MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-06-11 to 1 day

「19世紀イタリア怪奇幻想短編集」

知られざる19世紀イタリアの怪奇幻想作家9短編集田舎の農民のホラー話から近未来の世界国家独裁者が君臨するSFまで幅広いテーマと世界観を堪能ポーやロマン派の影響も大きいブッツァーティやカルヴィーノ等の現代幻想文学の巨匠達にも連なる粒揃いの新鮮な古…

「イスタンブール」

オルハン=パムク著 ノーベル賞トルコ作家“エステンボリン(その街へ)”即ちイスタンブール少年は画家に憧れ筆を取る500Pで多数の写真と共に半自叙伝を語る西洋化で日毎に喪失さるオスマン帝国の遺産その葛藤と誇りを糧にするパムク文学の神髄青年は作家を決意…

「なぜ古典を読むのか」

イタロ=カルヴィーノ著イタリア作家 幻想作家の古典書評古典の価値は以下の通り•純粋に面白い•だからこそ読み継がれている•読むこと自体が教養•過去を擬似体験可能•海外文学なら地理文化言語も含む•温故知新がある•逆に人間の普遍性に気付かされる古典お勧…

「崩壊」

オラシオ=カステジャーノス=モヤ著エルサルバドル作家外の”崩”内の”壊”頽れる”崩壊”3部構成で時代と語り手が変わる1部:家庭崩壊(縁戚関係の難しさ)2部:サッカー戦争(隣国・大国関係の難しさ)3部:使用人(職場関係の難しさ)名門一族の”崩壊”を疾走感ある文体…

「ぼくはスピーチをするために来たのではありません」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著ノーベル賞コロンビア作家スピーチ嫌いな彼の僅か22のスピーチ集ノーベル賞授賞式の名演説”ラテンアメリカの孤独”熱気と貧困と孤独が南米幻想文学を生むとは納得コルタサルとフエンテスとのチェコ旅行も唆る

「塩の世界史 下」

島国の日本は塩田だが世界では岩塩や塩湖が非常に多い鱈と鰊の塩漬けで大航海や北海貿易を活発化させたオランダ塩税ガベルから革命が起きたフランス“塩の行進”で大英帝国を震撼させたガンディーシェフでもある著者のレシピ付き人類の舐めてきた塩辛い歴史を…

「塩の世界史 上」

soldiersalarysalesalad全て塩が語源人類が唯一食する鉱物塩化ナトリウム(Nacl)通貨・調味料・保存・美容・栄養・税目・魔除け・雪溶黄帝は都江堰を築き塩害を排して名声を得た穀物に塩分はなく死海が最古のメソポタミア文明付近なのは偶然ではない塩の世界…

「東方見聞録」

マルコ=ポーロ著 イタリア紀行家中国の文献に記述がなく現在は存在自体が疑問視されるマルコそれでも中世人は本書に魅せられ大航海へ乗り出した“黄金のジパング”を西洋へ初めて記載したヴェネツィア〜タブリーズ〜ウイグル〜北京〜雲南〜インド海岸制度・文…

「神曲 天国篇」

ダンテ=アリギエーリ著 イタリア詩人ベアトリーチェが導く先は天国9つの天使や太陽系に見立てた天界を渡り歩き聖人や神学論争を織り混ぜダンテの理想的な宗教・政治世界を反映ギリシア・ローマや中世の偉人達を秤にかける神たち自身を政界から追放したフィ…

「神曲 煉獄篇」

ダンテ=アリギエーリ著 イタリア詩人古来より人類は死後の天国と地獄を崇め畏怖し芸術の対象としてきたダンテは新たに罪の浄化の場として”煉獄”を創造した(今もカトリック等では不承認)亡者は煉獄で七つの大罪を償い天国を目指す引導はヴェルギリウスから現…

「神曲 地獄篇」

ダンテ=アリギエーリ著イタリア詩人TIME誌で世界文学史上最高傑作に戴く全ルネサンスの嚆矢驚異の想像力で地獄を組み立てるイスラムでは悪書西洋では聖書に次ぐ聖典案内役はヴェルギリウスダンテの偏見で地獄に送られたムハンマドやブルートゥスが荼毘を纏…

「白痴4」

フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著 ロシア作家著者がどうしても描きたかった結末難解な精神分析と幾通りもの読み方賭博・不倫・放蕩・流刑・強制労働と壮絶な人生を送った”白痴”の著者と重なる凶悪と報道される現代の犯罪者にも彼等なりの博…

「白痴3」

フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著 ロシア作家第3巻はイッポリートの告白と狂気じみたキリスト教やロシア史の闇が間接的に4人を抉る真に美しさとは残酷なのだろうか?これまでの明るいコメディタッチから急転ホラーへ善意が不和に恋慕が嫉妬…

「白痴2」

フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著 ロシア作家1巻はペテルブルクへ帰還したムイシキン公爵がエバンチン家とイヴォルギン家の美少女三姉妹と邂逅し閉幕2巻は著者お得意の4主人公並列で惚れた腫れたの愛憎劇へ遺産を相続した公爵とロゴージン…

「白痴1」

フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著 ろしあ4大長編の一角にして最難関に感じたフランス心理・恋愛文学の側面とロシア残酷文学が同居“白痴(痴れ者)”は癲癇持ちの著者の半自叙伝聖書の隠喩が多く文脈に無関係で謎な文も散見トランスやゾーン状…

