MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-10-01 to 1 month

「ちいさな国で」

ガエル=ファイユ著 フランス亡命ブルンジ作家・ラッパー フランス人の父とルワンダ人の母を持つブルンジ少年 小さな国の幸せな生活は欧米の画策で突如”平和から戦争”へ 1994内戦 少数派牧畜民ツチ族vs多数派農耕民フツ族 美しかった湖水の小国は70万人大虐…

「アフリカの日々」

イサク=デイネセン著 デンマーク作家 ナイロビのコーヒー農園経営女性の自伝 美しく広大なサファリ ガゼルとの戯れ キクユ族・マサイ族・ソマリ族との友情 英国貴族との恋と離別 第一次大戦に伴う政変 そして訪れる農園売却の日 美しい表現とアフリカへの愛…

「フランス怪談集」総書評

シュールな作品もあるが映画「エスター」的な写実的でゾクッとするリアリズムホラーが多め リアリズム→シュールリアリズム→実存主義とフランス文学史の変遷を時系列でも理解可能 ユダヤ系や外国人作家も収録 全体に歴史な風俗の知識に詳かで註や翻訳者のレベ…

「木乃伊つくる女」

一日一編 フランス怪談集 マルセル=シュオッブ著 ユダヤ系フランス作家 リビアかエチオピア辺りの砂漠のある風習が残る村 出会ったのは嬉々として木乃伊(ミイラ)を作っていく女 そこに迷い込む兄弟 気付いた時には…? ミイラ取りがミイラになる一方でミイラ…

「代書人」

一日一編 フランス怪談集 ミシェル=ド=ゲルドロード著 ベルギー生まれフラマン語(実質フランス語のベルギー方言)劇作家 死の臭う残酷かつ暗黒な作品が多い イエス処刑者ピラトゥスと同名主人公 (ただし時代と設定の詳細は明かされない) 儀式めいた生活と不…

「ハントケ・コレクション1」

ペーター=ハントケ著 ノーベル賞オーストリア作家 2中編1講演 共通点は母語り “長い別れのための短い手紙” 1文だけの別れの言葉から辿る長い別れの記憶 “幸せではないがもういい” 自殺した母は幸せだったか? 母国の内戦と息子への思いを息子が綴る “ノーベ…

「夢宮殿」

イスマイル=カダレ著 アルバニア作家 国民の夢をスルタンが管理する官僚機構”夢宮殿”タビル・サライ オスマン帝国名家青年に迫る陰謀と夢の螺旋 ⭐︎⭐︎読書会⭐︎⭐︎ 11/26(日)13:00〜14:30 形式:Zoom 文学講義に近い読書会です ↓応募先↓ kotonoha.bungaku@gmail…

「死の劇場」

一日一編 フランス怪談集 アンドレ=ピエール=ド=マンディアルグ著 舞台は南イタリア 主人公は死を目前にした老婆 テーマは記憶と男女性差 モチーフは人間の心身における幾何学的投影 生と死を彩る骨董品と餞は人生における”最後の劇場”の幻想 澁澤龍彦の…

「不安ーペナルティキックを受けるゴールキーパーの…」

ペーター=ハントケ著 ノーベル賞オーストリア作家・劇作家 一般労働者で元GKの男は機械工を馘になった 悲痛は衝動に変わり殺人を犯す男 その時GK時代の記憶が呼び起こされ…? フロイト心理学の意識/無意識の連続した行動を言語化した実験小説

「南に向かい 北を求めて」

アリエル=ドルフマン著 アメリカ亡命ロシア系ユダヤ人チリ作家 9.11事件は2001年までチリ大統領府モネダ宮爆撃事件を指した 批評「ドナルド・ダックを読む」や戯曲「死と乙女」で有名な作家の半自伝 ”死に損なった作家”が語る NYとチリを跨ぐ”二都物語”の壮…

「壁を抜ける男」

一日一編 フランス怪談集 マルセル=エーメ著 42歳官吏独身男性 突然の啓示で障害物透過能力を得る 生首だけ透過させて傲慢な上司を脅かしたり パワハラで悩む惚れた女を手解きしたり 何となく壁抜けショートカットで散歩したり 透過にも飽きてきた矢先に彼…

「少女・女・ほか」

バーナディン=エヴァリスト著 ナイジェリア系イギリス作家 ブッカー賞受賞作 老若多職 12人12色の大英帝国アフリカ黒人末裔女性史 黒人女性地位向上を目指し数十年も戦い続けた劇作家の晴れ舞台で関係者女性達が振り返る各々の人生を主語だけの改行と句点な…

「死の鍵」

一日一編 フランス怪談集 ジュリアン=グリーン著 長編「モイラ」で有名なアメリカ系フランス作家 重奏的な語りで短編というより中編的な構造 青年の殺意が家族へ齎すものとは…? 家庭限定のドメスティックな空間設定ながらポリフォニックに欺瞞と傲慢を重ね…

「きつね」

ドゥブラヴカ=ウグレシッチ著 クロアチア作家 ロシア文学者と小説家 “スラヴ圏と東アジアにおいて狐は狡猾の象徴” 2つの顔を使う日常を濃密に語るオートフィクション 著者自身のユーゴスラヴィア内戦〜オランダ亡命後の異文化の摩擦と共存 苦楽伴う移住経験…

「囚人のジレンマ」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 第二次大戦×ゲーム理論×家族史×日系移民捕虜×ディズニー史 “囚人のジレンマ”或いは”ナッシュ均衡” 父への葛藤と虚実混淆の語りが生む肯定と否定のジレンマ ミッキーの世界進出とアメリカ憎悪の矛盾 時代に飲まれゆく国…

