MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-01-01 to 1 month

「トランジット」

アブドゥラマン=アリ=ワベリ著ジブチ作家紅海の要衝として自衛隊や大国軍事基地が割拠するジブチパワーゲームに翻弄されるままの祖国を嘆き皮肉り嘲笑う憧れのパリージブチ間で”トランジット”の様に場面が切り替わる構成アルカイダ頭領ビン=ラーディンに…

「スーラ」

トニ=モリスン著ノーベル賞アメリカ作家底辺黒人集落50年史奔放なスーラ大人しいネル対照的だが友人の黒人少女2人村中の男を寝盗る娘?自殺記念日を作った息子?戦後廃人化した子を安楽死する母?歪んだ愛も愛である事は変わらない白人の差別は黒人間にも差…

「宗教図像学入門」

宗教とはシンボルの歴史アイコン(icon)は”偶像”を意味する宗教用語ブッダ降誕(ごうたん)イエス降誕(こうたん)漢字は同じで読みは違う実は宗教に疎い日本にも至る所に隠れている古今東西の宗教図像学をイラスト満載で解説永劫回帰の東洋・インド宗教来世信仰…

「ボンバの哀れなキリスト」

モンゴ=ベティ著カメルーン作家第一次大戦後に独→仏の領土になった1930年代カメルーン傲慢な布教と懲罰を行う神父彼を慕う黒人少年の独白記でフランス植民地政策の粗暴さと矛盾が徐々に露呈キリスト教と相容れない部族の性文化・妻帯制・信仰を賛美し西欧文…

「ビルバオ−ニューヨーク−ビルバオ」

キルメン=ウリベ著スペイン自治州バスク作家ビルバオ発ニューヨーク着僅か7時間の空の旅1世紀に跨る海の足跡バスク現代史と著者の漁師一族の歴史が絡み合う鱗や年輪が時と共に埋もれて見えなくなるように近代化は遠洋漁業や戦争の記憶を錆びれさせていく

「インド夜想曲」

アントニオ=タブッキ著イタリア作家12夜3地方3章構成ゴア・ボンベイ・マドラスで人探し旅を続ける欧米人モディアノ同様の絶妙な曖昧さ・伏線・洗練文体同種の文学の中でも完成度が高いと思うインド感や著者愛好のポルトガル詩人ペソアも上手く入れ込んでい…

「ペルーの異端審問」

フェルナンド=イワサキ著日系ペルー作家・歴史学者短編17集先住民を宗主国の北米は差別し南米は犯して征服した苛烈なカトリック布教肯定のため強姦も殺人も悪魔憑依の所業と嘯く者も多数全近代の権力者”異端審問官”の暴虐とリマの肉欲に猛る聖職者たちを弾…

「ブラス・クーバスの死後の回想」

マシャード=ジ=アシス著ブラジル作家死後に男が短章ごとに思いのまま回想を連ねる独特な文体人は死に様で語られるとなれば”死後の回想”ほどユーモアある話はない細切れの記憶と厭世に哀愁が漂う最後の奴隷制廃止国の社会と格差社会や独特の不倫文化にも注目

「マリアが語り遺したこと」

コルム=トビーン著アイルランド作家聖書でマリアへの言及は意外と少なく解釈も無限イエスの生涯を聖母の独白で想像し語る使徒2人(作中匿名)の狂信妻マグダラのマリアの介添母マリアの息子への愛嘆く母と喜ぶ使徒の対比が妙磔刑から復活までの”ヴィア・ドロ…

「チェルノブイリの祈り」

スヴェトラーナ=アレクシェーヴィッチ著ノーベル賞ベラルーシ作家チェルノブイリ原発事故隠蔽・封殺された市民達の声をリアルかつ客観的に叙述放射能が蝕み国家が見放す悲痛の真実これは過去ではなく”未来の物語”そこには著者の”祈りとも言える願い”が込め…

「池澤夏樹の世界文学リミックス」

池澤夏樹著読み納めは勿論これ!芥川賞作家にして一流書評家が編纂したセンス爆発の世界文学傑作集古今東西かつ多彩なジャンルの傑作を簡潔に膨大な博識で解説・分析世界現代文学の無限の宇宙と可能性に触れる格好の入門書!こんな全集を編纂できたら感無量……

「憤死」

エドゥアール=グリッサン著フランス海外県マルティニーク作家小島ゆえ宗主国言語と混じり独特なクレオール語が発展したカリブ海無職の3主人公の運送人としての生活が独特な現地化仏語スラングと自然描写で進む読み辛いが政治の失敗と不条理な現実に憤る姿と…

「ムーンパレス」

ポール=オースター著アメリカ作家“月は未来”自身の1960-70年代コロンビア大学在学時の体験が基の青春小説中国系美女キティに魅了され歴史学者に導かれ自身のルーツを辿るエフィングソルフォッグ”大切な人”と抱き合いすれ違う世代の違う3人の交響曲闇月夜に…

