MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-02-01 to 1 month

「鯨」

#一日一編6作目ポール=ガデンヌ著フランス作家巨大な白鯨が海岸に漂着する珍事に遭遇する男女カップル騒つく海岸の住人たち(メルヴィル「白鯨」を意識?)UFOの残骸に遭遇した感覚で色々と妄想や同情を膨らませていく会話が面白い生命を終えた鯨と人生がまだ…

「すべての白いものたちの」

ハン=ガン著韓国作家・詩人“白ってな…200色あんねん”戦火で灰燼に帰した街を再現したワルシャワ白紙からの恢復私と姉の追憶煙光絹羊乳雪羽米波骨霙鏡粥蝋歯泡雲鶴砂月塩鴎綿霜氷翼“真っ白なものは汚したくなる”すべての白いものたちを

「ねずみ」

#一日一編5作目ヴィトルド=ゴンブローヴィチ著ポーランド作家街を震え上がらせ殺しも厭わずその強面をもって我が物顔で闊歩する女たらしの民話的豪傑の大男一方で”ねずみ”がトラウマ級に苦手というド◯えもんみたいな弱点を持つ物理的・心理的に大小のサイズ…

「ミゲル・ストリート」

ヴィディアダハル=スラヤプラサド=ナイポール著ノーベル賞トリニダード=トバゴ作家17連作短編集再読島の愉快な仲間が集うミゲル・ストリート貧しくも陽気で哀しくも愛おしい人々感受性豊かな語り手”僕”の成長と旅立ちまで私も本書を読んでこの国に行きた…

「ビラブド」

トニ=モリスン著ノーベル賞アメリカ作家南北戦争直後の南部飢えの果ての嬰児殺し悔やむ元黒人奴隷女は逃避した屋敷で赤子の霊に魘される漸く祓った家族の前に嬰児と同じ名の謎の少女ビラブドが現れる世界史上最大の非道を美しき口承文化で謳い甦らせる“同胞…

「トロイの馬」

#一日一編4作目レーモン=クノー著フランス作家ありきたりな田舎町の雪降るバーお客様は…常連と…会計係女と…普通のカップルと…馬…?酒を飲んで血族を自慢しジンフィズをガブ飲みし客の一言で勘違いし憤り愚痴るシュールな光景をそうとは感じさせず日常的に見…

「ギンプルのてんねん」

#一日一編3作目アイザック=バシェヴィス=シンガー著ノーベル賞アメリカ亡命ユダヤ系ポーランド作家現代的宗教説話サレ妻に遇らわれる鈍感な夫周りに馬鹿にされていた事を妻の死に目に気付くが…?鈍間な夫の描写は”笑える”だがそれを”嗤える”人間は差別者を…

「賜物」

ウラジーミル=ナボコフ著ロシア作家超絶技巧の半自伝1章:著者のロシア文学&詩論(亡命後)2章:著者幼年期回顧+中央アジア&蝶研究者の父の伝記執筆(挫折)3章:チェスプロブレム作成+小説内小説執筆+恋愛4章:小説内小説「チェルヌイシェフスキー伝記」5章:伝記出…

「ネパール女性作家選」

19短編集ネパール女性作家アンソロジー典型的ヒンドゥー教山岳国家世界最低レベルの貧困も相まって当然だが男尊女卑は否めないだからこそ厳しい自然や伝統に揉まれて生きる女性は強く逞しいネパール女性の苦悩と恋愛観と社会を多彩な作家が多様なテーマで問…

「カフカの友と20の物語」

アイザック=バシェヴィス=シンガー著ノーベル賞アメリカ亡命ユダヤ系ポーランド作家カフカの友人だった俳優の語るリアルなカフカ像が面白い表題作”カフカの友”他は全作品アメリカやヨーロッパへ亡命し同化と保守伝統の複雑なユダヤ家庭を描くラビや聖書の…

「一つ半の生命」

ソニー=ラブ=タンシ著コンゴ作家チュツオーラ「やし酒飲み」のエロ・グロ・ゾンビ・バイオレンス版潔い程に西洋伝統小説の基本構造を無視した架空のアフリカ新興国が舞台独裁政権とその抵抗勢力両者を惑溺する絶世の美女兵器開発に鎬を削り最終的に蝿兵器…

「暗夜」

残雪著中国作家6短編集原理不明の不条理寓話1人称形式ながら主人公が最も世界認識に欠けた”信頼できない語り手”何故か説明不可なデジャヴを感じる“阿梅”“ある太陽の日の愁い”“私のあの世界でのこと・・・友へ”“帰り道”“痕”“不思議な木の家”“世外の桃源”(“暗夜”…

「庭・灰」

ダニロ=キシュ著ユダヤ系セルビア作家半自伝幼少期アウシュヴィッツに消えた鉄道員の父その形見”バス・汽船・鉄道・飛行機交通時刻表”戦争で灰と化した故郷の森の家の庭朧な父の記憶を辿り”自身と家族の世界図”を埋めていく幻想的な子供視点と現実的な青年視点…

「リゲーア」

#一日一編2作目トマージ=ディ=ランペドゥーサ著イタリア作家古典愛好家のシチリア没落貴族(著者はヴィスコンティ映画の同題自著「山猫」家紋で有名な元貴族)趣味で歴史的骨董品蒐集する内に徐々に幻想化し人魚伝説のセイレーンが現れて短期間を共に過ごし…

「素粒子」

ミシェル=ウェルベック著フランス作家愛とは無縁のノーベル賞級の分子生物学者性に奔放な日々を送り堕落した国語教師腹違いの兄弟2人成功と失敗真逆の人生しかし2人とも近代西洋文明の齎した”道徳的退廃”と”老い”と”格差”からは逃れられない“素粒子”単位の…

