MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-01-01 to 1 year

「百年の孤独」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著 ノーベル賞コロンビア作家 再読(7回目) 2023年読み納めの1冊 この本に出会わなければ140の国の2000を超える文学に出会うこともなかっただろう 人はみな孤独で愛を求めている だからこそ懸命に生きて無常に死んでいく 来年…

「越境するクレオール」

マリーズ=コンデ著 フランス領グァドループ作家 講演集 並み居るクレオール作家の中でも3大陸に実際に住み視座も作品空間も最も広範に及ぶ作家コンデ フランコフォニー(仏語文学圏)クレオール文学の歴史的発展と自身の創作の位置付けを語り更に訳者のコンデ…

「ロレンザッチョ」

アルフレッド=ド=ミュッセ著 フランス劇作家 “メディチ家の暴君”アレクサンドル “暗殺者の従弟”ロレンザッチョ(ロレンツォ) ローマ教皇を輩出した全盛期メディチ家の”知られざる御家騒動”「ハムレット」的復讐譚 テンポ良い場面切り替えと冷静と憎悪剥き出…

「光のない[3部作]」

エルフリーデ=イェリネク著 ノーベル賞オーストリア作家 第1部:音楽家A&Bの会話 第2部:エピローグ? 第3部:プロローグ? オーストリアより東日本大震災に心を悼む作家の鎮魂歌 情報の隠蔽と工作に勤しむ東京電力と日本政府への怒りと侮蔑 その会話はA/B(放…

「シェイクスピアの記憶」

ホルヘ=ルイス=ボルヘス著 アルゼンチン作家 4短編集 メビウスの輪=超ひも理論を想起する短編 “シェイクスピアの記憶” 文豪の記憶を得て自我喪失 “1983年8月25日” ドッペルゲンガーとの邂逅 “青い虎” 石ころの形而上的分析 “パラケルススの薔薇” 錬金術師”…

「イギリス怪談集」総書評

“学者が怪談を書く国”イギリス 流石は天下のオックスブリッジ学問の国 ハリポタの土壌を感じさせるファンタジーホラー おどろおどろしいゴシックホラー 芸術と科学のミックスホラー 亡霊と幽霊のユーモラスホラー 博覧強記のホラーが勢揃いで”怪談の本場”の…

「上段寝台」

一日一編 イギリス怪談集 フランシス=マリオン=クローフォード著 イタリア出身→アメリカ・イギリス・ドイツを転々とした知識人 寝台列車の上段に乗る男は持ち合わせのギリシア神話やイタリア史と自身の旅の些細なイベントを重ね合わせる 幽霊を見た男と周…

「閉ざされた扉」

ホセ=ドノソ著 チリ作家 14短編集 生涯全短編収録 日常の葛藤と苦悩からの逃避を救済に変えて描く神業 “休暇” “同名の二人” “シロンボ” “ある夫人” “盛大なお祝い” “2通の手紙” “デンマーク人” “チャールストン” “閉ざされた扉” “アナ・マリア” “散歩” “小…

「悪魔の歌声」

一日一編 イギリス怪談集 ヴァーノン=リー著 フランス出身イタリア在住作家 ワーグナー作品世界を反映させたノイシュヴァンシュタイン城建設者”狂王”バイエルン公国ルートヴィヒ2世 時に音楽は人を狂わす”悪魔の歌声”となる イタリア近代音楽を愚痴る偏狭な…

「ハマースミス”スペイン人館”事件」

一日一編 イギリス怪談集 Eヘロン&Hヘロン共著 コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」と同時期に書かれたオカルト探偵小説 スペイン館の奇怪な夫妻失踪事件 巷では幽霊の仕業と噂されるが キレ者の男はそれが殺人事件だと主張 その真相&トリックは如何に…

「僥倖」

一日一編 イギリス怪談集 アルジャーノン=ブラックウッド著 スイスとフランスの国境を旅する牧師補 中世スイス英雄叙事詩ヴィルヘルム・テル伝説を想起する絶壁の側に佇む旅籠 恐ろしいお告げを突き付ける“メッセンジャー”の存在 幻視など不思議な体験を経…

「遺言」

一日一編 イギリス怪談集 ジョゼフ=シェリダン=レファニュ著 遺産相続で揉める没落名家 死んだ兄や父への強迫観念から狂気に至る主人は何に怯えていたのか? 不気味な狂犬の殺処分が暗示する未来 それが仮に他愛無い言葉であれ遺言は大きく人の人生を狂わ…

「真っ白いスカンクたちの館」

レイナルド=アレナス著 キューバ作家・詩人 ベンタゴニア5部作2章 視覚的内容的にも並列する語り バティスタ独裁政権→キューバ革命→カストロ共産主義政権 イデオロギーの狭間で揺れる母国で量産される有象無象の弾圧 勝者は蛆わく蠅か? 或いは激臭を放つス…

「夜明け前のセレスティーノ」

レイナルド=アレナス著 キューバ作家・詩人 ベンタゴニア5部作1章 独特なリズム・文体・改行・単語の反復で1人称語りの自意識過剰な青年 キューバの僻村で叫ぶ様に語る言葉が怒涛に連なる夜明け前のイメージの塊 斧(アチャス)を無闇に振り回すような粗暴さ…

「大仏ホテルの幽霊」

カン=ファギル著 韓国作家 朝鮮戦争後の日系洋式”大仏ホテル”には幽霊が棲むという… 宿泊者客のアメリカ作家シャーリィ・ジャクスン ヘイトを受ける華僑青年 アメリカ亡命を望む青年 新米作家の”私” ブロンテ「嵐ヶ丘」に準えた復讐の運命が交わるノンスト…

