MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-02-01 to 1 month

「通達/謁見」

ヴァーツラフ=ハヴェル著チェコ大統領・劇作家ビロード革命立役者にして不条理演劇作家2戯曲“通達”人工言語”プティデベ”導入を巡る局長と局員の混乱共産主義官僚の愚政を揶揄“謁見”文才な部下に取引を伝えるがグダるビール工場醸造長の飲みニュケーションに…

「獄中シェクスピア劇団」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家再読有望な劇作家は刑務所の劇指導者に左遷見返すべく女優と素人囚人を徹底指導しシェクスピアの代表作「テンペスト」を上演囚人の演じる個性的なキャラと古典への想い囚人劇は成功するのか…?劇の作成〜裏方と細部の設…

「スモモの木の啓示」

ショクーフェ=アーザル著イラン作家国際ブッカー賞最終候補革命前後2章が交代進行する魔術的リアリズムスモモの木で啓示を受けゾロアスター教徒の村に逃れる一家風紀警察ジングールホメイニ独裁人魚化呪術師革命と「千一夜物語」やイラン史を絡め揶揄した幻…

「ビトナ ソウルの空の下で」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家田舎の貧困少女ビトナ18歳は老女サロメにバイトで自作の物語を披露する謎のストーカー出現で少女は自己を物語に重ね始め…?韓国の抱える若者自殺・学歴戦争・都市の孤独を描く入れ子構造の…

「謎の海洋王国ディルムン」

“2つの海”の名を冠するバーレーン古代名ディルムン世界遺産”世界最大の古墳群ディルムン”で有名日本の養殖成功以前は真珠の世界供給9割で砂漠ながら豊かな湧水の灌漑農業インダスとメソポタミアの仲介貿易で繁栄を古墳群史から分析アラム人侵入を経てバビロ…

「境界なき土地」

ホセ=ドノソ著チリ作家圧倒的財力で町を牛耳る大富豪ドン・アレホ彼の経営下のバー兼娼館に集う異端者たちの夜宴“ドン・ファン”宜しく街の子は彼の近親相姦と噂されるヒロインに待つ不条理な破滅異常者を正常者に見せかける著者の”整美なグロテスクさ”が狂…

「ノートル=ダム・ド・パリ」

ヴィクトル=ユゴー著フランス作家220Pダイジェスト版ノートル=ダム”貴婦人”慣例語で”聖母マリア”昨年は火災を被ったシテ島に聳える大聖堂ジプシーの芸妓美少女教会副司教美形の夜警隊長聾者の鐘撞き美少女の誘拐に始まる愛憎渦巻く15世紀末パリの”人間悲劇”

「母を燃やす」

アヴニ=ドーシ著インド系アメリカ作家ブッカー賞最終候補作介護の実態をインド文化と絡めた介護文学愛人や育児放棄と奔放だった母加齢で画家娘の絵やアトリエを燃やす認知症に母の生気の源=糖分を燃やす親不孝な娘子育てに過干渉する義家族長寿時代の複雑な…

2/1-2/23 “新潮文庫版”三島由紀夫祭

これにて全35作品読了45歳23年の多作で豊作な作家生活を堪能できた他文庫版は未読なので4月頃にまた”第2回三島祭”を計画中!読破したら珍しく長めの感想をUPしたい…!新潮文庫版の個人的Best5(順不同)「音楽」「潮騒」「金閣寺」「豊饒の海」「鏡子の家」

「仮面の告白」

三島由紀夫著半自伝の文壇デビュー作“この告白は自らへの死刑宣告だ”処女作は作家の全てが現れるという三島版「人間失格」同性愛を仮面の下に隠し偽り生きてきた青年脳裏に浮かぶ聖セバスチャンの殉教若さと性への葛藤異端者=三島自身が自らに突き付けた”生…

