MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-11-01 to 1 month

「寝室の怪」

一日一編 アメリカ怪談集 メアリー=エレノア=ウィルキンス=フリーマン著 アメリカ女流怪奇作家の先駆け ある宿の寝室に泊まったある紳士の日記は怪奇に満ちた妄想なのか? それとも実際の体験なのか? 謎を紐解いていく主人公 なお日記に書かれた特徴を持…

「黒い恐怖」

一日一編 アメリカ怪談集 ヘンリー=セントクレア=ホワイトヘッド著 聖職者から西インド諸島ヴードゥー教との邂逅を機に怪奇小説を書いた異色の経歴 “野蛮な植民地”に呑まれゆく”文明の宗主国”が印象的 ゾンビを生んだ宗教がハム族など聖書を想起する物語ま…

「アンナ・カレーニナ」再読破記念書評

レフ=ニコラエヴィッチ=トルストイ著 ロシア作家 “人は恋する時に最も嘘を付く” “愛する時と見下す時に最も正直になる” 私が恋愛文学を読む上で最も注視するテーマを凝縮した作品 多階級の多心情な多元的描写 物語という球体の円周を”生と死”に向かい進む…

「アンナ・カレーニナ4」

レフ=ニコラエヴィッチ=トルストイ著 ロシア作家 “死ねば全てが消える!” 女性が不自由だった時代に自由奔放に生きたアンナ だが社会はそれを許さなかった いみじくも“最初から最後までカレーニン夫人”を全うし続けたアンナ 1914年6月28日サラエヴォ事件 …

「アンナ・カレーニナ3」

レフ=ニコラエヴィッチ=トルストイ著 ロシア作家 息子と夫から離れてヴロンスキーとイタリアを巡ったアンナ 深まるはずだった愛は冷めていく 一方キティは幸せを築きながらも兄ニコライの死に直面する カレーニンも新たに支えを得る 都会と地方 絶望と希望…

「アンナ・カレーニナ2」

レフ=ニコラエヴィッチ=トルストイ著 ロシア作家 カレーニンへの信頼と愛 ヴロンスキーへの憧れと愛 不倫と知りながら世間体と仕事ばかりの夫 アンナは孤独から破滅的な恋に身を投じるが身籠った彼女を悲劇が襲う 一方キティは失恋から立ち直りリョーヴィ…

「アンナ・カレーニナ1」

レフ=ニコラエヴィッチ=トルストイ著 ロシア作家 “幸福な家庭はどれも似たものだが不幸な家庭はいずれもそれぞれ不幸なものである” 喜怒哀楽の激しい美貌の貴婦人アンナ 純愛ゆえの不倫は呪いとなり襲う モスクワ・ペテルブルク・イタリア・セルビアを巡る…

「木の妻」

一日一編 アメリカ怪談集 メアリー=エリザベス=カウンセルマン著 シュールリアリズム的短編 アフリカやアメリカ先住民の民話には木と結婚する者がいたという “木になった男”と結婚し子供を連れて車で足繁く通うその妻 たかいたかいなどして子供をあやす夫…

「大鴉の死んだ日」

一日一編 アメリカ怪談集 ヘンリー=アルフレッド=ルイス著 カウボーイ→記者→作家を経てインディアン民話を参考に作った法螺話短編 大鴉・熊・鹿・巨人・馴鹿・狐・狼が擬人的寓話で登場 “火酒”を巡り大鴉の珍妙滑稽な冒険が繰り広げられる様は何処か「やし…

「自動車の世界史」

“自動車は国家なり” 国防・運輸・エネルギー・IT・インフラ・派生産業・軍事・芸術・スポーツ… 400兆円市場の世界最大産業にして常に最先端技術が搭載される自動車の歴史 欧州→米国→日本→中国の覇権の変遷 現在世界シェア3割の日本車の歴史 CASEやEVなど自動…

「すべての見えない光」

アンソニー=ドーア著 アメリカ作家 ピュリッツァー賞受賞作 光は速さ 光は重さ 光は物質 故に”全ての光は見えない” 第二次世界大戦下サン・マロ 盲目のフランス少女の感じる”光景” ナチ党ラジオ修理係のドイツ少年の感じる”音声” 迫るノルマンディー上陸作…

「忌まれた家」

一日一編 アメリカ怪談集 ハワード=フィリップス=ラヴクラフト著 クトゥルフ神話創設者にして近代怪奇幻想小説の立役者 歴史が浅いアメリカ独特の科学・宗教・開拓史・先住民・文学をミックスした妙編 宇宙から地殻 過去から未来 時空間に広い設定を当時の…

「古衣裳のロマンス」

一日一編 アメリカ怪談集 ヘンリー=ジェイムズ著 古名家の遺品が鬼気迫る緻密な心理ホラー 古衣裳好きが昂じて結婚式で妹の旦那や遺産にまで手を出す姉だが…? 細部の設定は「ある婦人の肖像」や「ワシントン・スクエア」に似ており大部の本筋は「ねじの回…

「牧師の黒いヴェール」

一日一編 アメリカ怪談集 ナサニエル=ホーソーン著 篤信で敬虔なクリスチャンで有名な街の牧師 しかし彼は常に黒いヴェールで顔を隠し目と顎以外は誰も見たことがないため尊敬と同時に不気味がられてもいた 臨命終時に文字通り墓場まで持ち込んだヴェールに…

「アミナ」

賀淑芳著 マレーシア作家 11短編集 ブミプトラ政策 華僑7%の国の露骨な民族別政策 マレー人国家イスラム社会の更に華僑女性という少数派の日常にて強いられる数多ある国家の枷 マイノリティ・途上国社会・フェミニズム・宗教・性差・教育・人種・国境… 静か…

