MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-05-30 to 1 day

「リャマサーレス短編集」

フリオ=リャマサーレス著スペイン作家・詩人21短編集陽気イメージが強いスペインの孤独や喪失を描く珠玉の短編特に近現代は分離独立危機やフランコ独裁(発展した分野もある)など闇も多く抱えてきた短くも美しい情景描写とそれに合わせた感情移入への持ち込…

「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」

シルヴィア=プラス著アメリカ作家・詩人8短編集若さを謳い若くに死んだ天才が魅せる鋭いキレ味の短編集ケルアックやサリンジャー的なアメリカ的青春文学に壮絶な自身の人生が色濃く反映個人的には文字通り親が決めたレールに子が抗う表題作が秀逸と感じた …

「昼の家 夜の家」

オルガ=トカルチュク著ノーベル賞ポーランド作家再読歴史的に諍いが絶えなかったドイツとポーランドの国境過去・現在・未来歴史・現実・虚構自然・人間・宇宙キノコの様に無限増殖する町と夢のイメージは正に”星座小説”“世界文学の最先端”トカルチュクが魅…

「儒教・仏教・道教」

氏族的な支配者主義の儒教戒律的な富裕層主義の仏教呪術医療的な庶民主義の道教西欧と異なり東アジアは多様な思想を共存させ融合と独自進化を成功させてきた占星術・蠱毒・纏足・漢方・死生観を中国メインに分析フランス史研究者が冗談含みの講義形式で語る…

「グリム兄弟とアンデルセン」

児童文学は西欧よりも北欧が圧倒的に勝ると云うドイツ”童話学者”グリム兄弟デンマーク”即行詩人”アンデルセンDisneyアニメの半分以上が彼らの童話両親を早くに亡くし生涯を共にしたグリム兄弟当時異例なほど旅したアンデルセン同時代に生き邂逅した童話作家…

「断想集」

ジャコモ=レオパルディ著19世紀イタリア思想家・作家・詩人イタリアではダンテの次に研究が盛んな実存主義の先駆け的存在漱石も「虞美人草」で引用し芥川やカフカへの影響も多大“世間は悪人の同盟”“善人ほど疑われる”“老いは死より辛い”“賞賛は自分起因が大…

「地平線」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家戦後の貧困で身分を偽り奇妙な依存関係を生きた男女2人“恋なんて思い出そうとしても覚えていないものさ”男にとって40年前に恋した初恋の人は交わることのない”記憶の地平線”舞台はパリからベルリンへ追い続け…

「私たちがたがいをなにも知らなかった時」

ペーター=ハントケ著ノーベル賞オーストリア劇作家主人公が”広場”の無言劇某ヨーロッパ市街の中心である広場で生活し通り過ぎる何百もの人々が登場する斬新な実験的戯曲台詞こそないが広場視点で簡潔に語らせたドラマ仕立ての無声映画(トーキー)的作品

「カーマ・スートラ」

ヴァーツヤーヤナ著古代インド思想家バートン註・訳世界最古の聖なる正なる性なる愛の手引き書”カーマ(愛)スートラ(本)”体位の研究人妻のNTR原因と対策身分と愛と儀礼セックスの奥義SMプレイ娼婦の研究精力増強材レシピ婚礼金夫婦の理想的関係官能的で実用的…

ヘロドトス「歴史」総書評

メディア・バビロニア・エジプト新王国〜ペルシア戦争までを描く地理誌・歴史・文化史・風俗史・博物誌の集大成その意味で”歴史”の表題は実に相応しい一方で脱線も多い魅力的な将軍たちや細かな奸計・同盟・度量衡の描写は寧ろ発掘や解読が進んだ現代こそ証…

「歴史 下」

ヘロドトス著 古代トルコ歴史家決戦迫る父を継いだクセルクセスが狡猾にポリス同士の潰し合いに誘導バビロンとエジプトの反乱を治めたがサラミス海戦で敗北マルドニオスに後を託しアテネ・スパルタ連合軍と再衝突終盤は疾走感と臨場感ある語りで琵琶法師「平…

「歴史 中」

ヘロドトス著 古代トルコ歴史家 トラキアとスキタイを征服したハカーマニシュ(アケメネス)朝ダレイオス1世イオニア反乱を機に残る蛮族ギリシア諸ポリスへ進撃アテネ主導でマラトンの戦いを切り抜け停戦ポリスの啀み合いと巫女の信託政治が印象的ペルシア戦争…

「歴史 上」

ヘロドトス著古代トルコ(ハリカルナッソス:現トルコ領ボドルム)歴史家ドーリア文明圏に属しながらエーゲ的イオニア文明思想にも影響を受けた著者流の分析自身の紀行体験を基に古代地中海文明の興亡を記述した西洋世界初の歴史書4/7=古代オリエント2/7=古代エ…

「パープル・ハイビスカス」

チママンダ=ンゴズィ=アディーチェ著ナイジェリア作家家族想いだが狂信的キリスト教徒の父父に諍う弟異教徒扱いの祖父流産を繰り返す母傍観するだけの”私”壊れていく幸せな家庭と母国の未来波長の合わない紫外線を浴びて哀しく咲き誇る”パープル・ハイビス…

「競売ナンバー49の叫び」

トマス=ピンチョン著アメリカ作家元恋人でカリフォルニア随一の大富豪の遺書で唐突に遺産処理人となる現ラジオDJの妻謎の鍵となる切手コレクションを辿る先に浮かび上がる闇の国際郵便事業団体” トリステロ”途次で出会う“マクスウェルの悪魔”とラッパ図像の…

イスマイル=カダレ全5冊読破記念総書評

“10回ノーベル賞を受賞してもおかしくない作家”誰にも真似できない乾いた文体と独自の世界観に魅了される母国アルバニアの伝説と神話と外交関係を軸に個人が巨大な国家や組織に包み込まれていく様を緻密に描く