MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-08-01 to 1 month

「舞姫」

川端康成著 日本ノーベル賞作家 独善的な夫との倦怠から浮気と戦後バレエブームに嵌る妻 そして両親2人を冷やかに見る息子 会話のみで心理に奥行きを持たせ僅かな情景描写こそ優美で詩的な表現で補完する技術が相変わらず見事 個人大衆的な日常の機微を日本…

「都会の鳥の生態学」

長期観察と膨大なデータで暴く”都会鳥の生態” 視力と機動力と知恵と本能を備えた鳥は適応力が高く近年では猛禽まで東京に進出中 鴉・雀・燕・隼・鴨・海猫・梟・鷹・翡翠… 巣場所の物件探し 捕食・寄生・子殺し 共通の的への群生と混生 超高層ビル巣窟からの…

「グレート・サークル」

マギー=シプステッド著アメリカ作家ブッカー賞最終候補地球2分時の最大半球断面円”グレート・サークル”地球一周途上で消息を絶つ飛行士の姉戦争画家の弟ー50年後ー飛行士日誌原作の映画制作過程で主演女優の知る真実戦場を旋回し冒険へ滑空する双子にたなび…

「火山の下」

マルカム=ラウリー著イギリス作家“私より酒の方が大事なの?”“勿論”アル中メキシコ領事が死ぬ”死者の日”の1日の破滅的行動を4人物の語りに走馬灯的回想を交え悲喜劇的に描く文字通り死ぬほど面白い視覚的な文学から神経的な酩酊感覚を呼び起こす”酒呑の酒呑…

「証人」

ファン=ビジョーロ著メキシコ作家メキシコ革命とは何だったのか?24年振りにヨーロッパから祖国メキシコに戻る文学研究者彼の来歴を利用し政権交代をのし上がろうとする親戚・友人・著名人・政治家・宗教家…近現代史を彩るクリステロス戦争と革命の意義を問…

「乾杯 神様」

エレナ=ポニアトウスカ著メキシコ作家・記者ポーランド王族出身ジャーナリストが革命の激動を生きた1女性の人生を個性的な人々の声を交えて物語へ昇華虐待捨子→養子→女性兵士→紡績婦→降霊媒師自身の高貴な出自から見たメキシコシティの貧困分析が織りなす現…

「ルクレツィアの肖像」

マギー=オファーレル著イギリス作家夭折した姉に代わりフェラーラ公爵アルフォンソ2世に嫁いだ15歳の美少女ルクレツィア・ディ・メディチ1年後16歳で急死不能を噂された夫に暗殺説もある彼女の人生を想像補完した悲劇“産む機械”を要求された時代の才女の苦…

「砂と人類」

地球上に750京粒ある砂スマホの2割もコンクリの9割もガラスの9割も砂の”高純度石英”が原料世界12カ国の巨大な砂マフィア暗躍地球資源最大の砂は莫大な量が巨大建築や埋立地に使われ”砂戦争”勃発も近いと噂される砂をめぐる人類の歴史から海洋・生態系への汚…

「物語北欧の歴史」

バルト帝国を築いたスウェーデン中世に北欧を統一し五大陸に植民地を持ったデンマークヴァイキング誕生地ノルウェースオミ族700年に及ぶ忍耐のフィンランド火山と氷の孤島アイスランド北欧史の神話〜現代を俯瞰海運と略奪の民がハンザ同盟と絶対王政を経て福…

「物語バルト三国の歴史」

諸大国の長き支配を経て独立した個性的な3国の歴史エストニア:アジア系フィン・ウゴル語族ラトビア:ドイツ騎士団ハンザ同盟都市リトアニア:ポーランドと同君連合で最盛期は黒海まで支配またプロイセン発祥地ゆえナチがポーランド回廊都市メーメル(クライペダ…

「超新星紀元」

劉慈欽著中国SF作家処女長編超新星爆発の放射線バーストで12歳以下しか生き残れなくなった人類絶滅しゆく大人は余命10ヶ月で外交や国家運営から農業までを伝授“超新星紀元”2年後の世界は?米中印欧日露6大国の狡猾な外交戦?化学調味料確保?南極オリンピッ…

「赤い髪の女」

オルハン=パムク著ノーベル賞トルコ作家再読ギリシアとペルシアの父母子コンプレックスを描く悲劇フロイト文学は多数あるが個人的ベストの秀作⭐︎⭐︎読書会⭐︎⭐︎8/26(土)10:00〜手製レジュメも配布今回は文学講義に近い読書会です↓応募先↓kotonoha.bungaku@gma…

「独裁者の料理人」

ヴィトルト=シャブウォフスキ著ポーランド記者・作家“独裁者を最も知るのは長年仕えた料理人かもしれない”独裁者専属料理人5名への4年がかりのルポ記録カンボジア:ポル・ポトイラク:サダム・フセインウガンダ:イディ・アミンキューバ:フィデル・カストロア…

「それぞれの少女時代」

リュドミラ=ウリツカヤ著ロシア作家6連作短編集“多民族国家ソ連の少女の性の目覚め”を優しく描写する群像劇コーカサスやユダヤにアメリカ育ちなど多感な少女達が鬱屈したソ連の学校社会で瑞々しく生きていく210Pながら巧みな人物描写は正に”現代のトルスト…

「蚊が歴史を作った」

全人類史上1100億人の50%は蚊で死んだ個体数:110兆匹出現期:1.9億年前生息地:ほぼ南極以外年間死者数:87万人変態期間:1週間対蚊製品年間売上高:¥1500億主要媒介病:マラリア・黄熱病・デング熱・像皮病・エボラ・HIV特徴:産卵期雌のみ吸血生物兵器化:ローマ帝…

