MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-12-01 to 1 month

「恋の都」

三島由紀夫著反米主義のジャスバンドマネージャー美女数多の求婚を退ける中で死んだと思われていた恋人と十数年ぶりに再開するしかし彼は米軍に命を拾われ親米の諜報員になっていた…反米を貫いた自分は何だったのか?戦後芸能界と文化のアメリカ化に葛藤を持…

「荒野より」

三島由紀夫著3短編1戯曲(「アラビアンナイト」)エッセイ多数作家論文学論スポーツ論政治談義作家論文学論「主婦の友」連載ボディビル記録短編に戯曲に時事問題やオリンピックと広範な分野を収めて良いとこ取りした入門書的1冊作家生活23年とは思えない程の仕…

「作家論」

三島由紀夫著戦前戦後15作家を紹介読んだことがあるのは谷崎・鴎外・川端だけだが流石の分析力森鴎外尾崎紅葉泉鏡花谷崎潤一郎川端康成内田百閒島木健作牧野信一稲垣足穂武田麟太郎林房雄円地文子外村繁上林暁※太宰治は三島自身が大嫌いなので本書では取り上…

「不道徳教育講座」

三島由紀夫著不倫推奨!ウソ推奨!痴漢推奨!暴力推奨!弱者迫害推奨!自殺推奨!(但し切腹に限る)“真面目に不真面目”な時代の寵児による不道徳教育講座冗談半分本音半分自身が旅したフランスやブラジル社会の実体験も織り込まれていてユーモアとレトリック…

「サルガッソーの広い海」

ジーン=リース著ドミニカ国作家ブロンテ「ジェイン・エア」前日譚脇役のカリブ出身発狂幽閉女性は著者の半生と重なる奴隷解放後も”白い黒んぼ”が支配するジャマイカ迫害の末に英国紳士に嫁ぎ渡英するがそこでも異文化と階級制度に押し潰されていく…植民地文…

「灯台へ」

ヴァージニア=ウルフ著イギリス作家スコットランド離島スカイ島に住む一家僅か2日の平凡な日常を走馬灯で増幅させ戦争前後の10年の記憶を物語にするウルフは”波”が似合う作家多声的な意識の流れを初めて確立した無意識に着目したフロイト心理学勃興期と同時…

「わたしのペンは鳥の翼」

アフガニスタン女性作家アンソロジー23短編集伝統に帰し女性を教育から排除した低識字率国家悲惨な現状を侵略敵国のロシア語や英語で世界に発信する利己的な理由で国土を蹂躙され貧困と冷笑され政権に命を狙われるそれでも尚ペンは離さない少しでも多くの方…

「クレムリンの魔術師」

ジュリアーノ=ダ=エンポリ著フランス作家・比較政治学者“皇帝”プーチンを見出した“クレムリンの魔術師”に迫るほぼNFウクライナ侵攻を予見(世紀末から準備)学者目線の明晰な語りがリアル利用された欧米とオリガルヒ現代版「君主論」と言える権謀術数クレム…

「パラディーソ」

ホセ=レサマ=リマ著キューバ作家・詩人共産主義国家軍人とその一族2家族5世代に及ぶサーガヨーロッパ文化を中心に世界史・神話・文学史・科学・芸術・政治思想を革命前のキューバ視点で語り尽くす錯綜的・写実的・詩的・幻想的…先駆的かつ非常にラテンアメ…

「複雑な彼」

三島由紀夫著著者史上最も国際的な作品(モデル:安部譲二)美貌の男性国際線客室乗務員に一目惚れした令嬢英国地下格闘技?スパイ?ブラジルのカリオカ?ゲイバー?井戸堀?様々な噂の絶えない魅力的な彼一方で謎に包まれた半生が明かされていく名家令嬢と”複…

「棟梁・ラーヤー」

ニコス=カザンザキス著ギリシア作家・戯曲家1戯曲1エッセイ“棟梁”中世東欧随一の橋棟梁街1番の名士の父とその美人娘棟梁と娘は恋に落ちるが名士の反対に遭い婚約できないなら建設中の橋の人柱になると忿懣するが…?“ラーヤー”近代的視点によるギリシア悲喜…

「破局」

遠野遥著芥川賞受賞作(ロックバンドBUCK-TICK櫻井敦司の実子)日本男子学生版アニー・エルノーという感じの作品公務員試験才色兼備の彼女高校ラグビー指導筋トレと自慰満たされたはずの大学生活1人の無垢なfemme fatale少女との1度のセックスが人生を狂わせて…

「文化防衛論」

三島由紀夫著3エッセイ集“反革命宣言”“文化防衛論”“学生とのティーチイン”最近の防衛費倍増や自民党暴走現在は米国に加え中韓の”資本という名の賄賂”が政治家に払われ国民の為の政策を歪ませる55年前の三島が現代の政治を最も予見している誰より未来が見えた…

「夷狄を待ちながら」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著 ノーベル賞南アフリカ作家とある帝国vs蛮族の睨み合い「タタール人の砂漠」同様いつか襲われると怯えるが夷狄はこない敵である夷狄文明の遺跡研究者が虐待された夷狄の少女を庇い反逆罪に暴力・拷問・差別に便乗する多数…

「反乱者」

ジーナ=アポストル著フィリピン作家“米比戦争虐殺事件”ミステリ作家謎の失踪を遂げた父と同じく映画監督になった息子2人は事件を題材に”ある作品の構想”を開始史実と創作米比文化人独裁と革命音楽と絵画膨大な登場人物・小説内映画・小説内小説時空を跨ぐ複…

