MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-07-01 to 1 month

「黒い豚の毛 白い豚の毛」

閻連科著中国作家9短編集農村・信仰・軍隊をテーマにした著者推薦の多彩な短編集近代化前の貧しさに生きる逞しさと温もりが共感を呼ぶ“黒い豚の毛 白い豚の毛”“きぬた3発”“奴児”“柳郷長”“いっぺん兵役に行ってみなよ”“思想政治工作”“革命浪漫主義”“同士”“信…

「23000」

ウラジーミル=ソローキン著ロシア作家氷3部作3章新人類覚醒から77年…“氷のハンマー選別”の被害者”肉機械”による”光の子”への復讐一方”兄弟団”は強力な心臓(こころ)能力を持つ少年を発見遂に世界各国23000の同志が孤島に集結し世界創成”大円陣”の儀式へ現代…

「氷」

ウラジーミル=ソローキン著ロシア作家氷3部作2章“まず初めに光あれ!”「聖書」冒頭の創世神話の再現を目指す選民思想的カルト集団”兄弟団”金髪碧眼の仲間を氷のハンマーを心臓に打ち付け選別するソ連とロシアを繋ぐ”氷の時代”罪深き色欲と背徳の”肉機械”vs…

「ブロの道」

ウラジーミル=ソローキン著ロシア作家氷3部作1章ロシア革命期シベリアに落ちた”ツングース隕石”これを機に23000の覚醒人類が出現金髪碧眼を持ち”心臓(こころ)”で会話する”光の仲間”を探す鍵は”氷”覚醒人類(光の仲間)vs肉機械(現生人類)“光の子”の運命を背負…

「魔の山 下」

トーマス=マン著ノーベル賞ドイツ作家生と死の停滞と日々が続く”魔の山”不条理文学さながらに遅々として進まない日常を最後までリアルに貫く民主主義者vs厭世主義者貴族と民衆の愛憎無知な青年がやがて身に付けゆく”教養”の形とは…?1914年 第一世界次大戦…

「魔の山 上」

トーマス=マン著ノーベル賞ドイツ作家計1500Pの教養小説(ビルドゥングスロマン)1908年スイス共和国ダボス会議で有名な国際都市アルプス山麓の町ダボス各国患者を診る病院兼療養所哲学・解剖学・心理学・神学・物理学・政治学・文学…曲者達する邂逅と思弁と…

「マーガレット・アトウッドのサバイバル」

個人的に現代作家No.1の才能を持つ作家アトウッド共通項は”サバイバル”著者と代表作を解説「またの名をグレイス」「オリクスとクレイク」「侍女の物語」「負債と報い」「昏き目の暗殺者」「キャッツアイ」“ローカルからグローバルへの挑戦”の軌跡

「毛皮のコートのマドンナ」

サバハッティン=アリ著トルコ作家“黒いノートには焦がし尽くしたい程の恋の思い出があるんだ”森鴎外「舞姫」的ロマンスベルリン留学したトルコ人青年画廊で見た絵画”毛皮のコートの美女”の実モデルに出会い恋をするしかし彼女は”恋愛”より”友達”の関係を熱…

「クコツキィの症例 下」

リュドミラ=ウリツカヤ著 ロシア作家医療への想いが家族3人をすれ違わせていく中絶問題に信念をかける父家族崩壊後の孤独で精神異常を来す母ミュージシャンとの恋で気付く日常の側に溢れる幸せ娘の孫出産を機に再び寄り添い合う一家と女性観の再考共産主義…

「クコツキィの症例 上」

リュドミラ=ウリツカヤ著ロシア作家医者一家の物語堕胎や中絶が禁止のソ連期市民と倫理道徳観を問う作品透視能力と腕と正義感で不慮の妊娠の救済を行う名医彼に手術で救われ結婚した母医学を志すも動物実験に倫理的抵抗から家出しミュージシャンと駆け落ち…

「アフリカの日々」

イサク=ディネセン著デンマーク作家・農園経営者ケニアに移住しコーヒー農園を営む公爵夫人誇り高きキクユ族伝統を重んじるマサイ族商い上手なソマリ族美しきキリマンジャロの麓跳躍するガゼル賑わう街の人々白人文明が忘れた”郷愁の日々”を美しく再現した…

「マフフーズ・文学・イスラム」

アラブ&エジプト唯一のノーベル文学賞受賞者ナギーブ・マフフーズ研究書歴史作品=古代エジプト・千一夜物語哲学作品=「泥棒と犬」社会作品=「カイロ3部作」スーフィズム作品=穏健社会主義生涯カイロで過ごし作品もリアリズム個人的にも「カイロ3部作」は10大…

「インド大反乱1857年」

1商社が1大陸3億人を征服したイギリス東インド会社の秘策は”徴税(ザミンダール)+徴兵(シパーヒー)の現地調達”マラーター同盟の敗北でムガル皇帝を擁立し大反乱へ獣脂使用の噂と藩王寝返りの諜報戦宗教による分断とシパーヒー懐柔カーストの壁を超えた反英闘…

「ディフェンス」

ウラジーミル=ナボコフ著ソ連作家寓意と歴史に満ちた不器用な天才チェスプレイヤーの恋と人生の物語チェスの才を受けチェスで妻とすれ違いチェスで成功しチェスプロブレム(詰将棋的1人チェス)にチェックメイト(破滅)するチェスゲームの様に孤独にディフェン…

「さすらう地」

キム=スム著韓国作家中央アジア諸国と韓国の間には直行便が多い日本軍スパイに紛れる朝鮮人を恐れたスターリンが強制移住で分散させた為だ10日間シベリア鉄道に詰められたヨーロッパ・アジア少数民族と高麗人(朝鮮系)の運命地獄の道程で餓死していく名も罪…

