MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2024-02-01 to 1 month

「東欧怪談集」総書評

19/26短編が本アンソロジー初訳とそれだけでも価値が高い1冊 ポーランド チェコ スロヴァキア ハンガリー イディッシュ ユーゴスラヴィア ルーマニア マケドニア セルビア ロシア 西欧とまた違う冷気溢れる東欧 あなたも血と死と夢と雪と掟の支配する怪談に…

「見知らぬ人の鏡」

一日一編 東欧怪談集 ダニロ=キシュ著 ユダヤ系セルビア作家 「死者の百科事典」抜粋 ー19XX年Y月Z日アラド日報朝刊ー ユダヤ系の少女が所持していた手鏡に殺人の犯行現場が映ったという 事件を目撃した少女は発狂したが顔が割れていたため殺人犯は即座に逮…

「秋のホテル」

アニータ=ブルックナー著 ユダヤ系イギリス作家・美術史家 ブッカー賞受賞作 女性作家は執筆に疲弊しイギリスからジュネーブ湖に療養する 恋人との手紙と宿泊者からの求婚 揺れる心のその先は…? 触れたら溶けてしまいそうな繊細な言葉も連なると不思議と硬…

「東スラヴ人の歌」

一日一編 東欧怪談集 リュドミラ=ペトルシェフスカヤ著 ロシア作家 4連作短編 “母の挨拶” “新開発地区” “手” “小さなアパートで” 戦争に駆り出され妻と生き別れた男と女のその後の人生を提示する ロシア人なのか? 東スラヴ人なのか? 巨大国家ソ連の人民ア…

「夢」

一日一編 東欧怪談集 ジブ=アイ=ミハエスク著 ルーマニア作家 ロシア革命の最中に夢を見る男 生き別れた妻とのたくさんの思い出が溢れ出る夢 それは過去としての記憶 それは現在としての夢幻 それは未来としての希望 思い溢れる言葉がどこまで夢でどこまで…

「アウターダーク」

コーマック=マッカーシー著 アメリカ作家 南部ゴシックに農村版カフカ的不条理も感じさせる深淵な世界 極貧下で兄と妹は近親相関に救いを求めた 生まれ落ちた赤子を沼に捨てた兄 妹は赤子を探しに単身放浪し兄はその後を追う 暴力・逃走・追跡… 極限状態の…

「一万二千頭の牛」

一日一編 東欧怪談集 ミルチャ=エリアーデ著 ルーマニア作家・宗教学者 あれは皇帝の時計… “あちらの世界”には六千頭の牛の最高級ステーキ… これも皇帝の時計… “こちらの世界”にも六千頭の牛の最高級ステーキ… “分たれた反転世界”で占めて一万二千頭の牛の…

「恐るべき緑」

ベンハミン=ラバトゥッツ著 オランダ系チリ作家 5連作短編集 国際ブッカー賞最終候補 “21世紀のボルヘス現る” 無限の感性と質量 詩や物語と量子力学は親和性が高い “プロメテウスの火”を齎した近代科学の偉人と偉業が芋蔓式に羅列 人類発展を命題とする科学…

「賃労働と資本/賃金・価格・利潤」

カール=マルクス著 ドイツ経済学者 世界と日本で今こそ最も読まれるべき経済学者マルクス 資本蓄積が賃金に分配されない 労働者が働く程に貧困で格差拡大 利潤を追求する程に競争原理が加速し賃金の罠が価格転嫁に繋がらない 新聞投稿記事のため「資本論」…

「吸血鬼」

一日一編 東欧怪談集 ペトロ=ミト=アンドレエフスキ著 マケドニア作家・詩人 某農場主の葬儀の日から村に現れ始めた吸血鬼 怯懦の人々は”吸血鬼が視える男”に対峙を依頼し遂に夜の闇で銃殺に成功する しかし殺害現場には吸血鬼の死体はなく代わりに”ある人…

「ルカレヴィチ エフロシニア」

一日一編 東欧怪談集 ミロラド=パヴィッチ著 セルビア作家 「ハザール辞典」抜粋 昔々ドブロヴニク地主貴族ゲタルディチ・クルゥホラディチ家に生まれルッカーリ家に嫁ぎしユダヤ族あり 追放の浮き身に遭いドラキュラに甘美な死を求めて懇願せし 乳と蜜の国…

「この星でいちばん美しい愛の物語」

チンギス=アイトマートフ著 キルギス作家 “最も美しい愛の物語”とは何だろう? 思うに誰も触れない2人だけの国(スピッツ「ロビンソン」)を築く愛だと思う 村も家柄も男前の許嫁も財産も全て捨てた美女と気弱な男の駆け落ち 唯一その胸中を知る友人の語りも…

「象牙の女」

一日一編 東欧怪談集 イヴォ=アンドリッチ著 ノーベル賞ユーゴスラヴィア作家 中国人から購入した女が彫られた象牙をポケットに大事にしまう男 すると突如”象牙の女”がベッドの上に現れ誘惑を始める カルシウムで出来た彼女 即ち”本物の愛や善”を拒んだ男を…

「バビロンの男」

一日一編 東欧怪談集 アイザック=バシェヴィス=シンガー著 ノーベル賞ユダヤ系アメリカ亡命ポーランド作家 バビロン捕囚に始まるディアスポラ ユダヤ人にして”バビロンの男”は世界で異文化儀式を転々と行う内に死者との交信が可能となるが…? ユダヤ神話と…

