MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-09-01 to 1 month

「20世紀アメリカ短編選 上」

一日一編で読んできた多彩な作家の20世紀前半アメリカ文学 田舎が8割を占める辺り世界最先進国も当時は自然や因習が残されていたことが分かる また移民やハリウッドに西漸運動などやはりアメリカは東から形成されたことを実感した ノーベル賞作家も3人と質も…

「スティックマンの笑い」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ネルソン=オルグレン著 酒と賭に溺れるダメな夫とそれを可哀想と許してしまうダメな妻 結果スティックマンなる男に給料日に全額を賭けに唆され借金地獄へ 100年前の田舎の退屈な日々に刺激を求めようとすると概ね悲劇に…

「クレーヴの奥方」

ラファイエット夫人 ブルボン朝フランス作家 “世界初の心理小説” 冒頭はブルボン王家200年のヨーロッパ名家婚姻史 妻:クレーヴの奥方 夫:クレーヴ公 貴公子:ヌムール公 アンリ2世期王宮における社交界の三角関係 男女の接近とすれ違いを個別に精緻な心理描写…

「スウェーデン人だらけの土地」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 アースキン=コールドウェル著 フロンティア消滅で分散出来ずに行き場を失ったスウェーデン移民 その光景を必要以上に恐怖する地元人を滑稽に描く 移民や異文化への偏見は今でも …というよりも現在進行形の日本で顕著な気…

「走ることについて語るときに僕の語ること」

村上春樹著 “長距離走と小説執筆は孤独で苦しいが達成感がある点で似ている” 33歳から年1でフルマラソンを走り2000年からは年1のトライアスロンにも挑戦してきた著者 人間やはり長年継続してきた事を話す時は説得力がある 著者のエッセイで最も面白かった

「ある婦人の肖像」総書評

ヘンリー=ジェイムズ著 アメリカ出身イギリス作家 ジェイムズの初期代表作&映画化原作 19世紀アメリカとヨーロッパの異文化を精緻かつ豊かな心情と人間関係から描く 「女の一生」 「ハワーズエンド」 「高慢と偏見」 「アンナ・カレーニナ」 「ボヴァリー夫…

「ある婦人の肖像 下」

ヘンリー=ジェイムズ著 アメリカ出身イギリス作家 “全ての道はローマに通ず” 信じていた夫に裏切られ遂に別れる事を決意した夫人 従兄危篤の報を受けロンドンに戻り初めて彼の愛を知る 悲しみの中で過去に求婚を断った英国紳士との愛の再燃 次の旅路は”約束…

「ある婦人の肖像 中」

ヘンリー=ジェイムズ著 アメリカ出身イギリス作家 父の死により莫大な遺産を手に入れた美女 求婚が増える一方でヨーロッパ文化に傾倒しイタリア文化に魅了される 更にフィレンツェ在住のバツ1アメリカ人と結婚し前妻の娘を含む新たな生活が始まるが…? 一方…

「ある婦人の肖像 上」

ヘンリー=ジェイムズ著 アメリカ出身イギリス作家 ニューヨーク出身の知的上流階級の魅力的な美女 親戚訪問先のロンドンで多くの求婚を退けながらも異文化に魅力と違和感を感じる 教養・文化・芸術と積極的に吸収する美女 vs 個性的な男性陣のプロポーズ大…

「人を率いる者」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ジョン=スタインベック著 無限に広がるかに思えたアメリカ西漸運動 しかし西海岸到達でフロンティアも消滅 当時”Manifest destiny”を掲げ西部開拓者を率いた者が疎まれながらも娘と婿に回顧する 時空間の広い設定ながら…

「第四世紀」

エドゥアール=グリッサン著 フランス領マルティニーク作家 “クレオールのフォークナー”が描く4世紀6世代に跨る”小さな島の巨大なサーガ” 奴隷貿易〜フランス革命〜世界大戦 山と海を隔てながら交わり紡いだ幻視能力者 2つの一族 世界史上最も無視されてきた…

「フリアとシナリオライター」

マリオ=バルガス=リョサ著 ノーベル賞ペルー作家 18歳の文学青年マリオ 30歳バツイチ叔母フリア 2人は親戚の反対を押し切り結婚へ 一方で青年の憧れの人気ラジオDJは途中から内容と人物が錯綜し始め…? 恋に遊びに仕事に忙しない半自伝的コミカル青春メタ…

「なにかの終焉」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 アーネスト=ヘミングウェイ著 “なにかの終焉”が”なにかの始まり”の余韻を残す短編 廃墟化した栄枯盛衰の製材工場の街 久々に故郷を訪れたカップルは街の残骸を見て離別を決意する 恋の終焉 愛の終焉 街の終焉 夢の終焉 …

「オルフェオ」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 犯罪×音楽×遺伝学×逃亡劇×家族愛…? 遺伝子に”音楽”を組み込もうと趣味気分の日曜化学者として取り組んでいた老音楽家 しかし警察に怪しまれバイオテロ容疑で逃亡の身となる 家族との過去や音楽史300年の想いを振り返り…

「ある裁判」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ウィリアム=フォークナー著 かつて所属した黒人部落の昔話を少年に語る男”Some fathers” 旧名“Had two fathers”に隠された過去とは? 闘鶏描写や蒸気船を生物の様に扱うなどのアニミズム社会・口承文学・寓話が凝縮され…

