MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-08-01 to 1 month

「砂漠」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家19世紀アルジェリアフランスに侵略され滅亡するベルベル諸部族現代フランス部族末裔の少女は村を抜け暴力の街マルセイユでモデルへ異国2世代を五感に訴える表現で呪術神話世界へ昇華西洋文…

「戦争」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家初版1970年(50年前)画一化と金属とアスファルトに侵されていく現代文明を揶揄学歴戦争貿易戦争IT戦争武力を交えるだけが戦争ではない日常に潜む狂気と破壊と淘汰意識に葛藤し無意識に焦燥…

「はじまりの時 下」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著 ノーベル賞フランス作家ナポレオン流刑と共に植民地へ四散したフランスの少数民族の祖先唸る革命“はじまりの時”現代モーリシャスで祖先の歴史を紐解く少年アルジェリア独立戦争メキシコ革命パリ五月革命3度の恋…

「はじまりの時 上」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家祖先と自身の生涯を描く半自伝「黄金探索者」続編フランス革命でモーリシャスに移住したケルト系の祖先モーリシャスの祖母が語る戦争と西洋文明の悍ましさ200年の時を超え2話が交錯し帝国…

「海を見たことがなかった少年」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家8短編集少年少女の青春は冒険と好奇心が埋め尽くしていく子供にとって地平線は可能性を示す碧い海白い雲黄色い太陽緑の樹木過ぎ去る景色は一瞬で永遠で気付けば世界は色彩で満ち溢れていた…

「パワナ」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家世界遺産”エルビスカイノ鯨保護区”通称”パワナ”先住民語で”鯨”ペリーも鯨油目的で開国を迫った捕鯨全盛の19世紀潟湖は出産期の鯨の血と鮫と鯱で溢れたエイハブ船長気取りの略奪者と戦った…

「嵐」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家2中編“嵐”目前の強姦を咎めず妻も自殺した韓国済州島で黄昏れる老欧米人海女と彼に惹かれる少女通り過ぎる潮風と一夏の追憶“わたしは誰?”ガーナの父なし娘はフランスで養女へ医師になりガ…

「春 その他の季節」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家季節に肖る5中短編集異国に住む人々を季節と異文化の交錯に絞って描写エキゾチックとノスタルジー老人と少女海と大地独白と会話対極概念とその境界を探る旅“春”“幻惑”“時は流れない”“ジン…

「心は燃える」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家7中短編集表題作がほぼ煉獄さん自身の移民・移住体験から海と冒険と異文化を繊細に描く大人と子供の狭間を歩く少女が眩しい“心は燃える”“冒険を探す”“孤独という名のホテル”“三つの冒険”“…

「偶然/アンゴ=リマーラ」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家2中編“偶然”終活に入る老映画監督青春盛りの少女出会いと別れ帆船アザールは2人を乗せ廃船まで世界を直走る“アンゴ=リマーラ”パナマ民話を軸に仏陀に似た運命の男が洞窟で覚醒する若者の…

「大洪水」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家情報の”大洪水”に渦巻き溺れる現代社会あてどなく都会を彷徨う男太陽に目を灼き自由を得る日常の裏の狂気が男を精神崩壊させる詩的抽象的散文閃光濁流燃焼大洪水に始まる神話大洪水で完成…

「アフリカの人」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家父は”アフリカ人”だった生地モーリシャス(仏領→英領→独立)幼少期ナイジェリア(内戦)青年期フランス南部(ルノードー賞)アフリカに育ち西洋文明を鳥瞰帝国主義を異質な自存在から敷衍批判す…

「黄金の魚」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家魚は強く逞しいモロッコで誘拐され人身売買され犯され蔑まれる黒人少女自由を求めヨーロッパに渡るも人種と文化の壁が聳える誰しも自分の居場所はなく動き続ける他ない荒波に揉まれ剥がれ…

「調書」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家実験的処女作眩い物質文明に囲まれながら仄暗い孤独心理が包む現代誰もが”調書”で自己を模索する脱走兵は時に鼠に時に獅子に変貌する太陽と海の薨ずる破滅へのコラージュカミュとサルトル…

「悪魔祓い」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著ノーベル賞フランス作家パナマ先住民中心の文明論“現代文明の美に厭世した”現代文明を批判の作品が多い著者行き着いたのはインディオ世界言語は記号ではなく唄刺青はお洒落ではなく呪術哲学的深淵を以て現代が忘…

「後悔するイヌ 嘘をつくニワトリ」

動物には勿論だが虫や植物にも感情がある犬は鋭い嗅覚と聴覚で存分に遊ぶが後悔することもある鶏は餌独占のため嘘をつく仔鹿や燕などは一人前になるまで子供を”教育”する教育が如何に重要かは動物と理解している教育投資を渋る現日本政府は畜生以下なのでは?