「幻影の書」

ポール=オースター著 アメリカ作家 無声映画俳優が謎の失踪を遂げて半世紀… 家族を失った寂寞の大学講師の処方箋となった俳優と映画 彼の妻から手紙が届き俳優の生存が知らされ彼の仕事を総括した本を書き始める 小説内映画脚本・小説内伝記・現実の恋愛… …

「推敲」

トーマス=ベルンハルト著 オーストリア作家 世界的建築家(世界的哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがモデル) 彼の遺稿を推敲する半知性的な故郷嫌いの主人公が300Pに渡り只管に愚痴を綴るだけの小説 逆に愚痴だけで300Pも読ませる一貫した憤怒と狂気…

「ゴーレム伝説」

一日一編 東欧怪談集 イツホク=レイブシュ=ペレツ著 ユダヤ系ロシア領ポーランド作家 イディッシュ文学創設者の1人でハシディズム寓話はカフカにも影響を与えたという プラハの民に迫害と凌辱を受けてきたユダヤ人ゲットー 偉大なるマハーラールは泥人形の…

「骨と骨髄」

一日一編 東欧怪談集 タマーシ=アーロン著 ルーマニア系ハンガリー作家 歴史的ハンガリー現ルーマニア領セーケイ地方の国民作家 “世界は骨に支えられている” 戦争で肉を与えられる老憲兵 骨は腐らず残り失せた骨が何処にあるか知ろうとする彼だけが変わらな…

「オスカーとルシンダ」

ピーター=ケアリー著 オーストラリア作家 ブッカー賞受賞作 ヴィクトリア朝オックスフォード 流刑植民地期シドニー 2国で交錯する恋とギャンブルに賭ける男女 学生→牧師のオスカー 孤児→ガラス工場経営者のルシンダ 教会・大学・資本家・家族… 植民地に投資…

「グリオの夜」

カマ=シウォール=カマンダ著 ルクセンブルク亡命コンゴ民主共和国(旧ザイール)作家 35短編集 ザイールの民話マジックリアリズムを「千一夜物語」シェヘラザード役のグリオが語る夜話 チュツオーラ「やし酒飲み」やゼウス神とほぼ同じ話がアフリカにも存在…

「蛙」

一日一編 東欧怪談集 チャート=ゲーザ著 ハンガリー作家・医者・音楽評論家 第一次世界大戦時モルヒネ中毒で妻を銃殺後に自殺 蛙は大嫌いだ どの動物も好きだが蛙は吐気がする 最も死を想起する動物なのだ 尤も恐らく理由は別にある 歯と髪を持つ蛙を斬殺し…

「親密な手紙」

大江健三郎著 日本ノーベル賞作家 世界の作家で最も尊敬する大江さん 知を守って血を去く 知を盛って恥を生く 知を持って地を征く 難解で複雑な作品世界は読者に対し”親密”とは言えない だが手紙には本心が顕れる ならば親密な手紙で吐露する言葉は真を突く…

「ドーディ」

一日一編 東欧怪談集 カリンティ=フリジェシュ著 ハンガリー作家 病床児ドーディを訪ねる死神 まず死神に魂を差し出し両親を拒否する 次に手を差し出して身体を明け渡す準備をする 最後に目・耳・鼻・口・髪を差し出し命を吹き込む するとあら不思議 “もう1…

「大江健三郎論」

執筆時32歳と自分の現年齢に近いが最も遠く感じる作品… 「万延元年のフットボール」 →”作品としての最高傑作” 執筆時74歳と自分の現年齢に遠いが最も近く感じる作品… 「水死」 →”作家としての最高傑作” 逝去された今だからこそ概論可能な”戦後民主主義者”の…

「静寂」

一日一編 東欧怪談集 ヤーン=レンチョ著 スロヴァキア作家 “静寂” ……………………………… 静寂は死であり生だ ……………………………… 静寂は人間に似ている ……………………………… 何もかもが聴こえない ……………………………… ゆえに全てが聞こえる ………………………………

「ポーランドのボクサー」

エドゥアルド=ハルフォン著 グアテマラ亡命アラブ出身ユダヤ系ポーランド作家 12連作短編集 “ユダヤ人とは何か?” “オートフィクションは如何に書かれるべきか?” “ノマド民族の音楽・文学・美術はどう受け止めるべきか?” ユダヤの歴史的真実と小説的虚実…

「この世の終わり」

一日一編 東欧怪談集 ヨゼフ=プシカーシ著 スロヴァキア作家・テレビドラマ脚本家 駅のホームで列車を待っていた男 物乞いに突如”この世の終わり”を告げられる 彼が強烈な痙攣を始めると男も幻覚に苦悶し始める 男が周りの人に起こされた時には物乞いは既に…

「脳にはバグがひそんでる」

生物の脳はパターン化に強く適応力に富む 一方で初見の事例への対処は苦手 しかし類人猿はミラーニューロンと器用な手でそれを克服してきた 特に人類は情報革命で科学的分析とその伝授が可能になった しかし一方で情報過多で認知バイアスを拗らせたバグな判…

「出会い」

一日一編 東欧怪談集 フランチシェク=シヴァントネル著 スロヴァキア作家 兵役中の許嫁が消息不明なため別の男と結婚した未亡人 だが監獄から戻った元許嫁が新婚直後の2人の前に現れる… 血塗れで肩に噛み付き血を舐めるトラウマシーンがあるが3人の誰が誰に…

「生まれそこなった命」

一日一編 東欧怪談集 エダ=クリセオヴァー著 チェコ作家・ジャーナリスト 共産党政権時代に国内出版禁止→ビロード革命→ハヴェル大統領顧問 流産してしまった若い女性 物件探し中に死の強迫観念を感じ”生まれそこなった命”が胎内から訴えかける 死番虫が蠢く…