MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-12-10 to 1 day

「儀式」

セース=ノーテボーム著オランダ作家“儀式”に没入する高等遊民の父子を第三者視点で描く第1部 序章第2部 時間と現代文明から徹底逃避するダース父第3部 東洋文化・楽焼・茶道を崇めるダース子高度経済成長で富裕化するオランダと対比させ不可逆的に喪失した”…

「ライオンの咆哮のとどろく夜の炉辺で」

ジェイコブ=アコル著南スーダン作家“世界一の高身長サバイバル民族”ディンカ族南スーダン説話集野牛を従え獅子狩を誇り駝鳥と足を競う教訓に富む豊かな自然と動植物の力強い童話イアソン宜しく獅子の鬣を抜く勇女や狡猾な狐に創世記と想像力豊かな短編 “世…

「黄金の馬」

ファン=ダヴィ=モルガン著パナマ作家2大洋を南北に分つパナマ地峡運河建設以前風土病と難工事に抗い”黄金の馬”鉄道でカリフォルニアの”黄金郷”を目指した男達マヤ遺跡発見者・苦力・原住民・米資本家…運河完成で一時廃線したが現在は貨物列車として復活し…

「ヴィという少女」

キム=チュイ著ベトナム系カナダ作家戦争でカナダに亡命したヴィ母国同様フランス語圏のケベックに育つ少女“鳥のような翼があれば”鳥類学者の青年ヴァンサンに惹かれると共にアイデンティティを求めて世界を流浪淡く繊細な言葉と微風のように過ぎ去る優美な…

「プラータナー」

ウティット=ヘーマムーン著タイ作家プラータナー”欲望”ヌード写真とAVは裸体美を欲望礼讃する西洋伝統美術の地位を貶めた異性愛・同性愛・自愛・幼児愛…性転換大国タイの若き芸術家混迷するタイ現代政治と重なる遍歴国家と身体類似するグロテスクな”憑依す…

「赤い十字」

サーシャ=フィリペンコ著ベラルーシ作家救済・火刑・十字軍・邪祓・磔刑・祈願…往々にして“十字”は架責を伴う例え“同志の敵”となろうともソ連の電報係として重宝され傍ら第二次大戦で捕虜となった夫と娘を捜索する妻希望は国際赤十字社の連絡のみ老女が語る…

「巨匠とマルガリータ 下」

ミハイル=ブルガーコフ著 ロシア作家 第2部 “原稿は燃えないものだ”美貌化するクリームを得て箒で空を舞うマルガリータ昇天する巨匠浪迷する詩人イワンピラトゥス救済?喋る黒猫不敵な魔術師驚天動地な幻想世界のオマージュはソ連への痛烈な批判無機質な巨…

「巨匠とマルガリータ 上」

ミハイル=ブルガーコフ著ロシア作家第1部 “私に続け読者よ”札束の雨に悪魔との契約謎の外国人の予言通りモスクワで頻発する怪事件鍵は薪に焚べたはずの”巨匠の小説内小説”ローマ帝国ユダヤ属州総督ピラトゥス迫るヨシュア(イエス)処刑現代と古代の融合する…

「そんな日の雨傘に」

ヴィルヘルム=ゲナツィーノ著ドイツ作家46歳・無職・嫁逃亡・性欲増大…自分はダメ人間なのか?若くは社会が退屈なのか?ドイツは勿論ヨーロッパはホームレスが多い世の虚無感と不条理が痛々しい程に伝わる弾く雨と跳ねた泥を容赦なく浴びるそんな日に雨傘が…

「インド史」

文庫で240Pとコンパクトなインド通史特に宗教・民族に詳しいラージプート諸王朝デリー=スルタン朝ムガル帝国と藩王国デカン高原が南北を政治経済言語文化的に分断この分断を利用し金で軍事保護国化→財政破綻にさせ地方服属2億人を僅か1000人の貿易会社の東…

「インドネシア大虐殺」

共産主義的スカルノ政権崩壊資本主義的スハルト政権成立2つのクーデターはベトナム戦争に匹敵する大虐殺の引鉄しかし冷戦構造の中で100万人の死が黙殺され真相は闇の中デヴィ第4スカルノ夫人(根本七保子)・要人・大使館・各国紙の証言を分析インドネシア開発…

「ムントゥリャサ通りで」

ミルチャ=エリアーデ著ルーマニア作家・宗教学者共産主義ブカレストロマ・トルコ・インドの文化や神話が迷宮の様なカフカ的幻想を醸す元校長の老人に政府が失踪事件の聞き取り捜査を行う進退と円環接続と断片忘却と追憶脱線という本筋が支配するムントゥリ…

「21Lessons」

21世紀における21の問題提起日経新聞を毎日読んでいれば真新しくは感じないがホットな話題の網羅感はあるメディア論にも多く言及所謂ビジネス本的で微妙私見ではAIよりバイオ技術の方が革命的と思うがどうだろう?文明より文化圏を重視した歴史の統計分析が…

「原敬」

盛岡の没落貴族からフランス語を学び外交官から藩閥政治を一新した”平民宰相”記者時代の情報収集力と語学で立憲政友会の勇士に並び大正デモクラシーの期待を背負うも夢半ばで刺殺国公私立大学の拡張を達成し軍縮と国有企業化を推進彼が存命なら犬飼毅暗殺も…

「打ちのめされた心は」

フランソワーズ=サガン著フランス作家バロック感漂う未完の遺作自著の様に生きて死んだ著者前時代的社交界が理想のギクシャクした豪邸の住人たち事故で壊れた美男な夫疲弊する妻不倫に勤しむ虚勢の父風評ばかり気にする親族短くも細かい重奏的描写に引き込…

