロ=カルヴィーノ著イタリア作家11短編集海と子供と戦争と狩り時代に揉まれた異端者を描く“蟹だらけの船”“魔法の庭”“不実の村”“小道の恐怖”“動物たちの森”“だれも知らなかった”“大きな魚 小さな魚”“うまくやれよ”“猫と警官”“菓子泥棒”“楽しみはつづかな…

“絶望しない程度の失望に身を任せて”

40「失踪者」 🇨🇿チェコ フランツ・カフカ 私は正直カフカが苦手、自分の言葉でオリジナルの評論は書けず、従ってこの全集でもカフカと、更に極めてカフカ的な作品を書く残雪は、私の拙い評論力からランキング下位にせざるを得なくなっている。またカフカであれ…

“寓意が寓意を呼ぶ不条理の暗夜行路”

39「暗夜」 🇨🇳中国 残雪 「黒檀」はルポルタージュ文学であるため例外として、本全集唯一の短編小説集が「暗夜」だ。残雪の作風はカフカ的不条理と良く引き合いに出される、不思議な世界観が次々に繰り広げられるにも関わらず、原因や動機が全く描写されない。…

“悲しみよこんにちは…苦しみよさようなら”

38「悲しみよこんにちは」 🇫🇷フランス フランソワーズ・サガン “最後のKissは煙草のflavorがした、苦くて切ない香り…”。宇多田ヒカル「First Love」の有名なイントロ。この詩を当時15歳の少女が書いたというのが伝説の度合いを押し上げている。肉体と精神の成…

“拝啓ピーター&敬具マッカーシー “

37「アメリカの鳥」 🇺🇸アメリカ メアリー・マッカーシー “ビルドゥングスロマン”という小説のジャンルがある。日本語では”教養小説”と訳すことが多い。要は主人公が作中で思考しながら成長するジャンルだ。「アメリカの鳥」の主人公ピーターも思考を重ね、旅で…

“思い出ぽろぽろ手紙リレー”

36「モンテ・フェルモの丘の家」 🇮🇹イタリア ナタリア・ギンスブルク 手紙形式の小説は書簡体小説と呼ばれる。探してみると古典から現代文学まで意外と多い。ゲーテ「若きウェルテルの悩み」、三島由紀夫「レター教室」、夏目漱石「こころ」、ウェブスター「あ…

“酒呑童子の酔いどれ紀行”

35「やし酒飲み」 🇳🇬ナイジェリア エイモス・チュツオーラ アフリカは呪術の伝統が今も強い、特にサブサハラ地域は部族の密集地帯で、ニジェール川デルタが形成するナイジェリアは多部族で人口も多く、口承文学が豊富にある。”アフリカ文学の父”チヌア・アチェ…

“軽蔑と侮蔑ーそして差別と離別”

34「軽蔑」 🇮🇹イタリア アルベルト・モラヴィア 現代イタリア文学には概ね2つの潮流がある。まず1つは豊かな自国の歴史を背景に、寓意性や歴史に根差した幻想的な文学や古典引用を駆使するタイプの作家。典型例はカルヴィーノ、エーコ、ランペドゥーサ、タブッ…

“死に際の老いぼれよ!若き生き様に散れ!”

33「老いぼれグリンゴ」 🇲🇽メキシコ カルロス・フエンテス 北米は先住民を迫害し、中南米は先住民を強姦して支配した。だから北米には白人が多くて人種差別も多い、混血の多い南米には人種差別は少ない。人種が違えば文化も政治も当然違う。アメリカは奪い続け…

“rock 'n' roll!〜転がる石になれ〜”

32「ヴァインランド」 🇺🇸アメリカ トマス・ピンチョン 批評家ハロルド・ブルームは現代アメリカ代表作家を挙げ、ドン・デリーロ、コーマック・マッカーシー、フィリップ・ロス、トマス・ピンチョン、4名を四天王だと述べている、4人とも白人系作家だ。例えばト…

“終着点はハワーズ・エンド”

31「ハワーズ・エンド」 🇬🇧イギリス エドワード・モーガン・フォースター 古典と現代文学を比較すると、特に題名に大きな違いが見られることが分かる。人物であれ場所であれ国であれ、古典には固有名詞が題名に採用されることが多い。例えば「オイディプス王」…

“半世紀越しの街とその不確かな壁”

29「太平洋の防波」/ 30「愛人」 🇫🇷フランス マルグリット・デュラス 東インド会社のイギリス社員で、インド官僚として現地で成功した者を”ネイボッブ”という。本国より遥かに多くの富や土地を支配した、所謂アメリカン・ドリームのインド版だ。フランスもアフ…