MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2024-01-01 to 1 year

「ひとり日和」

青山七恵著 1長編1短編 芥川賞受賞作 “ひとりではあっても孤独ではない” 20歳の平凡なフリーター女性は中国に転勤する48歳の母から遠戚の71歳の元気なおばあちゃんの元に居候を勧められる 各々が恋を経験し”ひとり”とは何か考える 題名で分かる通り文体も音…

「ワシプンゴ」

ホルヘ=イカサ著 エクアドル作家・医者 先住民文化復興を主張したインディヘニスモ文学の金字塔 医業の傍らで憤り社会告発した作品 ケチュア語で”出入口”を意味する言葉 エクアドルでは先住民の奴隷労働分与地も意味に含む 油田発見で動員された先住民が更…

「赤頭巾ちゃん気を付けて」

庄司薫著 芥川賞受賞作 半自伝 都立日比谷高校男子生徒の庄司薫 東大紛争で受験中止となり社会と自身を改めて見つめ直すことに… いざ勉強を取り上げられれば乳房も女生徒も社会も経済も古代史も純文学も左翼も電話も未来も童話も気になるお年頃 立ち止まった…

「佐川君からの手紙」

唐十郎著 芥川賞受賞作 書簡体小説 パリ人肉食事件で話題を呼んだノンフィクション作品 オランダ女性殺害の日本人である犯人”佐川君”から手紙を受け取り渡仏して真相を追った著者 パリの裏路地を歩き幻想的な風景と記憶を操る文章はフランスのノーベル賞作家…

「蹴りたい背中」

綿谷りさ著 芥川賞受賞作(最年少19歳) 孤独な女子高生は同じく友達のいないドルオタの男子校生に惹かれる 学校は孤独を許さず適応を求め同調で洗脳し妥協を強いる “このもの哀しく丸まった無防備な背中を蹴りたい” サガン「悲しみよこんにちは」や欅坂46の楽…

「ペスト」

アルベール=カミュ著 ノーベル賞フランス作家 再読(前回は岩波) アルジェリア第2の都市オラン 突然のペスト流行に発狂する人々の不条理を描く代表作 都市封鎖・フェイクニュース・終末論・科学の敗北 小さな牌の醜い奪い合いと短絡的思考 複雑な文明が単細…

「北アフリカ・イスラーム主義運動の歴史」

共和国のチュニジア 民主人民共和国のアルジェリア 王国のモロッコ マグリブ3国の近代イスラーム主義運動史概観 観光地化vsアラブの春 西洋派vs原理主義派 世俗vs聖俗 メッカから最も遠く元来ムラービト(修道士)やムワッヒド(唯一神信仰)が国家形成してきた

「リオリエント」

【Orient】東洋/輝く/始動/東に向ける/真珠/適応する 1800年代までインドと中国で世界GDPの66%を擁しアジアが80%を占めた ヨーロッパはアジア経済の切符を買うだけで精一杯ゆえ奴隷制が肥大化した 貿易品比較・生産性・土地制・都市化率を緻密な数字でアジア…

「中陰の花」

玄侑宗久(僧名)著 2中編 “中陰の花” 芥川賞受賞作 人は死ぬ時に体重が僅かに軽くなる 魂=原子核=幽体移動? 現役臨済宗僧侶が描く生死の間”中陰”の文学的臨死体験 “朝顔の音” 不倫する男女 女は流産の過去を男は妻帯の現実を隠し合う 2作とも植物の比喩が仏…

「出会いはいつも八月」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著 ノーベル賞コロンビア作家 未完の遺作 マルケスはラテンアメリカ文学であると同時にカリブ文学でもある 晩年の認知症で綻びは多々散見するが魅力的な設定 母の墓がある島に年1で訪れる富裕層中年女性 不倫夫同様に違う男に…

「太陽の季節」

石原慎太郎著 元東京都知事 5中編 芥川賞受賞作 “太陽の季節” “灰色の教室” “処刑の部屋” “ヨットと少年” “黒い水” 全作とも日本版ビート文学と言える立ち位置 ヨットやボクシングの肉体礼賛と女性に暴力的でマチズモ極まる若さが滾る ギラつく太陽に青春が…

「パニック・裸の王様」

4中編 全作とも集団と個人の社会関係批判 “パニック” 鼠害跋扈vs正義の公務員vs腐敗権力 “巨人と玩具” キャラメル製造の競争社会揶揄 “裸の王様” 芥川賞受賞作 子供の絵画教室に枷を作る大人と無責任な子供の教育現場批判 “流亡記” 秦始皇帝の長城強制労働と…

「ウィーン世紀末文学選」

フロイト シーレ クリムト クライスラー ヘルツル ルエーガー ブルックナー マーラー 各分野の多彩な才能が集結したウィーンだが文学も例外ではない 鬱屈した耽美主義と迫り来る世界大戦の足音を他所に謳歌した帝都 1918.11.11 オーストリア=ハンガリー帝国…

「カカーニエン」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ローベルト=ムージル著 天才たちの座す国カカーニエン その後に消滅して理解されなかった国 ヨーロッパ中央にあって国力は下位にあった国 帝政にして王政の神秘学が必要な国 カカーニエンはやはり天才の国だった 多分だから…