「ゴットハルト鉄道」

多和田葉子著日本・ドイツ作家中短編3集精神と物体が交わる幻想に拐かされる主人公が共通全作ホラー&猥雑“ゴットハルト鉄道”スイス山岳鉄道トンネルとの交配“無精卵”捨子の少女に監禁され猥雑に扱われる“隅田川の皺男”隅田川沿いの”人間の醜い皺”をめぐるロ…

「サウジアラビア」

聖俗のワッハーブ派+世俗のサウード家で英国と石油を盾に成立した“2聖都の守護者”サウジ1万の皇室人口60%の移民ビジョン2030宗教警察やムフティーを抑え近年社会改革も目覚ましい富豪ビンラディン家のオサマが企図した9.11テロ以降は王政批判は許さずとも生…

「火によって」

タハール=ベン=ジェルーン著モロッコ作家チュニジア青年教師ムハンマド・ブアズィーズィー焼身自殺世にFacebook革命“ジャスミン(ヤスミーナ)革命”瞬く間にSNSで拡散ベン=アリ大統領は亡命図らずも”アラブの春”の導火線を点灯冷たく凍った権力は蒸発し霧散…

「フロイト 無意識について語る」

ジークムント=フロイト著オーストリア精神科医・心理学者フロイト心理学の基礎”無意識”の中心論文を掲載靤潰し=凹=膣=自慰ル・ボン「群集心理」の無意識行動想起(リビドー=広義での性欲)抑圧(想起の抑圧=自慰)徹底反復(自慰反復=無意識の意識=夢・悪欲・性…

「聖なる夜」

タハール=ベン=ジェルーン著モロッコ作家聖なる夜に読みました父の歪んだ男権主義ゆえ男として育てられた少女優しい月が昇る星降る”聖なる夜”に突如”女性”であると告げられる聖者たちが導く千夜一夜の夢の果て囚われていた愛が解されていく

「インド文化入門」

多様なインドの歴史と文化をトピック毎に解説古代インド刻文”史書なき歴史”ティプ・スルタンに見る西欧侵略サティーと女性史芸術史古代遺跡史民族史と言語の関係カースト別の求婚広告タゴール家と岡倉天心宗教史インド映画陶磁器なき料理文化カレー史偉人達…

「同志少女よ 敵を撃て」

逢坂冬馬著ナチに村を略奪され復讐を誓うソ連の少女たちで結成された女性狙撃団スターリングラード初陣ケーニヒスベルク決戦鬼気迫る戦闘軍事描写戦時の女性描写極寒ロシアの自然描写狙撃兵の心理描写スパイの諜報描写穿ち斃れゆく同志少女が射抜く視線の先…

「消される運命」

マーシャ=ロリニカイテ著リトアニア作家中世では欧州最大国家だったリトアニアだがポーランド分割以降は祖国消失ユダヤ人も多くナチ迫害後もソ連に崩壊まで占領赤子も天才も女も友人もユダヤ人というだけで”消される運命”生き延びた“リトアニアのアンネ・フ…

「家族手帳」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家ユダヤ系著者の半自伝ショアー全盛期偽名を用い身元証明書”家族手帳”を偽造されたユダヤ系少年娘誕生を機に親の本名を知るべく過去と現在15章の断片から紡いでいくいつも以上にフラッシュバックの数が多く鬱…

「苦悩の始まり」

ソニー=ラブ=タンシ著コンゴ民主共和国作家老科学者と幼女のキスが通過儀礼のアフリカ架空国家老人に本気で恋した幼女神は不埒と捉えて激怒し天変地異が村民を襲う老人は大西洋巨島建設計画で幼女と婚礼を避けるが…?卑猥な言葉と脱構造文体で伝統的西洋文…

「出てゆく」

タハール=ベン=ジェルーン著モロッコ作家イスラームから出てゆくアフリカから出てゆくマグレブから出てゆくモロッコから出てゆくラバトから出てゆく母国からヨーロッパへ”出てゆく”ことを夢見て行動する若者達西洋文明への憧憬と王政への失望“アラブの春”…

「ナイル」

青白の源流が合流し10国に跨る世界最長河川ナイル四大文明は大河と乾燥地帯の集住が条件5000年も定期氾濫と自然干満で塩分を自動排出だがダム建設後4mの水位と湿度上昇を代償に塩害を初観測水戦争も激化中エジプト中心にデルタ地域のアブー=スィネータ村の…

「最初に父が殺された」

ルオン=ウン著カンボジア作家Netflix配信アンジェリーナ・ジョリー初監督作品歴史上1度も飢饉を経験しなかったカンボジア“内戦”まではポル・ポトの稚拙な原始共産主義で人口の1/4を失い現在もASEAN中最貧国人毛製の鳥の巣木片より多く散る肉片華僑系カンボ…