MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

「ほんとうの自分」

ミランクンデラチェコ作家 “他者の目に自分の姿はどう映るのだろう?” 離婚歴と子息喪失の過去を持つ更年期の女にスパイのように手紙を出し告白した若く低収入の男 肉体も精神も歳を重ねる程に脆弱となる その過程をあくまで”メロドラマ無き男女関係”に留め実存的再発見を促す

「夜すべての血は黒い」

ダヴィド=ディオップ著 セネガル系フランス作家 国際ブッカー賞受賞作 第一次大戦セネガル歩兵は苦しみながら逝った友の最期を悔やみ敵兵の”安楽死執行”を全うする 狂気か正気か? 残虐か救済か? 英雄か狂人か? 一人称現在系の冷静冷徹な独白が眼前に戦場が浮かぶ程リアル

「異族」

中上健次著 未完にして遺作のサーガ 役者は”異族” 舞台は”路地” 時代は”右翼全盛期” 主題は”満洲国再興” 満洲国傀儡政権は現代日本の米国支配と酷似する 大日本帝国・沖縄・満洲アイヌ・東南アジア・欧米の逸れ者達 大江健三郎初期作と三島由紀夫豊饒の海」を意識した性と生の文学の終点

「ナイルの聖母」

スコラスティック=ムカソンガ著 ルワンダ作家 ルノードー賞受賞作 著者実体験が元のNF ツチ族vsフツ族ルワンダ大虐殺前夜 ナイルの源流付近エリート育成カトリック女学校 小さな憎悪が個々人の場で増幅し和解の機会は逃げていく ベルギー国王来訪を機に”ナイルの聖母”が亀裂を齎す

「ラオス現代文学選集」

一日一編

ラオス現代文学選集シリーズ

日本列島の80%の面積ながら人口900万人に満たない山岳国家ラオス しかし東南アジア文学賞を6人も輩出する文学大国 近代化前の豊かな自然と文化が今も息衝くためだ メコンの濁流と仏教の不殺生文化 その田園風景は日本の原風景とも重なる

「森の魔力」

一日一編

ラオス現代文学選集シリーズ

ドークケート著 東南アジア文学賞受賞作 本書唯一140Pの中編 開発経済で神話が生きる森の伐採を目論む企業 それに立ち向かう青年教師と国際機関勤務の女性のカップラオスの豊かな自然が伝わる自然描写に恋愛ドラマもありと人間的魅力溢れる作品

「用水路の開通」

一日一編

ラオス現代文学選集シリーズ

フンアルン=デーンビライ著 用水路の開通式 これで農業効率が格段に上がると興奮する青年だが土地を10倍の値段で買うものが現れた 更にその地は埋め立てられ水路活用レストランへ改装… 目先の金儲けを求めた開発経済が後々になり綻んでいく