「セバスチャン・ナイトの真実の生涯」

ウラジーミル=ナボコフ著 ロシア作家 半自伝的メタフィクション 亡命後の初英語創作品 偉大な亡命作家セバスチャン・ナイト その腹違いの弟が伝記執筆過程を描く小説 各国名作文学批評・社会主義論・架空小説の架空批評・言語遊戯を孕む多義的ポストモダン…

「旅をする裸の眼」

多和田葉子著 ドイツ・日本作家 ベトナムの女子高生が留学先の東ドイツにて西ドイツの青年に唆され気付けばパリへ到着 映画女優に惹かれ居住地と肉体関係を得てパリで生活 12年も仏語未修得のまま独語とベトナム語だけで主人公にフランス社会を分析し語らせる…

「凍りついた女」

アニー=エルノー著 ノーベル賞フランス作家 自営業家庭で性差を意識せず育った少女 しかし結婚後に労働社会へ組み込まれるや”妻”と”母”と”教師”と”女”の全方面で両立を求められる エルノーの描く女性像は男性にすら共感を優に超えた追体験を強制する 身も心…

「あの子」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 キャサリン=アン=ポーター著 知的障害者の”あの子” 身体こそ頑丈な”あの子” 近所で嘲笑される“あの子” 他の兄妹より可愛い”あの子” 神の恩寵を受けている”あの子” 守ってあげる必要がある”あの子” 100年前の障害者蔑視…

「パット・ホビーとオーソン・ウェルズ」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 スコット=フィッツジェラルド著 落ち目の俳優が長い顎髭を付ければ今話題の俳優にそっくりと気付く 試しに変装してみると勘違い続出 本人の葛藤に加えトラブルにも巻き込まれて…? ハリウッド台本も書く著者らしい短編

「オットー大帝」

カール大帝後に唯一欧州を統一した大帝オットー1世 ザクセン東フランク伯から神聖ローマ皇帝へ レヒフェルトの戦い ロートリンゲン領有 スラヴ布教 イタリア遠征 ヨハネス12世服属 司教座確立 息子の叛逆鎮圧 神寵帝理念 ノルマン人撃退 帝国教会政策 ビザン…

「手」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 シャーウッド=アンダソン著 連作短編集「ワインズバーグ・オハイオ」の1編 とかく目立つ”手”の存在感から非ぬ疑いで街を追放された元教師 隠遁先でも”手”は目立つが無口に密かに暮らす 街や人や挿話が多角的で短編の完成…

「鈴蛙の呼び声」

ギュンター=グラス著 ノーベル賞ドイツ作家 “鈴蛙の美しい鳴き声は不吉の前兆だ” 1989年ベルリンの壁崩壊前夜グダニスク(ダンツィヒ) ドイツ男性アレクサンダー ポーランド女性アレクサンドラ 同名で伴侶不在の老境同士の電撃ロマンス婚 両母国共同墓地建設…

「生命の法則」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 ジャック=ロンドン著 生死の境地に走馬灯するアラスカでの最期の時間 迫る死期を徐々に認め受け入れていく老人の心理を寄り添う若者が見届ける 誰より雪原の自然の厳しさと雄大さを知る者が”生命の法則”の前に斃れ伏す姿…

「舞踏会に向かう三人の農夫 下」

自動車王フォード 隻脚の女優サラ・ベルナール ドイツ系3人の農夫 “戦争の世紀”を模るありとあらゆる文物と学問 ヨーロッパの世紀が終わりアメリカの世紀が訪れるまで 点と線 原物と複製 記録と記憶 戦争と平和 破壊と創造 音楽と絵画 “三位一体”のモノクロ…

「舞踏会に向かう三人の農夫 上」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 ピンチョン×プルースト=24歳驚異の処女作 ステッキとハットを携えた3人の紳士が畔道に立つ1枚の写真 その写真を恰も紅茶に浸したマドレーヌから手繰る記憶のように驚異的な妄想と博識で膨らませた20世紀初頭の世界各国…

「鉄道大バザール 下」

鉄道は国民性を反映する乗り物 通り過ぎていく風景自体を楽しむ汽車の旅は発見に満ちている 王子との謁見 怪しい売春街 訪問地での文学公演 武装集団との邂逅 インドでの食あたり ベトナム戦争の様相 革命前イランの緊張感 分裂前のユーゴ 高度経済成長期の…

「鉄道大バザール 上」

ポール=セルー著 アメリカ作家・紀行家 鉄道だけで4ヶ月のユーラシア大陸1周の旅 皮肉と博識を交え具に現地を観察した旅行記 イギリス フランス イタリア ユーゴスラヴィア トルコ イラン アフガニスタン パキスタン インド ビルマ マレーシア シンガポール…

「ローゴームと娘のテレサ」

一日一編 20世紀アメリカ文学短編選 セオドア=ドライサー著 門限越えによる反省を強いて娘を家に入れない父 しかし娘は恋と遊びへの憧れと反抗期から家出 帰って来ない娘に不安と焦燥を抱える父だが…? 親知らず子知らず&子知らず親知らずな父娘すれ違いの…

「密林の語り部」

マリオ=バルガス=リョサ著 ノーベル賞ペルー作家 再読 民話の継承者”語り部” フィレンツェとペルーを舞台にユダヤ系知識人の部族帰化と文化継承問題を問う ⭐︎⭐︎読書会⭐︎⭐︎ 9/24(日)13:00〜 有難いことに月1開催する運びとなりました ↓応募先↓ kotonoha.bun…