MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2024-01-01 to 1 month

「支配についてII」

マックス=ウェーバー著 ドイツ帝国社会学者 過去読了した中でも確実に”名刺代わりの学術書”に入る傑作 歴史上の人物から定義するカリスマ 一神教特有の宗教文化圏が形成する教権制 カリスマ亡き後に何が支配を支えるか? 支配の社会学とは何か? “神は死ん…

「支配についてI」

マックス=ウェーバー著 ドイツ帝国社会学者 近代国家に必須の”官僚制” 一族支配が基調の”家産制” 土地分配が前提の“封建制” 古今東西”支配の世界史”から導く支配の構造分析 歴史・法・文化・宗教・地理・経済・商業・民族と多岐に渡る分野を5大陸の夥しい国…

「中国怪談集」総書評

歴史大国ながら詩・戯曲・口承民話・儒学の伝統が強く胡適主導の文学革命まで厳密には文学が不在だった国 宇宙論・言語論・戦記・幻想譚・キョンシー・中国共産党機関紙… 従って各話とも異色で編集者自身も”怪談集でなく奇譚集”と断言する程 一方で独自文化…

「北京で発生した反革命暴乱の真相」

一日一編 中国怪談集 中国共産党北京市委員会宣伝部”人民日報”著 革命未遂として学生を戦車で轢殺した天安門事件 一方CIAとソロスの煽動工作とも噂される同事件の”中国共産党側の主張”が本短編でありある意味ホラー以上にホラー なお当時の責任者の鄧小平は…

「五人の娘と一本の縄」

一日一編 中国怪談集 葉蔚林著 中華人民共和国作家・詩人・人民解放軍員 莫言「豊乳肥臀」のように破天荒かつ痛快な地方女性の因習をテーマにした中国マジックリアリズム 生き地獄の村の女性5人は痛みと傷を来世に残さぬよう死後”桃源郷”花園への旅立ちを願…

「鷲か太陽か?」

オクタビオ=パス著 ノーベル賞メキシコ詩人・作家・外交官・ジャーナリスト 11短編・21詩集 メキシコ国旗の象徴”鷲” アステカ帝国の象徴”太陽” シュールレアリスムとマジックリアリズムの時代の空隙を埋める擬人的な温かさを持つ初期散文集 <短編>動く砂 <…

「プトレマイオス王国と東地中海世界」

ヘレニズム王権 × ディオニシズム政策 × アレクサンドロス信仰 プトレマイオス朝エジプト外交政策 エジプトからギリシアを支配するため自ら文化をギリシア化 一方で古代エジプト王制の復古 過程を検証すると実際ロゼッタストーンには3ヵ国の言語が刻まれてい…

「死人たちの物語」

一日一編 中国怪談集 黄海著 台湾SF作家・記者・編集者 心臓を抉られ機会人間と化した大量の人間たち そしてそのクローンゾンビ予備軍 世界の改造を目指して生ける死人たちは次の復活に備え待ち続ける 絶対的な権力を梃子に人民を支配する中国を皮肉り台湾を…

「“鉄魚”の鰓」

一日一編 中国怪談集 許地山著 台湾出身中国哲学・文学・宗教学者 中国→アメリカ→イギリス→インドで研究後に五四運動参加→香港(燕京)大学教授→抗日文化運動参加 潜水艦開発と故事成語”鮑魚の交わり”を彷彿とさせる短編 科学にも詳しく魯迅と同様に近代西欧化…

「阿Q正伝」

一日一編 中国怪談集 魯迅著 中華民国作家 貧乏な白痴小僧”阿Q”はどんな会話も冷笑と罵倒で論破した気になり快楽を得る“精神勝利法”を編み出した! 秀才(科挙合格者名士)を嗤い革命を咲い自分自身をも笑う 現実逃避した挙句に街を引き回されて処刑を晒される…

「薬」

一日一編 中国怪談集 魯迅著 中華民国作家 中国文学革命の主導者 処刑された清末女性革命家の秋瑾がモデル 肺炎に苦しむ息子に薬(饅頭)を与えて励ます父 それは怪しい男の唆され迷信に藁をも縋る思いで買った”薬”だが息子は死去してしまう 母国の科学後進を…

「木のぼり男爵」

イタロ=カルヴィーノ著 イタリア作家 カタツムリ料理拒否で木に登り死ぬまで樹上生活した少年 人呼んで”木のぼり男爵”! 恋も革命も政府の指示も! 全て上から目線で失礼いたす! ヴォルテールにナポレオン! かかる英雄も跪く! 犬と美女とを追わざるば! …

「宇宙山海経」

一日一編 中国怪談集 江希張著 中華民国科学者・宗教学者・天文学者 2歳で中国語と算数をマスターし6歳で3大宗教の説法したとされる神童 水金地火木土天海と南北極星の自然環境・宇宙人類の生態・天体法則を個別に紹介 当時の中国の科学レベルと宇宙観を反映…

「大いなる遺産 下」

“大いなる遺産は大いなる期待である” 失っていく財産と対照的に得難き人生の糧に気付いたピップ 過去に決闘した者との再会 遺産相続の真実 全てを知ったピップの選択は…? 靴墨工だったディケンズ自身の体験も具に反映された喜怒哀楽と冒険に満ちた半自伝ビ…

