MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-12-10 to 1 day

「雁」

森鴎外著日本作家明治の文豪にして史上最年少の東京帝国大学医学部卒業者高利貸しの妾となったお玉一目惚れした東大医学部の超エリート岡田は洋行(著者もドイツに医学留学した経験がある)不忍池で投擲された石に墜ちる雁の運命がお玉と重なる鬱蒼な明治階級…

「両方になる」

アリ=スミス著イギリス作家美術館を鑑賞する現代イギリスの少女15世紀のイタリア徒弟画家各160Pでどちらも”第1部”共通点は”遠近法”?時空の違う人生を監視カメラと近代絵画手法で比較するiPadから覗く世界と宗教的価値観から覗く世界どこか似た2つの物語の”…

「戦争の悲しみ」

バオ=ニン著ベトナム作家“蟻が象に勝った”その代償は”途方もない悲しみ”敵すら慈愛に接する北部と非道な米兵米兵混血児50万韓兵混血児10万死者数1000万売春婦率1割血肉が脳漿が腸骨が地を覆った次々と死ぬ恋人や仲間戦争が日常となる恐ろしさと人間の弱さを…

「イルストラード」

ミゲル=シフーコ著フィリピン作家米国亡命政治小説家の怪死と未発表原稿の紛失彼の弟子は帰国し謎と母国政治の闇を暴く雑誌・新聞記事・作家著作&伝記・SNS・駐在米兵・警察・政治家・家族史・漫画・雑誌…“イルストラード(知識人)”が牛耳る140年フィリピン…

ガブリエル=ガルシア=マルケス全17冊読破記念総書評

既に永遠の古典を約束されている「百年の孤独」現実を軸に語りの巧みさで非現実を現出する”魔術的リアリズム”で有名だが著書の半数は極めて写実的(元敏腕記者)死・孤独・愛・性…巨大建築のような作品群は今も現代文学に多大な魔術を与えている 以下は個人的…

「落葉 他12短編」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著ノーベル賞コロンビア作家13中短編集全体の1/3を占める表題作”落葉”始め「百年の孤独」発表以前のマコンドもの中心“落葉”博士の死を基軸に米国企業ユナイテッドフルーツ社に牛耳られた架空の街マコンドの歴史を多角的に語る…

「エリュトゥラー海案内記」

註・解説250P+本編50P紀元前後のギリシア語による海洋案内記地図を見れば古代にも関わらずその正確さに驚く太平洋も大西洋も未発見の時代インド洋は海洋貿易の主要舞台だった季節風・各地方特産の珍品・海岸線の詳細・地理生物学的生態を解説した古代航海術…

「バビロンの架空園」

澁澤龍彦著中2病的雑学の源泉たる澁澤全集植物文化学&園芸学の畢竟博覧記有名な花の文化的歴史や近代以前の毒・薬への活用法を紹介発掘され実在した”バビロンの空中庭園”もハイライト民族紛争の象徴“バベルの塔”も現場の移民労働者をリアルに揶揄したという…

「前日島 下」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家“歪な真珠”を意味するバロック時代近世の取れたルネサンス芸術から絵画も音楽も誇大妄想的に膨らむ流浪人ロベルトを乗せ無人船アマリリス号はダフネの旅情を伴う皮肉屋知識人サン=サヴァン痛快なイエズス会パスカル神父冒…

「前日島 上」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家大航海の夢溢れるバロック時代西欧各国は鎬を削り7つの海を旅した日付変更線の島に迷い込む航海者ロベルトそこは時空間を超越し”前日まで過去を遡れる島”だった錬金術・哲学・航海術・悪魔・怪鳥・カバラ…エーコの博学は近…

「カトリーヌとパパ」

パトリック=モディアノ著ノーベル賞フランス作家“眼鏡の人は世界が2つ存在する”絵本と見せかけて中身はやはり哀愁漂うモディアノ作品パリで事業に失敗しNYで再起を誓うパパバレエや語学に一生懸命なその娘カトリーヌ子供視点で風情あるパリがアメリカ化する…

「キンドレッド」

オクティヴィア=エステル=バトラー著アメリカ作家反黒人差別を叫ぶ夫婦が19世紀南部と1970年代を交互にタイムスリップ黒人奴隷を救う為ジレンマに陥りながらも先祖の白人領主を時に助け憎み抗う鞭打ち・人身売買・強制労働タイムトラベルの謎と残酷な黒人…

「忘れられていた息子」

ミロ=ガヴラン著クロアチア作家意識高い系ママの意向で15年も隠し子扱いされてきた知的障害の青年戸惑う弟妹は破談や勉学の挫折を理不尽に押し付ける周囲は徐々に少年の素敵な感性を認め始めるやがて純粋な彼に見惚れた少女との恋に落ちるが…?個性を考えさ…

「アルグン川の右岸」

遅子健著中国(内モンゴル自治区)作家ツングース系エヴェンキ族バイカル→ロシア→清→満州国→中国アルグン川でトナカイと共生する岸辺で金塊発見侵略は神話に彩られた自然と文化を奪っていくリアル「ゴールデンカムイ」+「もののけ姫」の世界を族長の姫だった老…

「農耕詩」

クロード=シモン著ノーベル賞マダガスカル(フランス)作家culture(文化)の語源は”耕す”戦争も農業も等しく文化ヴェルギリウス「農耕詩」に肖る戦争叙事詩彼A フランス革命将軍彼B スペイン内戦義勇兵彼C 第二次大戦敗残兵3人の”彼”が交代で現れ農耕の美徳と…

「山猫」

トマージ=ディ=ランペドゥーサ著イタリア作家著者自身も没落貴族の半自伝リョサ激賞巨匠ヴィスコンティ監督の傑作“人種と文化の坩堝”シチリア島両シチリア王国ブルボン朝宰相を世襲した”山猫”の家紋ガリバルディ上陸〜第一次大戦期階級没落を予感する名門…

「夕映えの道」

ドリス=レッシング著ノーベル賞イギリス(ジンバブエ)作家“あなたには良き隣人がいますか?”90歳の孤独な被介護老女50歳の未亡人敏腕編集者老いを意識する真逆の2人詰り惹かれ慰め合う孤独・階級・医療・尊厳死・親族・性差…命の旅は黄昏時へ“夕映えの道”を…