MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

「中陰の花」

玄侑宗久(僧名)著 2中編 “中陰の花” 芥川賞受賞作 人は死ぬ時に体重が僅かに軽くなる 魂=原子核=幽体移動? 現役臨済宗僧侶が描く生死の間”中陰”の文学的臨死体験朝顔の音” 不倫する男女 女は流産の過去を男は妻帯の現実を隠し合う 2作とも植物の比喩が仏教的 科学と宗教の愛憎なのか?

「出会いはいつも八月」

ガブリエル=ガルシア=マルケスノーベル賞コロンビア作家 未完の遺作 マルケスラテンアメリカ文学であると同時にカリブ文学でもある 晩年の認知症で綻びは多々散見するが魅力的な設定 母の墓がある島に年1で訪れる富裕層中年女性 不倫夫同様に違う男に毎年抱かれるが…?

「太陽の季節」

石原慎太郎著 元東京都知事 5中編 芥川賞受賞作 “太陽の季節” “灰色の教室” “処刑の部屋” “ヨットと少年” “黒い水” 全作とも日本版ビート文学と言える立ち位置 ヨットやボクシングの肉体礼賛と女性に暴力的でマチズモ極まる若さが滾る ギラつく太陽に青春が身も心も焦がされていく作品

「パニック・裸の王様」

4中編 全作とも集団と個人の社会関係批判 “パニック” 鼠害跋扈vs正義の公務員vs腐敗権力 “巨人と玩具” キャラメル製造の競争社会揶揄 “裸の王様” 芥川賞受賞作 子供の絵画教室に枷を作る大人と無責任な子供の教育現場批判 “流亡記” 秦始皇帝の長城強制労働と匈奴への遊牧的憧憬 いずれも世界観が大きく本質的に長編やノンフィクション向きのテーマだが敢えて要点を絞り短編に縮めている

観察力が鋭く且つプロットも盤石なため”集団vs個人”の構図さえあればいくらでも応用できる

実際に本書内だけでも古代封建的皇帝制・芸術徒弟制・工場労働制・近代官僚制と幅広く実験している

「ウィーン世紀末文学選」

フロイト シーレ クリムト クライスラー ヘルツル ルエーガー ブルックナー マーラー 各分野の多彩な才能が集結したウィーンだが文学も例外ではない 鬱屈した耽美主義と迫り来る世界大戦の足音を他所に謳歌した帝都 1918.11.11 オーストリア=ハンガリー帝国滅亡 最後の繁栄 以下個人的ランキング

1「ファルメライヤー駅長」 ヨーゼフ・ロート 2「文学動物大百科(抄)」 フランツ・ブライ 3「カカーニエン」 ローベルト・ムージル 4「シャイブスの町の第二木曜日」 フィッツ・フォン・ヘルツマノフスキー・オルランド 5「小品6つ」 ペーター・アルテンバーグ 6「地獄のジュール・ヴェルヌ/天国のジュール・ヴェルヌ」 ルートヴィヒ・へヴェジー 7「バッソンピエール公爵譚」 ヒューゴー・フォン・ホフマンスタール 8「ダンディならびにその同義語に関するアンドレアス・フォン・バルテッサーの意見」 リヒャルト・フォン・シャオカル 9「オーストリア気質」 エゴン・フリーデル 10「余はいかにして司会者となりしか」 アントン・カーク 11「楽天家と不平家の対話」 カール・クラウス 12「落花生」 シュテファン・ツヴァイク 13「すみれの君」 アルフレッド・ポルガー 14「ある夢の記憶」 リヒャルト・ベーア・ホフマン 15「ジャネット」 ヘルマン・バール 16「レコデンタの日記」 アーサー・シュニッツラー

「カカーニエン」

一日一編

ウィーン世紀末文学選

ローベルト=ムージル著 天才たちの座す国カカーニエン その後に消滅して理解されなかった国 ヨーロッパ中央にあって国力は下位にあった国 帝政にして王政の神秘学が必要な国 カカーニエンはやはり天才の国だった 多分だからこそ没落していったのだ