「眠れる記憶」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家2中編やはり全過去作同様ナチ占領期パリの暗部に迫る曖昧な記憶と失踪者の模索がテーマ“眠れる記憶”1960年代の青春の憂鬱と女性との戯れを弄る様に懐古する老作家“隠顕インク”手帳を手掛かりに30年前に失踪し…

「エタンプの預言者」

アベル=カンタン著フランス作家若き日に反人種差別・階級運動を戦ったリベラル派アメリカ史教授レズの娘とその彼女に触発され米黒人詩人の研究書を刊行だがポリコレ不十分の言及にSNSで大炎上し社会的孤立頼みの綱の宣伝役の友人も極右で…?SNS内の”自称批…

「無限角形」

コラム=マッキャン著アイルランド作家ブッカー賞候補作限りなく円に近い無限の角形”アペイロゴン”イスラエル人によるパレスチナ人への迫害パレスチナ人によるイスラエル人へのテロ古今東西の歴史を引き合いに1001の章を夢見た理想の中東和平版「千夜一夜物…

「終わりのない日々」

セバスチャン=バリー著アイルランド作家1840年代ジャガイモ飢饉で渡米し安定を求めて大陸を旅する青年の”終わりのない日々”ロードノベル・同性愛・戦争・先住民・開拓移民・西部劇・アイルランド史…多様なテーマを音楽的かつ抒情性を伴いながら270Pの1人称…

「そして私たちは世界の物語の一部となる」

インド北東部アンソロジー 23短編集マニプール州アルチャナル・プラデーシュ州ナガランド州ミゾラム州山岳地帯4州街伝統的村社会では”レイプされた女性が罪”になり”その罪を赦した父が偉い”首狩り族からインパール作戦の日本人フェミニズムから山岳地帯 <ナ…

「終わりの感覚」

ジュリアン=バーンズ著イギリス作家ブッカー賞受賞作余りにも王道すぎる傑作純文学“若さとは知ること”“老いるとは忘れること”自殺した友の遺品の導きで親友でもある寡婦と再会する老人死の真相と押し寄せる悔恨両義的孤独に麻痺するように研ぎ澄まされてい…

「未来散歩練習」

パク=ソルメ著韓国作家信頼していた米軍は軍事独裁を見過ごした光州事件の虐殺に対し市民はアメリカ文化院放火という憤怒で応えたー数年後ー釈放された放火犯と家族5人が過去の追憶と未来の模索日常の機微に見出す静かな真理とは?歩く程に散っていくヒリつ…

「カリブ海アンティル諸島の民話と伝説」

テレーズ=ジョルジェル編フランス編集者34短編集元々ゾンビはハイチ固有の文化クレオール擁するカリブ圏は実は世界的な作家を輩出する文学先進地帯黒人奴隷・白人入植者・先住民の融合は正に文化的小宇宙島には居ない動物すら登場する独特な民話と伝説 (民…

「ゼロK」

ドン=デリーロ著アメリカ作家不治の病を抱えた妻を凍結保存で未来の科学での解決に託す大富豪中央アジアの僻地に呼ばれた2人の息子が”見たもの”或いは”見る事になるもの”…“氷漬けの記憶と愛”は灯を取り戻せるのか?近未来的科学を題材を扱いながら人間的倫…

「ポーランドの人」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家70歳ショパン弾きの世界的ピアニストダンテが愛した女性と同じ名前の50代既婚者ベアトリスに惚れて駆け落ちを提案舞台はショパンが晩年を過ごしたマヨルカ島へセレナーデからノクターンに変奏す…

「飢えた潮」

アミタヴ=ゴーシュ著インド作家ベンガル湾ガンジス川デルタは豊かな生態系と貧しい人々の共生する世界最大のマングローブ地帯潮が導き入れる虎・蟹・鰐・カワイルカ等の土着文化神話・地質学・歴史・宗教・政治・動物行動学・気象・災害・言語学…“潮の国”を…

「見ること」

ジョゼ=サラマーゴ著ノーベル賞ポルトガル作家「白の闇」後日談視界が白い盲目に包まれるパンデミックから4年後…総裁選の大量白票で緊急事態宣言を出す政府更に首都封鎖警察・市民・政府・官僚・首相・保険会社の各々が予測不能な行動へ自治と権力の本質を…

大江健三郎全74冊読破記念総書評

戦後史=大江文学史22歳で文壇の寵児へ常に時代を弱者の側から描き文体改造を継続またノーベル賞後にこれほど挑戦的な大作を出した作家もいない作家としては勿論批評家として人として父として本当に立派な方義の想像と偽の創造が育む渓流の樹海神話のサーガ群…

「大江健三郎全小説全解説」

全小説刊行時の15テーマに沿って60年に及ぶ全作品世界を短編に至るまで解説代表作から隠れた名作まで時代背景と作家の心境に著者自身のインタビューや批評家の引用まで含めたダイジェスト乍らも充実した分析大江文学における圧倒的かつ先駆的な作品群の魅力…

「厳粛な綱渡り」

大江健三郎著日本ノーベル賞作家エッセイ集文化・芸術・絵画・音楽・政治・時評・創作論・回顧録…更には自作批評の自己解釈まで多分野に渡る20代の総括的エッセイ集常に”綱渡り”する様な緊張感を持って仕事をしてきた作家の思索と膨大な知識が伺える特に政治…