MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-10-01 to 1 month

「岬」

中上健次著 4中編集 “黄金比の朝” 浪人生と兄の自殺で当時の社会の虚無と孤独を描く “火宅” 前時代的DVと核家族解体期における悲劇 “浄徳寺ツアー” 現代の聖と俗の間隙を描く “岬” 芥川賞受賞作 血と泥の臭いを感じる密度濃く悍しく汚く激しい文体 異母兄弟…

「ロシア怪談集」総書評

“ロシアの怪談おそロシア!” 代表的なロシア作家のダークな短編大集合 近現代ロシア作家と言えばリアリズム作家の印象が強いが幻想短編やホラーも珍しくない 広大な国土に厳しい寒さや宗教観に革命やソ連期まで 西欧列強とはまた異なる或いは比較可能な視点…

「博物館を訪ねて」

一日一編 ロシア怪談集 ウラジーミル=ナボコフ著 アメリカ亡命前ロシア語によるカフカ的幻想短編 お目当ての肖像画を観に博物館を訪ねたが見当たらない その作者の絵は肖像画でなく田園風景画しかないと すると風景画の雪景色に迷い込み…? お得意の言語遊…

「ベネジクトフ」

一日一編 ロシア怪談集 アレクサンドル=ワシリエヴィチ=チャヤーノフ著 反スターリンで銃殺されたことでも有名な著名農業経済学者 “植物学者X”の語る博識な怪奇幻想短編 苦境を楽しむ陽気な姿は「イワン・デニーソヴィチの一日」を想起する 当時のソ連社会…

「ワシントン・スクエア」

ヘンリー=ジェイムズ アメリカ出身イギリス作家 「ある婦人の肖像」縮小版 NYの偉大な医者を父に持つ娘 平凡な彼女に父の遺産目当てで近寄る伊達男 男に夢中になる恋心と反対する父への反発 心の天秤はどちらに傾く? 万華鏡と顕微鏡を合わせた写実的で精彩…

「魔のレコード」

一日一編 ロシア怪談集 アレクサンドル=グリーン著 意中の女性に愛されない嫉妬から恋人同士のテノール歌手を殺害したオペラ歌手 完全犯罪は成功しライバル不在でオペラの仕事も増加する しかしあるコンサートのレコードで彼に殺した男が憑依し…? “人を呪…

「防衛ークリスマスの物語」

一日一編 ロシア怪談集 ワレリイ=ヤーコヴレヴィッチ=ブリューソフ著 未亡人に恋煩い中の男 まんまと美しい未亡人の家に通いアピールも続ける男 一方で亡夫を忘れられない令嬢 墓場から妻を防衛するようになき夫の亡霊が現れ守るようになる! そして気付い…

「心は孤独な狩人」

カーソン=マッカラーズ著 アメリカ作家 23歳の処女作 世界恐慌〜第二次大戦 聾唖者 黒人 ヘイト 銃社会 アル中 貧困 子供 人種差別 ファシズム 共産主義 不穏なアメリカ南部某町で孤独な人々が言葉と心を交わし合う 虚しい絶望は埋まらない それでも孤独は…

「光と影」

一日一編 ロシア怪談集 フョードル=クジミッチ=ソログープ著 スパルタな母を尻目に成績優秀の少年は影絵遊びに耽る そのうち影に呼ばれる錯覚に落ちていき成績も下がり続ける 母が不機嫌になる 何処にも逃げ場が無くなる 2人の瞳は幸福な狂気に満たされる …

「幸福の遺伝子」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 科学×幸福論=幸福の遺伝子? 落ち目作家で大学講師の下に学ぶアルジェリア系女学生 母国の受難にも関わらずなぜ彼女は幸福なのか? その秘訣は”幸福の遺伝子”! 途端に金を積み遺伝子操作で誰もがDNAレベルで彼女の遺伝…

「イギリス人の患者」

マイケル=オンダーチェ著 スリランカ系イギリス詩人・作家 ブッカー賞受賞作 戦争の負傷者は兵士だけではない インド人爆誕処理係 イタリア人泥棒兼情報屋 イギリス人看護婦 イギリス人”らしき”寝たきり患者 ミステリ・諜報・戦争・恋・神話が象る詩人らし…

「千年の祈り」

イーユン=リー著 中国系アメリカ作家 10短編集 余りに素晴らしくマンロー以来に全編その場で再読した 異文化や異なる境遇の多彩な人物に気付けば共感している “あまりもの” “黄昏” “不滅” “ネブラスカの姫君” “市場の約束” “息子” “縁組” “死を正しく語るに…

「デニーロ・ゲーム」

ラウィ=ハージ著 レバノン作家 大国にゲームとして翻弄されるモザイク小国家レバノン 内戦下ベイルート ロバート・デニーロ主演某映画と同じ運命を辿る主人公と幼馴染 生きるため盗み生き残るため騙し生かされるため殺す 再会は残酷な形で訪れる 内容に反し…

「黒衣の僧」

一日一編 ロシア怪談集 アントン=パーブロヴィッチ=チェーホフ著 周囲の人間には見えない“黒衣の僧の夢”を見たため精神異常者扱いされる有望学者 順調に結婚する一方で僧との会話も増加 “天才と狂人は紙一重”という言葉はドストエフスキー「罪と罰」主人公…

「ボボーク」

一日一編 ロシア怪談集 フョードル=ミハイロヴィッチ=ドストエフスキー著 長編同様に多階級多職層の登場人物が悲喜劇的に振る舞い発狂者が発生する多声の典型的カーニバル作品 一方で珍しく著者自身の声と思わしき箇所もあり著者が思想と結末を手探りで書…