「ベンヤミン メディア・芸術論集」

ヴァルター=ベンヤミン著ドイツ文学・芸術学者映画・文学・劇・写真・絵画・ラジオ・TV・語学と多岐に渡る”メディア”分析の書無声映画全盛期ならではのチャップリン論評ナチ退廃芸術への批判Disney映画論文学界のドンたちとの交流巨匠の視野の広さに驚く1冊

「三日月」

ラビンドラナート=タゴール著ノーベル賞イギリス領インド帝国(アジア初)詩人・音楽家・教育者・作家タゴール国際大学創立者故郷ベンガル語で雄大な自然を擬人化し”母”と詠う静謐な詩揺られし赤児?撥ねる波紋?峡谷の山河?“三日月”の美しさは人それぞれ“詩…

「ジハードの街タルスース」

“ジハード”本来は”努力”の意転じて”宗教的情熱”や”聖戦”の意決してテロとは無関係な言葉現トルコ領タルスースは古来イスラムとヨーロッパ鬩ぎ合いの”聖戦の最前線”文化圏の境界ミスル(軍営都市)ウマイヤ朝拠点成立〜アッバース朝による拡大と荒廃海岸軍事都…

「ムーア人の最後のため息」

サルマン=ラシュディ著インド作家インド航路発見者ガマの一族ユダヤ系と婚姻し現代ボンベイ巨大財閥へ成長絶世の美女画家と倍速で歳を取る息子”黒幕”の奸計で没落する勇姿はナスル朝”最後の王”ボアブディルに重なる2枚の名画「ムーア人の最後のため息」の秘…

「忘却についての一般論」

ジョゼ=エドゥアルド=アグアルーザ著アンゴラ作家国際ブッカー賞最終候補再読内戦・凌辱・誤射・孤独…外界を恐れ忘却したい一心で27年も無人高層ビルで自活する女性壁に書き連ねる記録は”生きた証の一般論”内戦は終わり忘れようとしていた家族と世界の朝を…

「ライ麦畑でつかまえて」

ジェローム=デビッド=サリンジャー著アメリカ作家想像とかなり違ったが村上春樹の好きそうな小説思春期の意地張り・性への目覚めと感心・大人と子供の境界学校や社会の欺瞞とNYに憧れたホールデンそれでも彼は雄大なライ麦畑で誰かにつかまえて欲しかった…

「JUMP」

ナディン=ゴーディマ著ノーベル賞南アフリカ作家短編12集主にアパルトヘイト下の南ア社会の複雑な人種間亀裂を描く人種差別は一様に憎悪だけの問題ではなく文化摩擦・経済格差・教育政策欠如・土地制度問題など複合要因だと分かる著者曰く作家は”第3の性”多…

「J・M・クッツェー 少年時代の写真」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家写真家志望の少年時代のアルバムとインタビューを掲載写実的な文体が特徴の著者「遅い男」の主人公もプロ写真家在りし日の南アの貴重な姿やアパルトヘイト前の牧歌的風景は作品にも頻繁に現れる

「82年生まれ キム・ジヨン」

チョ=ナムジュ著韓国作家ほぼ”現代韓国女性社会史”の内容日本が羨む程に女性の育休産休制度が充実するのに出生率は1%弱不謹慎だが”1982年”に”韓国”に”女性”として生まれなくて良かったと安心してしまう程リアル私論だが子供1人あたり200万/年は支給すべきと…

「孤独の発明」

ポール=オースター著アメリカ作家2部構成著者と彼の父親の自伝詩人としての才覚もある著者が軽妙な語り口で思い出を語っていく(第1部) 見えない人間の肖像父の遺品整理をする中で彼の生きた孤独を仮想体験する(第2部) 記憶の書記憶を頼りに声なき”見えない…

「シンプルな情熱」

アニー=エルノー著フランス作家“シンプルな想いほど言葉にできない”官能文学は最も難しいジャンル表現対象が肉体のみで使用可能な語句が極端に少なく下品だとエロ本にお高いと哲学になる実体験を基に中年愛の恋煩いを抉る程に描いていく“不倫は文化?”“いえ…

「最後の決闘裁判」

エリック=ジェイガー著アメリカ歴史学者中世文物研究と実話に基づく中世フランス”決闘裁判”を描くNF現在映画公開中旧友に襲われたと語る妻に激情する夫しかし証拠に乏しく法廷闘争へ“宗教時代”中世は決闘の勝敗が神判を受戒するという考えが主流生死を賭け…

「港の世界史」

海と陸を繋ぐ都市空間”港の世界史”実はNYマンハッタン島も埠頭や艀で囲まれている近代以前の港(語源:水門)は国内外の商業が集う情報センター故にNYもロンドンも香港も金融都市化し近代資本主義発展に寄与した私自身も輸出入に携わる身だが車や空輸でも船由来…

「ウンベルト=エーコの文体練習」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家“知は力なり”そしてまた”知は遊びなり”エーコの文体練習はパロディに満ちている歴史上の偉人に”調子はいかが?”と問えば一言でどう答えるか?名作を緩く楽観的に分析するとどうなるか?文体=記号の読解は記号論学者ならでは

「モーリタニアン」

モハメド=ウルド=スラヒ著モーリタニア囚人9.11テロで”疑わしき者”を収監したグアンタナモ拷問と汚物と隠蔽の蔓延る”黒塗りの歴史”冤罪を訴え本書を書くが2500カ所は米国の検閲で非公開著者は現在も収監囚人や看守の非道の一方で友情や異文化理解について…