「女神」

三島由紀夫著11中短編集160Pの表題作”女神”が傑作美に狂奔する夫だが美妻は空襲で火傷を負い娘の”女神化”へ方向転換妻の復讐と娘の自立に夫の美学は崩れていく男女で異なる美の追求の皮肉な末路“女神”“接吻”“伝説”“白鳥”“哲学”“蝶々”“恋重荷”“侍童”“鴛鴦”“雛…

「沈める滝」

三島由紀夫著“愛は人工的に育めるのか?”容姿・財力・頭脳の全てを持ちながら愛に無感覚な青年技工士と不感症の人妻の恋男女が選ぶのは物質的愛か?情動的愛か?越冬の後の残雪と冷静で冷徹な人物描写のコントラストが絶妙無資質なダムに滝の水嵩が沈む様に…

「手長姫/英霊の声 1938-1966」

三島由紀夫著9短編集13才の作品とは思えない“酸模”天皇が人間宣言する玉音放送に忿懣する兵士の独白“英霊の声”手癖の悪さを悪人に利用される女“手長姫”“酸模―秋彦の幼き思い出”“家族合せ”“日食”“手長姫”“携帯用”“S・O・S”“魔法瓶”“切符”“英霊の声”

「金閣寺」

三島由紀夫著1950年 鹿苑寺金閣放火事件“君はちっとも美しくない童貞だ”美の理想を金閣に求める吃音の醜少年住職となり性や乳房を見る度に金閣が脳裏に浮かぶ“金閣は焼かねばならぬ”普通の少年が放火犯に堕ちる過程を幼少期から構築する驚異の想像力京の山の…

「午後の曳航」

三島由紀夫著子供騙しというが大人も子供に騙される事は多い美貌の若き未亡人と屈強な国際貨物船員母と憧れの英雄だった海男2人の情事を覗く13才の息子青い少年に膨張していく慈愛と憎悪で未来の自分を処刑する晴れて”新しい父”となる船乗りに贈る“恐るべき…

「禁色」

三島由紀夫著男色の美青年を結婚させ”シナリオ通り”3人の狂妻に復讐する老小説家美青年に関わる者全てが惑溺し破滅するかに見えたが…?ゲイバー徹底取材とLGBT時代の予期肉体と精神・老若と美醜の対比異性同性に縺れる巧みな心理戦途中で変化する主題“異色”…

「鍵のかかる部屋」

三島由紀夫著12短編集戦後ノスタルジーを想起する作品がメイン9ヶ月だけ務めた大蔵省が舞台の幼女愛”鍵のかかる部屋”晩年”楯の会”1シーンの”蘭陵王”“彩絵硝子”“祈りの日記”“慈善”“訃音”“怪物”“果実”“死の島”“美神”“江口初女覚書”“鍵のかかる部屋”“山の魂”“蘭…

「岬にての物語」

三島由紀夫著13短編集古典・幻想譚・怪奇譚がメイン著者曰く”事件も古典と同様に語り変えが可能”プロット名人の面目躍如“苧菟と瑪耶”“岬にての物語”“頭文字”“親切な機械”“火山の休暇”“牝犬”“椅子”“不満な女たち”“志賀寺上人の恋”“水音”“商い人”“十九歳”“月澹…

「小説家の休暇」

三島由紀夫著著者畢生の文学論太宰批判が凄い…笑“小説家の休暇”“重症者の兇器”“ジャン・ジュネ”“ワットオの《シテエルへの船出》”“私の小説の方法”“新ファシズム論”“永遠の旅人―川端康成氏の人と作品”“楽屋で書かれた演劇論”“魔―現代的状況の象徴的構図”“日…

「真夏の死」

三島由紀夫著11短編集川端康成に見出された初期作”煙草”子供の事故死に嘆きと責任で苦悩する母の過程を描く”真夏の死”孤独なパリピを描く”葡萄パン”“煙草”“春子”“サーカス”“翼”“離宮の松”“クロスワードパズル”“真夏の死”“花火”“貴顕”“葡萄パン”“雨のなかの噴…

