MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-01-01 to 1 year

閻連科全10冊読破記念総書評

出す長編が悉く中国本土で発禁となるため現在は母国より自由度が高い香港で創作と教鞭を取るエロ・グロ・ナンセンスの猥雑な描写の裏に隠れた中国社会の理不尽シュールな寓意に満ちた狂気の世界観”神実主義”荒唐無稽に見えて現実の様な小説ならではの愉悦を…

「丁圧の夢」

閻連科著中国作家貧しい農村”丁圧”老いも若きも高額の政府主導の輸血用売血で一攫千金を目論んだ結果エイズ蔓延る地獄と化した父が手引きし祖父が反対した売血政策に滅びゆく村を孫が見つめる過剰な死が狂気と絶望と哄笑を招く様を皮肉とユーモアで糾弾現代…

リヒャルト=カプシチンスキ全4冊読破記念総書評

7カ国語を解し50の歳月を費やし100の国を歩き27の政変・建国を見た同じ第三世界のポーランド人として第三世界を透徹した分析力と芸術的な文章で案内する私も旅ブログと称した駄文を50カ国ほど書いていたから分かるこのルポ文学は誰にも真似できない 以下個人…

「黒檀」

リヒャルト=カプシチンスキ著ポーランド記者・作家29ルポ集黒檀の様に心身とも逞しく美しい黒人黒人を近代文明視点で白眼視してしまう白人両者を知る著者だから書けたアフリカを知る最短経路の1冊40年に及ぶ指導者から市民までの広範な現地取材を基にサハラ…

「古典文学読本」

三島由紀夫著日本古典文学概説古文漢文の知識は勿論で作文まで出来た三島古典廃止論者に読んで欲しい1冊「雨月物語」「古今集」「源氏物語」「葉隠」「古事記」「曲亭馬琴」「謡曲」「神皇正統記」「新古今和歌集」「五山文学」「近松・西鶴・芭蕉」「和歌漢…

「人民に奉仕する」

閻連科著中国作家毛沢東語録スローガン”人民に奉仕する”これを刻んだ木札を勘合に軍師団長の美人妻が誘惑する“私への奉仕が人民への奉仕だ”性愛に惑溺する妻と炊事班長の男男は妻の斡旋を糧に情事と昇進を約束されたかに見えたが…?“現人神”毛沢東を揶揄し発…

「反貞女大学」

三島由紀夫著2エッセイ“反貞女大学”女性論エッセイ貞女に能うべからず反貞女たれ現代の過剰なフェミニズムの問題点を予見する“第一の性”男性論エッセイ第一の性=男第二の性=女サルトルに師事したフランス知識人女性ボーヴォワール「第二の性」に肖る英雄や美…

「夏子の冒険」

三島由紀夫著戦後北海道で熊討伐に燃える男と彼の野生の魅力に夢中になるお嬢様「ゴールデンカムイ」×フォークナー「熊」的展開(?)修道僧になりかけていた箱入り娘が東京→函館→アイヌの森を駆け巡る冒険へ!心配な彼女の家族との追いかけっこ開始!更に熊と…

ファン=ガブリエル=バスケス全4冊読破記念総書評

エベリオ・ロセーロと共に新世代コロンビアを代表する“第2のガボ”硬質で時間軸が往来する文体と政治を糾弾する社会派リアリズムはリョサを思わせる“アメリカの庭”中南米に燻る親米や反米を多彩な角度から描く歴史と異文化が主軸の重厚なサスペンスとミステリ…

「密告者」

ファン=ガブリエル=バスケス著コロンビア作家友をナチ党に売った著名学者告解する裏切られた友と一族学者の性癖を暴露し論う元愛人と痴女父の真実を探り本を出す学者の息子過去と現在と未来信頼と裏切り家族と友人名誉と没落5者5様の”密告者”密告者の密告…

「愉楽」

閻連科著中国作家盲聾唖者と身体障害者が多い僻村”受活”が舞台の魔術的リアリズム狂気の2大”村起こし”で脱貧困を狙う・レーニンの遺体を購入し記念館に祀る・障害者限定の魔術的な”超絶技能者サーカス団”差別用語を敢えて使い陰に陽に人民公社・共産主義・反…

「サッカー戦争」

リヒャルト=カプシチンスキ著ポーランド記者・作家コンゴ・中米・アルジェリア・タンザニア・ナイジェリア・ガーナの27政変のルポサッカー試合の勝敗が戦争に発展格差社会の中南米では庶民が愛国心を確認する唯一の場がサッカー(日本で言えば=オタク?)日…

「シャドウ・ラインズ」

アミタヴ=ゴーシュ著インド作家印パ独立紛争は1千万単位の住民交換と数百万の移民や難民を出したロンドン・ダッカ・カルカッタの3都市3世代の中流層市民が見た現実を描く家族・祖国・財産・宗教の分断と離別独立の夜明けが生み出した見えない境界線”シャド…

「夜会服」

三島由紀夫著華族出身・容姿端麗・スポーツ万能・学問堪能・語学堪能・金持ち・コネ持ちの完璧夫欧州要人とのパーティーが好きな母2人の板挟みになる妻派手嫌いの夫と母に確執が生まれ三角関係で悩む妻近代的地位を持ちながら近代への抵抗感を持つジレンマを…

「戦争は女の顔をしていない」

スヴェトラーナ=アレクシェーヴィッチ著ノーベル賞ベラルーシ作家再読神話も歴史も戦争も主役は殆ど常に男女も当然に戦争に人生を左右されるが”女の顔”は隠されてきた看護婦家事女医娼婦狙撃兵通信係戦車兵母娘教師etc…戦争は極めて政治的な行為である 著作…

