MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-11-01 to 1 month

「ドストエフスキーとの旅」

生誕200年光文社古典新訳文庫でドストエフスキー翻訳を手掛ける亀山郁夫が”盟友”を肴に人生を語る重厚で抉るような人間描写と予言的かつ破滅的な5大長編9.11同時多発テロ中華帝国の野望「悪霊」の知識層別階級闘争AI破滅論むしろ予言は今をこそ最も的確に捉…

「フロイト 性と愛について語る」

ジークムント=フロイト著オーストリア心理学者・精神科医6論文集・去勢コンプレックス・処女性とタブー・オイディプスコンプレックス・同性愛トラウマ・解剖学的性差・現代人の神経質症欲望=性欲(リビドー)と考えた著者理性-意識-無意識-夢の本質に迫る

「赤い魚の夫婦」

グアダルーペ=ネッテル著メキシコ作家5短編集人もまた”生物”生物と人間の運命的シンクロを描く“赤い魚の夫婦”水槽の闘魚&育児に悩む夫婦“ゴミ箱の中の戦争”ゴキブリvs昆虫食一家“牝猫”女学生vs差別&牝猫“菌類”バイオリニスト&菌類増殖“北京の蛇”華僑老人の…

「レキシントンの幽霊」

村上春樹著短編7集人間の内面を映すあり得そうでない少しホラーで情景描写が巧み“レキシントンの幽霊”“緑色の獣”“沈黙”“氷男”“トニー滝谷”“七番目の男”“めくらやなぎと眠る女”個人的には器用で八方美人な人間が持つ悍ましさと復讐心・猜疑心を鋭く描く“沈黙”…

「サーカスが通る」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家戦後パリ五月革命身売りする女性が後を立たない時代大戦の傷跡を負いながら一進後退する記憶年上女性との出会いはローマ逃避行への片道切符10年の時を経て少年が警察官に語る女の真実とは?サーカスは気付け…

「デトロイト美術館の奇跡」

原田マハ著デトロイト美術館所蔵<セザンヌ「画家の夫人」>を巡る実話かつてのミシガン自動車産業都市も今や廃墟ゴーギャン・ゴッホ・セザンヌ…市の破綻宣言を受け莫大な価値を持つコレクションと職員を手放す危機へ市民と美術愛好家の美術館への想いが”奇跡”…

「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」

ネイサン=イングライダー著ユダヤ系アメリカ作家8短編集ユダヤ文学の多くがヒトラーやナチを題材にするしかし勿論それだけがユダヤ人の全てではない作中の”逆ポグロムごっこ”には戦慄した2世3世の視点で中東戦争やショアーを見つめ直す 収録作“アンネ・フラ…

「歩道橋の魔術師」

呉明益著台湾作家連作10短編集妖しいネオン子供の店番喧騒な売り込み小さな恋高層ビルなき時代今は亡き高度経済成長期の台北デパート”中華商場”歩道橋の貧相な手品師が披露する”魔術”2つの共通項が少年時代の怪奇体験をノスタルジックに想起させる台湾マジッ…

「テヘランでロリータを読む」

アーザル=ナフィーシー著イラン作家“元親米国家”イランは宗教革命で反欧米化・女性の社会進出後退英米文学の女性教授は女生徒7人と”禁書”西洋古典の地下読者会を開催ナボコフ→ギャッツビー→ジェイムズ→オースティン文学解釈と激動の現代イランを個人視点で…

「J・M・クッツェーの真実」

南ア&現代英語圏最高峰の作家”日本初のクッツェー論”数学的ロジック+文学的博覧+簡潔な文体+暴力+多言語英語圏で売れなければ世界文学として認められない従来の”世界文学≠北半球”を否定し”南半球文学”を提唱私も将来”クッツェーの孫達”が世界を席巻すると予…

「最後の物たちの国で」

ポール=オースター著アメリカ作家“パンドラの箱”開くと絶望が訪れる有名なギリシア神話だが箱の底には希望があるという人は希望と絶望どちらを感じて生きるのか?貧困から犯罪と破壊が横行する社会読まれることのない手紙を書き連ねる少女“最後の物たちの国…

「愛する人達」

川端康成著日本ノーベル賞作家短編9集脆くとも迷いながら逞しく日常を生き抜く”愛すべき人々”を描く昭和初期の男性優位社会にあって既に自由奔放な女性を描くのは流石だ“母の初恋”“女の夢”“ほくろの手紙”“母のさいころ”“燕の童女”“夫昌婦和”“子供一人”“ゆく…

「薔薇の名前 下」

ウンベルト=エーコ著 イタリア作家抜群の推理を発揮するウィリアムとアドソだが謎が謎を呼び増える変死体遂に異端審問官ギー到着闇の図書館に待つ人物とは?刻の終末を告ぐ喇叭が示す”アフリカの果て”焦がれ散る“薔薇の名前”と書物“中世のシンクタンク”修道…

「薔薇の名前 上」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家全世界5500万部の歴史ミステリ中世イタリア修道院で”ヨハネの黙示録”に肖る連続殺人事件発生異端審問神学論争3竦みの教皇皇帝派vs強硬派禁じられた図書館「詩学」2章 “笑い”聖務日課普遍論争“書物を巡る陰謀の7日間”に探偵…

「ミスターピップ」

ロイド=ジョーンズ著ニュージーランド作家パプアニューギニアvsブーゲンヴィル島の独立運動ディケンズ「大いなる遺産」主人公の孤児ピップ白人教師が島の子供に語るピップは伝統社会と独立派に実在のスパイを隠棲したと誤解を生む燻んだ村と教師は“大いなる…

