MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

“耳をすませばソングライン”

20「パタゴニア

🇬🇧イギリス

ブルース・チャトウィン

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紀行文学は外国人が書くことが多い。理由は土着人が普通と感じる文化や伝統も、外国人からするとエキゾチックな秘境と感じられ、売れるからである。メジャーな地域の紀行文学は実質ロードノベルだが、マイナーな地域となると秘境文学になる印象は強い。主人公にして筆者チャトウィンが、祖母の家にあるパタゴニアの古代生物ミロドンの化石標本を見て、実際にこの地をトレッキングするという粗筋、この時点で冒険の匂いがしてとても良い。見所は南米の雄大な自然は勿論、現地人との触れ合いと文化、パナマ運河開鑿以前の航路パタゴニアの世界史的意義、ガラパゴス体験とはまた違うダーウィン進化論、音楽的なリズムや文体の芸術性、更にオオナマケモノなど絶滅した動物の紹介など、魅力的な題材が散りばめられている。南米の珍しい動植物を虚実ない混ぜで語るエキゾチックな博物的文学は、アルゼンチンの巨匠ボルヘスコルタサルも得意としており、パタゴニアに運命的な通底観念を感じてしまう。私もパタゴニア散策の経験があるので、巨大な氷河や満点の星空、南極大陸に最も近い世界最南端の岬、化石の森や白人とインディオとの邂逅の歴史など、思わず在りし日の南米縦断を思い出してしまった。縦長のチリとアルゼンチンの中でも首都から大きく南に位置するパタゴニアチャトウィンもカプシチンスキも、母国とは大きく異なる文化を持つ大陸の秘境を歩いた。 2人の共通点は現地人と直接交流して練り上げた芸術的な文章、相違点はカプシチンスキはジャーナリスト目線、チャトウィンは旅人目線で異国を観察したこと。「パタゴニア」という魅力的な地を、正に一歩ずつ踏み締めていく様に、ページをめくる楽しみがある紀行文学だ。