MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-04-01 to 1 month

「歴史学の始まり」

トルコ出身でアテネに旅した異邦人ヘロドトス「歴史」スパルタに生まれ生きたトゥキデイデス「戦史」古代ギリシアでも突出した歴史家2人を比較分析前者は当代ギリシア以外の国と時代の史実と伝説を共に含み何ならそっちの方が面白い後者は徹底的にペロポネソ…

「香料諸島綺談」

ユースフ=ビルヤトラ=マングンウィジャヤ著インドネシア作家4連作短編集“香辛料諸島”モルッカ諸島の神話・民話・歴史をアンボイナ事件と同時進行して描く”知られざるインドネシア諸島史”ローカルな自然・魚・香辛料樹木・動物が欧米の金儲けプランテーショ…

「ディンマスの子供たち」

ウィリアム=トレヴァー著アイルランド作家長閑で牧歌的な海街ディンマス復活祭に伴い活気づく平穏な光景をトリックスター的少年が掻き乱す風景も粗筋も楽しめる登場人物が殆ど子供で使用語彙も限定されるため本来は連作短編や章振り必須だが著者の神業で1大…

「田園交響楽」

アンドレ=ジイド著ノーベル賞フランス作家カトリック教会から禁書認定された本牧師は白痴で盲目の美少女を拾い情緒と知性を教え込む惹かれ合う牧師と彼女片思いの牧師の息子幸せな田園の静かな残響も今は昔“恋は盲目”から”恋は眩暈”へ手術で視力を回復する…

「J•M•クッツェー<世界と”私”の偶然性へ>」

クッツェー全作品&全評論解説現代英文学界の頂点ながら他言語執筆に挑戦する”集大成研究”異端の主人公言語・芸術論無感情文体自問と告白メタ的構造古典リライト(全作)傑作「恥辱」解説が充実本書読了後に作品を読むと深い理解と感動を覚えるはず

「友」

ペク=ナムリョン著北朝鮮作家政府公認の北朝鮮文学理系妻と工学夫の離婚調停と子供引取問題を引き受けた判事とその妻勲章と国の名誉のため必死で生きる市民高度な学会と男権社会で苦悩する家庭の女性がテーマ検閲や美化の可能性も否めないが文章も構成も練…

「サーデグ・ヘダーヤト短編集」

サーデグ=ヘダーヤト著パフレヴィー朝イラン作家10短編3散文詩集内省的な感情の吐露と外性的な言動の激情伝統的なイラン文化と歴史の夥しい引用をフランス心理小説の形式で独白(=ほぼ著者の思想)宰相輩出の名家で自殺未遂と放浪生活を続けた個人的には正直…

「アーダの空間」

シャロン=ドデュア=オトゥ著ガーナ作家“歴史は繰り返す”ループ500年×人種×同名女性転生1459年ガーナ:アダー(ポルトガル侵略時の嬰児喪失の母)1848年ロンドン:エイダ(ディケンズ愛人の数学者)1945年ドイツ:アーダ(ポーランド人ナチ慰安婦)2019年ベルリン:エ…

「バルカン・ブルース」

ドゥブラヴカ=ウグレシィチ著クロアチア作家エッセイ集“ヨーロッパの火薬庫”が爆発したユーゴスラヴィア紛争を語る扇動され昨日の友が明日の敵になり意味もなく殺し合った西側諸国はクンデラの様な亡命作家以外を持ち上げず諜報戦の役に立たない音楽などの…

「街とその不確かな壁」

村上春樹著“わたし”と”あなた”の夢物語“ぼく”と”きみ”を分つ不確かな壁2人で語り合った秋の蜃気楼の街7つの夜に無限の図書館で夢を読む2人に手紙は来ないからこんな時代の愛も森林の奥に隠れてしまう最果てにて交わる世界の終わり“記憶の図書館”あるいは”神…

「天使エスメラルダ 9つの物語」

ドン=デリーロ著アメリカ作家9短編集複雑で婉曲的な寓意世界が得意なデリーロ入門の傑作短編現代の不安(テロ・情報操作・科学・SF・多民族社会・自然災害)に翻弄される市民を描くのが上手い短編ながら起承転結が上手く寧ろテーマが直裁的でメッセージ性が明…

「ペルシアのむかし話」

17短編集前半:ローカルなイスラム化以前のペルシアむかし話後半:グローバルなイスラム化後の「千夜一夜物語」むかし話預言者モーセアッバース大王チャガタイ王子ペルシア版”アリババと40人の盗賊”ペルシア版”東方3博士”ペルシア版”スフィンクス”ペルシア版”…

「語り継ぐ人々 アフリカの民話」

37説話集東西南北アフリカ部族の民話集キクユ族ベルベル人マサイ族スワヒリ人ソマリ族アフリカでは狐ではなく針鼠と兎がトリックスター役で面白いまた大河文明的絶対神よりアニミズムが強い従って大災害や地獄行きと過酷な刑罰はなく痛い目見る程度に収まる …

「南海寄帰内法伝」

義浄著唐インド留学僧長安〜室利仏斉〜曲女城ナーランダー僧院での学び四波羅衣(姦・嘯・盗・殺)の厳罰衣食住と不殺生の徹底礼式梵我一如と極楽浄土に至る厳しい修行を経て漢籍仏典を原典翻訳小雁塔に保管されインドで滅んだ仏教の当時の様相と研究の詳細を…

「イェレナ いない女」

イヴォ=アンドリッチ著ノーベル賞ユーゴスラヴィア作家8短編3エッセイ2散文詩集多民族国家を描くことの難しさどの主人公も特定民族に偏らせず不正義と不条理に言葉で対抗”ユーゴスラヴィア文学界のティトー大統領”と言うべき存在橋や自然などを讃え夢見た民…

