MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-09-01 to 1 month

「濹東綺譚」

永井荷風著日本作家著者=主人公が小説を書くメタ構造“濹東”即ち隅田川東の吉原娼婦街に入り浸りお雪に恋し放蕩の日々を送る著者実経験に基づき遊郭の劣悪な労働環境や急激に”江戸から明治”に変わる街並みと文化を緻密に描く季節の移ろいと文明開花前後の文…

「マーガレット・アトウッド論」

”サバイバルの作家”弱きを見つめ強きを批する小説・詩・評論・フェミ・人権・環境問題と多才な現代カナダ巨匠の文学評技法や発想は当然に全能力が高く個人的には総合力No.1の英語圏作家初期代表作を解説“サバイバル”“食べられる女”“浮かび上がる”“侍女の物語”

「経済社会の学び方」

“経世済民”毎日お金の為に経済活動する割に経済の知識は少ない現代人古典派からケインズまで近代や現代の経済政策と照合し実利性を検証日本は長期雇用でなく昔から欧米も同水準米・豪・加の移民国家は短期雇用日米貿易戦争→米中貿易戦争→米印貿易戦争(予想)→…

「廃墟の形」

ファン=ガブリエル=バスケス著コロンビア作家1948年 若き政治家ガイタン兇弾に斃すコロンビア内戦勃発ケネディ暗殺とボゴタの闇の蜜月…?2014年 内戦決着ガイタンのスーツ盗難容疑で逮捕された容疑者の目的とは…?著者を主人公に現代コロンビアの歴史と陰…

「陽気なお葬式」

リュドミラ=ウリツカヤ著ロシア作家窮屈なソ連からニューヨークに亡命したロシア人のコミュニティ画家は死を前にソ連崩壊と”歩んだかもしれない人生”を想起し異文化交流的”葬式”を願う宗教・人種・言語・文化を超えた移民たちの”陽気なお葬式”その死は愛と…

「ノーベル文学賞のすべて」

120年に渡るノーベル文学賞を解説専門家の選ぶ推薦受賞者22名候補になるも逃した9名受賞が期待される40名作品と作家を魅力を存分に解説 紹介する受賞者22名川端康成大江健三郎カズオ・イシグロシェイマス・ヒーニーオルハン・パムクT・S・エリオットトーマス…

「ペテルブルグの文豪」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家息子の自殺に衝撃を受ける“ペテルブルグの文豪”ドストエフスキー「悪霊」中心に作中登場人物が創作活動を妨害し彼を阻むメタフィクション癖の強いドスト文体を対照的で簡潔な表現が特徴なクッツ…

「女がいる」

エステルハージ=ペーテル著ハンガリー作家“女がいる”の冒頭で始まる97の連作短編女がいる憎んでいる愛している愛……憎……女は一体何人いるのか?男はどんな想いなのか?甘美に耽美に妖美に壮美に男と女の短くリズムある濃密な掛け合い女がいる時は常に男も側…

「傷痕」

ファン=ホセ=サエール著アルゼンチン作家カフカの様に事件自体ではなく事件後の変化を複数主人公で断片的に語る妻殺害容疑中に自殺した男それを取材する若き新聞記者記者の自堕落で卑猥な母賭博中毒の元弁護士妖艶な女中ワイルド翻訳に没頭する狂判事”心に…

「島とクジラと女をめぐる断片」

アントニオ=タブッキ著イタリア作家詩人ペソアとポルトガルに魅せられた著者の連作短編コラージュ“ヨーロッパ唯一のクジラの楽園”アゾーレス諸島鮮血と波飛沫を上げる昔日のクジラ漁撈と黄昏れる島人達夕陽を背に男は女に囁いた“岩壁に見えるのはクジラなの…

「インド洋海域世界の歴史」

東インド(東南〜東アジア)西インド(南北中米〜豪州)中世まで”世界の中心”インドが洋の東西を分けた後は山前は海季節風とダウ船の“イスラムの海”モルディブ・イエメン・マムルーク朝・南インド・スワヒリ・イラン・マラバール・ジャワ中心の700Pに及ぶ中世イ…

「アケメネス朝ペルシア」

200年3大陸に跨る初の世界帝国アケメネス(ハカーマニシュ)朝文武両道民族を碑文やヘロドトスの資料比較で検証キュロス2世の新バビロニア平定カンビュセス2世のエジプト征服ダレイオス2世の帝国完成クセルクセスのギリシア遠征インド〜ギリシア文明の融合を促…

「ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち」

2014年時点のノーベル文学賞候補38人の作風・来歴・魅力を紹介(既に逝去した候補者も含む)この本の候補者4人が受賞予想はさておき世界文学の頂点を知るだけでも価値がある今年は強豪を抑え村上春樹が下馬評No.1!J.K.ローリングも登場!今年は誰が取るか? (…

「眠りの航路」

呉明益著台湾作家“竹は半世紀に1度だけ花咲く”その日”睡眠異常”を患い在日台湾人の父の記憶が走馬灯し始めた三島由紀夫・神話・B29・植物学・媽祖・工学多様な切り口で戦前に”日本人”として生きた”台湾人”の玉音放送後の葛藤を模索する日本と台湾”2つの祖国”…

「蜂の物語」

ラリーン=ポール著インド系イギリス作家“掃除族”から”女王蜂の母”に成り上がる蜂を擬人化し巣内の階級社会を描くディストピア小説雌雄求婚雀蜂・蜘蛛の襲撃と撃退集団意識の洗脳“受け入れ!従え!仕えよ!”蜂の生態に基づく全体主義コロニーが人間のリアル…