「葉隠入門」

三島由紀夫著名著「葉隠」肥前国佐賀鍋島藩士の山本常朝の心得る”江戸後期の武士道”筆録を三島が解説&翻訳既に天下太平の世で宮本武蔵「五輪書」の様に剣術紹介などは皆無武士の美学・勉学・道徳を昭和の世に問う「憂国」で見た割腹自殺のシーンも伺える古典…

「花ざかりの森・憂国」

三島由紀夫著13短編集16才の作品”花ざかりの森”と切腹自殺の胸中を伺える”憂国”が妙 本作は三島お気に入りの作品を選出相変わらず古典の知識や心理描写が凄まじい 他にもビート文学の”月”や中世の教訓話の様な“中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の…

「青の時代」

三島由紀夫著詐欺被害を機に闇金会社設立で没落した三島の先輩東大生がモデル19才の作品で著者公認通り他作より質は劣るただ自己の幼少〜学生までを関連付けて作品に落とし込む技量は完成の域悪事を正当化する論理的秀才の頭を覗くのは「罪と罰」主人公ラス…

「盗賊」

三島由紀夫著著者初の長編“人は恋する時に最も嘘を付く”失恋ショックで自殺を試みる”ウェルテル効果”を同時期に経験する男女“心中”のため結婚を装ってまで2人を結ぶ不思議な絆失恋が生から死の美学を象り失望が風前の灯を照らす非現実的設定ながら巧みな心理…

「絹と明察」

三島由紀夫著実話ベースの社会派小説“社員は家族”と語る一方で個人崇拝と男権経営を行う紡績会社の社長女工の圧死事故や豪遊が批判されストライキに発展高度経済成長期の古臭い企業体質とブルジョワ支配を揶揄真面目ゆえ憎めない社長と労働環境の着実な時代…

「豊饒の海」総書評

三島由紀夫の遺作にして唯一の大河長編4部作心理描写・語彙・死生観・社会糾弾・禁忌への言及は過去最大級ライバルの太宰治「人間失格」同様に”自殺の決意”が随所に散見主人公の青年〜死の描写は”老いへの嫌悪”が顕著享年45才は一般に”若い”の限界年齢三島は…

「豊饒の海 (四) 天人五衰」

三島由紀夫著老境の本多は左腹部に黒子のある高IQ少年の透を養子に迎える分身の様な性格の透は邪智を駆使し強姦や本多の遺産を目当てに社会的抹殺を目論むが…?透は転生者か否か?病み衰え老い廃れ怯懦する者達の醜い戦い涅槃に向かう六界天人の死兆“豊饒の…

「豊饒の海 (三) 暁の寺」

三島由紀夫著勲の死から数十年肉体・精神の老化が著しい本多はインドとタイの宗教遺跡を巡遊し美醜の本質を思索旅中に学習院留学時代の同期タイ王家と再会左腹部に黒子を持ち”日本人”を主張する狂王女”月光姫”と清顕と勲の特徴を持つ姫の命運は…?暁に燃える…

「豊饒の海 (二) 奔馬」

三島由紀夫著死んだ清顕と同じ左腹部の3つの黒子を持つ級友の息子予言通りに滝で再会する本多勲は清顕の生まれ変わりなのか?激情の恋は激昂さる愛国心へ革命団体”神風連”にて未成年を率い打倒財閥クーデターを画策する勲の運命は…?淡雪は溶け豊饒な水平線…

「豊饒の海 (一) 春の雪」

三島由紀夫著「浜松中納言物語」挿話”豊饒の海”大正時代の侯爵&伯爵の華族社会の実事件がモデル学習院高等科の名家跡取り清顕と秀才の本多“現人神”皇族の娘を孕む”禁断の恋”の果て絶命する清顕彼は本多に転生を予感する遺言を残すが…?苦海浄土に溶ける青春…