「世界の見方が変わる数学入門」

数学を学ぶ理由を学ぶ江戸の和算は”桁違い”の水準だった一十百千万億兆京垓秭穰溝澗正載極恒河沙阿僧祇那由他不可思議無量大数・0はなぜ割り切れない?0=無限0=XX=無限故に0=無限の解・積分次元を超えた相乗平均の対数・三角関数天体観測で発明し発展

「暗殺の幕末維新史」

1859-1878年幕末〜明治維新の20年は暗殺の時代フランス革命や大平天国の乱など革命には死が伴うのが常夢半ば斃れた志士は英雄に祀られる坂本龍馬井伊直弼大久保利通大隈重信(未遂)考えれば開国の思想も暗殺と共に淘汰されてこそ明治政府は薩長土肥出身者に偏…

「ママ=グランデの葬儀」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著ノーベル賞コロンビア作家マコンドが舞台の短編集「百年の孤独」の原点にして番外廃れた熱気の村の孤独と閉塞感を想起させる全般的に小話が多いが表題作”ママ=グランデの葬儀”は独裁者老婆の絶対権力と著者の幻想文学の真…

「物語 イランの歴史」

近現代の植民地化とその抵抗運動からイラン民族主義の起源を探る石油利権の85%を英米が搾取そりゃ革命も反米も起こるそこで出光佐三が登場トルコ系サファヴィー朝とアフガン系アフシャール・カージャール朝の時代が特に詳しい何かもう好きすぎてイラン研究者…

「洪水の年 下」

マーガレット=アトウッド著 カナダ作家蜜蜂も飛べなくなった世界国家崩壊のモデルを見た気持ちだ巨大企業vs宗教カルト的環境団体vs国民バイオテロが覆う“水なき洪水”“方舟”を巡る熾烈な階級闘争“Mad Adam(狂人創造主アダム)”の座は誰に?地獄は天国を争わざ…

「洪水の年 上」

マーガレット=アトウッド著カナダ作家遺伝子操作社会合成食料巨大企業単独支配性産業強制無政府状態ディストピアでもSFでもない“有り得る近未来”の文学だからこその恐怖広大な世界観ながら細やかな文物や造語まで緻密に彩り平民視点で進む“ノアの大洪水”が…

「毒と薬の世界史」

毒と薬は紙一重煙草も薬と思われて文化になった毒日本は極めて医薬学のレベルが高いが医師が薬を処方するシステム医学と薬学は全く別で薬学師が担当すべきとの主張に共感ゼンメルヴァイスの消毒導入有毒鳥の発見有窒素化合物の危険コロナより恐い疫病が跋扈…

「古代オリンピック 全裸の祭典」

1day:開会式・学術発表2day:競馬・戦車競争3day:雄牛100頭生贄4dat:格闘技・競走技5day:表彰・祝勝娼婦は1年分を5日で稼ぐ賄賂大流行政権と癒着気味裸なので周辺国から野蛮視聖火はヒトラー考案1200年継続死傷者続出奴隷ではないギリシア人男性のみ参加可

「イエスの学校時代」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著 ノーベル賞南アフリカ作家3部作第2弾勘の鋭さから違和感と疎外感に気付くイエス(David)通常教育は無理とバレエ学校へ入学を決意だがそこで「カラマーゾフの兄弟」に因む”生と死”を”罪と罰”を目撃人間の”悪”を確信し始め…

「イエスの幼子時代」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家3部作第1弾“イエスが現代に生きていたら?”「ドン=キホーテ」を軸にスペイン語で進む主人公Davidや12使徒や聖書の名前に因む著者の言葉遊びと訳者の表現がいい早くもイエス(David)が神聖さや孤…

「バルザックと小さな中国のお針子」

戴思傑著 中国映画監督・作家華僑系フランス映画監督の小説“バルザックが読みたい!”戦前に最も西洋文化を積極受容した中国戦後は徹底的な原始共産制で6千万~1億が死んだ文化大革命へ焚書に抗う知識人家系の少年とお針子の少女は逃亡の末に何を見る?下放の…

「絶望」

ウラジーミル=ナボコフ著 ロシア作家ドイツが舞台 アメリカ亡命作家誉れ高い文学論者でもあるナボコフの巧みな小説技法が初期作にして既に完成している無能な小説家気取りは自身と瓜二つの愚鈍な男を見つけた彼を殺人する保険金目当ての完全犯罪計画パムク…

「素数たちの孤独」

パオロ=ジョルダーノ著イタリア作家“素数”割り切れない数“双子素数”隣り合う素数理解されない天才の孤独理解されたいメンヘラの孤独孤独は交われども独り唇を重ねても心は重ならない近づくほど遠さが煩わしい遠のくほど近さが恋しい人は孤独で結び付いてい…

「ピグマリオン」

バーナード=ショー著ノーベル賞イギリス作家“ピグマリオン効果”心理学で他者への期待の現実化映画「My fair lady」原作“言語学者がど田舎の訛り娘を半年の調教でお嬢様に出来るか?”下剋上した少女はしかし学者に皮肉な結末を与える人は環境で決まるとは社…

「邂逅」

ミラン=クンデラ著 チェコ作家現代ヨーロッパ最大の作家による辛口文芸論集フランシス=ベーコン絵画論カフカ・ガルシア=マルケス文学論シェーンベルク・スメタナ音楽論“生々しき生描写の先生”クンデラ評論にも才能の片鱗が見える小説は絶賛積読中なので彼…