「蓮の道」

マーティン=ウィクラマシンハ著スリランカ作家梵我一如諸行無常愛別離苦無私無欲なヨガ医師の父伝統を押し付ける母贅沢と毛繕いに耽る姉そして優秀ながら無欲な私挫折ではないだが無欲は傍目にそう映る菩提樹に生まれ蓮を踏み沙羅双樹に散る現代の葛藤を生…

「悪魔の詩 下」

サルマン=ラシュディ著ブッカー賞最終候補ハイジャックテロで飛行機からダイブし奇跡的に助かる俳優とボンボンだが天使と悪魔に転生し袂を分かち数奇な人生を歩む現代ロンドンやムハンマド時代など時空間を飛び回る魔術的リアリズムクルアーン風刺の他イエ…

「悪魔の詩 上」

サルマン=ラシュディ著インド作家ムハンマドの一生を現代に寓話化彼の妻が娼婦という設定などムスリムが怒るのも当然(著者はイスラムを棄教)イラン革命指導者ホメイニが著者と訳者に3億の懸賞金と死刑宣告を発令邦訳者の筑波大教授を含め実際に世界中の翻訳…

「廃墟に咲く花」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家パリという都市と自身の記憶が絡む半自伝パリを歩けば何年も前に謎の死を遂げた近所の新婚夫妻を思い出す番地も通りも建物も記憶に生きている事件と現在が交錯し薄暗い路地裏とパリを立体化廃墟には見覚えの…

「推し 燃ゆ」

宇佐美りん著芥川賞受賞作“推しが燃えた ファンを殴ったらしい”こんな主人公は嫌だ全く共感できないだからこそ面白かった“推し活”命の少女が推し炎上と引退で生き甲斐を失い高校中退に加え家庭崩壊を招く世代問わず今時のSNS社会やオタク文化の持つ脆さと孤…

「ガラスの国境」

カルロス=フエンテス著メキシコ作家“哀れメキシコ!哀れアメリカ合衆国!これほど神から離れこれほど隣り合っているとは!”トランプ政権以前から燻る米墨の”ガラスの国境”国境の営みに関わる人々の9連作短編グリンゴ(アメリカ人の蔑称)への嫉妬憤慨憧憬協調…

「ただ影だけ」

セルヒオ=ラミレス著ニカラグア作家・元副大統領英雄から独裁者へソモサ大統領一族vsサンディニスタ民族解放戦線記事・裁判・調書・文書・尋問・手紙・供述に架空現実と過去現在の混同するニカラグア内戦記大統領私設秘書官アリリオ視点で展開独裁には”ただ…

「蛇の言葉を話した男」

アンドルス=キヴィラフク著エストニア作家“蛇の道は蛇に聞け”蛇に話したい事は実に多い村を守り共生した蛇と蛇語時を経て唯一の蛇語話者となった少年宗教化に抗い鍵と番人を探し蛇神”サラマンドル”に逢う旅へ近代的退廃と古代的郷愁をエストニア史に絡めた…

「疫病神」

莫言著中国ノーベル賞作家11短編集いつも通り著者の体験や共産党のタブーに切り込む農村幻覚的リアリズムがメイン黒孩子・標準語問題・LGBTをいち早く扱った斬新な短編も収録“嫁が飛んだ!”“石臼”“指枷”“月光斬”“普通話”“花藍閣炎上”“宝塔”“命”“母の涙”“疫病…

「土にまみれた旗」

ウィリアム=フォークナー著ノーベル賞アメリカ作家ヨクナパトーファサーガ始まりの書“古き良き南部”南部搾取を美化した北部は星条旗という”土にまみれた旗”を翳したサートリス家とベンボウ家故郷と戦場の暴力を知った帰還爆撃兵の黒人歴史から現代へ向かう…

「黄色い日傘の娘」

ウダイ=プラカーシ著インド作家2000年も続きガンディーすら暗黙せざるを得なかったカースト制度デカン高原の大学を舞台にバラモンとアウトカーストの身分違いの恋黄色い日傘の娘に憧れヒンディー語科に転入するも因習が邪魔をする体制に抗議し駆け落ちした2…

「スムヒの大冒険」

アモス=オズ著イスラエル作家自民族ユダヤは勿論パレスチナ含めた”中東の平和”の提唱者建国直後のエルサレムに住む少年スムヒ中東戦争前のイギリス三枚舌外交に憤る時代祖父がくれた当時貴重な自転車街中を縦横無尽それはヒマラヤ越えとアフリカ縦断に値す…

「ネパール人の暮らしと政治」

世界最強グルカ高山兵英領インド征服に寄与した近代ネパール最近まで摂政ラナ家の牛耳る独裁パンチャーヤト制から民主主義に移行”風刺芸人”ネパール語の痛烈な政治風刺で国政を変えたイギリスなど風刺文化が強い国は政治も逞しいネパール人に根付く政治文化…

「グランドマザーズ」

ドリス=レッシング著ノーベル賞イギリス作家4中短編全て長編並の密度“グランドマザーズ”半サーガ的な幼馴染の泥沼恋愛と破局“ヴィクトリアの運命”黒人少女と上流層の瑞々しい恋“最後の賢者”SF界の民主政vs衆愚政“愛の結晶”第二次大戦援兵の航海〜戦争のリア…