MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2021-12-01 to 1 month

「インドネシア大虐殺」

共産主義的スカルノ政権崩壊資本主義的スハルト政権成立2つのクーデターはベトナム戦争に匹敵する大虐殺の引鉄しかし冷戦構造の中で100万人の死が黙殺され真相は闇の中デヴィ第4スカルノ夫人(根本七保子)・要人・大使館・各国紙の証言を分析インドネシア開発…

「ムントゥリャサ通りで」

ミルチャ=エリアーデ著ルーマニア作家・宗教学者共産主義ブカレストロマ・トルコ・インドの文化や神話が迷宮の様なカフカ的幻想を醸す元校長の老人に政府が失踪事件の聞き取り捜査を行う進退と円環接続と断片忘却と追憶脱線という本筋が支配するムントゥリ…

「21Lessons」

21世紀における21の問題提起日経新聞を毎日読んでいれば真新しくは感じないがホットな話題の網羅感はあるメディア論にも多く言及所謂ビジネス本的で微妙私見ではAIよりバイオ技術の方が革命的と思うがどうだろう?文明より文化圏を重視した歴史の統計分析が…

「原敬」

盛岡の没落貴族からフランス語を学び外交官から藩閥政治を一新した”平民宰相”記者時代の情報収集力と語学で立憲政友会の勇士に並び大正デモクラシーの期待を背負うも夢半ばで刺殺国公私立大学の拡張を達成し軍縮と国有企業化を推進彼が存命なら犬飼毅暗殺も…

「打ちのめされた心は」

フランソワーズ=サガン著フランス作家バロック感漂う未完の遺作自著の様に生きて死んだ著者前時代的社交界が理想のギクシャクした豪邸の住人たち事故で壊れた美男な夫疲弊する妻不倫に勤しむ虚勢の父風評ばかり気にする親族短くも細かい重奏的描写に引き込…

「ベンヤミン メディア・芸術論集」

ヴァルター=ベンヤミン著ドイツ文学・芸術学者映画・文学・劇・写真・絵画・ラジオ・TV・語学と多岐に渡る”メディア”分析の書無声映画全盛期ならではのチャップリン論評ナチ退廃芸術への批判Disney映画論文学界のドンたちとの交流巨匠の視野の広さに驚く1冊

「三日月」

ラビンドラナート=タゴール著ノーベル賞イギリス領インド帝国(アジア初)詩人・音楽家・教育者・作家タゴール国際大学創立者故郷ベンガル語で雄大な自然を擬人化し”母”と詠う静謐な詩揺られし赤児?撥ねる波紋?峡谷の山河?“三日月”の美しさは人それぞれ“詩…

「ジハードの街タルスース」

“ジハード”本来は”努力”の意転じて”宗教的情熱”や”聖戦”の意決してテロとは無関係な言葉現トルコ領タルスースは古来イスラムとヨーロッパ鬩ぎ合いの”聖戦の最前線”文化圏の境界ミスル(軍営都市)ウマイヤ朝拠点成立〜アッバース朝による拡大と荒廃海岸軍事都…

「ムーア人の最後のため息」

サルマン=ラシュディ著インド作家インド航路発見者ガマの一族ユダヤ系と婚姻し現代ボンベイ巨大財閥へ成長絶世の美女画家と倍速で歳を取る息子”黒幕”の奸計で没落する勇姿はナスル朝”最後の王”ボアブディルに重なる2枚の名画「ムーア人の最後のため息」の秘…

「忘却についての一般論」

ジョゼ=エドゥアルド=アグアルーザ著アンゴラ作家国際ブッカー賞最終候補再読内戦・凌辱・誤射・孤独…外界を恐れ忘却したい一心で27年も無人高層ビルで自活する女性壁に書き連ねる記録は”生きた証の一般論”内戦は終わり忘れようとしていた家族と世界の朝を…

「ライ麦畑でつかまえて」

ジェローム=デビッド=サリンジャー著アメリカ作家想像とかなり違ったが村上春樹の好きそうな小説思春期の意地張り・性への目覚めと感心・大人と子供の境界学校や社会の欺瞞とNYに憧れたホールデンそれでも彼は雄大なライ麦畑で誰かにつかまえて欲しかった…

「JUMP」

ナディン=ゴーディマ著ノーベル賞南アフリカ作家短編12集主にアパルトヘイト下の南ア社会の複雑な人種間亀裂を描く人種差別は一様に憎悪だけの問題ではなく文化摩擦・経済格差・教育政策欠如・土地制度問題など複合要因だと分かる著者曰く作家は”第3の性”多…

「J・M・クッツェー 少年時代の写真」

ジョン=マクスウェル=クッツェー著ノーベル賞南アフリカ作家写真家志望の少年時代のアルバムとインタビューを掲載写実的な文体が特徴の著者「遅い男」の主人公もプロ写真家在りし日の南アの貴重な姿やアパルトヘイト前の牧歌的風景は作品にも頻繁に現れる

「82年生まれ キム・ジヨン」

チョ=ナムジュ著韓国作家ほぼ”現代韓国女性社会史”の内容日本が羨む程に女性の育休産休制度が充実するのに出生率は1%弱不謹慎だが”1982年”に”韓国”に”女性”として生まれなくて良かったと安心してしまう程リアル私論だが子供1人あたり200万/年は支給すべきと…

「孤独の発明」

ポール=オースター著アメリカ作家2部構成著者と彼の父親の自伝詩人としての才覚もある著者が軽妙な語り口で思い出を語っていく(第1部) 見えない人間の肖像父の遺品整理をする中で彼の生きた孤独を仮想体験する(第2部) 記憶の書記憶を頼りに声なき”見えない…