「イスタンブル・イスタンブル」

ブルハン=ソンメズ著 クルド系トルコ作家 “すべての道は第2のローマに通ず” 東西が交わる美しき古都 その地下で蠢く”山岳トルコ人”クルド人への拷問 イスタンブル版「デカメロン(十日物語)」 医師・床屋・学生・拷問後に拘置された老人 4人の語るイスタンブ…

「逝けるエドワード」

一日一編 イギリス怪談集 リチャード=ミドルトン著 韻文物語集「インゴルズビー物語」著者バラムの子孫 ホラーというより世紀末デカダン的短編 亡き息子を想う余りまだ生きていると思い込みその前提で生活する母 壊れてしまった人間の何を考えているあ分か…

「ミケランジェロの焰」

コンスタンティーノ=ドラッツィオ著 イタリア美術キュレーター “ああ!早く助けなくちゃ!” 大理石から取り除き象る事を彫刻と定義し天職と崇めた男の伝記 科学的絵画(黄金比):ダ・ヴィンチ 宗教的絵画(聖母子像):ラファエロ 毒親に教皇と人間関係にも苦労…

「ハリー」

一日一編 イギリス怪談集 ローズマリー=ティンパリー著 一家心中事件の生き残りの少女は引取られて幸せな日々を過ごす だが心中時に自分を犠牲に守ってくれた兄ハリーを忘れられない 事故現場を覗いた日に少女を学校に迎えに行くが…? ホラーというより普通…

「チャールズ・リンクワースの告白」

一日一編 イギリス怪談集 エドワード=フレデリック=ベンソン著 絞首刑された死刑囚の亡霊を目撃するオカルト好きの医師 すると死刑囚の亡霊が現れて苦しんでいる魂の成仏を求める 科学とオカルト 理性と本能的恐怖 医師と人間の狭間で揺れ動く心理を描くホ…

「目隠し遊び」

一日一編 イギリス怪談集 ハーバート=ラッセル=ウェイクフィールド著 政界秘書→軍人→短編作家の多彩な経歴 不気味な屋敷をよるに散策する紳士 マッチを落としてパニックになってしまい叫んだり走り出したりする人間の咄嗟の行動が短く明確に心理と共に言語…

「ヘンリーとロウィーナの物語」

一日一編 イギリス怪談集 マシュー=フィップス=シール著 西インド諸島出身でレトンダ島王となった経歴を持つ異端児 カルナヴァーレ(謝肉祭)を心待ちにする貴婦人と貴卿との密会 そこにツァナ豹が現れ卿は己を喰わせて云う “死ぬまで他の男のもの死ねば貴方…

「ロッホ・ギア物語」

一日一編 イギリス怪談集 ジョゼフ=シェリダン=レファニュ著 アイルランド出身イギリス移民ユグノーという特異な経歴 徐々にベールを剥いで恐怖の感度を上げるタイプの短編 湖の畔の城に居る魔術師デズモンド伯爵の伝説 昔話のはずが語る内に身近に忍び寄…

「七つの殺人に関する簡潔な記録」

マーロン=ジェイムズ著 ジャマイカ作家 ブッカー賞受賞作 2段組750P超長編 “死人に口なし然れど声あり” レゲエの神様にしてジャマイカの英雄ボブ・マーリー CIA ギャング 記者 麻薬密売人 亡霊 警察 1976年ボブ暗殺未遂事件を軸に70人のアメリカ&ジャマイカ…

「判事の家」

一日一編 イギリス怪談集 ブラム=ストーカー著 「ドラキュラ」でお馴染みの作家のホラー短編 今の所この短編集で最も面白い古典らしい作品 幽霊が出るという判事の家 嘘だろうと軽い気持ちの男は徐々に蠢く鼠やガタつく羽目板に怯え始める 平然→怯懦→恐怖と…

「おーい若ぇ船乗り!」

一日一編 イギリス怪談集 アルフレッド=エドガー=コッパード著 暗喩と寓話に満ちた散文の幻想ホラー 航海から戻った若い船乗り 寄港先の港町で“命を失くした”という亡霊に出会い痴話と滑稽話で盛り上がり歌い仲良くなる しかし街の人は彼女のことは見えて…

「中国のはなし」

閻連科著 中国作家 空虚な国民主義と資本主義は歪な愛国心を生む 子→父 父→母 母→子 三角関係の殺意 魯迅「阿Q正伝」”精神的勝利法” シンクレア・ルイス「本町通り」”村落病ヴィルス” キー局”日本スゴイ” 習近平”中国古事” 村唯一の大学生が改革開放政策に夢…

「大河が伝えたベンガルの歴史」

口承文学から分析したベンガル(バングラデシュ)海洋交易史 〜6世紀:グプタ朝(バラモン教他) 8世紀:パーラ朝(仏教) 12世紀:セーナ朝(ヒンドゥー教)/ゴール朝(イスラム教) インドネシアのサムドラ・パサイ始めマレーや印僑は古来ベンガル出身者が多く航海技術…

「無垢の時代」

イーディス=ウォートン著 アメリカ作家 ピュリッツァー賞受賞作(女性初) 開かれた社交界 閉ざされた家庭生活 上流階級の青年は2人の女性の狭間で揺れる “新興階級の労働者”:婚約の美人令嬢 “古き良き地主層”:幼馴染の伯爵夫人 アメリカがヨーロッパを逆転す…

「暗礁の点呼」

一日一編 イギリス怪談集 サー=アーサー=クィラ=クーチ著 ケンブリッジ大学英文学教授・文芸批評家・作家 点呼役を兼ねる船上ラッパ吹き 「ヨハネの黙示録(アポカリプス)」登場のガブリエルは”最後の審判”に喇叭で警告し死者蘇生を司る天使 言語学・地理…