「猛スピードで母は」

長嶋有著 2中編 “サイドカーに犬” 父の愛人に好意を持ち母に距離を感じる娘 3人の女が邂逅した修羅場の結末は…? “猛スピードで母は” 芥川賞受賞作 貧乏でも真っ直ぐで強くて格好いい破天荒ママに魅了される ドライブ感のある文体との相性が絶妙 2作とも母の…

「赤い子馬」

ジョン=スタインベック著 ノーベル賞アメリカ作家 故郷サリーナスを描く少年期の半自伝 馬のことなら何でもプロの叔父さん 10歳にして赤い子馬の出産を目にし新たな生命と死別を経験する 田舎ならではの残酷さと強さ 厳しく美しい牧歌的自然風景と瑞々しい…

「ファルメライヤー駅長」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ヨーゼフ=ロート著 ウクライナ出身フランス亡命オーストリア作家 鉄道官僚出世道と幸福な家庭を持つ若き駅長 だが戦争勃発で中尉となり愛人を得て”戦争がいつまでも続いて欲しい”と望み始める 戦時の愛が願いにも呪いにもな…

「その名にちなんで」

ジュンパ=ラヒリ著 インド系アメリカ作家 ベンガル移民2世のアメリカ人ながらロシア文豪に肖り”ゴーゴリ”と名付けられた少年 アメリカ文化への違和感と迎合 ベンガル人家族との交流 「外套」等のロシア文学 複雑な文化的背景を持つ家庭をあくまで日常に絞り…

「ある夢の記憶」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 リヒャルト=ベーア=ホフマン著 「ゲオルクの死」で知られるユダヤ系でアメリカに亡命し死後に再評価された印象主義のシオニスト作家 感情や感覚が森羅万象に喩えられている点が詩人的 粗筋以上に繊細で鬱屈した比喩表現が特…

「落花生」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 シュテファン=ツヴァイク著 ナチに抗いアメリカとブラジルに亡命した詩人上がりの歴史小説作家 学級で馬鹿にされる繊細なティーンの少年 しかし教師の冷笑に奮発し殴り合いとなって教室を脱出し”15の夜”の解放感を得る この…

「すみれの君」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 アルフレッド=ポルガー著 伯爵vs男爵 伝説のトランプ勝負 決闘に香水好きにワルツの達人に最後の騎士の名を持つ借金まみれの伝説的伯爵 だが第一次大戦後のオーストリア解体に伴う共和国で貴族は身分剥奪を受け没落 貴族すら…

「楽天家と不平家の対話」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 カール=クラウス著 楽天家vs不平家の舌戦勝負! 繁栄と虚無を同時享受した世紀末ウィーンの頂上決戦 過激な内容は第一次世界大戦後こそ笑われたが現実となった フランツ・ヨーゼフ2世の没後にファシズム傾斜とオーストリア併…

「越境」

コーマック=マッカーシー著 アメリカ作家 国境3部作第2章 野生狼と出会い村を出て放浪する少年 ドストエフスキーの形而上学性 フォークナーの暴力性と野生性 コンラッドのロード・ノベル性 マンや中国義侠のピカレスク性 “計算された偶然性”を繰り広げる展…

「余はいかにして司会者となりしか」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 アントン=カーク著 司会者になりたいって? ならまず冷笑だ…! そして上級国民だと見せつけるのだ! 次に間の取り方だ…! 沈黙を統べる者は場を統べる! 間違っても滑らないようにな! どうだ! 正にヒトラーみたいだろう…?

「説得」

ジェイン=オースティン著 イギリス作家 8年ぶりに再開した若き上流階級の男女 かつての恋人同士が再び結ばれるロマンチックな展開だが丁寧ゆえ地味な描写も多い 「高慢と偏見」とは異なり”誤解からの印象改善”ではなく”かつての諦念からの説得”で結ばれる流…

「文学動物大百科(抄)」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 フランツ=ブライ著 作家を動物生態に喩え紹介 アインシュタイン ヴェーズキント カスナー カフカ クラウス シャオカル シュニッツラー ツヴァイク ブライ ホフマン ヘッセ ホフマンスタール マラルメ マン兄弟 ムージル ユイ…

「オーストリア気質」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 エゴン=フリーデル著 俳優・エッセイスト・パロディストにして貴族 第二次世界大戦で亡命を拒んで自殺した オーストリア気質についてフランクフルト新聞に寄稿するフリーデル氏 ヒトラーを感銘させた無能なルエーガー市長の…

「イスラム幻想世界」

イスラムの怪物・英雄・魔術を紹介する本 (今度またイスラム世界に旅行するので予習読書) イスラム成立時のカリフやムハンマド一家 「千一夜物語」に登場する逸話やジン(精霊)にイフリート等の怪物 バイバルスやサラディン等の英雄 アラビア魔術と言われたエ…

「ダンディならびにその同義語に関するアンドレアス・フォン・バルテッサーの意見」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 リヒャルト=フォン=シャオカル著 ここで私”世紀末ダンディ”ことアンドレアス・フォン・バルテッサーの意見を述べさせて頂きます! ……………………………… まあ全て嘘ですけどね

「フーコーの振り子 下」

19世紀パリ市内パンテオンで行われた”フーコーの振り子実験” サンジェルマン伯爵本人登場? カバラ カタコンベ エクトプラズム クンダリニー蛇 賢者の石 黄道十二宮 セフィロト カニバリズム 数多の十字軍 暗号解読仲間失踪を機に”計画”が始まり舞台はブラジ…