「文明交錯」

ローラン=ビネ著フランス作家新大陸は”銃・病原菌・鉄”で滅んだではインカ帝国がヨーロッパを征服したら?史実と逆の世界線キリスト教→太陽崇拝(インティライミ)ローマ教皇→アテネ教皇農奴制→ミタ制ハプスブルグ家→アタワルパ帝国セルバンテスとヴァイキン…

「熟成する物語たち」

鴻巣友季子著食と物語は熟成が大切ワイン×世界文学翻訳エッセイ翻訳もまた芸術であり機能的美学を持つ言語の深さを改めて思い知る落語と翻訳の関連性にも唸った(JUMPで「あかね噺」にド嵌り中)覇権言語(英仏語)と消滅言語クッツェーの様に”南半球文学”に挑戦…

「地の糧」

アンドレ=ジイド著ノーベル賞フランス作家散文詩×エッセイ×紀行文×田園回顧ルビなしで読めない格調高い漢字と翻訳冥界の王ハデスがペルセポネを連れ去り母の豊穣神デメテルが怒って収穫が消えたゼウスの調停で冥府と現世で過ごす周期が穀物の収穫期となった…

「レザルド川」

エドゥアール=グリッサン著フランス海外県マルティニーク作家ルノードー賞受賞作小さな島の歴史を見てきたレザルド川囁く樹木迸る水流泡吹く苔美しい自然を舞台に政治情勢に翻弄される市民を川下りと重ね合わせた多声性過去・未来・現在を多彩な人々の目ま…

「ギルガメシュ叙事詩」

紀元前4500年シュメール神話結集楔形文字で粘土板に刻まれた”世界最古の物語”ギルガメシュ叙事詩英雄ギルガメシュ友人エンキドゥ世界初の洪水伝説森の怪物フンババ退治イシュタルの冥界下り神話と英雄譚の狭間の設定から中央集権社会が始動する片鱗が垣間見…

「文学は予言する」

ディストピア感増す昨今世界の作家はどう予言したか?文学は未来をどう予言するか? 優れた芸術家は未来を予測できる予測できるからこそ歴史に名を残すペン1つで表現と弾圧立ち向かう作家はとりわけその典型 進まないフェミニズム古典浄化の波情報支配社会グ…

「シルクロード全史 下」

“グレートゲーム”中央アジアの大英帝国vsロシア帝国の攻防をチェスに例えた呼称現在アメリカも加わり中東に拡大した”豊かゆえに不安定な地帯”イランの石油を85%独占した英国イラクを前面支援し逆ギレした米国ナセル主義の勝利と挫折文明の十字路から戦略物資…

「シルクロード全史 上」

ザイデンシュトラーゼ全史“Ciao(伊語:おはよう)”は奴隷の傅く様が挨拶に定着した言葉「マハーバーラタ」原型はトロイア神話絹・馬・疫病・金・銀・鉄・奴隷・毛皮・ガラス・石油・宗教・思想・美術・文字・文学・神話…ユーラシア大陸の”見えざる道”に導かれ…

「ジブラルタルの征服」

ラシード=ブージェドラ著アルジェリア作家“ターリクの山(ジャベル・アル・ターリク)=ジブラルタル”征服者と同じ名の学生ターリクアルジェリア独立(現実と未来)×ジブラルタル征服(歴史と絵画)が交代進行ジブラルタルの地を”支配-被支配”と”多言語的公用語変…

「歩くこと または飼いならされずに詩的な人生を生きる術」

トマス=エスペダル著ノルウェー作家靴に穴が開くまでヨーロッパ横断エッセイ?小説?散文?作家論?音楽講義?哲学?どれでもありどれでもない思索で試作で施策な散歩記機微に富む日常を切り取ったスランプ作家の”いい旅ゆめ気分”

「青白い炎」

ウラジーミル=ナボコフ著ロシア作家架空の詩人の研究者の架空の前書き=20P架空の詩=120P(半分は英文)架空の註釈+架空の註釈内小説(架空の詩人研究者)=400P更に註釈内小説の舞台は架空王国の架空の人物架空×8のメタフィクション架空過ぎて理解も難解だが手法…

「ギリシア・ローマの文学」

アジアの神話と伝説に刺激され口承文学が生まれたギリシア以来ヨーロッパでは古代世界で劇場を有し多くの悲喜劇が誕生深く狭いギリシア:自然科学(ポリス間での牽制)+神話&文芸(叙事詩&オリンポス12神)浅く広いローマ:実学&自己啓発的(パン)+英雄伝説&博物学…

ハン=ガン全7冊読破記念総書評

韓国は小説より先に”詩の国”詩才に富む言葉と物語失った者に寄り添う眼差し何気ない日常の素敵な発見静謐ながら激情を伴う心情意表を付く展開韓国と日本の社会は効率主義で弱者に厳しいだが韓国には“喪失”から“恢復”のチャンスがある韓江はそれを作品で体現…

「ギリシア語の時間」

ハン=ガン著韓国作家・詩人“言葉の発声を失った女”が古ギリシア語講師の男と出会い”2000年前に失われた言語”を学び言葉を取り戻すまで外国語を日々習得する女視力を日々失う男言葉は人を恢復させる思想と感情と言語と夢と…語学以外をも受け継いでいく”ギリ…

「5月 その他の短編」

アリ=スミス著スコットランド作家12短編集全編とも妙味ある良作長編の心情を省いたミクロ→マクロの俯瞰が心地よい“四季4部作”でも感じたが季節とその人々の描写が上手い長編を読む限りコラージュ作風で短編も上手いだろうと予想していたが寧ろ短編の方が本…