MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-11-01 to 1 month

「果てしなき饗宴」

マリオ=バルガス=リョサ著ノーベル賞ペルー作家現代小説の祖ギュスターヴ・フローベールその代表作「ボヴァリー夫人」を中心に読み解く“自由間接話法”“全知の語り手”“信頼できない語り手”著者自身も多用する技法や派生の”意識の流れ”にも言及始発点なる“果…

サルマン=ラシュディ全9冊読破記念総書評

パキスタンの親を持ちムスリムとしてボンベイに生まれロンドンへ渡りインドを描き「悪魔の詩」でイラン最高指導者ホメイニが死刑宣告を出す膨大な歴史・宗教・神話の知識を用いて卓抜な想像力で現代史とリンクさせるマジックリアリズム最もインド的な作家だ …

「恥」

サルマン=ラシュディ著インド作家“清浄の5大民族国家”パキスタン僻村で因習的・性的・イスラーム的な”恥”を学ばず成長する少年オマル・カイヤーム(中世イラン詩人)父は不明母は”3人の魔女(三位一体)”三姉妹ドンファン的成功に溺れるオマル現代パキスタンの”…

「スペインの家」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家3短編集“スペインの家”家と結婚する現代人を描く“ニートフェルローレン”牧歌的生活下で文学に覚醒する南ア少年期を回顧“彼とその従者”「ロビンソン・クルーソー」と自身の半生を寓意化したノーベ…

「純白の夜」

三島由紀夫著エリート銀行員の夫その妻学生時代の夫の学友三角関係W不倫の純愛スキャンダルプライドの高い者同士が仕掛ける緻密な心理戦“純白”という皮肉で逆説的なタイトルが良いありきたりのメロドラマ的設定だがやはり華麗な文体とテンポ良い逢瀬の密会が…

「新恋愛講座」

三島由紀夫著3エッセイ“新恋愛講座”“終わりの美学”“若きサムライのために”連載誌には軽めな恋愛小説を多く執筆緻密な自著の心理小説と同じく実際の恋愛観察眼も巧み物事のオチに注目した”終わりの美学”フェミニズムの功罪も既に予告いつも通り西洋と日本の二…

ウィリアム=フォークナー全12冊読破記念総書評

<ノーベル賞受賞理由>“現代アメリカ小説への独創的な貢献”その深淵な世界は選考者すら定義不可で曖昧な評価にせざるを得ない程神話性写実性暴力性宗教性自伝性因習性南部ヨクナパトーファ群を舞台に”意識の流れ”で複雑かつ緻密な人物と世界を構築 以下個人的…

「ガルシア=マルケス論ー神殺しの物語」

マリオ=バルガス=リョサ著ノーベル賞ペルー作家2段組500P若き巨匠が紐解く世界初の学者顔負けマルケス論「百年の孤独」までの全登場人物と構造を網羅し完全解説反復・誇張・主体跳躍・客観的現実・幻想的現実・隠喩・ユーモア著者自身も自作に応用した X=…

「兵士の報酬」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家ヨクナパトーファサーガ始まりの処女長編映画「ジョニーは戦場へ行った」的内容戦死と思っていた恋人が心身共に欠損した姿で帰還将来不安から親族と町中に結婚を反対され絶望する女恋人たち以外に様々な人…

「美と共同体と東大闘争」

三島由紀夫著“近代ゴリラ”三島由紀夫vs”安田講堂学徒”東大全共闘現在の大学では絶対に有り得ない死をも覚悟した一触即発の討論会(意外とお茶目)「テレーズ・デスケルウ」論ルソー自然論天皇制と共同体美とエロティシズム“暴力の否定”の否定三島の見た自民党…

「死の床に横たわりて」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家10人前後が交代独白(全員変人)亡き妻を弔うため遺体を運ぶ男大家族の狂人的親族と絡みながら道中を馬車で征く南部の殺伐な原風景を描くブラックコメディ意識の流れが複雑だがまさかの秀逸なオチが最後の文…

アミタヴ=ゴーシュ全4冊読破記念総書評

科学と地理歴史を中心にした博識豊かで独特な感性大衆的個人が主役ながら世界史の双方に真摯に向き合う稀有な作家エジプトやビルマと母国インドに留まらないノスタルジーを謳う社会文化面から植民地支配を弾劾する作家は多いが科学環境面からの検証者は貴重 …

「ガラスの宮殿」

アミタヴ=ゴーシュ著インド作家インド・ビルマ・マレー3ヵ国3家族4世代に及ぶサーガ1885年コンバウン朝ビルマ滅亡王妃と侍女達は亡命後に夫と子を得てゴム栽培で成功だがそんな夢と幸せすら英国と日本が略奪していく…“強い民”ミャンマーその”建国の父と母”…

「パンタレオン大尉と女たち」

マリオ=バルガス=リョサ著ノーベル賞ペルー作家堅物大尉の極秘任務は売春天国”パンティーランド”運営!夢・報告書・記事・ラジオと複数の語りが交代進行真面目に不真面目な任務を卒なくこなし逆に世間に軍の売春斡旋が噂され…?鋭い軍部風刺を交えたコミカ…

オルハン=パムク全17冊(追)読破記念総書評

“永遠の都”ローマと云う“第2のローマ”もまた永遠だろう失われたオスマン帝国の栄華ヨーロッパ文化に憧れた近代”美しき廃墟”現代イスタンブールを中心に狭間で葛藤する祖国を王道の純文学で彩る文明の混淆と衝突に想い寄せ語り継ぐ唯一無二のトルコ作家 以下…