「おしゃべりな家の精」

#一日一編1作目アレクサンドル=グリーン著ロシア作家昔住んでいた鴛鴦夫婦とその友人の航海者が長旅から帰還した話を家に棲む精霊が語るロシア・北欧=スラヴ・ゲルマン的=自然=妖精東西南欧=ローマ的=神話・英雄両文化をミックス昔話風だがオープンエンドな…

「池澤夏樹=個人編纂 世界文学全集 短篇コレクションI」

#一日一編読了記念総書評20短編集アジア・南北中米・アフリカの傑作アンソロジー伝統的西欧文学とは異なる“第三世界”らしい短編が多い有名作家が多く且つ個々人の個性が最大限に活きた短編を選出多種多様多国籍多階級多地域の贅沢な作品群

「面影と連れて」

#一日一編20作目目取真俊著日本(沖縄)作家太平洋戦争で県民の1/4が犠牲になった沖縄近所のおばあちゃんの様に”その時代に何が起きたのか?”を滔々と語る戦争が貧困を生む貧困が差別を生む最近でも辺野古の座り込み抗議が話題になる通り戦後80年が経っても”面…

「星の時」

クラリッセ=リスペクトル著ブラジル作家所謂”白痴”による”意識の流れ”文体の独白(フォークナー「響きと怒り」の白痴に近い)身に起こる不幸を全肯定する残酷なまでの天然難解な語はないが低知能な人間視点の語りのため読みにくい性格の純粋さから文章は儚い…

「ブラームスはお好き」

フランソワーズ=サガン著フランス作家“最後のkissは苦くて切ない煙草のflavorがした”女性デザイナー39歳純愛を捧げる美男子25歳長いこと”友達以上恋人未満”の同年代40歳上〜中流階級の”年の差男女”三角関係の略奪愛の行方スタイリッシュな文体と恋焦がれる…

「猫の首を刎ねる」

#一日一編19作目ガーダ=アル=サンマーン著レバノン作家“東洋のパリ”と呼ばれたベイルートは内戦で瓦礫の山になった原因は宗教とその伝統的価値観の衝突亡命レバノン人共同体さえ”本場のパリ”でも東西文化の差異に苦しみ結婚できないムスリム移民の難しさを…

「母」

#一日一編18作目高行健著ノーベル賞フランス亡命中国作家死別した母の餞に供する主人公の独白本来は一人称(僕)の形式で進む所を二人称(お前)と三人称(彼)と複数パターンで同一人物を表す点が独特長編「霊山」や「ある男の聖書」同様に人称操作ありきたりな題…

「限りなく透明に近いブルー」

村上龍著芥川賞受賞作米軍基地街の若者ヒッピー印象派絵画の様に色彩豊かで五感に直接訴える絵画的文体(と思ったらやはり武蔵野美大出身)腐った家と食物精液塗れの顔と性器黒人とドラッグが蝕む体血と汗と汚物塗れのセックス異常な日常はそれでも自ら望んだ…

「ルバイヤート」

オマル=ハイヤーム著セルジューク朝ペルシア天文学者・数学者・詩人ルバイ(4行詩)ヤート(作品集)ひたすら酒を愛し酒を礼賛するアル中の詩が250P続く宰相マリク=シャーに招聘されメルヴに天文台設置&ジャラーリー暦を測った偉人詩では当時無名だったが近代…

「新興国は世界を変えるか」

29新興国の政治・経済・外交を比較分析素晴らしい名著軍部と資源が強い国は開発独裁“世界で最も民主主義”ゆえに貧困なインドGDP/1人当たりで米国の8割と6割だった”元先進国”のアルゼンチンとチリこの本を読んで日本は既に新興国の条件すら満たさない後退国だ…

「ダンシング・ガールズ」

#一日一編17作目マーガレット=アトウッド著カナダ作家再読移民大国カナダ留学生安宿に住む女学生は隣室に来た外国人を好奇心を持って観察民族衣装を着せたがるお節介おばさん舞踏会ではしゃぐ外国人事件は起きないが絶妙な不穏感と異文化違和感を伝えるカオ…

「ある女」

アニー=エルノー著ノーベル賞フランス作家“ママン(母)が死んだ”母の死を機に”ある女”として客観化した文章で懐古“歴史と社会学と伝記の中間”のオートフィクション文体乾いた表現と悲嘆の想いが寒暖の激しさを伴う陳腐な文章だと日記になりがちだが流石の上…

「ささやかだけど 役に立つこと」

#一日一編16作目レイモンド=カーヴァー著アメリカ作家息子が交通事故で意識不明に医者はすぐ起きるというが父母は不安を感じ病院で寝ずに看病そこに「息子さん…?」と謎の電話が頻繁に届く反復と敢えて過小な情報量が伏線となり絶妙な緊迫感を与えるスリラー

「クロムウェル3部作」読破記念総書評

計3000P登場人物100人以上近年稀に見る超長編小説というより寧ろ会話式日記に近い歴史的に過小評価なトマス・クロムウェルを軸に当時の宮廷・外交・聖俗を再現文物や生活感の情報量が多く謂わば大河ドラマの監督・脚本・演出・照明を1人で完成させた様な大作…

「鏡と光 下」

ヒラリー=マンテル著 イギリス作家絶頂から転落へ小国イングランドを強くしたクロムウェルその栄光はしかし政敵遺族の弾劾で泡沫と化す政敵同様に処刑台に跪き自らの生き様を鏡に問い掛ける夢の続きは100年後の孫オリヴァーへそして王座は当初継承権を剥奪…