MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2023-04-20 to 1 day

「J•M•クッツェー<世界と”私”の偶然性へ>」

クッツェー全作品&全評論解説現代英文学界の頂点ながら他言語執筆に挑戦する”集大成研究”異端の主人公言語・芸術論無感情文体自問と告白メタ的構造古典リライト(全作)傑作「恥辱」解説が充実本書読了後に作品を読むと深い理解と感動を覚えるはず

「友」

ペク=ナムリョン著北朝鮮作家政府公認の北朝鮮文学理系妻と工学夫の離婚調停と子供引取問題を引き受けた判事とその妻勲章と国の名誉のため必死で生きる市民高度な学会と男権社会で苦悩する家庭の女性がテーマ検閲や美化の可能性も否めないが文章も構成も練…

「サーデグ・ヘダーヤト短編集」

サーデグ=ヘダーヤト著パフレヴィー朝イラン作家10短編3散文詩集内省的な感情の吐露と外性的な言動の激情伝統的なイラン文化と歴史の夥しい引用をフランス心理小説の形式で独白(=ほぼ著者の思想)宰相輩出の名家で自殺未遂と放浪生活を続けた個人的には正直…

「アーダの空間」

シャロン=ドデュア=オトゥ著ガーナ作家“歴史は繰り返す”ループ500年×人種×同名女性転生1459年ガーナ:アダー(ポルトガル侵略時の嬰児喪失の母)1848年ロンドン:エイダ(ディケンズ愛人の数学者)1945年ドイツ:アーダ(ポーランド人ナチ慰安婦)2019年ベルリン:エ…

「バルカン・ブルース」

ドゥブラヴカ=ウグレシィチ著クロアチア作家エッセイ集“ヨーロッパの火薬庫”が爆発したユーゴスラヴィア紛争を語る扇動され昨日の友が明日の敵になり意味もなく殺し合った西側諸国はクンデラの様な亡命作家以外を持ち上げず諜報戦の役に立たない音楽などの…

「街とその不確かな壁」

村上春樹著“わたし”と”あなた”の夢物語“ぼく”と”きみ”を分つ不確かな壁2人で語り合った秋の蜃気楼の街7つの夜に無限の図書館で夢を読む2人に手紙は来ないからこんな時代の愛も森林の奥に隠れてしまう最果てにて交わる世界の終わり“記憶の図書館”あるいは”神…

「天使エスメラルダ 9つの物語」

ドン=デリーロ著アメリカ作家9短編集複雑で婉曲的な寓意世界が得意なデリーロ入門の傑作短編現代の不安(テロ・情報操作・科学・SF・多民族社会・自然災害)に翻弄される市民を描くのが上手い短編ながら起承転結が上手く寧ろテーマが直裁的でメッセージ性が明…

「ペルシアのむかし話」

17短編集前半:ローカルなイスラム化以前のペルシアむかし話後半:グローバルなイスラム化後の「千夜一夜物語」むかし話預言者モーセアッバース大王チャガタイ王子ペルシア版”アリババと40人の盗賊”ペルシア版”東方3博士”ペルシア版”スフィンクス”ペルシア版”…

「語り継ぐ人々 アフリカの民話」

37説話集東西南北アフリカ部族の民話集キクユ族ベルベル人マサイ族スワヒリ人ソマリ族アフリカでは狐ではなく針鼠と兎がトリックスター役で面白いまた大河文明的絶対神よりアニミズムが強い従って大災害や地獄行きと過酷な刑罰はなく痛い目見る程度に収まる …

「南海寄帰内法伝」

義浄著唐インド留学僧長安〜室利仏斉〜曲女城ナーランダー僧院での学び四波羅衣(姦・嘯・盗・殺)の厳罰衣食住と不殺生の徹底礼式梵我一如と極楽浄土に至る厳しい修行を経て漢籍仏典を原典翻訳小雁塔に保管されインドで滅んだ仏教の当時の様相と研究の詳細を…

「イェレナ いない女」

イヴォ=アンドリッチ著ノーベル賞ユーゴスラヴィア作家8短編3エッセイ2散文詩集多民族国家を描くことの難しさどの主人公も特定民族に偏らせず不正義と不条理に言葉で対抗”ユーゴスラヴィア文学界のティトー大統領”と言うべき存在橋や自然などを讃え夢見た民…

「文明交錯」

ローラン=ビネ著フランス作家新大陸は”銃・病原菌・鉄”で滅んだではインカ帝国がヨーロッパを征服したら?史実と逆の世界線キリスト教→太陽崇拝(インティライミ)ローマ教皇→アテネ教皇農奴制→ミタ制ハプスブルグ家→アタワルパ帝国セルバンテスとヴァイキン…

「熟成する物語たち」

鴻巣友季子著食と物語は熟成が大切ワイン×世界文学翻訳エッセイ翻訳もまた芸術であり機能的美学を持つ言語の深さを改めて思い知る落語と翻訳の関連性にも唸った(JUMPで「あかね噺」にド嵌り中)覇権言語(英仏語)と消滅言語クッツェーの様に”南半球文学”に挑戦…

「地の糧」

アンドレ=ジイド著ノーベル賞フランス作家散文詩×エッセイ×紀行文×田園回顧ルビなしで読めない格調高い漢字と翻訳冥界の王ハデスがペルセポネを連れ去り母の豊穣神デメテルが怒って収穫が消えたゼウスの調停で冥府と現世で過ごす周期が穀物の収穫期となった…

「レザルド川」

エドゥアール=グリッサン著フランス海外県マルティニーク作家ルノードー賞受賞作小さな島の歴史を見てきたレザルド川囁く樹木迸る水流泡吹く苔美しい自然を舞台に政治情勢に翻弄される市民を川下りと重ね合わせた多声性過去・未来・現在を多彩な人々の目ま…

「ギルガメシュ叙事詩」

紀元前4500年シュメール神話結集楔形文字で粘土板に刻まれた”世界最古の物語”ギルガメシュ叙事詩英雄ギルガメシュ友人エンキドゥ世界初の洪水伝説森の怪物フンババ退治イシュタルの冥界下り神話と英雄譚の狭間の設定から中央集権社会が始動する片鱗が垣間見…

「文学は予言する」

ディストピア感増す昨今世界の作家はどう予言したか?文学は未来をどう予言するか? 優れた芸術家は未来を予測できる予測できるからこそ歴史に名を残すペン1つで表現と弾圧立ち向かう作家はとりわけその典型 進まないフェミニズム古典浄化の波情報支配社会グ…

「シルクロード全史 下」

“グレートゲーム”中央アジアの大英帝国vsロシア帝国の攻防をチェスに例えた呼称現在アメリカも加わり中東に拡大した”豊かゆえに不安定な地帯”イランの石油を85%独占した英国イラクを前面支援し逆ギレした米国ナセル主義の勝利と挫折文明の十字路から戦略物資…

「シルクロード全史 上」

ザイデンシュトラーゼ全史“Ciao(伊語:おはよう)”は奴隷の傅く様が挨拶に定着した言葉「マハーバーラタ」原型はトロイア神話絹・馬・疫病・金・銀・鉄・奴隷・毛皮・ガラス・石油・宗教・思想・美術・文字・文学・神話…ユーラシア大陸の”見えざる道”に導かれ…