MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-05-19 to 1 day

“反戦へー祈りとも呼べる願いを込めて”

9「戦争の悲しみ」 🇻🇳ベトナム バオ・ニン 蟻が象に勝った。その代償は途方もない悲しみ。ベトナム戦争は世界史の流れを変え、ベトナムは勿論、加害国アメリカの社会や文学に至るまで大きく変えた。ベトナム戦争がなければ、「ライ麦畑でつかまえて」もロック…

“文学は権力の対義語たりえるか?”

8「楽園への道」 🇵🇪ペルー マリオ・バルガス=リョサ リョサは私の1番好きな作家だ。そして嬉しいことに、近年リョサの評価は更に高まっている。ラテンアメリカ文学といえば、ガルシア=マルケスがやはり代名詞、しかし若手の中南米作家はその固定観念を嫌い、…

“灰に埋もれた世界地図の記憶”

7「庭、灰」 🇷🇸セルビア ダニロ・キシュ “世界”という言葉は、中々に定義が難しい。例えば”世界史”なら地理的、”世界観”なら抽象個人的、”湖底の世界”なら有限事象的と、それぞれ意味合いも物理的範囲も大きく異なる。要は虚実ともに個の人間が共有可能な概念…

“祖先と離島の黄金郷へ捧ぐ狂詩曲”

6「黄金探索者」 🇲🇺モーリシャス/🇫🇷フランス ジャン・マリ・ギュスターヴ=ル・クレジオ 祖先はフランスのブルターニュ人(ケルト系)で、フランス革命で断髪を拒みモーリシャス移住。母はイギリス人、妻はモロッコ人、軍医の父とナイジェリアで幼少を過ごし、大学…

“軽音と重音の織りなすシンフォニエッタ”

5「存在の耐えられない軽さ」 🇨🇿チェコ ミラン・クンデラ 一般に恋愛小説は男女2人、又は3人の三角関係、即ち主要キャラは3人までが鉄板とされる。理由は男女2人の駆け引き、もしくは男女どちらかを巡る争奪戦がスリルを生むためだ。悲劇なら「椿姫」や「ここ…

“悍ましきダンツィヒ行進曲”

4「ブリキの太鼓」 🇩🇪ドイツ ギュンター・グラス 子供と大人の戦争や革命の受け取り方は全く違う。歴史を文学に取り入れる時、最も効果的で印象的な作品に仕上げるには、子供の視点を取り入れることだ。「アンネの日記」も「悪童日記」も「ペインティッド・バ…

“ブラックアフリカに白眉を顰める”

3「黒檀」 ポーランド リヒャルト・カプシチンスキ 即時性において、文学は動画やSNSにはまるで敵わない。では文学は報道に対して無力なのか?、いや寧ろジャーナリズムの真髄はそこにあるし、あるべきだ。カプシチンスキは、徹底した取材と芸術的な文章でそ…

“早すぎる自伝ー賜物となった贈物”

2「賜物」 🇷🇺ロシア ウラジーミル・ナボコフ 個人的に最近ナボコフに嵌っている。しかしそんな主観的な意見を差し引いても、「賜物」は群を抜いて傑作だと思う。理由は簡単で、著者ナボコフが本作執筆時点で、自身の書きたいことを余す所なく書ききっているか…

“浄瑠璃の如きわが水俣への鎮魂歌”

1「苦海浄土」 🇯🇵日本 石牟礼道子 世界文学全集の堂々1位は文句無しに日本文学の「苦海浄土」に決めた。当然だが決して日本贔屓の結果ではない、客観的にも妥当な順位だろう。傑作という言葉では形容し足りない、“奇跡の書物”と讃えたい作品だった。疫災は即ち…

〜オリエンテーション〜【池澤夏樹 世界文学全集40作品の感想】

作家・書評家・翻訳家にして、驚異の世界文学通の池澤夏樹。 その個人的ベスト40長編、39短編をまとめた世界文学全集を読み終えた。 「興味あるし読みたいけど、長編は長いし高いし、どれから読めばいいか分からないので、何かしらの指標が欲しい!」 …とい…