「ドイツ怪談集」総書評

流石グリム童話やメルヘン話の母国だけあり大人にも子供にも訓戒を揶揄する短編が多い 心理描写が少ない分1話が短くテーマもシンプル 中世ペスト・三十年戦争・世界大戦と全体的に暗い歴史の闇も日常に溶け込み生活に滲み東欧・スイス・ウィーン出身ドイツ語…

「写真」

一日一編 ドイツ怪談集 フランツ=ホーラー著 スイス生まれドイツ育ちの児童作家 僅か5Pながら切迫する恐怖と焦燥を押し付けてくる短編 親の結婚式の写真で知らない謎の男を見つけたので焼増の際に確認すると家族の誰も知らなかった 彼にしか見えない男は写…

「ものいう髑髏」

一日一編 ドイツ怪談集 ヘルベルト=マイヤー著 ブラックユーモア×シニカルコメディ×リアルホラー 死人に口無し髑髏に声有り 飾ってあった偉人の髑髏が喋った! 時にお告げ! 時に説教! 時に教訓! 時に与太話! 時に愚痴り合い! 時に井戸端会議! そして…

「イスラム再訪 下」

ポストコロニアリズム作家らしく帝国主義の功罪や因果を分析 訪問国はいずれもイスラム主義に囚われ近代方できていないと両断 インドネシア:人材投資不足指摘 イラン:イラン革命批判 パキスタン:過剰なインド意識で貧困化 マレーシア:華僑との経済格差とブミ…

「イスラム再訪 上」

ヴァディアダハル=スラヤプラサド=ナイポール著 ノーベル賞トリニダード=トバゴ作家 前作「イスラム紀行」で訪れたインドネシア・パキスタン・イラン・マレーシアを17年ぶりに再訪 辛口だが観察眼と表現力は舌鋒 小説家らしく個人から政治・経済・社会の…

「ブルーノの問題」

アレクサンダル=ヘモン著 ユーゴスラヴィア出身(現ボスニア)アメリカ作家 8短編集 バイリンガル作家ナボコフの作風を強く想起する様な作品群 本文より註釈や引用が多い”ゾルゲ諜報団” 殺伐とした典型的な共産主義東欧社会を描く”島” 故国喪失者の孤独を濃密…

「人類の深奥に秘められた記憶」

モハメド=ムブガル=サール著 セネガル作家 ゴンクール賞受賞作 半自伝 “仏植民地政策最大の成功国”セネガル 戦前パリを沸かすも文壇から消された黒人作家 ー現代ー セネガルの若手作家は彼を再発見し調べるうち世界史・世界文学史・文化人類学の闇を目の当…

「怪談」

一日一編 ドイツ怪談集 マリー=ルイーゼ=カシュニッツ著 怪談語りが怪談になる 夫ともに当時の世界都市ロンドンで近代文明を目撃する妻 社交界に戯れる中で先日死んだ若い隣人夫妻が何故か脳裏に過る 怪談を語り思い出す中で進その夫妻の跡を辿るように彼…

「三位一体亭」

一日一編 ドイツ怪談集 オスカル=パニッツァ著 イタリア人の父とフランス人の父を持つドイツ人 赤子を望む余り畸形児を産んだグリム童話がある 三位一体”神=父=子” マグダラのマリアを想起する”ユダヤ女” 父親不詳の謎の美少年 世話係の過保護老父 そこに宿…

「庭男」

一日一編 ドイツ怪談集 ハンス=ヘニー=ヤーン著 第一次世界大戦にも反対した無政府主義者 フィヨルドのある北欧のとある村に住む庭男 妖術に通じ死人に似ており非人間的特徴が目立つ彼に興味を持って会いに行く若い農夫 何かに取り憑かれたように突如とし…

リチャード=パワーズ全13冊読破記念総書評

該博で専門的な理科系知識 文学から政治までの社会系知識 音楽と芸術にポップカルチャーまでの文化系知識 上記を融合しサーガや異端者目線で現代社会の課題を活写 知識の洪水に溺れるも良し ヒューマンドラマに涙するも良し 或いはその想像力を愉しむも良し …

「ハーシェルと幽霊」

一日一編 ドイツ怪談集 アルブレヒト=シエッファー著 科学×ホラー ナチに追われアメリカ亡命した戦う作家 実在の天文学者ウィリアム・ハーシェル 幽霊屋敷に引っ越し長い廊下で幽霊と遭遇 無害だがその不滅性ゆえに不気味で嫌悪感を増すという科学の否定と…

「ガラテイア2.2」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 半自伝 ギリシア神話でピグマリオンが創造した大理石の乙女”ガラテイア” 深層学習可能なAIの教育係になった作家リチャード AIに文学知識を授ける内に記号的解釈から作家の”書けない性”を持つ感情物語へと移っていく様が…

「死の舞踏」

一日一編 ドイツ怪談集 カール=ハンス=シュトローブル著 ナチに共鳴したチェコ系ドイツ作家 サン=サーンスの同名作曲や中世美術様式と同様に所謂”メメントモリ”のペスト寓話 医学生が仮面舞踏会で見初めた女は死んだ恋人だった 医学的な見地から幻想を語…

「カディスのカーニバル」

一日一編 ドイツ怪談集 ハンス=ハインツ=エーベルス著 地中海と大西洋の窓口”白い街”カディス カーニバル(謝肉祭)で賑わう奴隷貿易港は美女に宝石にグルメの祭典 唐突に巨大な木の幹が現れその場に溶け込んでいる 機会な行動を取る巨木は中に人がいるのか?…