MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

〜オリエンテーション〜【池澤夏樹 世界文学全集40作品の感想】

作家・書評家・翻訳家にして、驚異の世界文学通の池澤夏樹

その個人的ベスト40長編、39短編をまとめた世界文学全集を読み終えた。


「興味あるし読みたいけど、長編は長いし高いし、どれから読めばいいか分からないので、何かしらの指標が欲しい!」


…という方に個人ランキング形式でご紹介(あと自身の忘備録も兼ねて笑)


というわけでまずは概要から!


非常にバラエティ豊かなラインナップだが、基本的には世界的に有名な一流作家が8割、残り2割も勿論有名ではあるが、池澤夏樹の好みで選んだ感が強い。作品別で見れば、その著者の代表作が7割、3割はやはり池澤夏樹の好みが強い印象だった。結局はなんだかんだでオーソドックスな名作で揃えてある。


ではその池澤夏樹の選出基準はというと、①古典のオマージュ作品、②紀行・異文化理解or衝突がテーマの作品、③小説構造や芸術性の技巧が高い作品、④自伝orサーガor教養小説形式の私小説的作品、⑤政治・社会を糾弾した作品、主にこの5パターンに分類できる。


また池澤夏樹自身が既に高齢のためか、21世紀の作品は唯一リョサ「楽園への道」(2006)のみ、それ以外は20世紀の作品と好みが若干古い印象は否めない。若い内に読んだ本が印象や愛着として残るのは当然で、その中からお気に入りを選んだのだろうから仕方ないかもしれない。というわけで、直近20年の名作はリョサ以外に収録されていない。


しかし短編含めば、この全集刊行後10年足らずで、ノーベル文学賞受賞者が既に3人も出ており、その慧眼は流石だなと思わされる。


この全集の特徴は非西洋文学が多い点、試しに列挙すると作家の国籍は以下の通り。


🇫🇷フランス…6人(モーリシャス二重国籍)

🇺🇸アメリカ…5人

🇮🇹イタリア…4人

🇬🇧イギリス…4人(ポーランド二重国籍)

🇨🇿チェコ(スロヴァキア)…3人

🇩🇪ドイツ…2人

🇵🇱ポーランド…2人(イギリスと二重国籍)

🇺🇦ウクライナ…2人(ポーランド二重国籍)

🇷🇺ロシア…1人

🇨🇳中国…1人

🇯🇵日本…1人

🇲🇽メキシコ…1人

🇩🇰デンマーク…1人

🇵🇪ペルー…1人

🇻🇳ベトナム…1人

🇲🇺モーリシャス…1人(フランスと二重国籍)

🇿🇦南アフリカ…1人

🇳🇬ナイジェリア…1人

🇨🇱チリ…1人

🇩🇲ドミニカ国…1人

🇷🇸セルビア…1人

🇷🇴ルーマニア…1人


これを見ると圧倒的に欧米率、それも西欧とアメリカの割合が高い。確かに小説は近代欧米で発生し、歴史も当然長いので必然的に欧米作家の名著率も高くなる。これでは世界文学と言えないのでは?、と思ってしまうがそれは違う。上記の作家は国籍こそヨーロッパでも、舞台はアジアやアフリカという作品が多いのだ。その意味で従来の世界文学全集とは異なる。更に小説の舞台は1カ国に留まらず、例えばルポ文学「黒檀」はそれが17カ国にも及ぶ。

 

尚、私も世界一周をしていて旅好きなので、池澤夏樹には個人的に共感できる面が多い。またテーマ・文体・芸術性に長けた作品が軒並み、読者目線でも1〜10位くらいの順位は、概ね似たランキングになると思われる。

というわけで多少の独断と偏見はお赦し頂き、主観分析で感想を述べていきます。

 

(各作品解説に続く)