MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-05-01 to 1 month

「苦海浄土」”水俣3部作”読破記念総書評

疫災は即ち人災であるそれを知っていたからカミュは「ペスト」を書いたならばその上位互換の公害病は”国災”といえる海の幸は苦海に変貌し黒い赤子が生を受ける浄土を願い戦い続けた全関係者に捧ぐ詩的鎮魂歌傑作という言葉では形容し足りない“奇跡の書物”と…

「天の魚」

石牟礼道子著“苦海浄土”水俣3部作3章天が魚を恵む豊饒の海街”水俣”水俣病確認から15年また1人と斃れゆく仲間を弔う公害病との長き戦いは文明と人権と国家の正当性を問う社会問題へ福島原発事故と重なるデジャヴそれでも紡ぐ浮かばれぬ魂の記録日本窒素水俣工…

「神々の村」

石牟礼道子著“苦海浄土”水俣3部作2章古き良き”神々の村”vs近代物質的”利権主義者”信じていた国に見放される水俣病患者学生やカンパを巻き込む東京本社ハンスト日本窒素株主総会での社長糾弾若き橋本龍太郎元首相への失望患者と遺族の戦いは続く苦海を素潜り…

「苦海浄土」

石牟礼道子著“苦海浄土”水俣3部作1章熊本県水俣市美しい海と漁師の街日本窒素の工場が水銀を排出し不知火の魚介とそれを食した漁師を死の病に陥れる苦しむ患者決死の工場訴訟群れるマスコミ無知で傲慢な政府同郷出身主婦の著者は憤り事件の救済を待つ市民を…

「TVピープル」

村上春樹著6短編集ゆるホラー短編が多め夢と異世界と過去など現実と非現実の間を往来する長編の足掛け練習にも読めた“TVピープル”“飛行機―あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか”“我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史”“加納クレ…

「カスパー」

ペーター=ハントケ著ノーベル賞オーストリア劇作家記号=言語を0から学ぶ主人公の実験的1人称劇A=B→B=C→故にA=C赤子の様に徐々に言語を獲得していく視点を2段組で描写上段:舞台劇会話下段:主人公心中普段いかに言語を無意識的かつ非論理的に使用し慢心してい…

「音楽家の世界」

クラシック作曲家53人66曲を解説した音楽入門書クラシックはまず単発から複数の楽器の演奏を交響曲を編み出したバッハに始まる政治・絵画・文学の潮流同様に古典派→ロマン派→国民楽派と発展複合的で巨大オペラ群の誕生神話や文学作品とのリンク人生から音楽…

「光の護衛」

チョ=ヘジン著韓国作家9短編集どの短編も素晴らしい全編とも韓国人が主人公ながら舞台や脇役は欧米を中心とする外国人(韓国小説はモダニズムとリアリズムが多いので珍しい)短編ながらウルフ的な多人称での”意識の流れ”で個人が直面する見えない歴史と権力の…

「シルクロード」

スキタイに始まる半農半牧オアシス都市国家形成東:漢と唐の西域経営とイラン文化受容西:ペルシア帝国→イスラム化→トルコ化中世:パックス・タタリカ→ティムール朝近代:ウズベク3ハン国→ロシア化と探検隊地理学・言語学的分析を軸に古代〜現代までシルクロード…

「ペルシアの神話」

世界遺産ペルセポリス遺跡はペルシア語で”タフテ・ジャムシード(王の玉座)”と言う半農半牧の二元論的なペルシア神話ファリードゥーン王と父親殺し受難の冒険英雄ロスタムアフラ・マズダとアーリマンの善悪古今東西の神話同様ペルシア神話に似たプロットを持…

「中央アジアを知るための60章」

テュルク系民族国家の歴史と産業と自然を網羅カザフウズベクキルギストルクメンタジク(唯一イラン系)カラカルパクタタールクリミアタタール東西交流の拠点として豊かな文物と人種の坩堝地域私も韓国や中国は勿論ヨーロッパ系など現地化人種の多様さに驚いた

「ブラジル文学傑作短編集」

12短編集(6作家2編ずつ)粒揃いのブラジル短編傑作選文化も人種も国土も多種多様なブラジルを鋭く社会批判家父長制カーニバルと性犯罪サッカーチームシングルマザー婚外子格差と貧困人種問題現代的な悩みを抱える熱狂の国の冷酷な現実シリーズ最高の1冊だと思…

「ノヴァ・ヘラス」

11短編集ギリシアSFアンソロジー考えてみれば古代の科学先進地ギリシアの神話はSFとも言える具体的な科学蘊蓄は少ないが豊かな想像力とテンポ良い展開が魅力アンドロイドARVR宇宙大洪水環境問題AI仮想娼婦人工受粉疫災色覚障害移民問題人権意識国境問題社会…

「供述によるとペレイラは…」

アントニオ=タブッキ著イタリア作家ファシズムの狂気が静かに忍び寄る第二次世界大戦前夜リスボン ご報告の通り“供述によるとペレイラは…”文芸誌編集者庇護者寡夫肥満者隠遁者あるいは…? “供述によるとペレイラは…”もう既に行方不明になっているようです

「本町通り 下」

“村落病ウィルス”から一時避難し”都市の空気は自由にする”と言わんばかりに深呼吸…でもやっぱり本町も恋しい!複雑な胸中で選ぶ決断とは?田舎と都会の縮図はそのまま1920年代アメリカ中流階級の日常を多声的多角的に鋭く風刺田舎あるあるの普遍性に頷くと共…

「本町通り 中」

“村落病ウィルス撲滅運動!”シティガール妻vs保守的田舎ヤンキー!地元の誇りを尊重しながら折り合いを付け都会風を吹かせる努力も虚しく同調圧力に板挟み妻の喜怒哀楽と悪気がないゆえ辛辣な村民の悲喜劇更に息子も産まれて家庭も忙しくなる中”本町色”に染…

「本町通り 上」

シンクレア=ルイス著ノーベル賞アメリカ(初)作家アメリカ版「女の一生」+「ミドルマーチ」+「ハワーズ・エンド」都会育ちで文化薫陶を受けた美人妻牧歌的農村のエリート医者の夫妻は都会気分を忘れられず劇や朗読と街おこしに奔走するが…?政治経済文化を等…

「物語チベットの歴史」

吐蕃・吐谷渾・西夏難攻不落の4000m首都ラサの政教一致密教中世では唐が和平する程の軍事大国チベット仏教がラマ教に発展元で国教→明清でオイラトと女真に保護転生で継承されダライ・ラマ13世で亡命後継ダライ・ラマ14世も亡命し北京五輪など現在も独立運動…

「トルコの歴史 下」

西欧への優越から均衡化したオスマン帝国セリム3世:腐敗イェニチェリ一掃ムハンマド・アリー:マムルーク殲滅西欧:150年に亘る分割”瀕死の病人”に凋落した柔軟な多宗教多民族国家タンジマート〜エンヴェルとケマル登場現代のエルドアンやクリミア=タタール問…

「トルコの歴史 上」

世界史上最も広範囲に移住拡大したトルコ民族匈奴→突厥→ウイグル(イスラム化)→セルジューク朝(マムルークの世界進出)→オスマン朝(東欧イスラム化)弓や食など現代も古代アルタイ期の俗習を保持カラオスマンオウル家などアーヤーン研究とオスマン朝の文化・生…