「大いなる遺産 上」

チャールズ=ディケンズ著 イギリス作家 貧しくも優しい鍛冶屋の義兄に育てられる孤児少年ピップ ところが偶然にも脱獄囚を助けた事で巨額の遺産相続権を手にする 美女との邂逅 初めての悪友 残酷な現実 義兄の元を離れ大都会ロンドンに出て富に相応しい”紳…

「山の花環/小宇宙の光」

ペタル2世ペトロヴィチ=ニェゴシュ著 オスマン帝国セルビア=モンテネグロ=コソヴォ詩人・司教 2叙事詩 “山の花環” 対オスマン帝国軍への叛乱を鼓舞する荒々しい叙事詩にして反イスラムの同地”第2の聖書” “小宇宙の光” 人間道徳の善性と救済を説く天地創造…

「点石斎画報」

一日一編 中国怪談集 メイジャー兄弟編・刊 絵師付き2短編 清末リトグラフ(石版印刷) “ボール小僧の涙(做人極円)” 符艮心著 甕に閉じ込まれた見せ物球体小僧の悲運 “ワニも僕の兄弟だ(人魚双生)” 金蟾香著 「鶴の恩返し」+「醜いアヒルの子」的な新婚夫妻の…

「マーリ・アルメイダの七つの月」書評

ブッ飛んだ設定 奇抜なエピソード 魅力的な登場人物と世界観 喜怒哀楽の感情移入 エンタメありのミステリ 独特で皮肉極まる語りと文体 所謂”面白い小説”として申し分ない 一方でスリランカという小国の歴史が叫ぶように大国を糾弾 ブッカー賞らしい稀有な傑…

「マーリ・アルメイダの七つの月 下」

諧謔・自虐・暴虐・淫虐・嗜虐… 恋慕に革命に邪神に陰謀に復讐に旅に愚痴に潜入に謎解き… 大忙しの戦場カメラマン兼ギャンブラー兼ゲイ兼チャラ男 7月が昇りし時に明かされる真実と稀有な2人称文体の秘密とは…? 悲喜劇交々パラレルワールドゴーストストーリ…

「マーリ・アルメイダの七つの月 上」

シェハン=カルナティラカ著 スリランカ作家 ブッカー賞受賞作 1983〜2009年スリランカ内戦 タミル・イーラム解放の虎 vs インド平和維持軍 vs スリランカ政府軍 3つ巴の内戦終結の鍵は亡霊化した戦場カメラマンのスクープ写真!? 穢土と冥界7夜の往来サス…

「楽園」

アブドゥルラザク=グルナ著 ノーベル賞タンザニア作家 ブッカー賞最終候補 反帝国主義教養小説 ミルトン「失楽園」に登場する”楽園”キルワ アラブ君主・インド商人独占・ドイツ支配・イギリスの足音… 奴隷として売られ旅の中で成長する美少年は己が楽園を目…

「だれか来る」

ヨン=フォッセ著 ノーベル賞ノルウェー劇作家 1劇1エッセイ集 “だれか来る” 孤独を選び無人地に家を買う男女 彼(誰も来ないと豪語) 彼女(誰か来ると豪語) 男(2人に家を売り渡した老人) 単調な粗筋と反復する言葉と文体は冷たい北欧のフィヨルドを想起する “…

「砂漠の風」

一日一編 中国怪談集 紀昀著 清学者・著述家・編纂者 乾隆帝勅命「四庫全書」最高編纂責任者 しかし姻戚の罪で新疆ウルムチに一時的に流刑となり現地で民話に触れて編纂復帰後自作の奇譚を「四庫全書」にも収録した 砂漠の風が火井(石油噴出口)の炎を肥大す…

「台湾(フォルモサ)の言語について」

一日一編 中国怪談集 ジョージ=サルマナザール著 台湾帰化テューダー朝イギリス著作家 貴重な台湾・日本・中国の比較言語分析と第三者視点の外交関係分析 音節や歴史など偏見と誤解も多いが興味深い 台湾原住民インドネシア系高山族の君主が天皇と記す点も…

「揚州十日記」

一日一編 中国怪談集 王秀楚著 明末清初知識人 王朝交代期に何が起こるかを詳細に記録した逃亡識者の10日間 女真族入城と各地藩王自立で混乱する中華 揚州では輪姦・人肉食・焼討ちもあれば命を救われた例もある 大西国王張献忠と順国李自成 漢族視点で満州…

「ラテンアメリカ500年」

新大陸ほど支配被支配の歴史が顕著な地域はない 異文化極まる中南米はヨーロッパにとって”幻想世界” マジックリアリズム小説が中南米に生まれた理由も必然だった メキシコでのフィールドワーク中心に”人類史上最大の実験”ラテンアメリカ植民地の概観を構造分…

「十卺楼」

一日一編 中国怪談集 李漁著 明末清初劇作家・小説家・出版者 「四大奇書」名付け親にして刊行者 (西遊記/水滸伝/金瓶梅/三国志演義) ホラーより奇譚に近い 仙女の如き美貌を備えながら石女で苦労する女 しかし男の愛の力が奇跡を起こし悦楽と奇跡に身心を奮…

「人肉を食う」

一日一編 中国怪談集 陶宗儀著 元末明初文学者・著述家 「輟耕録」収録作 人肉食の噂は世界中古今東西で絶えない 中華の歴史においては男女子供で肉の名称も異なっていた 人肉食のレシピ・刑罰・地方色・文献・蛮族関係… 実際に食べたと噂の著名人の名が作中…