MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-09-01 to 1 month

「逃げ道」

ナオミ=イシグロ著 イギリス作家 9短編集 ノーベル賞作家カズオの実娘デビュー作 連作短編など高度な作品もあり親の七光ではない実力派 <父との類似点> ・モチーフが重層的 ・記憶を辿る ・幻想的 ・挑戦的 ・模範的優等生型 <父との相違点> ・現代的 ・ス…

「料理と人生」

マリーズ=コンデ著 フランス領グァドループ作家 自伝エッセイ 食材・文化・経済・歴史・地理… 料理は歴史以上に地域性を映す鏡 小島から俯瞰した壮大なネグリチュードの世界文学を紡ぐ巨匠 5大陸の移住・旅行・赴任経験からグルメ通のママでもある著者が人…

「別居」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ジョン=アップダイク著 明確な理由はないが互いに幸福でないことから試しに別居した中流中年夫婦 悲しむも受容する兄 反発する弟 理解を示す娘 国家から個人の時代への転換期 孤独や不条理の形も細分化し文学も”理由”以…

「暗闇に戯れて」

トニ=モリスン著 ノーベル賞アメリカ作家 「白鯨」は黒人への皮肉か? 長らく米国古典文学において”見えない人間”だった黒人 自身で名作を繙き仮説を確信する著者には説得力がある 現代米文学は寧ろ白人より移民やマイノリティ作家が活躍中だがこれもモリス…

「黄金の雨」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ドナルド=バーセルミ著 ギリシア神話では”黄金の雨”に変身したゼウスがダナエと交わり英雄ペルセウスが誕生した 出演依頼を受けた芸術家はTV制作者の噛み合わないがテンポ良い問答に憤り始める 傲慢なTVに不条理を感じた…

「闇夜海中の旅」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ジョン=バース著 男性の1回の射精量には精子が3億個含まれるという 卵巣を目指して本能の趣くまま膣道を泳ぐ精子を底知れぬ深い海を泳ぐ人間に見立てた点が独特 溺れ死んでいく3億個の同胞に痛みながら遺伝形質を紡ぐ姿…

「ゼラニューム」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 フラナリー=オコナー著 被介護のため娘に連れられ田舎からNYのアパートへと引っ越した老人 静寂が包む懐かしき故郷の過去 煩雑で騒々しい都市生活の現在 2つの記憶を繋ぐ唯一の文物”ゼラニューム”に固執する 都会と田舎…

「千羽鶴」

川端康成著 日本ノーベル賞作家 男の不倫相手だった妖艶な美熟女が死んだ そして彼は彼女の娘とも逢瀬を重ねる 婦人の官能的な魅力と彼女の遺品の茶碗名器”志野”の芸術性に重ねて想起する 陶器の肌触りを肉体の肌触りに思わせる官能的な文章 連載形式だけあ…

「ミスター・ヴァーティゴ」

ポール=オースター著 アメリカ作家 謎の男に空中浮遊を伝授された9歳の孤児 各地でサーカス行を重ね”全米で最も有名な14歳”となる だがそれが人生のピークだった… スラムからの成功とスターダムからの転落 最悪と最高の巡り合わせ 老境を迎え達観する時に何…

「ミリアム」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 トルーマン=カポーティ著 老女ミリアムの元に同じ名前の不気味な少女ミリアムが現れる 恐怖から逃れるべく様々な対策を取るが…? 幻覚か? 精神異常か? 幽霊か? 何にせよ絶品のホラー 映画「エスター」や「アッシャー…

「バーンハウス心霊力についてのレポート」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 カート=ヴォガネット=ジュニア著 世界を1人で破壊できる”第六の力”バーンハウス心霊力を発見した博士 冷戦期の核戦争を痛烈に皮肉るテーマに”笑い”を加えてユーモア化 その意味でサリンジャー「笑い男」にも類似する

「笑い男」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ジェローム=デビッド=サリンジャー著 「ナイン・ストーリーズ」収録で有名 課外活動に通う9歳の少年は送迎時に聞く”笑い男”の話が好きだったが…? 単なる思い出に寓話を挿入し虚実混交の緊迫したリーダビリティでオープ…

「抱擁II」

縦糸は単純なメロドラマ 緯糸は博覧強記と多彩なメタファーを駆使した歴史ミステリ 時空を超えた愛のタペストリー 絢爛のヴィクトリア朝をこれ程に活写した作品は他にない 子孫訪問と文献整理が進む中で詩人の往復書簡に隠れた秘密と驚きの結末が待つ… 個人…

「抱擁I」

アントニオ=スーザン=バイアット著 イギリス作家 ブッカー賞受賞作 配偶者と浮気と同性愛と… 100年を隔てた2組の男女”禁断の四角関係” ヴィクトリア朝詩人男女のラブレター発見に沸く現代の男女2人の研究者 民話・詩・小説・神話・聖杯・伝説・アーサー王……

「グアテマラ伝説集」

ミゲル=アンヘル=アストゥリアス著 ノーベル賞グアテマラ作家 6短編集 土着の古代民話を再構築 超現実主義ブームでポール・ヴァレリーが絶賛し世界的作家となる出世作 “火山の伝説” “長角獣の伝説” “刺青女の伝説” “大帽子男の伝説” “花咲く地の財宝の伝説”…