「不思議な話」

一日一編 ロシア怪談集 イワン=セルゲーヴィッチ=トゥルゲーネフ著 リアリズム小説の巨匠による意外な幻想文学 旅館の貴族会館で開催される舞踏会 地位・富・美貌を持ち合わせた女性はなぜ神秘主義に走り全てを捨てたのか? イメージと異なり神や宗教を問…

「吸血鬼の家族」

一日一編 ロシア怪談集 アレクセイ=コンスタンチノヴィッチ=トルストイ著 「戦争と平和」で有名なトルストイは別の作家 当時のオスマン帝国領セルビアに泊まった侯爵は宿の娘から吸血鬼騒動を耳にする 血に飢え血を啜り血で増える吸血鬼 侯爵の前に大量の…

「ノーベル文学賞候補作家を読む 受賞作家も読む2022」

本日発表のノーベル文学賞候補&受賞者概説 私も詩人以外は殆どの受賞作家が既読で共感と発見も多数! 【2023年個人予想(願望)】 🇦🇱イスマイル・カダレ 🇨🇦マーガレット・アトウッド 🇸🇴ヌルディン・ファラー 🇲🇿ミア・コウト 🇮🇳サルマン・ラシュディ [uploading:AE311124-…

「幽霊」

一日一編 ロシア怪談集 ウラジーミル=フョードロヴィチ=オドエフスキー著 “ミイラ取りがミイラになる”的短編 “お化けなんて嘘さ!”と豪語すらお喋りな老人 しかし居合わせた列車で安易に怪談を始めた結果その怪談に準じた幽霊が召喚され…? SF・ロマン派・…

「黄泥街」

残雪著 中国作家 処女長編 “王光子が黄泥街に戻ってきた!” 沸き立つ民衆 跋扈する蛇蝎と蠱毒 氾濫する糞尿 この世の汚物が全て集結したグロテスクな想像 行為と被行為 主体と客体 現実と幻想 真実と虚実 凡ゆる二項対立が累乗されたらあら不思議 曖昧極まる…

「ヴィイ」

一日一編 ロシア怪談集 ニコライ=ヴァシーリエヴィチ=ゴーゴリ著 “この街では女はみな魔女なのだからな…!” ウクライナ出身の作家らしくドラキュラ(ルーマニア起源)や魔女の様なゴシック感があるホラー 夜になると棺のまま起き上がる女子と神学生の神に懸…

「世界のすごい島300」

日本含む世界の特徴的な島を”すごい理由”と共に紹介 日本:6853島(8位) スウェーデン: 221800島(1位) グリーンランド:世界最大の島 島は生態系・歴史・民族・文化・気候など大陸と異なる歴史を歩むことが多い 旅人目線だと島は大陸より行きにくい事が多く好奇…

「草原に黄色い花を見つける」

グエン=ニヤット=アイン著 ベトナム作家 国民的作家のベトナム版「スタンド・バイ・ミー」 有彩色で最も明るい黄色の花が青い春に引導を渡す”最後の子供の時間” 恋に勉強に強がりで泣き虫で残酷で優しい不安定な思春期 ベトナム戦争後&経済成長前の田園に…

「思いがけない客」

一日一編 ロシア怪談集 ミハイル=ニコラエヴィチ=ザゴスキン著 僕の父は気前が良いけど聖者が天使に化けた悪魔に唆されて踊る話に疑問を感じたんだよね そこに巨漢コサックが4人来て饗してたら踊れと言われたんだ 怖くて夢だと思って目覚めたら夢だった ……

「オーバーストーリー」

リチャード=パワーズ著 アメリカ作家 ピュリッツァー賞受賞作 最新の研究で樹木の会話・思索・感情の仕組みが確認された カリフォルニア州の天を覆うアメリカ最後の原生林 西海岸らしい多国籍で多様なバックを持つ9人を軸にアメリカ森林史そのものを壮大な…

「葬儀屋」

一日一編 ロシア怪談集 アレクサンドル=セルゲーヴィチ=プーシキン著 葬儀屋から送られてきた新居祝いのプレゼント それは亡者との対話 抱擁する髑髏 降臨する骸 乾杯する招かれ人 近代ロシア国民的詩人の送るシュールレアリズム的ホラー カトリックと違う…

「怒りの葡萄」総書評

先住民・白人・移住・資本主義・経済格差・農民・移動・農村・サーガ・暴力・贖罪・西部劇・災害… これほど”アメリカ古典文学”に相応しい作品はない 料理や車の修理まで透徹したリアリズムで描きながら聖書挿話とも連動 搾られた葡萄の怒りは”イエスが鮮血”…

「怒りの葡萄 下」

ジョン=スタインベック著 ノーベル賞アメリカ作家 「出エジプト記」後ユダヤ人の如く移動と共に離散していくジェード家 だがカリフォルニアも約束の地ではなく低賃金搾取労働が始まっていた… 警戒する資本家に対し共産主義主張とストライキで抵抗する労働者…

「怒りの葡萄 上」

ジョン=スタインベック著 ノーベル賞アメリカ作家 ピュリッツァー賞&全米図書賞受賞作 聖書の警句“怒りの葡萄” 大不況と砂嵐による穀物不作 住民は家財を取払いオクラホマからテント移動で約束の地カリフォルニアへ向かう その道はかつての白人が先住民を迫…

「雨の少女達」

ソジ=ミキ著 ドバイ(アラブ首長国連邦)作家 まさかのドバイ文学 少女&少年漫画チックなファンタジー ハードボイルド×サスペンス×シスターフッド×スクール×バトルの会話中心の王道ラノベみたいな感じ 中東の歴史や神話が使われており爆弾や殺人事件に学園モ…