MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-10-01 to 1 month

「父を想う」

閻連科著中国作家半自伝的エッセイ莫言と同じく貧しい農村出で高校や大学に通えず入隊後に作家になった著者鄧小平の登場後に「紅楼夢」や外国文学を知り驚嘆した経験はその作風にも影響は顕著父の家族への愛と暴力も厭わない厳しさギャンブル狂だが憎めない…

「ザリガニの鳴くところ」

ディーリア=オーエンズ著アメリカ作家・動物行動学者沼地での男の不審死を殺人事件と仮定し捜索する警察と裁判官恋と自然に満ちて生きた”湿地の少女”両章の交代進行で徐々に明かされる事件の全貌と容疑者の過去愛し続けた“ザリガニの鳴く故郷”に愛されなか…

「若く逝きしもの」

フランス=エーミル=シッランパー著ノーベル賞フィンランド作家厳しくも雄大な自然に逞しく生きる農民の少女しかし世界大戦で敵国の兵を慈愛で助け自国から売国奴扱いされてしまう…“祖国の農民人生への理解と自然との関係を描いた高い技術”ノーベル賞受賞理…

「愛の疾走」

三島由紀夫著売れない小説家の野心作原稿「愛の疾走」リアリティを醸すため実際に諏訪湖畔の漁撈青年と最先進カメラ工場OLをあの手この手で恋させる作戦を敢行原稿と現実が交代進行しながら徐々にマスコミ騒ぎになる程のロマンスへ…そしてインスピレーション…

「レター教室」

三島由紀夫著手紙交換を赤ペンで修正しながら進む形式45歳:英語塾経営高飛車マダム45歳:パパ活狙いの有名デザイナー20歳:マダムに可愛がられるのが嫌なモテOL23歳:劇団員の左翼青年25歳:マダムの従兄で太り気味の妄想3留男子学生天の声:三島由紀夫キャラも著…

「チェゲムのサンドロおじさん」

ファジリ=イスカンデル著アブハジア作家7短編集グルジアの隣にある少数民族の伝承を語り継ぐ“アブハジアのガルシア=マルケス”大法螺吹きで豪放磊落なサンドロおじさんのピカレスクとも騎士道物語とも言える冒険譚アブハジアの歴史文化を愉快かつ皮肉に鋭く…

「死体展覧会」

ハサン=ブラーシム著イラク作家14短編集母国で発禁処分され北欧に逃亡し英語圏で読者を獲得した著者いずれもイラクやイラク移民の残忍で暴力的な現実や悲痛な境遇を扱った作品アメリカによる侵略で国土が荒廃したイラクやアフガニスタンイスラム国台頭の元…

「失踪者」

フランツ=カフカ著ユダヤ系チェコ作家失踪した甥がモデルで短編「火夫」続編で別名「アメリカ」未完の3大長編新訳プラハを追われNYの叔父の下へ渡る17歳の青年揉まれに揉まれ嬲られに嬲られ…所謂”窓際族”の短期間の転落日記カフカにしては珍しくコンラッド…

「カッサンドラ」

クリスタ=ヴォルフ著東ドイツ作家神話において女性は常に脇役アキレウス等の男性と戦争が主人公の神話「トロイア戦争」これを卜占者で陵辱された女性カッサンドラ目線でリライト運命の翻弄にも負けない逞しさが眩しい東ドイツで弱者だった自身と下流労働者…

「タール・ベイビー」

トニ=モリスン著ノーベル賞アメリカ作家アフリカ系アメリカ人の民間伝承”タール・ベイビー”を大西洋の小島を舞台に寓話化白人大富豪下の黒人奴隷男とパリで学んだ高学歴黒人女性の”境遇違いの黒人同士の恋”の行方アメリカ黒人マイノリティ社会の”黒歴史”に…

「命売ります」

三島由紀夫著オカルト×裏社会×ハードボイルド自殺に失敗した男の新聞広告”どんな仕事でも引き受けて命も売る”依頼人繋がりで美女と戯れスパイ合戦に巻き込まれ麻薬にハイになりと意外と満喫一度こそ死を覚悟するも生の実感を得て死にたくないと思い始める過…

「お嬢さん」

三島由紀夫著大企業のご令嬢で恵まれた家庭の引く手数多な箱入り娘そんな彼女が惹かれ夫に選んだのは”裏の顔を持つ”プレイボーイだった…!女性の起伏の激しい細やかな感情恋を経験する中で結婚観も”盲目”から”晴眼”に変わっていく両親や友人の反対・説得・お…

「三島由紀夫の美学講座」

三島由紀夫著男性は彫刻女性は絵画知性と肉体が均衡化した古代ギリシア的美学を是とした美学芸術論が基本これに基づく谷崎潤一郎や西洋古典の評論彫刻・詩・室内装飾・廃墟・肉体論・建築・庭園・芸術・音楽・文学論…該博な知識は勿論だが持ち前の美麗な文章…

「アフリカ農場物語 下」

自然と緑に囲まれ平和共存し美しく育った3人の少年少女そこにナポレオンに憧れる白人が現れ金の力で狡猾な蹂躙を広げていく神はいるのか?愛とは何か?幸せとは何か?現代科学も古来より続く哲学的命題の答えを未だ出せていない英国首相グラッドストンも影響…

「アフリカ農場物語 上」

オリーブ=シュライナー著南アフリカ作家オランダ→イギリス支配になったケープ植民地の某農場多国籍移民と科学啓蒙にフェミニズムに目醒める少女の成長譚ボーア戦争前の長閑なグレートトレック時代の古典アパルトヘイト完成後を描くクッツェーやゴーディマと…

