MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-03-01 to 1 month

「続・世界文学論集」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家“最高の作家にして最高の読書家”「世界文学論集」より対象がマイナーなで詩人が多めな続編翻訳・モラル・多文化・条理の考察が光る特にナイポール論とズヴェーヴォと国際都市トリエステの関係は…

「異常」

エルヴェ=ル=テリエ著フランス作家ゴンクール賞受賞作“蝶の羽搏き(Butterfly effect)”“黒い白鳥(Black swan)”“我思う故に我あり(Cogito ergo sum)”飛行機事故に遭った人々 移譲…………以上…………移乗…………異常 “おっとお客様!”“離着陸時にはご身上にお気をつけ…

「昔々の昔から」

イヴァーナ=ブルリッチ=マジュラニッチ著8短編集クロアチア作家ノーベル賞候補にもなった”クロアチアのアンデルセン”9世紀まで文字を持たなかったスラヴ人の神話を民間伝承を題材に想像力・情熱・資料分析で0から築いた幻想文学妖精・竜退治・海底王国など…

「改革の時代」

マーティン=ウィクラマシンハ著スリランカ作家独立後に時代の激動に飲まれ西洋近代化するスリランカ側の親結婚後に逃げるように移住したイギリスから手紙を送る息子夫婦伝統的な母国と革新的な移住国で悉くすれ違う価値観コロニアル都市ゴールを舞台に起き…

「乾いた人々」

グラシリアノ=ハーモス著ブラジル作家古典期の立役者でヴァルガス独裁にも抵抗し投獄の経験を持つ大旱魃に苦しみ更に近代化の波が押し寄せる近代ブラジル北東部家畜の牛と子供を連れた逃避の過程を追う”意識の流れ”荒野と太陽の下で搾取される”乾いた人々”…

「わたしの物語」

セサル=アイラ著アルゼンチン作家(この話がどうしてこうなるの…?笑)の連続それもそのはず書き始めたら徒然なるまま全く推敲しないという”奇才”アイラ6歳の少女(男)の一言“苺アイスが不味い”から始まる物語予想不能に紆余曲折し想像できない結末へある意味”…

「いまファンタジーにできること」

アーシュラ=K=ル=グウィン著アメリカ作家「ゲド戦記」著者“ファンタジーの女王”評論集童話も漫画もマジックリアリズムも広義のファンタジー「ハリポタ」後にエンタメ化で巨大市場に成長したが”小説”は減少伝統的ファンタジー小説に”いまできること”を考え…

「マレー素描集」

アルフィアン=サアット著シンガポール作家(マレー系)48短編集マレー語・タミル語・中国語・英語・アラビア語…学歴・冠婚葬祭・食・建築・宗教・民族…多民族多文化都市国家シンガポールの1コマを切り取り鋭い感性で表現金融・IT大国シンガポールの濃密で複雑…

「かかとを失くして/三人関係/文字移植」

多和田葉子著日本・ドイツ作家3中編集身体を物語に”翻訳する”魅技が素晴らしい“かかとを失くして”ゴーゴリ「鼻」踵喪失+カフカ「変身」イカ化版“三人関係”浮気を嗾ける女は夢か?現実か?“文字移植”翻訳者の苦悩と葛藤を描写日独2刀流の著者ならでは

「フォンターネ 山小屋の生活」

パオロ=コニェッティ著イタリア作家“スマホを捨てて森に立とう!”イタリア共和国アオスタ自治州フォンターネアルプスの優美な景色と星空川のせせらぎと虫の音寄り付く動物と植物の馥郁都会の喧騒を離れた”21世紀版「森の生活」”に救われたスランプ作家の体…

「昏乱」

トーマス=ベルンハルト著オーストリア作家父:山村の医師息子:父を過剰尊敬する世間知らずな鉱山学専攻学生患者:破壊・嫉妬・誹謗中傷の日常侯爵:国家の”意識不明な昏睡状態”を嘆く狂人“信頼できない語り手”の息子視点で延々と独白が続く気付けば作者の狂気…

「魔法の種」

ヴィディアダハル=スラヤプラサド=ナイポール著ノーベル賞トリニダード=トバゴ作家「ある放浪者の半生」続編妹の説得でインドの貧困革命を目指すゲリラに参加著者の分身的主人公が国際化の不安と未来に抗う”自分探しの旅”アフリカ→イギリス→インド“魔法の…

「100年予測」

地政学100年の未来を予測要旨を言えばアメリカはずっと超大国中国・ロシア警戒からトルコ・日本・ポーランドが防波堤として多額の援助で軍事大国化逆にアメリカの機嫌を損ない宇宙覇権戦争に唆され敗北弱ったアメリカをメキシコがヒスパニック扇動で南部占領…