「惑う星」

リチャード=パワーズ著アメリカ作家“現代版「アルジャーノンに花束を」”動物愛護第一人者の母を失った宇宙研究者の父と子悲しみから少年は母の記憶移植の被験体を志願父を凌ぐ頭脳と名声と苦悩を抱えていく…見上げた夜空の小宇宙心の奥の小宇宙奇跡を探して…

「ルミナリーズ」

エレノア=キャトン著ニュージーランド作家ブッカー賞受賞作ヴィクトリア朝の金塊殺人ミステリ復讐・降霊会・金鉱・マオリ・華僑・銀行員・娼婦・スラム・アヘン戦争・法廷・ホテル・新聞社・海運成金…“天球(Luminaries)”に配置されし”輝けし者たち(Luminari…

「少年時代」

ラビンドラナート=タゴール著ノーベル賞イギリス領インド帝国詩人・音楽家・教育者・作家著者の少年期回顧録ムガル帝国以前に遡れる程の名家イギリス支配で英語教育が流行る中ベンガル語に注力し英語との両刀で詩を吟じた1/3のページを割きタゴール家兄弟の…

「古代オリエント全史」

“肥沃な奔流”メソポタミア“大国の草刈場”シリア“鉱物豊かな印欧語族”アナトリア“偉大な傍流”エジプト“騎馬簒奪者官僚”ペルシア“暴虐と分裂”ヘレニズム3000年に及ぶ古代オリエントは時空間軸が広く国際交流も活発現代史に置き換えても人間の本質を歴史から俯…

「にっぽん製」

三島由紀夫著三角関係の恋×戦前戦後の価値観パリ凱旋の美人ファッションデザイナー(モデル:森英恵)企業柔道選手金持ちパトロン紳士“美女と野獣と成金”3竦みの心理戦更に子分志願の泥棒とフランス人柔道家も闖入するドタバタコメディ登場人物全員が思うがまま…

「果樹園の守り手」

コーマック=マッカーシー著アメリカ作家フォークナー的南部社会を描く処女作強盗殺人を目論んだ男が逆にヤンキーの返り討ちで殺害ー数年後ーヤンキー殺された男の息子果樹園で死体を発見した老人3人の邂逅は何を齎すのか…?アパラチアの神話的暴力と神秘的…

「ブリキの太鼓 第3部」

ギュンター=グラス著 ノーベル賞ドイツ作家 時間軸:2つの世界大戦空間軸:ドイツとポーランド係争地斜線軸:大衆社会の庶民の死文体:絵画的+視覚的=エロ・グロ太鼓:音楽的+聴覚的=破壊・殺人主人公:ピカレスク感覚:五感と語彙力と身長を年齢に応じて書き分け…

「ブリキの太鼓 第2部」

ギュンター=グラス著 ノーベル賞ドイツ作家 第二次世界大戦前夜ダンツィヒ(グダニスク)迫るヒトラーの足音美少年オスカルスカートを覗き玉葱を剥き墓石を掘りモデルになり楽団を率い郵便局を闊歩し鰻を食い父を殺し母を死に導くお手本はゲーテとラスプーチ…

「ブリキの太鼓 第1部」

ギュンター=グラス著ノーベル賞ドイツ作家ダンツィヒ3部作1章“3つ子の魂30まで”3歳で成長を止めた”見た目は子供で頭脳は半大人”の少年オスカル太鼓のドラムと金切り声でガラスを割るナチに侵略されるポーランド国境を子供視点の幼稚な言葉と発想で雑多に猥…

「カズオ・イシグロを読む」

“<信頼できる>信頼できない語り手”イシグロテーマ・技巧・舞台国・時代と常に挑戦を続ける模範的な優等生作家通常:モチーフ→イメージイシグロ:モチーフ反復=イメージ幽霊・原爆・ケア・自殺…意思記憶と無意識記憶を混淆させ読み易くも奥深い余韻を残す作品群…

「首相が撃たれた日に」

ウズィ=ヴァイル著イスラエル作家19短編集パレスチナとイスラエル似て非なる両地を若者を中心に多彩な切り口で迫る“精一杯に生きる首相”“生きることに精一杯な庶民”撃たれることは日常茶飯事それでも重みの違う命そして日本と違って戦中でも高度成長してる…

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ全42冊読破記念総書評

歴代ノーベル賞作家で最も国際派詩的で官能的な文章西欧文明の”支配意識”批判自然と光彩に満ちた旅と冒険芸術と音楽の悦楽に浸る逃亡多作で多様で高水準な小説・エッセイ・学術論文世界の車窓から“文学で地球一周”を楽しめる作家 以下個人的ランキング 1.「…

ジョン=マクスウェル=クッツェー全21冊読破記念総書評

古典のリライトは難しいそれをほぼ全長編で行い且つ成功させている西欧的価値中心社会の欺瞞を異端者側から巧みに批評し最近は”南半球の文学”も提唱寓意・実験・倫理・言語学…その硬派な文体で人間の心の最も柔らかい部分を切り裂いていく 以下個人的ランキ…

「FOE」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家「ロビンソン・クルーソー」をディストピア化しリライト著者(デ)フォーは敵フライデーは舌なし去勢者クルーソー死後言語遊びも含め初期作で既に英語で以て英語を批判(恐らく)原作と逆に第三世界→…

「向こう側への旅」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家2短編1長編“ワタセニア”海を擬人化した作品“ナジャ・ナジャ”詩的で官能的な言葉の大人版「星の王子さま」煙草を喫む蛇身の不良少女の世界を巡る旅“パシャカマック”アステカ文明の反近代性…