MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-01-01 to 1 year

「カトリーヌとパパ」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家“眼鏡の人は世界が2つ存在する”絵本と見せかけて中身はやはり哀愁漂うモディアノ作品パリで事業に失敗しNYで再起を誓うパパバレエや語学に一生懸命なその娘カトリーヌ子供視点で風情あるパリがアメリカ化する…

「キンドレッド」

オクティヴィア=エステル=バトラー著アメリカ作家反黒人差別を叫ぶ夫婦が19世紀南部と1970年代を交互にタイムスリップ黒人奴隷を救う為ジレンマに陥りながらも先祖の白人領主を時に助け憎み抗う鞭打ち・人身売買・強制労働タイムトラベルの謎と残酷な黒人…

「忘れられていた息子」

ミロ=ガヴラン著クロアチア作家意識高い系ママの意向で15年も隠し子扱いされてきた知的障害の青年戸惑う弟妹は破談や勉学の挫折を理不尽に押し付ける周囲は徐々に少年の素敵な感性を認め始めるやがて純粋な彼に見惚れた少女との恋に落ちるが…?個性を考えさ…

「アルグン川の右岸」

遅子健著中国(内モンゴル自治区)作家ツングース系エヴェンキ族バイカル→ロシア→清→満州国→中国アルグン川でトナカイと共生する岸辺で金塊発見侵略は神話に彩られた自然と文化を奪っていくリアル「ゴールデンカムイ」+「もののけ姫」の世界を族長の姫だった老…

「農耕詩」

クロード=シモン著ノーベル賞マダガスカル(フランス)作家culture(文化)の語源は”耕す”戦争も農業も等しく文化ヴェルギリウス「農耕詩」に肖る戦争叙事詩彼A フランス革命将軍彼B スペイン内戦義勇兵彼C 第二次大戦敗残兵3人の”彼”が交代で現れ農耕の美徳と…

「山猫」

トマージ=ディ=ランペドゥーサ著イタリア作家著者自身も没落貴族の半自伝リョサ激賞巨匠ヴィスコンティ監督の傑作“人種と文化の坩堝”シチリア島両シチリア王国ブルボン朝宰相を世襲した”山猫”の家紋ガリバルディ上陸〜第一次大戦期階級没落を予感する名門…

「夕映えの道」

ドリス=レッシング著ノーベル賞イギリス(ジンバブエ)作家“あなたには良き隣人がいますか?”90歳の孤独な被介護老女50歳の未亡人敏腕編集者老いを意識する真逆の2人詰り惹かれ慰め合う孤独・階級・医療・尊厳死・親族・性差…命の旅は黄昏時へ“夕映えの道”を…

「ドストエフスキーとの旅」

生誕200年光文社古典新訳文庫でドストエフスキー翻訳を手掛ける亀山郁夫が”盟友”を肴に人生を語る重厚で抉るような人間描写と予言的かつ破滅的な5大長編9.11同時多発テロ中華帝国の野望「悪霊」の知識層別階級闘争AI破滅論むしろ予言は今をこそ最も的確に捉…

「フロイト 性と愛について語る」

ジークムント=フロイト著オーストリア心理学者・精神科医6論文集・去勢コンプレックス・処女性とタブー・オイディプスコンプレックス・同性愛トラウマ・解剖学的性差・現代人の神経質症欲望=性欲(リビドー)と考えた著者理性-意識-無意識-夢の本質に迫る

「赤い魚の夫婦」

グアダルーペ=ネッテル著メキシコ作家5短編集人もまた”生物”生物と人間の運命的シンクロを描く“赤い魚の夫婦”水槽の闘魚&育児に悩む夫婦“ゴミ箱の中の戦争”ゴキブリvs昆虫食一家“牝猫”女学生vs差別&牝猫“菌類”バイオリニスト&菌類増殖“北京の蛇”華僑老人の…

「レキシントンの幽霊」

村上春樹著短編7集人間の内面を映すあり得そうでない少しホラーで情景描写が巧み“レキシントンの幽霊”“緑色の獣”“沈黙”“氷男”“トニー滝谷”“七番目の男”“めくらやなぎと眠る女”個人的には器用で八方美人な人間が持つ悍ましさと復讐心・猜疑心を鋭く描く“沈黙”…

「サーカスが通る」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家戦後パリ五月革命身売りする女性が後を立たない時代大戦の傷跡を負いながら一進後退する記憶年上女性との出会いはローマ逃避行への片道切符10年の時を経て少年が警察官に語る女の真実とは?サーカスは気付け…

「デトロイト美術館の奇跡」

原田マハ著デトロイト美術館所蔵<セザンヌ「画家の夫人」>を巡る実話かつてのミシガン自動車産業都市も今や廃墟ゴーギャン・ゴッホ・セザンヌ…市の破綻宣言を受け莫大な価値を持つコレクションと職員を手放す危機へ市民と美術愛好家の美術館への想いが”奇跡”…

「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」

ネイサン=イングライダー著ユダヤ系アメリカ作家8短編集ユダヤ文学の多くがヒトラーやナチを題材にするしかし勿論それだけがユダヤ人の全てではない作中の”逆ポグロムごっこ”には戦慄した2世3世の視点で中東戦争やショアーを見つめ直す 収録作“アンネ・フラ…

「歩道橋の魔術師」

呉明益著台湾作家連作10短編集妖しいネオン子供の店番喧騒な売り込み小さな恋高層ビルなき時代今は亡き高度経済成長期の台北デパート”中華商場”歩道橋の貧相な手品師が披露する”魔術”2つの共通項が少年時代の怪奇体験をノスタルジックに想起させる台湾マジッ…