「ルベン=ダリオ物語全集」

ルベン=ダリオ著ニカラグア詩人・作家・外交官・翻訳家3歳で本を書き15歳で大統領秘書を務めた”神童”にして19世紀ラテンアメリカ最大&国民的詩人モデルニスモ(近代文芸)文学の祖眩く美しい言葉と神話や文学に政治史の膨大な引用に圧倒生涯全著作でお値段な…

「オン・ザ・ロード」

ジャック=ケルアック著アメリカ作家ビート文学の祖“ここではないどこかへ”そう呟きアメリカ一周の旅に出た酒に溺れ煙草を燻らせ女を抱く駆け抜けたRoute 66街を追い越したDriver’s High誰もがどこまでもOn The Road追い抜かれた喪失感を追越し車線で疾走し…

「失われた時のカフェで」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家失落した記憶と”その人”“揺蕩えども沈まず”エレベーターの昇降の様に“永劫回帰”の繰り返し2人きりの車両なのに周りに気遣い囁いた“美しい夏”の雪が散る夢遊病を患わった風が頬を凪ぐパリのとある失われたカフ…

「物語 パリの歴史」

山手線と同じ面積の計画的城壁都市パリ弱小豪族カペー家の後に百年戦争で中央集権化し”花の都”へシャンゼリゼ(エリーゼの野)カルチェラタン(ラテン区)リュクサンブール地区(ルクセンブルク)ノートルダム(貴婦人=聖母マリア)芸術・学問・文化の最先端モード…

「戦場を生き延びて」

イシメール=ベア著シエラレオネ国連親善大使1991年 内戦勃発“両手を失うか?友人を殺すか?”ダイヤモンドが国を戦場にした飛び交う蠅が血の海と炎に沈む優しかった少年は大量殺戮兵へ国連の更生で社会復帰2002年 内戦終結10年でGDPが20倍と目覚ましい発展の…

「海辺のカフカ 下」

殺された父の参考人として捜索されるカフカ少年殺人容疑で追われるナカタ老人四国の図書館に辿り着く2人カフカを図書館に住まわす男老人に付き添うトラック運転手カーネル・サンダースと美少女が導く2人の過去と未来を繋ぐ接点とは?海辺に浮かんでは消える…

「海辺のカフカ 上」

村上春樹著読み易いが解釈も多様で大衆ともマニア向け両方可カフカであり息子であり烏であり弟であり世界一タフな15歳の少年猫語を解する不思議な老人2人は同時に東京から高松へ向かう哲学・文学・音楽の蘊蓄を含みながら失踪した母と殺された父を巡る2つの…

「罪悪」

フェルディナント=フォン=シーラッハ著ドイツ作家・弁護士短編15集ホラー以上に恐ろしい犯罪サスペンス人間の”罪悪”を問い詰める“ふるさと祭り”“遺伝子”“イルミナティ”“子どもたち”“解剖学”“間男”“アタッシュケース”“欲求”“雪”“鍵”“寂しさ”“司法当局”“清算…

「物語 オーストリアの歴史」

9州ごとの魅力を説く著者のオーストリア愛が伝わる本“双頭の鷲”ハプスブルク家の孵化から第二次世界大戦で翼をもがれるまでの1000年の歴史スラヴ・ゲルマン・ラテン・トルコ・マジャール、、異民族の十字路から多民族帝国を築いたオーストリアを多地域多方…

「みずうみ」

川端康成日本ノーベル賞作家ストーカー”したい男”と”されたい女”“瞳がみずうみの様に深淵に見えた…”ロリコン教師を美しい比喩とリズムで淡い恋にさえ魅せる主人公が転落中なのに恍惚とさえ思わせる魔性の女をヒロイン然と振る舞わせる異常人格者を魅了的にす…

「黄金のブダペスト」

エステルハージ=ペーテル著ハンガリー作家短編&エッセイ10集“ハーン=ハーン侯爵夫人のまなざし(9章 見えない都市)”“青髭公のすばらしい人生”“宿屋の主人の日記”“我々が今いる場所”“黄金のブダペストを見たいですか”“女”“薔薇”“ある五月”“メキシコの宿題”“…

「幽霊たち」

ポール=オースター著アメリカ作家NY3部作の1冊ホワイトから向かいに住むブラック監視の依頼を受けた私立探偵ブルーしかし余りに日常的な生活を送るブラックと依頼自体に次第に疑問を持ち始める監視する者か?監視される者か?客体と主体が混淆し自己認識が…

「パタゴニア」

ブルース=チャトウィン著イギリス紀行家古代のオオナマケモノ”ミロドン”に魅せられパナマ運河以前の太平洋航路マゼラン海峡へ世界最南端”炎の島”先住民と移民の確執伝説の国化石の洞窟錆びれた鉄道ペリトモレノ氷河招かれざる共産主義者秘境パタゴニアの蒼…

「ぼくは覚えている」

ジョー=ブレイナード著アメリカ美術家・美術評論家“ぼくは覚えている”全ての文章がこの常套句を携えた詩ともエッセイともつかない1冊他人の記憶を覗くのは楽しい何でもない事を覚えていたり急に思い出したりこうした感覚が著者の美術の才能に直結しているの…

「高慢と偏見 下」

ジェーン=オースティン著 イギリス作家豊潤な言葉と繊細な心理描写に胸打つ後半エリザベスの瞳に惹かれるダーシーしかし階級がそれを許さない彼の不器用な求婚は失敗し姉妹は次々に破談しかしその優しさがもう一度ベネット家を解していく“高慢な男”と”偏見…