「刑罰」

フェルディナント=フォン=シーラッハ著ドイツ作家・弁護士12短編集刑を受けるのは限られた人間だけしかし全ての人間が罰に苛まれるだから金儲けのための免罪符の憤慨したルターは宗教改革を始めた歴史を反省したドイツの法律は厳しい一方で犯罪率も高い平…

「クーデタ」

ジョン=アップダイク著アメリカ作家時は冷戦舞台はサハラ架空国家クシュ体制はイスラム社会主義主役はアメリカで学びクーデタで凱旋した大統領“アメリカ化する第三世界”の葛藤・堕落・繁栄を敢えてアメリカ人が描く斬新な構図現在なら”覇権を狙う中国と日本…

「貧者の息子」

ムルド=フェラウン著アルジェリア作家著者の半自伝にして国民的古典文学部族村カビリーの貧農ながら立志して教師になったメンラドしかしフランス文明の野蛮さとカビリーの後進性に葛藤する非アラブ・非ベルベル・非フランスの言語と文化をカビリー語の豊か…

「文章読本」

三島由紀夫著視聴覚芸術=男性:論理的→政治経済用語や四六駢儷体心理情緒的芸術=女性:感情的→世界最古の随筆「枕草子」や女性神話日本語には韻文芸術の伝統がなく明治以降の翻訳で導入古文美学に陶酔する三島は嘆く一方で自作にも積極的に東洋西洋の伝統を汲…

「軽蔑」

アルベルト=モラヴィア著イタリア作家ゴダール映画原作カミュやサルトルに数十年も先駆けて近代の性と生の不条理を問う映画脚本執筆中の男は妻との倦怠期に突入し妻の”軽蔑”を招く程に…地味だが機微の夫婦の心情変化と派手な脚本「オデュッセウス」の対比が…

「マイトレイ」

ミルチャ=エリアーデ著ルーマニア作家・宗教史学者インド留学に基づく半自伝風土病を患い療養のためベンガルの名家に居候そこで一目惚れした褐色の美少女マイトレイ宗教も文化も異なる2人の愛は許されざる禁忌だった…男の独白のみで女の心理描写を敢えて隠…

「嫉妬/事件」

アニー=エルノー著ノーベル賞フランス作家2中編“嫉妬”離別後の男性に嫉妬しストーカー化する女性傍目には狂人でも当人は純愛五条先生の言う通り愛ほど強い呪いはない“事件”中絶違法時代に優秀な女学生が堕胎の決意をするまで壮絶な肉体的&精神的葛藤と重圧…

「野原」

ローベルト=ゼーターラー著オーストリア作家29連作短編集田舎に生きた30人前後の職業年齢性別も雑多の平凡な人生死者が生き様と死に様を語る形式で人生を振り返っていく切り取られた恋に勉強に仕事の些細な日常ご近所同士で味わい深い余韻を残す静かで暖か…

「破滅者」

トーマス=ベルンハルト著オーストリア作家2中編音楽の造詣が深い著者の大家への内省的随想“ヴィトゲンシュタインの甥”「論理哲学論考」で有名な学者の甥で一流の隻腕ピアニストへ捧ぐ狂想曲“破滅者”カナダのピアニストで”ゴルトベルク変奏曲”の作曲者グレン…

「硬きこと水のごとし」

閻連科著中国作家ゲバラやナポレオン宜しく革命家は性欲もお盛んらしい時は毛沢東扇動の文化大革命〜江青ら4人組逮捕自称革命家の青年と少女は共産主義の英雄を讃える一方で秘密の地下トンネルを通じ秘部と乳房を弄り逢瀬を重ねる破壊の連鎖を産む革命の醜悪…

「カルカッタ染色体」

アミタヴ=ゴーシュ著インド作家医学×ミステリ×マジックリアリズムNY国際水利委員会職員カルカッタで失踪した同僚のIDを辿る鍵は1902年ノーベル医学賞受賞者が奇跡的に発見したマラリア感染経路現代アメリカと近代インド&エジプトの話が交代進行謎の染色体の…

「父を想う」

閻連科著中国作家半自伝的エッセイ莫言と同じく貧しい農村出で高校や大学に通えず入隊後に作家になった著者鄧小平の登場後に「紅楼夢」や外国文学を知り驚嘆した経験はその作風にも影響は顕著父の家族への愛と暴力も厭わない厳しさギャンブル狂だが憎めない…

「ザリガニの鳴くところ」

ディーリア=オーエンズ著アメリカ作家・動物行動学者沼地での男の不審死を殺人事件と仮定し捜索する警察と裁判官恋と自然に満ちて生きた”湿地の少女”両章の交代進行で徐々に明かされる事件の全貌と容疑者の過去愛し続けた“ザリガニの鳴く故郷”に愛されなか…

「若く逝きしもの」

フランス=エーミル=シッランパー著ノーベル賞フィンランド作家厳しくも雄大な自然に逞しく生きる農民の少女しかし世界大戦で敵国の兵を慈愛で助け自国から売国奴扱いされてしまう…“祖国の農民人生への理解と自然との関係を描いた高い技術”ノーベル賞受賞理…

「愛の疾走」

三島由紀夫著売れない小説家の野心作原稿「愛の疾走」リアリティを醸すため実際に諏訪湖畔の漁撈青年と最先進カメラ工場OLをあの手この手で恋させる作戦を敢行原稿と現実が交代進行しながら徐々にマスコミ騒ぎになる程のロマンスへ…そしてインスピレーション…