MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

「猛スピードで母は」

長嶋有著 2中編 “サイドカーに犬” 父の愛人に好意を持ち母に距離を感じる娘 3人の女が邂逅した修羅場の結末は…? “猛スピードで母は” 芥川賞受賞作 貧乏でも真っ直ぐで強くて格好いい破天荒ママに魅了される ドライブ感のある文体との相性が絶妙 2作とも母の…

「赤い子馬」

ジョン=スタインベック著 ノーベル賞アメリカ作家 故郷サリーナスを描く少年期の半自伝 馬のことなら何でもプロの叔父さん 10歳にして赤い子馬の出産を目にし新たな生命と死別を経験する 田舎ならではの残酷さと強さ 厳しく美しい牧歌的自然風景と瑞々しい…

「ファルメライヤー駅長」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ヨーゼフ=ロート著 ウクライナ出身フランス亡命オーストリア作家 鉄道官僚出世道と幸福な家庭を持つ若き駅長 だが戦争勃発で中尉となり愛人を得て”戦争がいつまでも続いて欲しい”と望み始める 戦時の愛が願いにも呪いにもな…

「その名にちなんで」

ジュンパ=ラヒリ著 インド系アメリカ作家 ベンガル移民2世のアメリカ人ながらロシア文豪に肖り”ゴーゴリ”と名付けられた少年 アメリカ文化への違和感と迎合 ベンガル人家族との交流 「外套」等のロシア文学 複雑な文化的背景を持つ家庭をあくまで日常に絞り…

「ある夢の記憶」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 リヒャルト=ベーア=ホフマン著 「ゲオルクの死」で知られるユダヤ系でアメリカに亡命し死後に再評価された印象主義のシオニスト作家 感情や感覚が森羅万象に喩えられている点が詩人的 粗筋以上に繊細で鬱屈した比喩表現が特…

「落花生」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 シュテファン=ツヴァイク著 ナチに抗いアメリカとブラジルに亡命した詩人上がりの歴史小説作家 学級で馬鹿にされる繊細なティーンの少年 しかし教師の冷笑に奮発し殴り合いとなって教室を脱出し”15の夜”の解放感を得る この…

「すみれの君」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 アルフレッド=ポルガー著 伯爵vs男爵 伝説のトランプ勝負 決闘に香水好きにワルツの達人に最後の騎士の名を持つ借金まみれの伝説的伯爵 だが第一次大戦後のオーストリア解体に伴う共和国で貴族は身分剥奪を受け没落 貴族すら…

「楽天家と不平家の対話」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 カール=クラウス著 楽天家vs不平家の舌戦勝負! 繁栄と虚無を同時享受した世紀末ウィーンの頂上決戦 過激な内容は第一次世界大戦後こそ笑われたが現実となった フランツ・ヨーゼフ2世の没後にファシズム傾斜とオーストリア併…

「越境」

コーマック=マッカーシー著 アメリカ作家 国境3部作第2章 野生狼と出会い村を出て放浪する少年 ドストエフスキーの形而上学性 フォークナーの暴力性と野生性 コンラッドのロード・ノベル性 マンや中国義侠のピカレスク性 “計算された偶然性”を繰り広げる展…

「余はいかにして司会者となりしか」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 アントン=カーク著 司会者になりたいって? ならまず冷笑だ…! そして上級国民だと見せつけるのだ! 次に間の取り方だ…! 沈黙を統べる者は場を統べる! 間違っても滑らないようにな! どうだ! 正にヒトラーみたいだろう…?

「説得」

ジェイン=オースティン著 イギリス作家 8年ぶりに再開した若き上流階級の男女 かつての恋人同士が再び結ばれるロマンチックな展開だが丁寧ゆえ地味な描写も多い 「高慢と偏見」とは異なり”誤解からの印象改善”ではなく”かつての諦念からの説得”で結ばれる流…

「文学動物大百科(抄)」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 フランツ=ブライ著 作家を動物生態に喩え紹介 アインシュタイン ヴェーズキント カスナー カフカ クラウス シャオカル シュニッツラー ツヴァイク ブライ ホフマン ヘッセ ホフマンスタール マラルメ マン兄弟 ムージル ユイ…

「オーストリア気質」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 エゴン=フリーデル著 俳優・エッセイスト・パロディストにして貴族 第二次世界大戦で亡命を拒んで自殺した オーストリア気質についてフランクフルト新聞に寄稿するフリーデル氏 ヒトラーを感銘させた無能なルエーガー市長の…

「イスラム幻想世界」

イスラムの怪物・英雄・魔術を紹介する本 (今度またイスラム世界に旅行するので予習読書) イスラム成立時のカリフやムハンマド一家 「千一夜物語」に登場する逸話やジン(精霊)にイフリート等の怪物 バイバルスやサラディン等の英雄 アラビア魔術と言われたエ…

「ダンディならびにその同義語に関するアンドレアス・フォン・バルテッサーの意見」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 リヒャルト=フォン=シャオカル著 ここで私”世紀末ダンディ”ことアンドレアス・フォン・バルテッサーの意見を述べさせて頂きます! ……………………………… まあ全て嘘ですけどね