「テヘランでロリータを読む」

アーザル=ナフィーシー著イラン作家“元親米国家”イランは宗教革命で反欧米化・女性の社会進出後退英米文学の女性教授は女生徒7人と”禁書”西洋古典の地下読者会を開催ナボコフ→ギャッツビー→ジェイムズ→オースティン文学解釈と激動の現代イランを個人視点で…

「J・M・クッツェーの真実」

南ア&現代英語圏最高峰の作家”日本初のクッツェー論”数学的ロジック+文学的博覧+簡潔な文体+暴力+多言語英語圏で売れなければ世界文学として認められない従来の”世界文学≠北半球”を否定し”南半球文学”を提唱私も将来”クッツェーの孫達”が世界を席巻すると予…

「最後の物たちの国で」

ポール=オースター著アメリカ作家“パンドラの箱”開くと絶望が訪れる有名なギリシア神話だが箱の底には希望があるという人は希望と絶望どちらを感じて生きるのか?貧困から犯罪と破壊が横行する社会読まれることのない手紙を書き連ねる少女“最後の物たちの国…

「愛する人達」

川端康成著日本ノーベル賞作家短編9集脆くとも迷いながら逞しく日常を生き抜く”愛すべき人々”を描く昭和初期の男性優位社会にあって既に自由奔放な女性を描くのは流石だ“母の初恋”“女の夢”“ほくろの手紙”“母のさいころ”“燕の童女”“夫昌婦和”“子供一人”“ゆく…

「薔薇の名前 下」

ウンベルト=エーコ著 イタリア作家抜群の推理を発揮するウィリアムとアドソだが謎が謎を呼び増える変死体遂に異端審問官ギー到着闇の図書館に待つ人物とは?刻の終末を告ぐ喇叭が示す”アフリカの果て”焦がれ散る“薔薇の名前”と書物“中世のシンクタンク”修道…

「薔薇の名前 上」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家全世界5500万部の歴史ミステリ中世イタリア修道院で”ヨハネの黙示録”に肖る連続殺人事件発生異端審問神学論争3竦みの教皇皇帝派vs強硬派禁じられた図書館「詩学」2章 “笑い”聖務日課普遍論争“書物を巡る陰謀の7日間”に探偵…

「ミスターピップ」

ロイド=ジョーンズ著ニュージーランド作家パプアニューギニアvsブーゲンヴィル島の独立運動ディケンズ「大いなる遺産」主人公の孤児ピップ白人教師が島の子供に語るピップは伝統社会と独立派に実在のスパイを隠棲したと誤解を生む燻んだ村と教師は“大いなる…

「迷子たちの街」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家2つのパスポートを見つめる推理作家日本の出版社との商談で 20年振りにパリへホテルの名刺が”社交界に響き渡る1発の銃声”の記憶を呼び覚ます記憶から逃げたサロン仲間とパリの街秘密は今も”迷子”のまま夏の蜃…

「ケルト人の夢」

マリオ=バルガス=リョサ著ノーベル賞ペルー作家大英帝国領事ロジャー=ケイスメントコンゴとペルーでゴムの強制栽培を告発し英雄へ祖国開放を試み敵国ドイツに接近し反逆罪&同性愛で処刑権力に慄き友と師と離れども揺るがぬ”ケルト人の夢”鄙びた恩赦の署名…

「ヌマヌマ」

全作本邦初訳ロシア12作家短編集日本を代表するスラヴ・ロシア文学研究者&翻訳家の沼野夫妻による現代ロシア文学セレクションソ連崩壊で禁書逆輸入や過激な新興文学の躍進が著しいぶっ飛んだSFや官能作品に怪奇から純文学まで“嵌ると抜け出せない”知られざる…

「アイルランド 歴史と風土」

古代ケルト〜現代を英仏独西などの国際交流視点で分析“ボイコット”同名の大尉のアイルランド市民迫害時に起きた抵抗運動が語源クロムウェル時代まで原始的生活だったが大英帝国に編入後は急速に近代化現在Tax HeavenでApple本社を構え欧州第2の平均年収を誇…

「アイルランド紀行」

西部コナハト北部アルスター東部ダブリン縦横無尽のアイルランド紀行4人のノーベル文学賞やケルト音楽と高い文化を誇りウィスキーに舌鼓元々ハロウィンも妖精&自然崇拝と鎮魂のケルトの祭礼5世紀に聖パトリック布教でカトリック化最近まで英国との宗教対立で…

「名人」

川端康成著日本ノーベル賞作家実話に基づく作品生涯にして現役最後の勝負に挑む碁の名人を切迫した雰囲気で描く正直ルールを知らないので難しかっただが一手に80時間かけ病弱化しながらも伝統と真っ向勝負の”芸術的囲碁”を貫く名人に痺れた日本文化の美しさ…

「ダンシングガールズ」

マーガレットアトウッド著カナダ作家短編6集“火星から来た男”ストーカー相手への感情移入“ベティ”NTR女が狂気に至る“キッチンドア”森小屋の老女の殺意“旅行記者”記者と私人の間“訓練”病弱者内での下劣な迫害と医師“ダンシングガールズ”華やぐ国際交流の暗い…

「”知の商人”たちのヨーロッパ近代史」

近代ヨーロッパ印刷&出版史活版印刷技術普及で”知の商品化”が促進大衆&複製化する絵画と思想は弾圧・検閲・焚書・発禁の受難続き“知の商人”も命懸け知的財産の大衆化は大学の地位向上・カフェ増加・絵画の地位低下・知識人亡命・衆愚政治への利用が増加した