「ダンス・ダンス・ダンス 下」

村上春樹著あの頃の資本主義化の波で何を忘れたのか?諧謔のリズムでロリータ連れて逃避行ホノルルで逢う宮崎駿の娘たち“オドルンダヨ…”と言う割にあまり踊らない昭和的レトロな懐かしさと現代化の退廃の面を感じさせる不思議な世界爽やかで陰鬱なモダンホラ…

「ダンス・ダンス・ダンス 上」

村上春樹著青春3部作完結編札幌での”羊をめぐる冒険”から4年…羊男と異世界が再び出現2枚目俳優若枯れした作家作家の美少女娘フィリピン人娼婦隻腕のベトナム詩人セックスと羊男とときどき殺人…“文化的雪かき女性”を発掘する冴えないライターの不思議な冒険

「心経」

閻連科著中国作家仏教・イスラム教・キリスト教・道教・プロテスタント(天主教)某施設の中国5大宗教信徒の宗教合同セミナー尼僧と道士が禁断の恋に明け暮れ各教徒も悉く欲に負け堕落一方で苛烈する出世道の合同競技”綱引き”の行方は…?中国共産党の宗教政策…

「イスラム紀行 下」

ヴィディアダハル=スラヤプラサド=ナイポール著 ノーベル賞トリニダード=トバゴ作家<パキスタン>大国インドと袂を分かちイスラム回帰する長所と短所<イラン>イスラム革命直後の政治と宗教の変化を追う<マレーシア>華僑の経済力と印僑の宗教権威で潤うマレ…

「イスラム紀行 上」

ヴィディアダハル=スラヤプラサド=ナイポール著ノーベル賞トリニダード=トバゴ作家パキスタンイランマレーシアインドネシア“多人口の非アラブ圏イスラム国家”をインド系移民の著者が旅し一般市民と交流しながら具に観察する批評家や紀行家としての慧眼も…

「モンテ・フェルモの丘の家」

ナタリア=ギンズブルク著イタリア作家手紙交換リレー形式の小説”マルガリーテの館”で共に育んだ友情はしかし人生の転機で不可逆的な思い出に変わっていく多種多様な人物の文通で設定が徐々に重なっていき密度濃く収斂していく様が見事寂寥と喪失が人生の儚…

「アルトゥーロの島」

エルサ=モランテ著イタリア作家南イタリア孤島”1人だけの少年の楽園”不在がちの父が自分と2歳違いの若妻と共に帰郷し楽園崩壊母性と父性と異性と知性の葛藤はフラつきながら大人の階段を駆け上がる腹違いの弟も誕生し…?クローズドサークル+近親相姦的神話…

「太陽と鉄/私の遍歴時代」

三島由紀夫著インタビュー集“太陽と鉄”恐らく世界で最も流麗な言葉で書かれた筋トレ論(+肉体論)更に死とエロティシズム“楯の会”を結成し政治にも積極介入した三島“敵は自民党!現政府!現天皇制!戦後体制そのものだ!”45年の人生とは思えない程の密度の濃さ…

「肉体の学校」

三島由紀夫著戦前の閉塞的な結婚生活から解放された戦後女性元華族女性の愉快痛快な自由礼賛ぶりを描く三島版「SEX AND THE CITY」富裕層中年寡婦お嬢様vs玉の輿狙いの若きゲイバー美男子“振り向かせては振り向いて…?”男と女の巧みな心理戦とスピード感のあ…

「インドへの道」

エドワード=モーガン=フォースター著イギリス作家英領インド帝国ムスリム藩王国親英vs嫌英vs親印vs嫌印=?“オリエンタリズム以上グローバリズム未満”の文明の衝突証言者なき洞窟での令嬢襲撃は嘘か誠か…?英印両市民の支配vs被支配のリアルを多階級多文化…

「エバ・ルーナ」

イサベル=アジェンデ著チリ作家著者の亡命先ベネズエラが舞台の半自伝的マジックリアリズム密林の孤児と先住民の娘にして天性の語り部”エバ”剥製博士・幼馴染の不良・将校・娼婦女将・報道官・ゲリラ指導者…移民や多人種との出会いと別れを経て成長する魅力…

「石の女」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家閉塞的な南アフリカ農場社会の「地下室の手記」虐待に耐えかね父親殺しへ至る石女(うまずめ)娘の独白激しい抵抗と共に夢想・恍惚・憎悪・渇愛と様々な感情と自意識が螺鈿するアパルトヘイトは白…

「川をはさみて」

グギ=ワ=ジオンゴ著ケニア作家川を挟む2つの村の割礼問題を巡る「ロミオとジュリエット」的ロマンスギクユ族伝統学校の青年指導者vsキリスト教系学校の過激指導者とその娘奇しくも恋仲となる2人だが立場上から対立し嫉妬や権謀術数に翻弄されていく大英帝…

「ストーナー」

ジョン=ウィリアムズ著アメリカ作家“人は死ぬ時に何を思うだろう?”経歴は人生を語らない…でも語り継ぐ誰かはいる1教師の1人生の物語それがこんなにも美しい時代に翻弄された大学と家庭の往復の日々皺は深まり眼窩は窪み髪は白くなった微睡むような浮世はそ…

「グローバリズム出づる処の殺人者より」

アラヴィンド=アディガ著インド作家ブッカー賞受賞作温家宝中国首相のIT先進地域バンガロール訪問前に届いた暗殺状貧村出の富裕層の召使は主人を殺し大国の権力者へ次の牙を向けるグローバル化の齎した途上国搾取とカースト蔓延る格差社会を抉る程に描く 地…