MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

“祖先と離島の黄金郷へ捧ぐ狂詩曲”

6「黄金探索者」

🇲🇺モーリシャス/🇫🇷フランス

ジャン・マリ・ギュスターヴ=ル・クレジオ

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祖先はフランスのブルターニュ人(ケルト系)で、フランス革命で断髪を拒みモーリシャス移住。母はイギリス人、妻はモロッコ人、軍医の父とナイジェリアで幼少を過ごし、大学はフランス・イギリス、現地研究でタイ・メキシコ・パナマに住み、現在も韓国や中国で定期的に教鞭を取るル・クレジオ。邦訳も40近くあり、中でも唯一の3部作で一家のサーガと自伝を組み合わせたのが、「モーリシャス3部作」。その第1作が「黄金探索者」だ。美しい大洋に浮かぶ島国に生きる少年が、父の残した海賊の地図を片手に、恋と戦争と冒険を経て成長していく話。とにかく詩的文体による自然描写が素晴らしい。モーリシャスの木々の息づき、銛によるウミガメ狩りや(私は幼少時に祖父と銛突きを経験したのでその光景や興奮が蘇った)、財宝探検に胸を高鳴らせる。島を舞台にした小説は数多いが、その利点は冒険が島単体で完結すること。作家の腕にもよるが一般論として、地理的物理的に風呂敷が大きすぎるとテーマを畳みきれず、逆に小島であればあるほど文化や自然を正確に細かくリアルに伝えることができる。だから表題の黄金探索に限らず、少女との恋や家族とのエピソード、日常的な会話まで収まりの良いビルドゥングスロマンに仕上げられる。またもう1つのハイライトである、ヨーロッパへの世界大戦出兵の描写は凄惨で、穏やかに過ぎるモーリシャスとは対照的。両エピソードが並存することは、遠いアフリカ南端の植民地すら、世界史の流れとは無関係ではないことも意味する。ミクロ視点で祖先の個人史を描きながら、マクロ視点で世界史的な大事件を絡める事も忘れない。歴代ノーベル賞作家随一の国際派、ル・クレジオならではの傑作だ。