MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-09-01 to 1 month

「2666」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人5部2段組880P「老いぼれグリンゴ」+「V.」+「わが人生の小説」+「戦争は女の顔をしていない」ノーベル賞候補のドイツ作家は何故メキシコに渡ったか?架空作家の評論+来歴+著作メキシコ性暴力犯罪+貧困+搾取暴かれる“世…

「野生の探偵たち 下」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人メキシコ・中南米・ヨーロッパ・アフリカ・イスラエル…混淆する前衛詩人放浪者の足跡虚構と現実相違と共通詩の衰退への悲嘆と賛美謎の女性詩人を追う終幕の舞台はメキシコ北部の砂漠へ永遠の青春を求めた“野生の探偵た…

「野生の探偵たち 上」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人第1部 メキシコに消えた詩人たち第2部 野生の探偵たち第3部 ソノラ砂漠メキシコ学生の結成した前衛詩革命運動組織”はらわたリアリズム”有象無象の詩人たち世界各地53の多階層の知識人〜一般市民までが語る中心人物2人の…

「売女の人殺し」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人13短編集パブロ・ネルーダとガブリエル・ミストラルノーベル賞詩人を2名輩出した詩人の国チリ“女ってのは売女の人殺しよ”死姦趣味の有名詩人にレイプされる死体の女の魂や著者の分身と多彩な語り手ピノチェト軍政下の詩…

「はるかな星」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人チリ軍政下に実在した飛行機雲で詩を描くパイロット”飛行詩人”カルロス・ビーダー有名詩人ゼミ?セレブ美男子?ポルノ男優?放浪者?複数の顔を持つ怪人は裏で残虐非道を繰り返す異常者語り手と刑事の追跡詩を間奏の様…

「静寂の荒野」

ダイアン=クック著アメリカ作家ブッカー賞最終候補環境破壊で人類生存圏が都市のみとなった近未来”未知の荒野”に自然治癒を求める都市病患者の娘とその母のサバイバル記録自然も動物も人間も情け容赦ない世界特に資源と経済の欠如がそれらを助長することを…

「ロンドその他の三面記事」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家11短編集文明批判が主軸“ロンド”“モロク”“脱走者”“アリアーヌ”“オロール荘”“アンヌの遊び”“気ままな生活”“越境手引人”“泥棒よ…泥棒よ…お前の生活はどんなもの?”“オルランド”“ダヴィド” こ…

マーガレット=アトウッド全29冊読破記念総書評

長編・短編・詩・評論・芸術・科学・古典・SF・環境・フェミ…多才かつ全て一級品ブッカー賞も2度受賞個人的にも存命の現代作家の頂点と思っている母国カナダと隣の超大国アメリカの近未来を透徹する”サバイバルの作家”絶版も多いが推奨したい作家 以下個人的…

「このサンドイッチ マヨネーズ忘れてる/ハプワース16 1924年」

ジェローム=デビッド=サリンジャー著アメリカ作家8短編1中編集ホールデンが主人公の前半6短編が見所“ハプワース16 1924年”100Pの手紙に7歳児が書いたとは思えぬ世界文学・宗教・文化論の書き散らし最も著者らしくない哲学的作品 収録作“マディソン・アヴェ…

「死者との交渉」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家ケンブリッジ大学エンプソン講演で語った”作家と著作論”当代随一の世界的作家たる社会への義務感と読者への問い掛け冥界へ降り帰還するギリシア神話の死者の英雄アエネイアス歴史神話を引き合いに英米カナダ文学や詩の…

「現れる存在-脳と身体と世界の再統合」

哲学は自然科学や脳科学の発展で新たなステージを迎えているとりわけ人工知能の”認知科学”分野で特に再注目を浴びているロボットやAIが人間的思考を如何に情報処理し感情化・理論化させるかを分析AI時代にも”現れる存在”を受け入れる倫理道徳的準備が必要だ

「アメリカの鳥」

メアリー=マッカーシー著アメリカ作家拝啓Peter君はこの本の主人公で作者自身Paris-Roma-NYを飛ぶ”渡り鳥”私と君は似てるね母は音楽が得意だし学生時代にベトナム戦争の傷跡も見たし「永遠平和のために」も読んだよいつか話してみたいなきっと仲良くなれる…

「ステパンチコヴォ村とその住人たち」

フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著ロシア作家バルザック的ドタバタ人間喜劇の幻の初期長編地方富裕層家系の主人公と縁戚帰郷したら拾われ直後のホームレス青年に将軍の叔父や娘に支配されていた…!一計を案じる主人公と住人たちの結末は?

「辺境・近境」

村上春樹著著者の日本と海外の旅行記瀬戸内海の無人島”烏島”での原始生活「ねじまき鳥クロニクル」の一幕モンゴル来訪アメリカ大陸横断とモーテル梯子地元神戸への凱旋メキシコ周遊香川うどん食い倒れ(著者の作品にはよく四国が登場する)一般的な風景をグル…

「ライ麦畑の反逆児ーひとりぼっちのサリンジャー」

全世界6500万部世界一有名なアメリカ文学「ライ麦畑でつかまえて」著者サリンジャーと主人公ホールデン誕生と成功秘話書くことに憧れ書くことに苦しみ書くことを諦めた人生以降は全く作品を発表も執筆もせず91歳で人知れず静かに2010年に没した

