MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2024-04-23 to 1 day

「ワシプンゴ」

ホルヘ=イカサ著 エクアドル作家・医者 先住民文化復興を主張したインディヘニスモ文学の金字塔 医業の傍らで憤り社会告発した作品 ケチュア語で”出入口”を意味する言葉 エクアドルでは先住民の奴隷労働分与地も意味に含む 油田発見で動員された先住民が更…

「赤頭巾ちゃん気を付けて」

庄司薫著 芥川賞受賞作 半自伝 都立日比谷高校男子生徒の庄司薫 東大紛争で受験中止となり社会と自身を改めて見つめ直すことに… いざ勉強を取り上げられれば乳房も女生徒も社会も経済も古代史も純文学も左翼も電話も未来も童話も気になるお年頃 立ち止まった…

「佐川君からの手紙」

唐十郎著 芥川賞受賞作 書簡体小説 パリ人肉食事件で話題を呼んだノンフィクション作品 オランダ女性殺害の日本人である犯人”佐川君”から手紙を受け取り渡仏して真相を追った著者 パリの裏路地を歩き幻想的な風景と記憶を操る文章はフランスのノーベル賞作家…

「蹴りたい背中」

綿谷りさ著 芥川賞受賞作(最年少19歳) 孤独な女子高生は同じく友達のいないドルオタの男子校生に惹かれる 学校は孤独を許さず適応を求め同調で洗脳し妥協を強いる “このもの哀しく丸まった無防備な背中を蹴りたい” サガン「悲しみよこんにちは」や欅坂46の楽…

「ペスト」

アルベール=カミュ著 ノーベル賞フランス作家 再読(前回は岩波) アルジェリア第2の都市オラン 突然のペスト流行に発狂する人々の不条理を描く代表作 都市封鎖・フェイクニュース・終末論・科学の敗北 小さな牌の醜い奪い合いと短絡的思考 複雑な文明が単細…

「北アフリカ・イスラーム主義運動の歴史」

共和国のチュニジア 民主人民共和国のアルジェリア 王国のモロッコ マグリブ3国の近代イスラーム主義運動史概観 観光地化vsアラブの春 西洋派vs原理主義派 世俗vs聖俗 メッカから最も遠く元来ムラービト(修道士)やムワッヒド(唯一神信仰)が国家形成してきた

「リオリエント」

【Orient】東洋/輝く/始動/東に向ける/真珠/適応する 1800年代までインドと中国で世界GDPの66%を擁しアジアが80%を占めた ヨーロッパはアジア経済の切符を買うだけで精一杯ゆえ奴隷制が肥大化した 貿易品比較・生産性・土地制・都市化率を緻密な数字でアジア…

「中陰の花」

玄侑宗久(僧名)著 2中編 “中陰の花” 芥川賞受賞作 人は死ぬ時に体重が僅かに軽くなる 魂=原子核=幽体移動? 現役臨済宗僧侶が描く生死の間”中陰”の文学的臨死体験 “朝顔の音” 不倫する男女 女は流産の過去を男は妻帯の現実を隠し合う 2作とも植物の比喩が仏…

「出会いはいつも八月」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著 ノーベル賞コロンビア作家 未完の遺作 マルケスはラテンアメリカ文学であると同時にカリブ文学でもある 晩年の認知症で綻びは多々散見するが魅力的な設定 母の墓がある島に年1で訪れる富裕層中年女性 不倫夫同様に違う男に…

「太陽の季節」

石原慎太郎著 元東京都知事 5中編 芥川賞受賞作 “太陽の季節” “灰色の教室” “処刑の部屋” “ヨットと少年” “黒い水” 全作とも日本版ビート文学と言える立ち位置 ヨットやボクシングの肉体礼賛と女性に暴力的でマチズモ極まる若さが滾る ギラつく太陽に青春が…

「パニック・裸の王様」

4中編 全作とも集団と個人の社会関係批判 “パニック” 鼠害跋扈vs正義の公務員vs腐敗権力 “巨人と玩具” キャラメル製造の競争社会揶揄 “裸の王様” 芥川賞受賞作 子供の絵画教室に枷を作る大人と無責任な子供の教育現場批判 “流亡記” 秦始皇帝の長城強制労働と…

「ウィーン世紀末文学選」

フロイト シーレ クリムト クライスラー ヘルツル ルエーガー ブルックナー マーラー 各分野の多彩な才能が集結したウィーンだが文学も例外ではない 鬱屈した耽美主義と迫り来る世界大戦の足音を他所に謳歌した帝都 1918.11.11 オーストリア=ハンガリー帝国…

「カカーニエン」

一日一編 ウィーン世紀末文学選 ローベルト=ムージル著 天才たちの座す国カカーニエン その後に消滅して理解されなかった国 ヨーロッパ中央にあって国力は下位にあった国 帝政にして王政の神秘学が必要な国 カカーニエンはやはり天才の国だった 多分だから…