「ペストの夜 下」

オルハン=パムク著 ノーベル賞トルコ作家 疫学者連続殺人事件感染抑制のため政府と列強は島を艦隊包囲で隔離し飢餓地獄へ高まる独立運動と外交駆け引き遂にミンゲル共和国独立亡命王女は殺人事件の真相を推理し更に独立運動にも巻き込まれていくが…?疫災が…

「ペストの夜 上」

オルハン=パムク著ノーベル賞トルコ作家鍵はホームズ?歴史×推理×外交×恋愛×疫災20世紀初頭オスマン帝国アブデュルハミト2世期キプロスに似た架空の島ミンゲルでベストが猛威を奮う政府は疫学者と妻で前皇帝ムラト5世の娘パーキーゼを派遣しかし水面下で陰…

「夢宮殿」

イスマイル=カダレ著アルバニア作家再読19世紀オスマン帝国アルバニア古より夢は未来予知に用いられた国民の夢を皇帝が管理する官僚機構”夢宮殿”タビル・サライ選別・筆生・解釈・監禁・文書保存の部屋…宰相も輩出した実在の名門キョプリュリュ家新人の空前…

「大いなる錯乱」

アミタヴ=ゴーシュ著インド作家気候変動リスクを独自の文学論と絡めて語る世界人口50%が海岸に住み地球温暖化と河口の塩害は悪化中気候文学の先駆け「怒りの葡萄」解説を始め自作を交えて訴える確かにトカルチュクなど最近「人」以外に「物」や「自然」が主…

「東と西」

サルマン=ラシュディ著インド作家9短編集パムクと異なり東西の”混淆と確執”ではなく”分裂と対立”が焦点東・西・東西の3舞台3編でインド亜大陸の風俗と歴史を軸にした多彩な短編魔術的リアリズム「真夜中の子供たち」後日談シェイクスピアピンチョン的博学コ…

「THE LIVES OF ANIMALS」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家過去作「エリザベス・コステロ」の主人公が架空講演で”動物の生命”について語るメタフィクション動物と人間の歴史的関係を菜食主義の著者の分身が多様な学問から検証小説の体だが実質は動植物愛…

「小説読本」

三島由紀夫著小説家のイロハを語る基本的に絵画建築的構造を持つ作品を好んだ三島フロイト的な無意識を徹底排除読み手の想像力を美文で誘導し限定法学的思弁法で完璧主義的な論理性豊富な語彙量と明快な分析上記より二元論に傾きがちな嫌いはあるが当代随一…

「マヤ神話ーチラム・バラムの予言」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家中米に惹かれた若き著者がマヤ語を研究し原点を翻訳南北アメリカに車輪文化はなかっただが驚異的な時間認識と天文学は円環構造とN進法を採用しており宗教的制約で発展が啄まれた可能性もあ…

閻連科全10冊読破記念総書評

出す長編が悉く中国本土で発禁となるため現在は母国より自由度が高い香港で創作と教鞭を取るエロ・グロ・ナンセンスの猥雑な描写の裏に隠れた中国社会の理不尽シュールな寓意に満ちた狂気の世界観”神実主義”荒唐無稽に見えて現実の様な小説ならではの愉悦を…

「丁圧の夢」

閻連科著中国作家貧しい農村”丁圧”老いも若きも高額の政府主導の輸血用売血で一攫千金を目論んだ結果エイズ蔓延る地獄と化した父が手引きし祖父が反対した売血政策に滅びゆく村を孫が見つめる過剰な死が狂気と絶望と哄笑を招く様を皮肉とユーモアで糾弾現代…

リヒャルト=カプシチンスキ全4冊読破記念総書評

7カ国語を解し50の歳月を費やし100の国を歩き27の政変・建国を見た同じ第三世界のポーランド人として第三世界を透徹した分析力と芸術的な文章で案内する私も旅ブログと称した駄文を50カ国ほど書いていたから分かるこのルポ文学は誰にも真似できない 以下個人…

「黒檀」

リヒャルト=カプシチンスキ著ポーランド記者・作家29ルポ集黒檀の様に心身とも逞しく美しい黒人黒人を近代文明視点で白眼視してしまう白人両者を知る著者だから書けたアフリカを知る最短経路の1冊40年に及ぶ指導者から市民までの広範な現地取材を基にサハラ…

「古典文学読本」

三島由紀夫著日本古典文学概説古文漢文の知識は勿論で作文まで出来た三島古典廃止論者に読んで欲しい1冊「雨月物語」「古今集」「源氏物語」「葉隠」「古事記」「曲亭馬琴」「謡曲」「神皇正統記」「新古今和歌集」「五山文学」「近松・西鶴・芭蕉」「和歌漢…

「人民に奉仕する」

閻連科著中国作家毛沢東語録スローガン”人民に奉仕する”これを刻んだ木札を勘合に軍師団長の美人妻が誘惑する“私への奉仕が人民への奉仕だ”性愛に惑溺する妻と炊事班長の男男は妻の斡旋を糧に情事と昇進を約束されたかに見えたが…?“現人神”毛沢東を揶揄し発…

「反貞女大学」

三島由紀夫著2エッセイ“反貞女大学”女性論エッセイ貞女に能うべからず反貞女たれ現代の過剰なフェミニズムの問題点を予見する“第一の性”男性論エッセイ第一の性=男第二の性=女サルトルに師事したフランス知識人女性ボーヴォワール「第二の性」に肖る英雄や美…