「或る精神異常者」

一日一編 フランス怪談集 モーリス=ルヴェル著 とある曲芸師の男 彼は悪人でも無くば凶暴でも無いがしかし道楽者の精神異常者であった 猛獣使いな闘牛など見せ物まがいの技芸では満足出来ぬ彼は目標を掲ぐる さる期待を裏切らぬて目に映る標となりしや犠牲…

「インド宗教興亡史」

歴史も経済も文化も宗教も豊か過ぎて飲み込むインドの宗教興亡史 ヒンドゥー教:バラモン教起源 イスラム教:世界最多の少数派 仏教:母国で滅んだ世界宗教 パールシー(ゾロアスター)教:グジャラート州 シク教:パンジャーブ州 キリスト教:ゴア・ケララ州 ジャイ…

「聖母の保証」

一日一編 フランス怪談集 アナトール=フランス著 芥川龍之介傾倒のノーベル賞作家 「ヴェニスの商人」同様の粗筋で「ヴェニスの証人」的様相の短編 聖母子像を担保にユダヤ人に借金し0から巨額の貿易利益を上げた男 しかしヴェニスに戻れず恋に落ち返済懸念…

「水いろの瞳」

一日一編 フランス怪談集 レミ=ド=グウルモン著 格調高い堀口大學訳が魅力的 ”水いろの瞳”を周囲から恐れられコンプレックスに感じる女 一方そんな彼女の瞳を肯定する男か現れる 肌や瞳の色で人を差別するのは容易い しかしその個性を枷に感じ狂気に至る人…

「肉食の思想」

食が歴史と国家精神を定義する Q.なぜ類似のシステムでもヨーロッパと日本の政治体制には天と地ほど違うのか? A.ヨーロッパが肉食文化だから 肉食は個人主義を生み自衛権と私有財産を保証し階級社会の保持と労働者の連帯を促した 国語や歴史は改竄も隠蔽も…

「真紅のカーテン」

一日一編 フランス怪談集 ジュール=バルベー=ドールヴィイ著 映画「恋ざんげ」原作 ゾラ中心の写実主義に反発しバロック的作風を好んだ没落貴族出身者のらしさ満載の短編 ナポレオン軍の若きエリート子爵が老夫婦と美少女の住む家に一時滞在する 当然のよ…

「ソロモンの歌」

トニ=モリスン著 ノーベル賞アメリカ作家 少年になっても母の乳を飲む黒人はミルクマンと綽名された 内気な彼はしかし悪友の導きで密造酒売買を皮切りに自身の家系を辿る長い旅を始める “誰もが黒人の命を欲しがっている” 過酷なアメリカ黒人の人生はそれ自…

「イールのヴィーナス」

一日一編 フランス怪談集 プロスペル=メリメ著 美しきおフランスのお麗しき村でのお記念となりし華やかな結婚式 “愛と美の女神”アフロディテ 或いは英名ヴィーナスも祝福を賜らんとして下さるはずだった… 悪戯にヴィーナス像に結婚指輪を嵌めたことで悍しい…

「アフリカ史」

地中海沿岸諸国を除く素晴らしいアフリカ史概観 🇰🇪季節風貿易史 🇷🇼ツチvsフツ 🇺🇬ブガンダ王国 🇹🇿ザンジバルとの連合国家 🇪🇹日露戦争前に列強に下した皇帝メネリク2世 🇿🇦ズールー王シャカ 🇬🇭奴隷貿易 🇨🇩近代専制国家 🇸🇩マフディー運動 🇸🇳サモリ・トゥーレ 🇳🇬内戦と呪術 マンサ・ムー…

「パワーズ・ブック」

“第2のピンチョン”リチャード・パワーズ 博覧強記の作家を日本のアメリカ文学者達が語る 本人へのインタビューも収録 「舞踏会へ向かう三人の農夫」 「囚人のジレンマ」 「ゲイン」 「ガラティア2.2」 「黄金虫変奏曲」 「ワンダリングソウル作戦」 当時刊行…

「死霊の恋」

一日一編 フランス怪談集 テオフィル=ゴーティエ著 ヨーロッパ1の吸血鬼小説の1つとされる有名な短編 聖職者人生が始まる直前に絶世の美女高級娼婦に惚れられた男 しかし彼女は吸血鬼だった 人と人ならざる者の禁断の恋の行方は? 「ロミオとジュリエット」…

「女であること」

川端康成著 日本ノーベル賞作家 “女”とは何か? “女であること”とは何を意味するか? “女であろうとする”為には何が必要か? 死刑囚の父を持つ苦悩の美少女 関西弁ドタバタ家出美女 美少女の養母となった弁護士妻の美熟女 齢離れし3人の美しい女の心理を美し…

「堕ちてゆく男」

ドン=デリーロ著 アメリカ作家 事件前「アンダーワールド」でビル攻撃を予見した作家が満を持して語る”9.11証言録” 加被害者双方と多様な人物から見た事件を臨場感が当時の衝撃を保持したまま語られる 世界各地で安全ベルトを着けて墜落パフォーマンスを行…

「反復」

ペーター=ハントケ著 ノーベル賞オーストリア作家・戯曲家 母:スロヴェニア人 父:オーストリア人 兄:世界大戦で行方不明 1日で4半世紀の自身と兄の人生を振り返る旅を描く半自伝 静謐で美しい文章と詩的・叙事的・抒情的・思弁的・風景的・政治的な回想 行…

「魔法の手」

一日一編 フランス怪談集 ジェラール=ド=ネルヴァル著 白魔術(人を癒す)と黒魔術(悪魔と契約して人を呪う)と予知能力を扱う者の業を描く パリを中心とした歴代国王や歴史の該博な宮廷裏話から生まれたスピンオフ的短編で面白い 整然と論理と物語を叙事的に…