MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

“見えない都市に目を凝らす”

28「見えない都市」

🇮🇹イタリア

イタロ・カルヴィーノ

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この全集にも4人とかなり多くノミネートしている通り、意外と個性的な作家が多いイタリア。その豊潤な歴史文化遺産が刺激を与えるのか、純作家よりも学者出身のエーコやタブッキが有名な作家だったりする。中でもカルヴィーノは独自の構造と文体で寓意的作品を書くことで知られる。「見えない都市」も紙芝居のような作風で、コラージュ感覚で章ごとに独立しており、どこから読んでも楽しめる。加えてチンギス・ハンに謁見したマルコ・ポーロが、55の架空都市の話を聞かせるという設定もユニークだ。幻想的な都市ばかりで嘘だと分かるが、弁舌が巧みなので信じてしまいそうになる、実際ハンも最初こそ懐疑的だが徐々に引き込まれていくのだ。察しの通りカルヴィーノは古典の造詣が深く、他の作品も漏れなく古典引用と現代風刺がセットになっていることが多い。エーコもTV論を書いているが、カルヴィーノもメディアに詳しい。正しくハンに都市を語るマルコは、このメディア的な切り貼りを駆使し誇張して報告している。今も昔もフェイクニュースはあった訳だ。何より最近の研究ではマルコの記述は中国の年代史と不一致な点が多く、そもそも実在の人物ではないと指摘されている程なのだ。逆に言えばこの”見えない都市伝説”は、文学としては含みを持たせることができるので、格好の材料となり得る。例えば当時のヨーロッパではマーメイド、マンドラゴラ、ユニコーンも信じられていた。これを現代に言い換えれば、地球温暖化や昆虫食に新型コロナワクチン摂取やカルト集団など、科学文明がいかに進歩しようと、大衆が信じ込んでしまうきな臭い話には枚挙に暇がない。中世だからと嗤うこと勿れ。冗談の様な架空都市の話も、主語を変えればそのまま現代にも通じる寓話となる。こうした寓話の真意を読めるなら、メディアや政治家の茶番と嘘も見抜けるはずだ。カルヴィーノもそれを伝えたかったのかもしれない。