MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-05-01 to 1 month

「物語 スコットランドの歴史」

ケルト時代〜近代を歴史と文化で斬るイングランドに蹂躙され続けたローランド独自のケルト文化を維持するハイランド両地結託でステュアート朝成立名誉革命以後は宗教と科学で英国と共に文化的な世界進出を果たすハリー・ポッター著者もスコットランド出身者…

「リャマサーレス短編集」

フリオ=リャマサーレス著スペイン作家・詩人21短編集陽気イメージが強いスペインの孤独や喪失を描く珠玉の短編特に近現代は分離独立危機やフランコ独裁(発展した分野もある)など闇も多く抱えてきた短くも美しい情景描写とそれに合わせた感情移入への持ち込…

「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」

シルヴィア=プラス著アメリカ作家・詩人8短編集若さを謳い若くに死んだ天才が魅せる鋭いキレ味の短編集ケルアックやサリンジャー的なアメリカ的青春文学に壮絶な自身の人生が色濃く反映個人的には文字通り親が決めたレールに子が抗う表題作が秀逸と感じた …

「昼の家 夜の家」

オルガ=トカルチュク著ノーベル賞ポーランド作家再読歴史的に諍いが絶えなかったドイツとポーランドの国境過去・現在・未来歴史・現実・虚構自然・人間・宇宙キノコの様に無限増殖する町と夢のイメージは正に”星座小説”“世界文学の最先端”トカルチュクが魅…

「儒教・仏教・道教」

氏族的な支配者主義の儒教戒律的な富裕層主義の仏教呪術医療的な庶民主義の道教西欧と異なり東アジアは多様な思想を共存させ融合と独自進化を成功させてきた占星術・蠱毒・纏足・漢方・死生観を中国メインに分析フランス史研究者が冗談含みの講義形式で語る…

「グリム兄弟とアンデルセン」

児童文学は西欧よりも北欧が圧倒的に勝ると云うドイツ”童話学者”グリム兄弟デンマーク”即行詩人”アンデルセンDisneyアニメの半分以上が彼らの童話両親を早くに亡くし生涯を共にしたグリム兄弟当時異例なほど旅したアンデルセン同時代に生き邂逅した童話作家…

「断想集」

ジャコモ=レオパルディ著19世紀イタリア思想家・作家・詩人イタリアではダンテの次に研究が盛んな実存主義の先駆け的存在漱石も「虞美人草」で引用し芥川やカフカへの影響も多大“世間は悪人の同盟”“善人ほど疑われる”“老いは死より辛い”“賞賛は自分起因が大…

「地平線」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家戦後の貧困で身分を偽り奇妙な依存関係を生きた男女2人“恋なんて思い出そうとしても覚えていないものさ”男にとって40年前に恋した初恋の人は交わることのない”記憶の地平線”舞台はパリからベルリンへ追い続け…

「私たちがたがいをなにも知らなかった時」

ペーター=ハントケ著ノーベル賞オーストリア劇作家主人公が”広場”の無言劇某ヨーロッパ市街の中心である広場で生活し通り過ぎる何百もの人々が登場する斬新な実験的戯曲台詞こそないが広場視点で簡潔に語らせたドラマ仕立ての無声映画(トーキー)的作品

「カーマ・スートラ」

ヴァーツヤーヤナ著古代インド思想家バートン註・訳世界最古の聖なる正なる性なる愛の手引き書”カーマ(愛)スートラ(本)”体位の研究人妻のNTR原因と対策身分と愛と儀礼セックスの奥義SMプレイ娼婦の研究精力増強材レシピ婚礼金夫婦の理想的関係官能的で実用的…

ヘロドトス「歴史」総書評

メディア・バビロニア・エジプト新王国〜ペルシア戦争までを描く地理誌・歴史・文化史・風俗史・博物誌の集大成その意味で”歴史”の表題は実に相応しい一方で脱線も多い魅力的な将軍たちや細かな奸計・同盟・度量衡の描写は寧ろ発掘や解読が進んだ現代こそ証…

「歴史 下」

ヘロドトス著 古代トルコ歴史家決戦迫る父を継いだクセルクセスが狡猾にポリス同士の潰し合いに誘導バビロンとエジプトの反乱を治めたがサラミス海戦で敗北マルドニオスに後を託しアテネ・スパルタ連合軍と再衝突終盤は疾走感と臨場感ある語りで琵琶法師「平…

「歴史 中」

ヘロドトス著 古代トルコ歴史家 トラキアとスキタイを征服したハカーマニシュ(アケメネス)朝ダレイオス1世イオニア反乱を機に残る蛮族ギリシア諸ポリスへ進撃アテネ主導でマラトンの戦いを切り抜け停戦ポリスの啀み合いと巫女の信託政治が印象的ペルシア戦争…

「歴史 上」

ヘロドトス著古代トルコ(ハリカルナッソス:現トルコ領ボドルム)歴史家ドーリア文明圏に属しながらエーゲ的イオニア文明思想にも影響を受けた著者流の分析自身の紀行体験を基に古代地中海文明の興亡を記述した西洋世界初の歴史書4/7=古代オリエント2/7=古代エ…

「パープル・ハイビスカス」

チママンダ=ンゴズィ=アディーチェ著ナイジェリア作家家族想いだが狂信的キリスト教徒の父父に諍う弟異教徒扱いの祖父流産を繰り返す母傍観するだけの”私”壊れていく幸せな家庭と母国の未来波長の合わない紫外線を浴びて哀しく咲き誇る”パープル・ハイビス…

