MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-01-01 to 1 month

「オデッセイ」

デレク=ウォルコット著ノーベル賞セントルシア劇作家・詩人現地スラングや文化を交えたカリブ版「オデュッセウス」トロイア戦争後にキュプロクスの目を潰し父ポセイドンの怒りを買い難破したイタケ王オデュッセウスアテナの助力で妻ペネロペと子の王位に群…

「変身のためのオピウム/球形時間」

多和田葉子著日本・ドイツ作家“変身のためのオピウム”オウィディウス「変身譜」ギリシア22女神の陶酔と恍惚オピウム(ヘロイン)が幻惑する寓話“球形時間”イザベラ・バードと邂逅する高校生の妄想と現実の狭間休憩の互換語”球形時間”言語・人称操作の実験小説

「カヘルの王」

チエルノ=モネネムボ著ギニア作家19世紀末実業家を呼び込み平和的征服でギニア王を夢見るフランス人探検家ポルトガル王から子爵を得てイギリス・フランス政府から妨害を受ける奴隷貿易の惨憺や帝国主義の暴力に立ち向かう土着民と白人視点で文明化を目指し…

「南北朝時代」

中国史上空前の乱世”五胡十六国&南北朝時代”匈奴•鮮卑•羯•氐•羌半農半牧の屯田制&均田制科挙原型で実力主義の九品中正江南開拓の土断法道教&仏教の一般化五行説に基づき”火の漢”の後継を主張した魏と南朝寒冷化による遊牧民南下で漢民族文化と融合し現中華文…

「地上の見知らぬ少年」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家機械物質文明を嘆く難解な前期作と子供・伝統文化を讃美する平明な後期作の過渡期的作品液体=海個体=陸気体=空五感に訴えて森羅万象を謳う半エッセイ地上を見知らぬ無邪気な少年の淡く…

「ナインストーリーズ」

ジェローム=デビッド=サリンジャー著アメリカ作家9短編集驚いた構成・テンポ・表現と全作全項目の完成度が高い今「JOKER」に嵌る人は昔ならサリンジャーな感じ日常に蠢く狂気や妄想が暴走する様子を幼児から老人まで各年代の語彙力で表現若者の説明不能な…

「多重都市デリー」

バーラタ共和国首都デリーの歴史中世のイスラム化以降800年の歴史を持つ北インドの要衝富裕や民族宗教構成から各皇帝が近郊に新都を構え続けた”多重都市”I部 1950年代の著者留学時のデリー歴史街散策II部 ラージプート時代→デリー=サルタナト朝→ムガル帝国→…

「神の子どもたちはみな踊る」

村上春樹著6短編集“蜂蜜パイ”を除く全作品に阪神淡路大震災が関係“UFOが釧路に降りる”“アイロンのある風景”“神の子どもたちはみな踊る”“タイランド”“かえるくん東京を救う”“蜂蜜パイ”地震の直接的な被害や影響ではなく間接的な歯車の転換をシュールタッチで…

「モダン」

原田マハ著ニューヨーク近代美術館(MoMA)を巡る6短編“クリスティーナの世界”“中断された展覧会の記録”“ロックフェラー・ギャラリーの幽霊”“私の好きなマシン”“あえてよかった”芸術は芸術家と彼らを育み作品を見守る鑑賞者や庇護者あってこそ美しい現代アート…

「犬婿入り」

多和田葉子著日本・ドイツ作家2中編“ペルソナ”外見から東アジア人で括られ語られる事に違和感を感じるドイツ在住日本人の葛藤“犬婿入り”芥川賞受賞作近隣の塾講師が犬男に犯される民間伝承を現代と融合したホラー(映画化済)子供や家庭など日常生活に溶け込む…

「イタリア紀行 下」

ヨハン=ヴォルフガング=フォン=ゲーテ著ドイツ作家・ヴァイマル公国大臣(上)チロル→ヴェローナ→ヴェネツィア→フィレンツェ→シエナ→ローマ→ナポリ→ポンペイ→シチリア(下)ローマ長期滞在特にカーニバルや古典に詳しく船や馬車の旅も臨場感がある博覧強記か…

「イタリア紀行 上」

ヨハン=ヴォルフガング=フォン=ゲーテ著ドイツ作家・ヴァイマル公国大臣ゲーテ38才イタリアを征く実は鉱物オタクで学名が冠される程語学・土木・大蔵・美術・鉱物・水道・文学・建築…多才ゆえ1人で上記政務を抱え慰安旅行へ逃避行(故に寡作)文豪の鋭い観…

「方法異説」

アレホ=カルペンティエール著キューバ作家“序説を唱わば異説が罷る”マルケス「族長の秋」やバストス「至高の我」と並ぶ”3大独裁小説”デカルト的フランス啓蒙を気取る某中南米国独裁大統領親米を盾に豪遊し市民を弾圧夥しい固有名詞と1章1段落の長文が圧政を…

「恋するアダム」

イアン=マキューアン著イギリス作家“AIが意中の女性に恋した”“原初の人間”の名を冠されたAI”アダム”没落税理士と美女学生とAI奇妙な三角関係架空設定の1982年恋人が秘める”不可抗力な罪”をも暴き説法するAIAIに恋も肉欲も自慰も許されるのか?機械と人間の…

「法王庁の抜け穴」

アンドレ=ジイド著ノーベル賞フランス作家ローマ-ナポリ-パリが舞台の緩め設定版「天使と悪魔」ピカレスク小説奇跡体験で改心した科学者の末路法王幽閉の噂を流し救出作戦を唆す詐欺組織”百足組”組織の暗躍で”無償の殺人”を犯す青年だが…?宗教と近代の相剋…