「ロウソクの科学」

マイケル=ファラデー著イギリス化学者・物理学者ヴィクトリア朝の書店バイトから独学と実験で王立研究所長まで登り詰め科学啓蒙を積極的に促した電磁誘導・電気分解・ベンゼン発見と多彩な業績中でも本書は”燃焼反応と大気の化学反応の総合的実験分析”を分…

「愛する大地(Terra Amata)」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家“大地に生きている”“大地に生かされている”手話・モールス信号・意識の流れを言語化した実験小説聴覚的リズム+視覚的エクリチュール=知覚的ヌーヴォーロマン誕生から埋葬まで大地が育む生…

「フィリッポ/サウル」

ヴィットーリオ=アルフィエーリ著サルデーニャ王国貴族・劇作家2中編“フィリッポ”カトー・カンブレジ条約前後のスペイン王家王子の父王暗殺計画と王妃の群像劇“サウル”神の命令に叛き寵愛を失うイスラエル王サウルゴリアテ討伐で名声を博すダビデ王子権力禅…

「彼女の思い出/逆さまの森」

ジェローム=デビッド=サリンジャー著アメリカ作家8短編1中編集世界大戦を経験したロスジェネ代表作家サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」で有名だが短編の方がキレ味も抜群で上手い軍人・難民・移民・戦争・亡命…行き場を失った若者の想いと悲哀を優しく…

「負債と報い」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家「嵐が丘」から「グレートギャッツビー」まで恋愛以上に”負債と報い”が主題ディケンズ「クリスマス・キャロル」のスクルージ(screw=搾取)卓抜した博識で社会的動物たる人類の経済搾取問題の功罪を暴く作家の見るリーマ…

「トマス・ピンチョン」

現代アメリカ文学の百科全書的作家ピンチョン論考戦争・帝国・支配・植民地・テロ・対抗文化麻薬・核兵器・諜報・陰謀論・移民・国民国家現代が抱える矛盾と欺瞞を世界各国を舞台に展開し”選びに与れない者たち”へ普遍性を説く異端者による異端者のための異…

「アイダホ」

エミリー=ラスコヴィッチ著アメリカ作家妻が実の娘を殺し終身刑に夫は再婚するが健忘症へ娘の妹は事件目撃の衝撃で失踪40年かけて離散した家族の記憶を拾い集めてゆく再婚後の妻を待つ結末とは…?交錯する時間軸と交替する家族の心理描写のパズルアイダホの…

「セロトニン」

ミシェル=ウェルベック著フランス作家世界的農薬企業退社後の中年社員エリート街道を歩み”社会に必要な人間”を自認していたが日本人の恋人蒸発で存在意義を消失過去の交際女性を浮かべては愚痴る様は現代の孤独とグローバル資本主義の弊害なのか?予言的中…

「親衛隊士の日」

ウラジーミル=ソローキン著ロシア作家2028年中世的暴力を振るうウクライナ侵攻を予期したかの様な近未来ロシア帝国化で絶大な権力を振るう”親衛隊士”中国への経済的従属化と漢字母語化富裕層迫害と公開処刑魚の大量跋扈と呪術的儀式の復活権力の暴走した日…

「スクイズ・プレー」

ポール=ベンジャミン(オースター)著アメリカ作家私立探偵×ハードボイルド×野球×ミステリ5年前に事故で引退した元MLB伝説の選手が政界進出直線に暗殺暗躍するマフィア誘惑する女“走者=犯人”は誰か?“打者=動機”は何か?スキャンダルの間隙を突く”スクイズ・…

「愛人(ラマン)」

マルグリット=デュラス著フランス領インドシナ作家家庭崩壊ゆえ15歳で華僑の男との性と愛に目覚める過程を描く半自伝植民地支配側の白人だが事業失敗で貧困化した少女は悦楽に幸を見る私小説ながら1〜3人称を駆使し読者を巧みに共感させる独特なアジア描写…

「テレーズ・デスケルウ」

フランソワ=モーリヤック著ノーベル賞フランス作家三島由紀夫「愛の渇き」と遠藤周作「深い河」のモデル作デスケルウ家令嬢の夫殺し親族は世間体を保つため事件を隠蔽し彼女を幽閉するが…地方名家の妻として振舞う事のみ要求された70年前の女の葛藤・屈辱・…

「こころ」

夏目漱石著再読(高校の授業以来)“君ね…恋は罪悪ですよ…!”隠居インテリの先生に惹かれた東大生徐々に告解される先生と友人Kとお嬢さんの三角関係1部:邂逅2部:接近3部:遺書(先生の内的独白)嫉妬・焦燥・褒貶・偽善・毀誉・喪失…罪悪に塗れた恋の代償は”こころ…

「狩場の悲劇」

アントン=チェーホフ著ロシア作家“詩的な赤いワンピースの娘との出会いが夥しい犠牲者を出した…”狩場で起きる予期せぬ悲劇とfemme fatale“短編の名手”唯一の長編+唯一の小説内小説+唯一のミステリの例外的作品前半=恋愛心理群像劇後半=某ミステリと同じ仕掛…

「無慈悲な昼食」

エベリオ=ロセーロ著コロンビア作家各曜日に対象者へ無償昼食を振舞うボゴタ教会死んだふりも虚偽告解も厭わない貧困者が屯する毎日一方で賄賂と性欲に塗れた聖職者の偽善の仮面も剥がれていく内戦で貧困化した下流層の言動の醜さvs権力に媚びて腐敗した上…