MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-10-01 to 1 month

「帝国」

リヒャルト=カプシチンスキ著ポーランド記者・作家スターリン時代〜ソ連崩壊帝国の中枢モスクワから辺境トルキスタンまで著者の30年に及ぶルポ地理•歴史•文化•文学•政治•経済•民族…該博な知識と透徹な分析旧ソ連圏に君臨する権力者とその全体主義国家に生き…

「赤の自伝」

アン=カーソン著カナダ作家・古典学者詩の文体でギリシア神話に準え進行する斬新な官能BL小説”詩小説”怪物ゲリュオンvs英雄ヘラクレス語り手は古代ギリシア詩人ステシコロス血と熔岩とワインとフェノールと…英語・ラテン語・西語・仏語・ギリシア語を駆使し…

「山の音」

川端康成著日本ノーベル賞作家不安と不貞と不条理戦争で壊れた日本の伝統的家族観を問う作品性欲の抑制を解放した浮気男裏切られ堕胎を選ぶ正妻私生児も厭わず”母”を望む戦争未亡人美女翻弄される祖父と孫微細な変化を淡白な描写に潜ませるのが上手い老いと…

「来るべきロートレアモン」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家イジドール・リュシアン・デュカスまたの名をロートレアモン伯爵稚拙な言葉を美しく並べる天才詩人と評する著者セリーヌぽい感じ現代文明忌避と青年的閉塞など特に著者の初期作品に強い影…

「ノーベル文学賞候補作家を読む2021」

ノーベル文学賞を見守る会編明日10/6はノーベル文学賞受賞者発表の日!ブックメーカーのオッズを基にノーベル文学賞候補者と代表作を徹底検証世界の作家・詩人・戯曲家・歌手の実力派総勢80名を紹介未邦訳や初見の作家も多いガイドブック! 以下2021年オッズ…

「それぞれの恋」

ノーベル文学賞を見守る会編2021年ノーベル文学賞有力候補者3名の作品評論討論会🇨🇦アン・カーソン「赤の自伝」(当時未訳→最近邦訳)🇫🇷アニー・エルノー「シンプルな情熱」(既訳)🇳🇴ヨン・フォッセ「誰か 来る」(未訳)読み易く普遍的なタイプの恋愛小説・戯曲どれも良…

「飛魂」

多和田葉子著ドイツ・日本作家1長編4短編集“飛魂”中国仙境で虎使いの見習い女性“魂”は虎穴に入らずんば虎子を得ずとばかりに“鬼が云う”「山月記」宜しく幻想的な世界と地味で人間臭い惰性が印象的言語遊戯も粗筋も良い“盗み読み”“胞子”“裸足の拝観者”“光とゼ…

「太陽が死んだ日」

閻連科著中国作家フロイト夢分析では”人の夢は欲望の顕現”とされる夢遊という”白の闇”に囚われた村民太陽が消えた暗中で邪智暴虐を繰り返す垣間見える人間の醜さと私利私欲は少年の目にどう映る…?そして怪現象の謎の鍵を握る作家”閻連科”とは…?“太陽が死ん…

「名誉の戦場」

ジャン=ルオー著フランス作家ゴンクール賞受賞作処女作優しいおばちゃんとおじいちゃんと過ごす田舎ロワールの日々表では幸福な家庭も戦争の影は残る靴箱の秘密と止まない雨“誰もが有り得た戦争私小説”を詩的文体と多層構造で描写伏線回収も見事悼み弔う忘…

「アデン アラビア」

ポール=二ザン著フランス作家半自伝的教養哲学小説の旅“僕は20歳だったーそれが人生で最も美しい時だなんて誰にも言わせない”パリを棄てアデンを征く”若さゆえの反抗”欲望は海の彼方絶望は地の此方詩人私人死人志人賜人士人師人市人試人嗜人彼はその全てだ…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第8部 死なない過去(1699-1951年)1951年 “監獄ーまだ完全に放棄されたわけではない”1699-1945年 “付録コンプソン一族”1950年 “ノーベル文学賞受賞スピーチ”サートリス家の最後の栄光の日ヨクナパトーファ集…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第7部 モダン・タイムズ(1928-1940年)1928年 “死の曲芸飛行”1929年 “アンタル・バドと3人のマダム”1930年 “バーシー・グリム”1940年 “デルタの秋”サートリス家の没落近代化に埋もれた敗戦国”南部の北部化”…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第6部 ミシシッピ川の大洪水(1927年)1927年 “オールド・マン”洪水への畏怖世界最長級河川ミシシッピ大洪水でデルタ全域は崩壊溺死者=数百犠牲家畜=数十万刑務所農場を出た囚人は拙い舟で一変した娑婆を彷徨…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第5部 ある秩序の終わり(1902-1928年)1902年 “ザット・イブニング・サン”1918年 “アド・アストラ”1924年 “エミリーに薔薇を”1928年 “ディルシー”スノープス一族台頭vsサートリス家&ベンボウ家の征服されざ…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第4部 農民たち(1908年)1908年 “まだら馬”猛馬が村民に怪我をさせ裁判沙汰へだがその馬は密かに売り渡され持ち主が判然とせずに…?南北戦争後の農民綿花栽培や煙草畑綿繰機やミシン業商人羅馬や馬の飼育事情