「アニマ」

ワジディ=ムアワッド著レバノン劇作家”◯種◯目◯学名”の様に人間を傍観する動物・虫の視点で語る独特な手法イスラエルの侵攻を受け亡命しカナダに住む男妻殺害の犯人を先住民生活域まで追い復讐を遂げる追跡過程で幼少期のレバノン内戦の記憶が走馬灯する野生…

「夜のロンド」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家第2作同じくナチ占領下パリ人を破壊し輪姦するナチと豪奢に耽る対独協力者たちのロンド(輪舞曲)仲間を売るユダヤ人機を衒い強姦で鬱憤を晴らすフランス人潜入するも逆スパイとならざるを得ないレジスタンス狂…

「エトワール広場」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家22歳の衝撃的処女作ナチ占領期パリ別冊用語解説集が付くほど夥しい注釈と固有名詞ヴィシー政府に迫害され”国民的ユダヤ系フランス作家”へ憧れる青年積極的に対独協力(コラボ)し被害者面に徹するフランスやユ…

「ヰタ・セクスアリス」

森鴎外著日本作家掲載当初発禁になった明治文豪の半自伝“vita sexualis”性欲的生活(ラテン語)多感な青年時代に性への目覚めを哲学的に分析していく寄宿舎の友人との吉原通い更に共産主義な自然主義文学への懐疑など当時の”社会の裏表”を鋭く描く流麗で難しい…

「誰がドルンチナを連れ戻したか」

イスマイル=カダレ著アルバニア作家中世某村遠国に嫁ぎ9人兄弟の葬式にも不帰の妹ドルンチナ突然の帰省死んだ兄が導いたと言うが…?救世主復活儀礼婚と”誓い”真相を追う警備隊長を待つ灰色の世界とは?小村の噂が事実へ更に伝承化し時代の転換を齎していく …

「ボディ・アーティスト」

ドン=デリーロ著アメリカ作家映画監督の夫の死妻は夫の面影を”或る青年”に見出し肉体の芸術家”ボディ・アーティスト”に覚醒しゆく時間・人称・五感が倒錯し”意識世界”を言語化全てが伏線に見える実験小説狂気のパフォーマンスが徐々に読者を具体から抽象の…

「ムアン・プアンの姉妹」

スワントーン=ブッパーヌウォング著ラオス作家“世界最大の被爆国”ラオスパテトラオ(愛国戦線)vsルアンパバーン王家vsチャンパーサック王家共産主義撲滅を名目に侵攻する米軍故郷を失い愛に生き祖国独立に諍う軍人一家の双子姉妹を力強く描く離散した家族の…

「ハムネット」

マギー=オファーレル著イギリス作家「ハムレット」誕生秘話シェイクスピアと彼の家族を僅かな資料を基に物語化富豪で予見者の8歳上の妻アン・ハサウェイペストで夭折した子ハムネット青年・父・男・プロとしての巨匠亡き息子の名を冠した作品は今尚も世界中…

「私の肌の砦の中で」

ジョージ=ラミング著バルバドス作家最も速くかつ徹底的に英国化された”橋の島”バルバドス故に奴隷貿易や砂糖黍畑の黒人社会が発展し現在もラム酒が特産戦後はアメリカ影響園へ大国への憧れと植民地主義への批判島国文化の美しさへの賛美“カリブの砦街”を肌…

「黄金のしずく」

ミシェル=トゥルニエ著フランス作家現代は”偶像の時代”偶像は魂を抜くと恐れるベルベル人が渡仏し写真を取り返す旅へそこでマネキンの型像となる男から機械文明の無味乾燥さを訴えるSNSの急発展で”言葉の喪失”が進む現代への予言と警鐘感情を失くしたら制服…

「悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事」

エミール=ハビービー著パレスチナ作家・イスラエル共産党員イスラエルの迫害により現在95%→アラブ人口18%になったパレスチナ地図から消えた村と人と家密告と階級闘争失踪したサイードの旅と語りに中東史を絡め悲観楽観で皮肉る”奇妙な逃避行”

「緑の天幕」

リュドミラ=ウリツカヤ著ユダヤ系ロシア作家スターリン死去〜ソ連崩壊ソ連反体制知識人の水面下の劇幕作家・芸術家・音楽家・科学者・詩人・非合法文書家・教育者・ユダヤ人…戦う市民のドラマ成長し挫折する複数主人公が心情豊かに演じる傑作大河小説赤鋤の…

「奇跡も語る者がいなければ」

ジョン=マグレガー著イギリス領バミューダ作家 ブッカー賞候補の処女作架空のイギリス移民街の穏かな日々信号機の点滅と共に動く街詩的絵画的な文章に浮かび上がる街の風景写真パキスタン系やカリブ系など表通りで賑わう市民“語る者がいなければ”何気ない日…

「改良」

遠野遥著美しさにコンプレックスを持ち女装と性欲の”改良”を重ねる青年リップサービスで茶化す風俗嬢アルバイト仲間の女性違和感への怯えと疼く欲望の対比が不気味で巧みで悍しい屈強な男性から性的暴行を受けた”改良人間”の美醜は鏡にどう映るのか?平野啓…

「チンギス・ハンの白い雲」

チンギス=アイトマートフ著キルギス作家2中編“セイデの嘆き”脱走帰還兵の夫を洞窟に匿う妻夫は飢えソ連の裁きに怯えた妻の行動とは…?“チンギス・ハンの白い雲”征服者チンギス行軍前の戒律隊ソ連下キルギスで圧政に苦しむ市民異なる時代を重ねて描く女性礼…