「フーコーの振り子 下」

19世紀パリ市内パンテオンで行われた”フーコーの振り子実験” サンジェルマン伯爵本人登場? カバラ カタコンベ エクトプラズム クンダリニー蛇 賢者の石 黄道十二宮 セフィロト カニバリズム 数多の十字軍 暗号解読仲間失踪を機に”計画”が始まり舞台はブラジ…

「フーコーの振り子 上」

ウンベルト=エーコ著 イタリア作家・記号論学者 2000年王国を夢見て歴史に消えたテンプル騎士団 その野望を現代の出版者3名が知的暗号解読に挑む 薔薇十字軍 世界各国民族部族神話 オカルト(カリオストロ) 錬金術(フラメル) 秘密結社(フリーメイソン) 知の…

「シャイブスの町の第二木曜日」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 フィッツ=フォン=ヘルツマノフスキー=オルランド著 チェコ人父とイタリア人父を持つ画家・建築家・作家 存命中無名で死後評価 “木曜日の週2日制”提唱 地質学者が反対し世界の民族と異端者が集合 ある意味ミニチュア版「百…

「地獄のジュール・ヴェルヌ/天国のジュール・ヴェルヌ」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ルートヴィヒ=へヴェジー著 ハンガリー出身でクリムトら画家のウィーン分離派を支援した ダンテ「神曲」の世界をお馴染みヴェルヌ小説風冒険譚で3003次元など突飛な世界を交えて地獄から天国まで旅をしていく

「めくるめく世界」

レイナルド=アレナス著 キューバ作家 投獄・戦争・迫害・社交・放浪・布教・夢想… 新大陸と欧州を往来する”メキシコのドン・キホーテ” メキシコ→スペイン→フランス→イタリア→ポルトガル→キューバ→フロリダ 亡命作家らしい人称切替と虚実混交の独特な修道士…

「千の輝く太陽」

カレード=ホッセイニ著 アメリカ亡命タジク系アフガニスタン作家・医者 歴代超大国に蹂躙され続けたゆえ部族内結束が強固で因習と偏見が残るアフガニスタン 共産主義期の男女平等がイスラム原理主義に奪われていく 聡明な2人の女性が踠き抗い自由と平和を希…

「絶望を希望に変える経済学」

“経済学は硬直的だ” インド系&女性+史上最年少ノーベル経済学賞受賞の夫婦タッグが贈る地道で愚直なデータ主義経済学 経済学者が盲信する自由主義経済 市民が無根拠に八当たる移民と国際貿易 流動性選好・貧困・経済成長・環境問題・税制… 希望を持つ為にま…

「バッソンピエール公爵譚」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ヒューゴー=フォン=ホフマンスタール著 ゲーテ「ドイツ移民談話ー”フランス公爵バッソンピエール”」が下敷 後の元帥で後代ベルギー外交官も輩出する名家公爵 性に溺れペスト蔓延期パリを逃れブロワ城に逃れた先で体験する怪…

「言語が違えば世界も違って見えるわけ」

男女中性詞を持つゲルマン語国家は帰納法思考? ラテン語国家は演繹法的哲学思考? 単語に東西南北が明記されるグーグ・イミディル語? 言語で色の認識が変わる? 「オデュッセイア」に登場する“葡萄酒色の海”? 認知言語学研究の最先端を多言語構造比較で紹…

「小品6つ」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ペーター=アルテンバーグ著 6ショートショート “公園” “11と9つ” “対話” “劇場” “ミッツィー” “ネズミ” 当時の男女価値観差・貧富の格差問題・子供の扱いと文化・社交事情が浮き彫りになるリアリズム作品 音楽の都らしく反復…

「ジャネット」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ヘルマン=バール著 美男子パウルと彼に恋するfemme fataleのジャネット パリのような華麗さとウィーンのような耽美さが交わる官能的で歪んだ激しい恋 軽蔑・憤怒・邪淫・倦怠・悦楽・篭絡・鬱屈・冷笑… みなウィーン世紀末に…

「レコデンタの日記」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 アーサー=シュニッツラー著 美人妻を巡り決闘した大尉と男 その風変わりな結末が妻の日記を介して語られる 引用ではない入れ子構造短編&内的独白小説(フロイト輩出都市らしい)の先駆け (多分)世界初のオーストリア&オースト…

「海よ 海 下」

俳優であるがゆえ結婚を諦めそれでも想い続けた恋人との再会 だがそれは”息子かもしれない少年”との邂逅でもあった… シェイクスピア「テンペスト」や聖書をモチーフに流麗な”意識の流れ”が揺れる乳房の様に波となり打ち寄せる 少年の親は? 恋の行方は? ド…

「海よ 海 上」

アイリス=マードック著 アイルランド出身イギリス作家 ブッカー賞受賞作 老境に差し掛かり舞台俳優を降りて隠居生活を始めた男 海で毎日泳ぎながら静かな余生を楽しむはずだった しかし40年前の恋人との邂逅が漣の音が打ち寄せる白波が在りし日の思い出と心…

「サヴィルの青春」

デヴィッド=ストーリー著 イギリス作家 ブッカー賞受賞作 “炭鉱夫の父が無職になった” 産業革命成功最大要因の石炭 炭鉱労働者街の苦境を少年視点の学校生活と世界大戦を軸に描く 後に歴代最低支持率に悩むサッチャーはマルビナス紛争に乗じ炭鉱労組民営化…