「帰りたい」

カミーラ=シャムジー著パキスタン系イギリス作家ブッカー賞最終候補テロリストの父を持つ兄妹5人の語り手を交錯させ移民問題のリアルを浮き彫りにする長女次女末弟長女の恋人(パキスタン系)恋人の父(内務大臣)テロリストとしてイスラム国に参加する弟「アン…

「発熱」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家10短編集日常を狂気が覆う短編“手紙”“発熱”“ボーモンが熱を知った日”“船は島に向かっているようだ”“うしろへ”“歩く男”“マルタン”“世界は生きている”“そのときわたしは平和と眠りを見出すだ…

「田舎医者/断食芸人/流刑地で」

フランツ=カフカ著ユダヤ系チェコ作家8短編集カフカは滑稽で笑えるそして後で急に悍ましさ恐ろしさ皮肉さが込み上げてくる“インディアンになりたい”“突然の散歩”“ボイラーマン”“流刑地で”“田舎医者”“夢”“断食芸人”“歌姫ヨゼフィーヌまたはハツカネズミ族”

「オノリーヌ」

オノレ=ド=バルザック著フランス作家3中編“オノリーヌ”“捨てられた女”“二重の家庭”いずれも理想的な女性が男尊女卑に苦しみ翻弄される内容200年前の女性は法的・経済的・家庭的にも男性の所持品扱いだった貴族社会を中心に男性の著者が鋭い先見と心理描写…

「コンビニ人間」

村田沙耶香著芥川賞受賞作“私の生活も夢も身体も価値観も全てコンビニで出来ている”38歳独身女性アルバイト処女趣味なし金なし社会不適合者でも18年間コンビニだけは自分と適合出来た…同じバイトを早々に馘になった無職30代エゴ男と同棲し”普通の生き方”を模…

アリ=スミス「四季4部作」総書評

最新&最長のポストBrexit +コロナ小説政治を強く意識し出版直前に起きた事件も盛り込んで一気に書くという実験的作風単著でも楽しめるが連作でも面白い表紙もお洒落ロンドンより地方を緻密に描き多和田葉子の様な言語遊びも盛り沢山英国のリアルを感じられた…

「夏」

アリ=スミス著スコットランド作家四季4部作4章夏は夜それは”繁茂の季節”新型コロナ急襲秋〜冬〜春の主要人物5人は個々の目的を携え道中を共に昏睡老人を目指す“どんな建築もsummer(大梁)は不可欠”分断は二元論ではない痛みも祈りも夢も悩みもそれぞれの想い…

「春」

アリ=スミス著スコットランド作家四季4部作3章春は曙それは”誕生の季節”ヘイトの助長才能が枯れ鉄道自殺を企てたTV&映画監督規定では3日のはずが何年も待機状態の移民収容所自殺を止め国外退去所で働く女性の前に12歳の開放少女が現れる物語はEU残留派が多…

「冬」

アリ=スミス著スコットランド作家四季4部作2章冬はつとめてそれは”死の季節”神様も平等も家族も死んだ冬トランプ大統領の告げた”新時代のクリスマスキャロル”グレタに憧れる環境活動家の姉自己責任論の弟すれ違う母と叔母雪の結晶は全て形が違う無数に舞う…

「秋」

アリ=スミス著スコットランド作家四季4部作1章秋は夕暮れそれは”老いの季節”イギリスEU離脱の国民投票世界大戦を目撃した齢101の昏睡老人彼を慕い見舞う若き美術史家女性戦争の負の遺産移民LGBTマスコミSNSイスラーム60年代コラージュ画“近くて遠い隣人たち…

「あの人たちが本を焼いた日」

ジーン=リース著ドミニカ国作家14短編集「サルガッソーの広い海」で有名なカリブのポストコロニアリズム的叛逆者主に西欧列強に蝕まれたドミニカ社会を描く牢獄での差別・言論統制・貧困社会の現実…女性×植民地×マイノリティ×比較文化をコンパクトにまとめ…

「雨天炎天」

村上春樹著著者のギリシア・トルコ旅行記ーギリシアーアトス山女人禁制の徹底的な東方正教会聖地文明の利器を全て捨て聖域に触れた不便さと非日常的体験ートルコー全土をのんびり周遊美味しいチャイとパン軍隊と国境と孤独な地理的特性のリアル黒海沿岸の美…

「ナポリの肖像」

“ナポリを見て死ね”で有名な$100万の夜景南イタリア&シチリアのナポリ公国通史ギリシア→カルダゴ→ローマ→ノルマン→アラブ→ビザンツ→独→仏→西→墺→伊血と知を伴いながらの多文化共存の生存戦略古代ローマ〜両シチリア王国〜ナポリ公国〜ランペドゥーサ「山猫」…

「ジャガーの微笑」

サルマン=ラシュディ著インド作家“詩人と自然の国”ニカラグア旅行ルポ記サンディニスタ民族解放戦線vsソモサ政権(崩壊)→CIA+アメリカ+反政府軍ニカラグア内戦(コントラ戦争)を独自分析当時のリョサ批判や詩の引用など敏感かつ冷静な筆致ながら音楽的で小説…

「百年の散歩」

多和田葉子著ドイツ・日本作家“黒い奇異茶店であの人を待ちながら散歩するのも悪くない”人類の発明は散歩中に閃く事も多い著名人の名が冠されたベルリンの通りを多言語的感性を持って”散歩する”日本女性街は今を彷徨う人々と歴史の交差点巧みな言語遊びの施…