MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-10-23 to 1 day

「死の劇場」

一日一編 フランス怪談集 アンドレ=ピエール=ド=マンディアルグ著 舞台は南イタリア 主人公は死を目前にした老婆 テーマは記憶と男女性差 モチーフは人間の心身における幾何学的投影 生と死を彩る骨董品と餞は人生における”最後の劇場”の幻想 澁澤龍彦の…

「不安ーペナルティキックを受けるゴールキーパーの…」

ペーター=ハントケ著 ノーベル賞オーストリア作家・劇作家 一般労働者で元GKの男は機械工を馘になった 悲痛は衝動に変わり殺人を犯す男 その時GK時代の記憶が呼び起こされ…? フロイト心理学の意識/無意識の連続した行動を言語化した実験小説

「南に向かい 北を求めて」

アリエル=ドルフマン著 アメリカ亡命ロシア系ユダヤ人チリ作家 9.11事件は2001年までチリ大統領府モネダ宮爆撃事件を指した 批評「ドナルド・ダックを読む」や戯曲「死と乙女」で有名な作家の半自伝 ”死に損なった作家”が語る NYとチリを跨ぐ”二都物語”の壮…

「壁を抜ける男」

一日一編 フランス怪談集 マルセル=エーメ著 42歳官吏独身男性 突然の啓示で障害物透過能力を得る 生首だけ透過させて傲慢な上司を脅かしたり パワハラで悩む惚れた女を手解きしたり 何となく壁抜けショートカットで散歩したり 透過にも飽きてきた矢先に彼…

「少女・女・ほか」

バーナディン=エヴァリスト著 ナイジェリア系イギリス作家 ブッカー賞受賞作 老若多職 12人12色の大英帝国アフリカ黒人末裔女性史 黒人女性地位向上を目指し数十年も戦い続けた劇作家の晴れ舞台で関係者女性達が振り返る各々の人生を主語だけの改行と句点な…

「死の鍵」

一日一編 フランス怪談集 ジュリアン=グリーン著 長編「モイラ」で有名なアメリカ系フランス作家 重奏的な語りで短編というより中編的な構造 青年の殺意が家族へ齎すものとは…? 家庭限定のドメスティックな空間設定ながらポリフォニックに欺瞞と傲慢を重ね…

「きつね」

ドゥブラヴカ=ウグレシッチ著 クロアチア作家 ロシア文学者と小説家 “スラヴ圏と東アジアにおいて狐は狡猾の象徴” 2つの顔を使う日常を濃密に語るオートフィクション 著者自身のユーゴスラヴィア内戦〜オランダ亡命後の異文化の摩擦と共存 苦楽伴う移住経験…

「囚人のジレンマ」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 第二次大戦×ゲーム理論×家族史×日系移民捕虜×ディズニー史 “囚人のジレンマ”或いは”ナッシュ均衡” 父への葛藤と虚実混淆の語りが生む肯定と否定のジレンマ ミッキーの世界進出とアメリカ憎悪の矛盾 時代に飲まれゆく国…

「或る精神異常者」

一日一編 フランス怪談集 モーリス=ルヴェル著 とある曲芸師の男 彼は悪人でも無くば凶暴でも無いがしかし道楽者の精神異常者であった 猛獣使いな闘牛など見せ物まがいの技芸では満足出来ぬ彼は目標を掲ぐる さる期待を裏切らぬて目に映る標となりしや犠牲…

「インド宗教興亡史」

歴史も経済も文化も宗教も豊か過ぎて飲み込むインドの宗教興亡史 ヒンドゥー教:バラモン教起源 イスラム教:世界最多の少数派 仏教:母国で滅んだ世界宗教 パールシー(ゾロアスター)教:グジャラート州 シク教:パンジャーブ州 キリスト教:ゴア・ケララ州 ジャイ…

「聖母の保証」

一日一編 フランス怪談集 アナトール=フランス著 芥川龍之介傾倒のノーベル賞作家 「ヴェニスの商人」同様の粗筋で「ヴェニスの証人」的様相の短編 聖母子像を担保にユダヤ人に借金し0から巨額の貿易利益を上げた男 しかしヴェニスに戻れず恋に落ち返済懸念…