MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2022-01-13 to 1 day

「ボディ・アーティスト」

ドン=デリーロ著アメリカ作家映画監督の夫の死妻は夫の面影を”或る青年”に見出し肉体の芸術家”ボディ・アーティスト”に覚醒しゆく時間・人称・五感が倒錯し”意識世界”を言語化全てが伏線に見える実験小説狂気のパフォーマンスが徐々に読者を具体から抽象の…

「ムアン・プアンの姉妹」

スワントーン=ブッパーヌウォング著ラオス作家“世界最大の被爆国”ラオスパテトラオ(愛国戦線)vsルアンパバーン王家vsチャンパーサック王家共産主義撲滅を名目に侵攻する米軍故郷を失い愛に生き祖国独立に諍う軍人一家の双子姉妹を力強く描く離散した家族の…

「ハムネット」

マギー=オファーレル著イギリス作家「ハムレット」誕生秘話シェイクスピアと彼の家族を僅かな資料を基に物語化富豪で予見者の8歳上の妻アン・ハサウェイペストで夭折した子ハムネット青年・父・男・プロとしての巨匠亡き息子の名を冠した作品は今尚も世界中…

「私の肌の砦の中で」

ジョージ=ラミング著バルバドス作家最も速くかつ徹底的に英国化された”橋の島”バルバドス故に奴隷貿易や砂糖黍畑の黒人社会が発展し現在もラム酒が特産戦後はアメリカ影響園へ大国への憧れと植民地主義への批判島国文化の美しさへの賛美“カリブの砦街”を肌…

「黄金のしずく」

ミシェル=トゥルニエ著フランス作家現代は”偶像の時代”偶像は魂を抜くと恐れるベルベル人が渡仏し写真を取り返す旅へそこでマネキンの型像となる男から機械文明の無味乾燥さを訴えるSNSの急発展で”言葉の喪失”が進む現代への予言と警鐘感情を失くしたら制服…

「悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事」

エミール=ハビービー著パレスチナ作家・イスラエル共産党員イスラエルの迫害により現在95%→アラブ人口18%になったパレスチナ地図から消えた村と人と家密告と階級闘争失踪したサイードの旅と語りに中東史を絡め悲観楽観で皮肉る”奇妙な逃避行”

「緑の天幕」

リュドミラ=ウリツカヤ著ユダヤ系ロシア作家スターリン死去〜ソ連崩壊ソ連反体制知識人の水面下の劇幕作家・芸術家・音楽家・科学者・詩人・非合法文書家・教育者・ユダヤ人…戦う市民のドラマ成長し挫折する複数主人公が心情豊かに演じる傑作大河小説赤鋤の…

「奇跡も語る者がいなければ」

ジョン=マグレガー著イギリス領バミューダ作家 ブッカー賞候補の処女作架空のイギリス移民街の穏かな日々信号機の点滅と共に動く街詩的絵画的な文章に浮かび上がる街の風景写真パキスタン系やカリブ系など表通りで賑わう市民“語る者がいなければ”何気ない日…

「改良」

遠野遥著美しさにコンプレックスを持ち女装と性欲の”改良”を重ねる青年リップサービスで茶化す風俗嬢アルバイト仲間の女性違和感への怯えと疼く欲望の対比が不気味で巧みで悍しい屈強な男性から性的暴行を受けた”改良人間”の美醜は鏡にどう映るのか?平野啓…

「チンギス・ハンの白い雲」

チンギス=アイトマートフ著キルギス作家2中編“セイデの嘆き”脱走帰還兵の夫を洞窟に匿う妻夫は飢えソ連の裁きに怯えた妻の行動とは…?“チンギス・ハンの白い雲”征服者チンギス行軍前の戒律隊ソ連下キルギスで圧政に苦しむ市民異なる時代を重ねて描く女性礼…

「トランジット」

アブドゥラマン=アリ=ワベリ著ジブチ作家紅海の要衝として自衛隊や大国軍事基地が割拠するジブチパワーゲームに翻弄されるままの祖国を嘆き皮肉り嘲笑う憧れのパリージブチ間で”トランジット”の様に場面が切り替わる構成アルカイダ頭領ビン=ラーディンに…

「スーラ」

トニ=モリスン著ノーベル賞アメリカ作家底辺黒人集落50年史奔放なスーラ大人しいネル対照的だが友人の黒人少女2人村中の男を寝盗る娘?自殺記念日を作った息子?戦後廃人化した子を安楽死する母?歪んだ愛も愛である事は変わらない白人の差別は黒人間にも差…

「宗教図像学入門」

宗教とはシンボルの歴史アイコン(icon)は”偶像”を意味する宗教用語ブッダ降誕(ごうたん)イエス降誕(こうたん)漢字は同じで読みは違う実は宗教に疎い日本にも至る所に隠れている古今東西の宗教図像学をイラスト満載で解説永劫回帰の東洋・インド宗教来世信仰…

「ボンバの哀れなキリスト」

モンゴ=ベティ著カメルーン作家第一次大戦後に独→仏の領土になった1930年代カメルーン傲慢な布教と懲罰を行う神父彼を慕う黒人少年の独白記でフランス植民地政策の粗暴さと矛盾が徐々に露呈キリスト教と相容れない部族の性文化・妻帯制・信仰を賛美し西欧文…