「シンプルな情熱」

アニー=エルノー著フランス作家“シンプルな想いほど言葉にできない”官能文学は最も難しいジャンル表現対象が肉体のみで使用可能な語句が極端に少なく下品だとエロ本にお高いと哲学になる実体験を基に中年愛の恋煩いを抉る程に描いていく“不倫は文化?”“いえ…

「最後の決闘裁判」

エリック=ジェイガー著アメリカ歴史学者中世文物研究と実話に基づく中世フランス”決闘裁判”を描くNF現在映画公開中旧友に襲われたと語る妻に激情する夫しかし証拠に乏しく法廷闘争へ“宗教時代”中世は決闘の勝敗が神判を受戒するという考えが主流生死を賭け…

「港の世界史」

海と陸を繋ぐ都市空間”港の世界史”実はNYマンハッタン島も埠頭や艀で囲まれている近代以前の港(語源:水門)は国内外の商業が集う情報センター故にNYもロンドンも香港も金融都市化し近代資本主義発展に寄与した私自身も輸出入に携わる身だが車や空輸でも船由来…

「ウンベルト=エーコの文体練習」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家“知は力なり”そしてまた”知は遊びなり”エーコの文体練習はパロディに満ちている歴史上の偉人に”調子はいかが?”と問えば一言でどう答えるか?名作を緩く楽観的に分析するとどうなるか?文体=記号の読解は記号論学者ならでは

「モーリタニアン」

モハメド=ウルド=スラヒ著モーリタニア囚人9.11テロで”疑わしき者”を収監したグアンタナモ拷問と汚物と隠蔽の蔓延る”黒塗りの歴史”冤罪を訴え本書を書くが2500カ所は米国の検閲で非公開著者は現在も収監囚人や看守の非道の一方で友情や異文化理解について…

「雁」

森鴎外著日本作家明治の文豪にして史上最年少の東京帝国大学医学部卒業者高利貸しの妾となったお玉一目惚れした東大医学部の超エリート岡田は洋行(著者もドイツに医学留学した経験がある)不忍池で投擲された石に墜ちる雁の運命がお玉と重なる鬱蒼な明治階級…

「両方になる」

アリ=スミス著イギリス作家美術館を鑑賞する現代イギリスの少女15世紀のイタリア徒弟画家各160Pでどちらも”第1部”共通点は”遠近法”?時空の違う人生を監視カメラと近代絵画手法で比較するiPadから覗く世界と宗教的価値観から覗く世界どこか似た2つの物語の”…

「戦争の悲しみ」

バオ=ニン著ベトナム作家“蟻が象に勝った”その代償は”途方もない悲しみ”敵すら慈愛に接する北部と非道な米兵米兵混血児50万韓兵混血児10万死者数1000万売春婦率1割血肉が脳漿が腸骨が地を覆った次々と死ぬ恋人や仲間戦争が日常となる恐ろしさと人間の弱さを…

「イルストラード」

ミゲル=シフーコ著フィリピン作家米国亡命政治小説家の怪死と未発表原稿の紛失彼の弟子は帰国し謎と母国政治の闇を暴く雑誌・新聞記事・作家著作&伝記・SNS・駐在米兵・警察・政治家・家族史・漫画・雑誌…“イルストラード(知識人)”が牛耳る140年フィリピン…

ガブリエル=ガルシア=マルケス全17冊読破記念総書評

既に永遠の古典を約束されている「百年の孤独」現実を軸に語りの巧みさで非現実を現出する”魔術的リアリズム”で有名だが著書の半数は極めて写実的(元敏腕記者)死・孤独・愛・性…巨大建築のような作品群は今も現代文学に多大な魔術を与えている 以下は個人的…

「落葉 他12短編」

ガブリエル=ガルシア=マルケス著ノーベル賞コロンビア作家13中短編集全体の1/3を占める表題作”落葉”始め「百年の孤独」発表以前のマコンドもの中心“落葉”博士の死を基軸に米国企業ユナイテッドフルーツ社に牛耳られた架空の街マコンドの歴史を多角的に語る…

「エリュトゥラー海案内記」

註・解説250P+本編50P紀元前後のギリシア語による海洋案内記地図を見れば古代にも関わらずその正確さに驚く太平洋も大西洋も未発見の時代インド洋は海洋貿易の主要舞台だった季節風・各地方特産の珍品・海岸線の詳細・地理生物学的生態を解説した古代航海術…

「バビロンの架空園」

澁澤龍彦著中2病的雑学の源泉たる澁澤全集植物文化学&園芸学の畢竟博覧記有名な花の文化的歴史や近代以前の毒・薬への活用法を紹介発掘され実在した”バビロンの空中庭園”もハイライト民族紛争の象徴“バベルの塔”も現場の移民労働者をリアルに揶揄したという…

「前日島 下」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家“歪な真珠”を意味するバロック時代近世の取れたルネサンス芸術から絵画も音楽も誇大妄想的に膨らむ流浪人ロベルトを乗せ無人船アマリリス号はダフネの旅情を伴う皮肉屋知識人サン=サヴァン痛快なイエズス会パスカル神父冒…

「前日島 上」

ウンベルト=エーコ著イタリア作家大航海の夢溢れるバロック時代西欧各国は鎬を削り7つの海を旅した日付変更線の島に迷い込む航海者ロベルトそこは時空間を超越し”前日まで過去を遡れる島”だった錬金術・哲学・航海術・悪魔・怪鳥・カバラ…エーコの博学は近…