「迷子たちの街」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家2つのパスポートを見つめる推理作家日本の出版社との商談で 20年振りにパリへホテルの名刺が”社交界に響き渡る1発の銃声”の記憶を呼び覚ます記憶から逃げたサロン仲間とパリの街秘密は今も”迷子”のまま夏の蜃…

「ケルト人の夢」

マリオ=バルガス=リョサ著ノーベル賞ペルー作家大英帝国領事ロジャー=ケイスメントコンゴとペルーでゴムの強制栽培を告発し英雄へ祖国開放を試み敵国ドイツに接近し反逆罪&同性愛で処刑権力に慄き友と師と離れども揺るがぬ”ケルト人の夢”鄙びた恩赦の署名…

「ヌマヌマ」

全作本邦初訳ロシア12作家短編集日本を代表するスラヴ・ロシア文学研究者&翻訳家の沼野夫妻による現代ロシア文学セレクションソ連崩壊で禁書逆輸入や過激な新興文学の躍進が著しいぶっ飛んだSFや官能作品に怪奇から純文学まで“嵌ると抜け出せない”知られざる…

「アイルランド 歴史と風土」

古代ケルト〜現代を英仏独西などの国際交流視点で分析“ボイコット”同名の大尉のアイルランド市民迫害時に起きた抵抗運動が語源クロムウェル時代まで原始的生活だったが大英帝国に編入後は急速に近代化現在Tax HeavenでApple本社を構え欧州第2の平均年収を誇…

「アイルランド紀行」

西部コナハト北部アルスター東部ダブリン縦横無尽のアイルランド紀行4人のノーベル文学賞やケルト音楽と高い文化を誇りウィスキーに舌鼓元々ハロウィンも妖精&自然崇拝と鎮魂のケルトの祭礼5世紀に聖パトリック布教でカトリック化最近まで英国との宗教対立で…

「名人」

川端康成著日本ノーベル賞作家実話に基づく作品生涯にして現役最後の勝負に挑む碁の名人を切迫した雰囲気で描く正直ルールを知らないので難しかっただが一手に80時間かけ病弱化しながらも伝統と真っ向勝負の”芸術的囲碁”を貫く名人に痺れた日本文化の美しさ…

「ダンシングガールズ」

マーガレットアトウッド著カナダ作家短編6集“火星から来た男”ストーカー相手への感情移入“ベティ”NTR女が狂気に至る“キッチンドア”森小屋の老女の殺意“旅行記者”記者と私人の間“訓練”病弱者内での下劣な迫害と医師“ダンシングガールズ”華やぐ国際交流の暗い…

「”知の商人”たちのヨーロッパ近代史」

近代ヨーロッパ印刷&出版史活版印刷技術普及で”知の商品化”が促進大衆&複製化する絵画と思想は弾圧・検閲・焚書・発禁の受難続き“知の商人”も命懸け知的財産の大衆化は大学の地位向上・カフェ増加・絵画の地位低下・知識人亡命・衆愚政治への利用が増加した

「回転木馬のデッドヒート」

村上春樹著短編8集都会の喧騒に戸惑う人々著者が聞いた&体験した話を物語るスケッチ作品嘘か誠か誇張か妄想か?曖昧な点が絶妙“タクシーに乗った男”“今はなき王女のための”“プールサイド”“ハンティングナイフ”“雨宿り”“嘔吐1979”“野球場”“レーダーホーゼン”

「ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説」

カール=マルクス著ドイツ哲学者本編+解説で半分哲学者→記者→経済学者と生きた著者の博士論文流行のヘーゲル弁証法批判“宗教は阿片”目的は脱宗教(政教分離)手段は反隷属と共産主義過程は資本主義批判と階級是正結果は「資本論」と社会主義

「古都」

川端康成著日本ノーベル賞作家由緒ある呉服屋養女の千重子瓜二つの苗子が双子と知り人違いながら求婚する秀太惹かれ合う若者の爽やかで淋しげな出会いと別れに胸を打つ四季折々の”古都”の絃歌と花吹雪祇園祭の夜の月虫愛づる姫君に恋し抱かれて“みなはんもお…

「20世紀グルジア短編集」

現代グルジア(ジョージア)作家の短編12集峻険なコーカサス山脈と風光明媚な雪景色の牧歌的風景言語系統分類不可なグルジア語世界で最も複雑な多民族国家グルジアの歴史と文化を代表作家の短編作から選出悲喜劇・風刺・抒情詩と密度濃い1冊個人的なお勧めは”…

「リンカーンとさまよえる霊魂たち」

ジョージ=ソーンダーズ著アメリカ作家ブッカー賞受賞作“史上最高の大統領”と呼声高きリンカーン実は南北戦争当時は”無能で醜男な大統領”と酷評された息子が急逝し窶れ顔で墓参りに佇む大統領現世に未練を残したユーモラスで愛しい霊魂が温かく見守り物語る

「琥珀捕り」

キアラン=カーソン著アイルランド詩人オランダ(特にフェルメール)・ギリシア神話・アイルランド民話を混ぜ込みA to Zの章で纏めた”琥珀”の叙事詩樹液が特定の条件下で長い年月をかけ石化する”琥珀”澁澤龍彦のような世界観で魅せる独特な”物語なき物語”分類…

「荘園」

”荘園”で時代が読み解ける近代以前は国家の根幹を成し税・職業・身分に直結イスラームのイクター制やインカのミタ制と世界史でも地域に合わせ個性豊かな土地制度がある公地公民→班田収授法→三世一身法→墾田永年私財法→御恩と奉公その後も貨幣経済と貿易促進…