MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-03-01 to 1 month

「スッタニパータ」

ゴータマ=シッダールタ(&弟子)著シャーキャ王国(古代インド)思想家・仏教開祖釈迦の人生を名言と共に辿る論理学的三段論法の説法煩悩抑制と不殺生の徹底併せて非常に読み易い紀元前450年35歳で解脱し80歳で入滅当時のカースト制度下で”人は出自でなく行為”…

「慈悲の心のかけらもない」

シビル=カティガス著マレーシア作家“大東亜共栄圏”を謳い太平洋・東南アジアに侵攻した大日本帝国抗日ゲリラに手を貸したインド系マレー人医の妻で看護師のシビル“慈悲の心のかけらもない”拷問・強姦・皇民化政策イギリスに勲章を授与され現イポー市の通り…

「スザナ・ムーディーの日記」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家3部詩集元々「サークルゲーム」でカナダ総督賞を受賞し詩人として文壇に登場した著者カナダ移住開始期の作家スザナ・ムーディーの自然と人間の平易で雄大な詩タゴール同様に心情中心の欧米詩人と違い広大なカナダの自然…

「ある青春」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家幸せな家庭を気づいた今15年を経て思い返す戦後パリ…歌手志望の少女兵役後の孤児青年生き抜くため身を偽り物騒な仕事の傍ら夢を追う出逢って恋した2人失って流れた日々当て所なく彷徨う大都会郷愁と憧憬の断…

「大使閣下」

エリコ=ヴェリッシモ著ブラジル作家カリブ架空国家サクラメント共和国独裁政権を打倒した英雄が独裁を始める悪夢反共と利権誘導で米国の顔を伺うためワシントンD.C.に派遣された”大使閣下”愉悦に浸る2人の”元英雄”革命〜独裁〜ゲリラ〜失脚と国家崩壊の軌跡…

「フィクションのエルドラード」シリーズ全29冊読破記念総書評

“文学のエルドラード(黄金郷)”魔術的リアリズムの古典から名声高まる最新作まで中南米文学の殿堂入り作品大集合名翻訳者(スペイン語)の寺尾隆吉が総監修を務め水声社の装帳も美しい最高のレーベル初訳から新訳まで値段に恥じぬ傑作揃い

「英国屋敷の二通の遺書」

R=V=ラーム著インド作家珍しくミステリを読むインド感を期待したが寧ろイギリス感が勝る遺産狙いの暗殺防止で”2通の遺書”を書くチェンナイ富豪当主“closed circle”下の連続殺人事件の背後には闇を衒う巨大な陰謀が渦巻いていた探偵は謎を解き陰謀を止めら…

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 下」

村上春樹著迫り来る”世界の終わり”壊れ行く”ハードボイルド・ワンダーランド”地下鉄に乗り地下世界に潜り壁と門番を過ぎ深層心理の扉を開く“シャフリング”と”ブレインウォッシュ”の果て”俺と私”を待つ結末とは…?組織と工場の夢読みの旅路

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 上」

村上春樹著奇数章:世界の終わり偶数章:ハードボイルド・ワンダーランド2つの時空間を繋ぐ鍵は影・老科学者・一角獣の頭蓋骨・夢・計算士…“組織”の目的とは?SFでもファンタジーでも推理小説でもある独特な世界光陰が交錯する不思議な冒険

「燃やされた現ナマ」

リカルド=ピグリア著アルゼンチン作家1965年 ブエノスアイレス銀行強盗事件莫大な紙幣を攫って犯人4人はアパートに逃げ警察と籠城戦へ追い詰められ”燃やされた現ナマ”をバラ撒き警察を嘲笑うが…?犯人の過去を走馬灯させ警察・記者・作者と多声的に語るハー…

「おしりに口づけを」

エペリ=ハウオファ著トンガ作家オセアニア文化を交えた滑稽で痛快な”肛門文学”(しかも岩波)島国の元ボクシング王者はある日オナラが止まらなくなった!放屁で義母が飛び大地が揺れ爆音が轟き痔に悩み排便が続く妻・外科医・移民との確執の果て”おしりに口づ…

「ヘリオガバルス あるいは戴冠せるアナーキスト」

アントナン=アルトー著フランス演出家・俳優・評論家ローマ帝国23代皇帝”14歳の奇行帝”ヘリオガバルス男根の大きさで大臣を選び薔薇の風呂で乱交を強制する父カラカラ帝や母国シリア時代に遡り恐怖政治を行う性的倒錯無政府主義者の本質に迫る

「無分別」

オラシオ=カステジャーノス=モヤ著エルサルバドル作家先住民大虐殺に関する報告書を作成する男(モデルはグアテマラ)情事や知識人との交際も甲斐なく拷問や身体欠損と壮絶な記録を前に人格崩壊改行や2P超えの超長文で閉塞感・絶望感・狂気を見事に表現“無分…

アリス=マンロー全9冊読破記念総書評

作家の才能は短編で測れる短編一筋50年”現代のチェーホフ”ノーベル賞受賞理由はシンプルに”短編の名手”“長編の息抜き扱い”だった短編の地位を覆した最小限かつ多義的な表現で長編並みの密度・深さ・鋭さ・日常・時空間を現出小説の本質と醍醐味を凝縮した作…

「ピアノ・レッスン」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家15短編集知人との束の間デートの緊張感“乗せてくれてありがとう”白血病の級友を皆で見送る“蝶の日”平凡な教え子と教師の瞬間的な感動“ピアノ・レッスン”死んだふりで揶揄う祖母と孫が催眠術士の術中に嵌り驚きの結末…