「大統領閣下」

ミゲル=アンヘル=アストゥリアス著 ノーベル賞グアテマラ作家 政敵抹殺を目論む大統領と翻弄される部下 拷問・密告・投獄・暗殺・貧困・独裁・逮捕… 母国大統領カブレーラ批判+パリで学んだ超現実主義 多声性と夢幻的世界や文物が喋るなど後のマジックリア…

「木・岩・雲」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 カーソン=マッカラーズ著 カフェを訪れた12歳の少年 彼に独学で発見した世界最高の科学”世の万物を愛する方法”を説く流浪の初老男性 心の壊れた人間に救いを差し伸べる優しい言葉 一方で現実の残酷さを伝える無慈悲な描写…

「スコットランドの黒い王様」

ジャイルズ=フォーデン著 イギリス作家 自称”最後のスコットランド王” 2mの巨漢と人喰の噂もある元ボクシング王者のカリスマ独裁者 ウガンダ大統領イディ・アミン・ダダ 彼の侍医を務める若きスコットランド人が抗えぬ魅力と支配に引き摺り込まれ数奇な運命…

「動物園で」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ジーン=スタフォード著 里親制度で孤児として動物園の傍の癖の強いおばさん家庭に引き取られた姉妹 犬に猿に鸚鵡に熊に騒がしい動物と一家を疎む近所からの冷たい視線 成長して漸く旅立つ時に幸か不幸かの匙加減に複雑な…

「貝に続く場所にて」

石沢麻衣著 芥川賞受賞作 東日本大震災から9年 コロナ禍の大学都市ゲッティンゲン 同じく東北の大学で美術専攻で震災後行方不明になった友人の霊が私の元に現れる プルーストは紅茶にマドレーヌ(貝殻)を浸して記憶を確かめた 本作も東北と震災の”貝に続く場…

「われらが歌う時 下」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 刹那で永遠で科学で理論で感情で知性で文化で芸術である音楽 音楽は無力で美しい だからこそ政治と金に利用される 個の人間の運命でしかないミクロな家族史から奴隷制に端を発すマクロなアメリカ史の闇への鎮魂歌 成長…

「われらが歌う時 上」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 黒人×ユダヤ人2世代50年のサーガ 公民権運動で恋に落ちたマイノリティ同士の父母 人種に苦しむ子供達 父:物理学者 母:歌手 兄:天才歌手 弟:ピアニスト 妹:音楽家→黒人運動家 その歌声は全米を揺るがした 2度と戻らない…

「砂漠の林檎 イスラエル短編傑作選」

24短編集 イスラエル作家・民話アンソロジー ノーベル賞作家からアラブ系イスラエル作家まで収録 戦後に世界各国から知的水準の高い移住者が集まったため聖書伝説や民話を含む非常に国際色豊かな作品が目白押し 個別の作者と作品紹介も充実しており素晴らし…

「父親になる男」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ソール=ベロー著 妻が妊娠しもうすぐ父親になる男 買い出し中すれ違う男の子を見て自身も父となる実感と仕事や家庭の不可測な未来を想像する 帰宅するや対照的に能天気な妻の仕草や言動に苛ついてしまう 心情と行動の一…

「シリア」

“文明の十字路”シリア “世界最古の都市”ダマスクス “聖地”イェルサレム “モザイク国家”レバノン 3大陸に跨る歴史的シリアは常に世界史の大国に属した 表音文字アルファベットもシリアのセム系フェニキア人 キリスト教徒も多くイスラム化の際には古代ギリシア…

「戦士の抱擁」

ナディン=ゴーディマ著 ノーベル賞南アフリカ作家 7短編集 アパルトヘイトを黒人&白人の双方から寓話的に描く “現実離れした写実性”の冷徹な筆致 “こんな出会いをするなんて” “ヘビのやさしいささやき” “確かに月曜日に” “開かれた家” “戦士の抱擁” “ある村…

「ユダヤ鳥」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 バーナード=マラマッド著 ある家庭にユダヤ人を称する喋る鳥”ユダヤ鳥”が迷い込んだ 厄介者扱いする父に対し母娘は慈悲から彼を居候させるが…? 鳥を擬人化し畜生扱いする事でユダヤへの差別・偏見・迫害状況を強調する…

「ある記憶」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ユードラ=ウェルティ著 ビーチで戯れる様々な男女を眺めながら自分の男性遍歴を回顧する思春期始めの少女 年齢は明かされないがサガン「悲しみよこんにちは」の前段階の年齢の少女を描いたものと思われる 幼いながらの想…

「嘘つき」

ヘンリー=ジェイムズ著 アメリカ出身イギリス作家 3中編 いずれも恋愛をテーマにしながら丁寧な心理描写がサスペンス式に進行 ”信頼できない語り手”の先駆けとなる実験に満ちた中編群 “50男の日記” 書簡体小説の嘘 “嘘つき” 芸術家と彼の庇護者の嘘 “モード…

「ランス」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ウラジーミル=ナボコフ著 宇宙飛行士として飛び立った息子の帰りを待つ老夫婦 心配が過ぎる余り色々と妄想や在りし日の思い出を回顧してしまう姿と冷静な宇宙飛行士の対比が面白い ナボコフらしい言語遊戯や当時の宇宙先…