「競売ナンバー49の叫び」

トマス=ピンチョン著アメリカ作家元恋人でカリフォルニア随一の大富豪の遺書で唐突に遺産処理人となる現ラジオDJの妻謎の鍵となる切手コレクションを辿る先に浮かび上がる闇の国際郵便事業団体” トリステロ”途次で出会う“マクスウェルの悪魔”とラッパ図像の…

イスマイル=カダレ全5冊読破記念総書評

“10回ノーベル賞を受賞してもおかしくない作家”誰にも真似できない乾いた文体と独自の世界観に魅了される母国アルバニアの伝説と神話と外交関係を軸に個人が巨大な国家や組織に包み込まれていく様を緻密に描く

「草原の神々の黄昏」

イスマイル=カダレ著アルバニア作家著者の半自伝反体制作家パステルナークのノーベル賞受賞(ソ連政府の意向で強制辞退)に物議を醸すソ連と東欧各国大国に翻弄される小国アルバニア青年作家は文学の権力への媚薬化に悶着する神話と民間伝承を忘れ鎖国を歩む…

「サラジーヌ」

オノレ=ド=バルザック著フランス作家4中編集全編とも近代芸術がテーマ“サラジーヌ”美の感性を追う彫刻家“ファチーノ・カーネ”盲目の透視者で楽器奏者の不思議な人生“ピエール・グラスー”芸術大衆化で一流に成り上がる二流画家“ボエームの王”王侯貴族独占→…

「服従」

ミシェル=ウェルベック著フランス作家パリ同時多発テロイスラム勢力台頭極右党首マリーヌ=ルペン躍進現フランス政界を悉く予見イスラム教とオイルマネーが既存の西欧的価値観を覆す様を描く冷静に時勢へ服従し出世するユイスマンス研究者トリコロールを翻…

「かつて描かれたことのない境地」

残雪著中国作家14短編集はずれなしの傑作選リアルかつ幻想的不条理かつ合理的どこかで見たことがあるようでまるで見たことがないメタファー的悪夢とその円環小説ならではの醍醐味である”物語世界に連れて去られてしまう未知体験と愉しさ”を存分に堪能できる …

「テント」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家35短編集“瓶”+”瓶II”+”声”=アポロンとクマエの愛の物語3部作がメインギリシア神話シェイクスピア欧米+北米の各国史ワイルドグリム童話イソップ物語お伽噺を現代を舞台にアレンジ絵画的でキレのある描写と博学な著者の散…

「かか」

宇佐見りん著サイン本1中編1短編“かか”劣等生の次女うーちゃん不倫で父逃亡後に発狂した母”かか”と冷たい祖母手術する母の痛みに呼応して痛む心と体(現代の孤独)SNS+田舎(伝統的孤独)オイディプス・コンプレックス双論を多角的に描く解説:町田康”三十一日”犬…

「バートルビーと仲間たち」

エンリーケ=ビラ=マタス著スペイン作家“バートルビー症候群”メルヴィル「書記バートルビー」に因むスランプに陥った著名作家(スペイン語圏中心)僅か4冊しか書けなかったサリンジャーフローベールに師事し成功するも発狂したモーパッサン文豪の苦悩と向き合…

「メイスン&ディクスン 下」

トマス=ピンチョン著 アメリカ作家重税と従属に抗い高まるアメリカ独立運動前夜英国→ケープ植民地→東部13植民地世界測量航海の後半善悪・人種・民族・奴隷・文化・宗教・歴史・自然・経済…全てを秩序づける”近代国境制度”を深く突き付ける喜怒哀楽を共にし…

「メイスン&ディクスン 上」

トマス=ピンチョン著アメリカ作家“新大陸の地形を策定せよ!”イギリス王立協会の命で派遣された天文学者チャールズ・メイスンと測量師ジェレマイア・ディクスンの航海日誌南北戦争の発端”メイスン=ディクスン線”誕生秘話古英語調の幻獣・神話・科学の奇想…

「女王ロアーナ 神秘の炎 下」

ウンベルト=エーコ著 イタリア作家歴史と著者自身の過去を辿る旅も終盤へ神秘の炎に包まれた在りし日の女性画像”女王ロアーナ”ムッソリーニ体制に子供ながら感じた違和感と共感栄光のローマ帝国文化と”未回収のイタリア”を巡る動乱小説としても面白いが歴史…

「女王ロアーナ 神秘の炎 上」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家・記号学者・メディア学者事故で逆行性健忘症となった患者を主人公にファシズム期イタリアを研学の著者の回想とを重ねた半自伝イタリア以外の国も含めカラー版で漫画・ポスター・風刺画・新聞・広告・風景写真・パッケージ…

「ラブアゲイン」

ドリス=レッシング著ノーベル賞イギリス作家“人は恋して愛されないと生きられないものなのよ”愛することで恋したことを忘れようとした恋することで愛したことを思い出そうとする子や孫の年齢の男に恋焦がれる劇場支配人の未亡人老女老いの心境と仕事への情…

「運命ではなく」

ケルテース=イムレ著ノーベル賞ハンガリー作家著者のホロコースト体験記同種の小説は多いが初めから”ナチ=悪”とせず少年の語彙力に合わせ善悪を判断する場面を再現アーレント「全体主義の起源」に近い広義の”ファシズム小説”弾圧〜収監〜強制労働〜開放ビネ…