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第3部 最後の荒野(1883年)1833年 “熊(行けモーセ)”古の森が息づいていた時代の冒険英雄譚帯銃し対熊猟犬とプロ猟師と“指の欠けた大熊狩り”の通過儀礼を受ける少年インディアン迫害で失われゆく”最後の荒野”…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家第2部 征服されざる人々(1864-1874年)1864年 “襲撃”1869年 “ウォッシュ”1874年 “バーベナの香り”サートリス大佐の死インディアン族長の死慣習的埋葬と氏族強制殉死西部劇的白人社会台頭と伝統的南部社会の…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家〜冒頭〜マルカム・カウリー序文第1部 昔の人たち(1820-1859年)1820年 “正義”1833年 “郡庁舎(市の名前)”18XX年 “赤い葉たち”1859年 “昔あった話”チカソー族とコンプソン一族マッキャズリン農園の黒人奴隷&…

「ポータブル・フォークナー」

ウィリアム・フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家8部構成23短編集マルカム・カウリー編+序文年代順にヨクナパトーファ・サーガを俯瞰洪水(災害)・近親相姦・サーガ・戦争・格差・下克上…フォークナー作品は神話の必要十分条件を満たす故に現代文学の祖でも…

「聖女伝説」

多和田葉子著ドイツ・日本作家1中編1短編集表意文字の日本語と表音文字の外国語(主に欧米語派)の語幹・五感・互換を駆使“聖女伝説”“ケとハレ”に選ばれ聖人出産を運命付けられた女逆説的な”聖→俗”への賛美と聖女の救済“声のおとずれ”表題作の派生的作品少女の…

「ここから世界が始まる」

トルーマン=カポーティ著アメリカ作家解説:村上春樹14短編集“8歳で作家になった”と豪語する著者の始まりを告げる初期作を収録少年少女の年齢と知性に沿う巧みな心理描写と表現流麗な文章だが奥深く繊細似た作品が多いが飽きさせず寧ろ次章に行くにつれ期待…

ロベルト=ボラーニョ全11冊読破記念総書評

中南米を俯瞰した壮大な詩的NFを繰り出す詩人崩れの皮肉屋チリ軍政の経験が産む陰鬱で暴力に満ちた小説世界半自伝の色濃い虚実混淆の”新基軸ポストコロニアル”は時代と権力に翻弄される喪失者を精密に描写特に遺作「2666」と大作「野生の探偵たち」は圧巻 以…

「アメリカ大陸のナチ文学」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人総勢30名の架空作家の架空書評と実在作家の実在書評が混淆した”極右作家列伝”第二次大戦の戦場でない中南米は敵愾心がなく反米で迎合アイヒマン等ナチ残党の亡命も続出終章は「はるかな星」原型架空だと忘れる程の豊か…

「ムッシュー・パン」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人ペルー前衛詩人バジェホがモデル元大戦傷病兵の催眠術士パンに瀕死の男の吃逆治療の依頼が届くパンは男の美人若妻に恋慕するが…?一方ナチ台頭期パリを暗雲が包んでいく不気味な水槽ジオラマや迷宮倉庫や診療所はノワー…

「鼻持ちならないガウチョ」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人7短編集“ジム”“鼻持ちならないガウチョ”“鼠警察”“アルバロ・ルーセロットの旅”“2つのカトリックの物語”“文学+病気=病気”“クトゥルフ神話”ボルヘスとカフカの模倣作マルケスとリョサの痛烈批判現代版騎士道物語のガウチョ

「通話」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人14短編集著者の放浪詩人ぶりが伺える妙作バシッと狐に摘まれる種類のサリンジャー的良作サリンジャー曰く”詩人は発明者ではなく発見者でなければならない”日常の最低限の声を題にする点は詩人らしい一方できちんと起承…

「第三帝国」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人スペイン南部カタルーニャ地方の秋のビーチ戦争ボードゲーム”第三帝国”王者が暇潰し相手だったはずの”火傷”しかし図書館で学び実際にゲームも勝ち越していく”火傷”とは対照的に王者は徐々に精神崩壊が進む現実と虚構の…

「チリ夜想曲」

ロベルト=ボラーニョ著チリ作家・詩人著者の分身=カトリック司教が延々に淡々とチリの政治・詩・文学の持論を述べる基幹産業国営化を目指したアジェンデ圧迫軍政のピノチェト国民的詩人ネルーダどれも客観的かつ冷静に分析し独白(もはや司教感0笑)暗黒時代…