「生まれつき翻訳」

現代は空前絶後の翻訳時代初めから翻訳前提の”生まれつき翻訳”を意識する作家も多い村上春樹:英→漢・片・平→日→英の4重翻訳多和田葉子:日独2刀流イシグロ:時代地域背景が最初から曖昧クッツェー:英語作家ながら英語覇権に抵抗し”南半球文学”提唱ラヒリ:第3言…

「HHhH」

ローラン=ビネ著チェコ作家ゴンクール賞受賞作“Himmlers Hirn heisst Heydrich”F+NF+スパイ+歴史+戦争=新種小説ヒムラーの右腕“ナチ党の金髪の野獣”ハイドリヒ彼の暗殺計画を企てナチに入るチェコ人とスロヴァキア人の青年スパイ緻密な資料と構成小説ならで…

「顔のない軍隊」

エベリオ=ロセーロ著コロンビア作家1964-現在 コロンビア内戦(現在和平締結中)ゲリラvs政府軍vs過激自警団誰が敵か味方か分からない“顔のない軍隊”淫事は決して犯さない覗きを趣味とする長閑な老人殺人が起きても誰も驚かない一瞬にして崩れる日常と村を疾…

「プラットフォーム」

ミシェル=ウェルベック著フランス作家イスラームのパリ無差別テロ予見で有名機械化した無機質な西洋文明に疲労と倦怠を感じる文化職員と敏腕女性旅行企画者セックス以外の全てが退屈な現代バカンスで訪れたタイで巡り合った2人はタイやカリブの売春ツアーを…

「あなたがこの辺りで迷わないように」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家戦時下を生き抜き偽名で成功した作家朧げな幼少の記憶は殺人事件に関係すると知り過去を知る旅へ消えた父母“ある事情”で服役した養母煤けた写真の少年“あなたが迷わないように”記憶が導く遠ざかる近親者

「よくわかるヒンドゥー教」

古代ギリシア以前から哲学・科学が萌芽したインド土着の文化や神話が合併淘汰したヒンドゥー教バーラタ族とカースト支配の関係1億人がカラフル粉塗れの祭ホーリー100億人のガンジス沐浴祭クンブメーラ牛糞投げ祭ディワリ牛肉食禁止だが輸出・生産量は世界一…

「蜜蜂」

マヤ=ルンデ著ノルウェー作家地球上の9割の自家受粉は蜜蜂が担う蜜蜂が死ねば農業も壊滅的3話交代進行1780年前後:英国-受粉システム解明期2010年前後:米国-全米蜜蜂大量死事件2100年:中国-唯一の蜜蜂危機打破国最新科学に基づき過去-現在-未来を鳥瞰する蜜…

「イスラーム精肉店」

ソン=ホンギュ著韓国作家今も韓国に残留・結婚し生活する朝鮮戦争義勇兵(特にソ連敵国が多い)豚肉禁止のイスラム教ながら豚肉を売るトルコ人の精肉店古代文化に誇りを持つギリシア人キリスト教徒韓国人イマーム(ムスリム指導者)ソウルで密やかに生きる外国…

「騎兵隊」

イサーク=バーベリ著ユダヤ系ウクライナ作家第一次大戦後のソ連に関する連作短編ソヴィエトvsポーランドウクライナ南部オデッサから”祖国防衛戦争”に参加する騎兵隊共産主義革命の情熱に燃える戦時の兵士と女性当時のユダヤ差別”ポグロム”も随所に散見ウク…

「春琴抄」

谷崎潤一郎著多才な美女三味線演奏者”春琴”は視力と共に全てを失う自暴自棄になる彼女に虐待を受けて尚も献身する冴えない男”佐助”美貌を汚される前の姿を永遠に記憶に留めるため自ら失明を選ぶそれは愛なのか?マゾヒズムなのか?非現実的心理をさもありな…

「手中のハンドボール」

アレクサンダー=レジャバ著グルジア(ジョージア)作家“ガウマル…ジョオオオス!”という謎の掛声(グルジア語)が印象的グルジアと見せかけて完全に日本が舞台の青春小説研究や日立で海外からの赴任者が多い茨城県つくば市著者卒業の手代木中学校ハンドボール部…

「J・M・クッツェーの世界」

現代英語圏最高峰の作家の1人クッツェーノーベル賞受賞理由:“異端者が巻き込まれる様子を無数の手法と意表を突く物語で描く”30も推敲する文体古典の立体的再構築暴力と言語学の鋭い考察物語の裏にあるモチーフの推察が楽しい作家評論含め全作品の邦訳がある…

「ドニャ・バルバラ」

ロムロ=ガジェゴス著ベネズエラ作家・大統領ラテンアメリカ文学” 古典中の古典”ドニャ(女傑)バルバラ(蛮族)土地収奪を目論む”開明アメリカ人”vs国境策定に励む”野蛮ベネズエラ人”建国期の愛国心の高まりを豪快美女義賊・辺境部族・政府の視点で鮮やかに描く…