「イラクサ」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家9短編集悪戯で書いた悪友との恋文が人生を激変させる“恋占い”闘癌生活の虚無の中の甘いひと夏の恋“浮橋”親と従兄弟の禁じられた秘密”家に伝わる家具”訳アリ初恋男性との再会“イラクサ”認知症の妻を前に胡乱な浮気夫“…

「ディア・ライフ」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家14短編集“愛しき人生”の集大成に餞として書かれた引退作人生の理不尽に翻弄される女性達が登場堅い医者に徐々に惹かれる女教師の「高慢と偏見」的”アムンゼン”女性と帰還兵の放浪を描く”列車”人生は許しの連続と語る”…

「善き女の愛」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家8短編集全編がホラー&サスペンス調題名・キャラ・表現の全てを心地よく裏切ってくる毒吐き老女の介護人が葛藤や苛立ちから意外なラストを迎える”善き女の愛”幸せ絶頂からの転落“コルテス島”意識持ち胎児が母を嫌味に…

「小説のように」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家10短編集著者入門にお薦め自分の人生と酷似した短編と女性に出会う“小説のように”殺人者同士がバーで動機を語り巧みに感情移入させる”遊離基”実在のロシア女性初の数学者&のち小説家ソフィア・コワレフスカヤの人生を…

「ジュリエット」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家8短編集現代版モーパッサン「女の一生」の”ジュリエット3部作”が目玉1部:駆け落ちの少女→2部:夫との死別→3部:母と娘と仕事著者には珍しい透視能力の話”パワー”一途に外国人の初恋相手を待つ先の悲劇“トリック”知る事…

「木星の月」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家11短編集著者に縁の南部カナダ某町が舞台各短編の人格・心情・自然が共通する緩い連作短編形式田舎ならではの小規模な閉鎖性・血縁との交流・階級意識・家庭の陰翳を描くと思いきや最後の”木星の月”で宇宙規模に町を…

「林檎の木の下で」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家12連作短編集スコットランドからカナダへと移住した著者の祖先を辿る3世紀に渡る旅大西洋航海から定住農地開拓から牧場経営近代化の波と寂れていく故郷の自然と動物そして著者アリス誕生血族の全てを見てきた”林檎の…

「愛の深まり」

アリス=マンロー著ノーベル賞カナダ作家11短編集表題作”愛の深まり”が凄まじい完成度僅か35Pながらカットバック&フラッシュバックを多用更に幼年〜更年の時空に奥行きを持たせ”愛の深み”を日常から演出これはもう”短編小説”というより”走馬灯そのもの”を見…

「中国思想史」

神話・呪術・ト占・漢字と独特な文明時に呉越同舟し時に四面楚歌し時に三国無双の”中国思想史”思想家争奪戦の春秋戦国時代斉の臨淄に集う”稷下の学”諸子百家の争鳴を経て孔子の儒学独壇場儒・仏・道の混淆と分派宋学→明学→清学では儒学ベースに古典研究が進…

「パプアニューギニア小説集」

パプアニューギニア作家3中編集“夜明けの炎”ベンジャミン=ウンバ著西洋文明との邂逅と激動に揉まれる街“家出”オーガスト=キトゥアイ著村のタブーを犯すも西洋社会では悪事で成り上がる罪人“タリ”ジム=バイタル著村追放後に憧れの西洋家庭の使用人となる男…

「デカルト “われ思う”のは誰か」

“Cogito ergo sum” 我思う故に我あり「方法序説」の名言だが大衆向け故にデカルトの思想は詳でない寧ろ主張は力作「省察」に顕れる“我=神=真理”物体として存在しない数字に”座標”を与えて可視化し数学を”神の真理化”神学と数学と哲学の融合を試みた”我”に…

「汝 人の子よ」

アウグスト=ロア=バストス著パラグアイ作家独立運動〜建国〜戦争を断片的に語り紡ぎ全体像を現出奇数章:勇戦した軍人の戦火の語り偶数章:戦争に翻弄される市政の人々ロシア人医師の救済と失踪密告・売春・奇跡・癩病・飢餓・恋愛“マテ茶畑に散る血飛沫は汝…

「最後のライオニ」

韓国SF作家パンデミック6短編集“最後のライオニ”破滅社会のクローンとAIの絆“死んだ鯨から来た人々”鯨が家の終末世界“ミジョンの未定の箱”感染前への時空超越“あの箱”コロナ禍の不自由“チャカタパの熱望で”破裂音・濁音の消えた世界“虫の竜巻”竜巻級の雀蜂蚊…

「ビルマ 1946」

テインペーミン著ミャンマー作家・ビルマ共産党書記長アウンサン将軍(スーチー女史の父)の独立前夜の村日本占領後に国民国家を目指す有志だが国内は民族・派閥で分裂化互いに諜報し殺し合う様を多階級・多職業視点で描く現在も続く“軍事独裁型ビルマ式社会主…

「時間の分子生物学」

蛸も蝿も人間もDNAのタンパク質構造は7割が同質7億年前に生存機能をほぼ完成し遺伝させたため1日=24Hの時間感覚”概日周期”と睡眠は全生物共通また近年の研究で生物は”生きる為に眠る”のではなく”眠る為に生きる”可能性も示唆されているユング明晰夢や遺伝子…