MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2024-03-01 to 1 month

「地図と領土」

ミシェル=ウェルベック著 フランス作家 ゴンクール賞受賞作 “現代人はなぜ幸福になれないのか?” 同じ種の孤独に共感し問題児作家ウェルベックに肖像画を贈ることにした世界的芸術家 美女・金・地位・名声を得た彼は人生を回顧し芸術論を自問する 一方ウェ…

「世界イディッシュ短編選」総書評

一日一編 世界イディッシュ短篇選 東欧ユダヤ共通語イディッシュ ホロコーストで世界各地へ亡命同化したユダヤ人 現在進行形で滅びゆく言語で創作された短編集 現在のガザ侵攻と真逆の立場に遭ったユダヤ人 その受難は糧になるのか? 今こそ読みたいと思い紐…

「ヤンとピート」

一日一編 世界イディッシュ短篇選 ラフミール(リチャード)=フェルドマン著 南アフリカ亡命ユダヤ系リトアニア作家・政治家 アパルトヘイト期の南アにユダヤ史を重ねる 白人警官のヤン 黒人運動推進者のピート 同じ母の下で育った幼馴染 支配者と被支配者の…

「泥人形メフル」

一日一編 世界イディッシュ短篇選 ロゼ=パラトニク著 ブラジル亡命ユダヤ系ポーランド作家 ブラジルに亡命したゴレム(ユダヤ伝説泥人形)という渾名の男 リオは多人種社会だがユダヤだけは金に汚いとして迫害され続ける やがて金持ちとなり迫害した者が玉の…

「マルドナードの岸辺」

一日一編 世界イディッシュ短篇選 ナフメン=ミジェリツキ著 アルゼンチン亡命ユダヤ系ウクライナ作家・医師・ジャーナリスト 強迫観念が強いドストエフスキー的な作品 亡命先のブエノスアイレスでも迫害を受ける少年 創世記以来ディアスポラしたユダヤ史と…

「兄と弟」

一日一編 世界イディッシュ短篇選 イツホク(ジャック)=ブルシュテイン=フィネール著 フランス亡命ユダヤ系ポーランド人 ホロコーストを生き延びレジスタンスとして活躍 ゲシュタポから逃げる兄弟 幸せだった日々を思い出しながら戦下の街を這う 希望の地フ…

「満たされぬ道 下」

ベン=オクリ著 ナイジェリア作家 精霊界に連れ戻され5回も輪廻転生する主人公! 憑霊され政治家にボクサーに大忙しな父! スキャンダルに暴動に事件続きの写真家! “未知の王”の“道の王”!? 満たされぬ物語は西洋に抗ったナイジェリア近現代史の鏡でもある……

「満たされぬ道 上」

ベン=オクリ著 ナイジェリア作家 ブッカー賞受賞作 「精霊たちの家」+「やし酒飲み」+「「ライ麦畑でつかまえて」!? 精霊界と人間界を往来可能な精霊は人間界で生きることを決意する… 憑依?幽体?変人(霊)?霊(変)態? 魑魅魍魎の跋扈するナイジェリア版…

「最後の注文」

グレアム=スウィフト著 イギリス作家 ブッカー賞受賞作 “亡き友の遺灰に盃を” 何十年を共にした友の死を悼む4人の仲間 確執もあった 喧嘩もあった 失望もあった 戦争もあった 遺言は遺灰を思い出の海に捨てること 読者も徐々に各人の記憶が明かされる文学の…

「パディ・クラーク ハハハ」

ロディ=ドイル著 アイルランド作家 ブッカー賞受賞作 6人家族長男パディ 学校ではサッカー好きの”ウンコを連発する”悪戯っ子集団の仲間のお調子者 家族では兄弟達の世話係にして親の顔を伺う慎重者 恋に勉強に家事に遊び 最後の子供時代を鋭い感性でコミカ…

「喪失の響き」

キラン=デサイ著 インド系イギリス作家 ブッカー賞受賞作 事故死したソ連宇宙飛行士の両親を持つ孤児のインド人少女 彼女の家のコックの息子で恋人にしてNYで永住VISA取得を夢見る不労就労のネパール人少年 2人の恋の障害となるネパール独立運動 米ソ冷戦期…

「カフェテリア」

一日一編 世界イディッシュ短篇選 アイザック(イツホク)=バシェヴィス=シンガー(ジンゲル)著 ノーベル賞ユダヤ系アメリカ亡命ポーランド作家 NYカフェテリアで寛ぐ著者と思しき男 突如として作品のファンという女性に口説かれる 彼女はNYでヒトラーと一夜…

「後継者たち」

ウィリアム=ゴールディング著 ノーベル賞イギリス作家 原初人類史を寓話化し人間本能に潜む性悪説的原罪を炙り出す野心作 <野蛮>ネアンデルタール人(旧人類) vs <文明>ホモサピエンス(後継者) 当時の生活と道具を驚異的想像力で補った最先端の文化人類学研…

「ブルターニュの歌」

ジャン=マリ=ギュスターヴ=ル=クレジオ著 ノーベル賞フランス作家 2中編 “ブルターニュの歌” 休暇中に過ごした発祥地にてモーリシャス移住前のブルトン人先祖と在りし日の原風景を辿る言葉の旅 “子供と戦争” 第二次世界大戦下ニース3〜5歳の記憶を80歳を…

「シーダとクジーバ」

一日一編 世界イディッシュ短篇選 アイザック(イツホク)=バシェヴィス=シンガー(ジンゲル)著 ノーベル賞ユダヤ系アメリカ亡命ポーランド作家 地底生活中の悪魔の母子 地上から襲い来る”神の失敗作”人間の光から日々の闇の安寧を守るため祈る 地上に追われ…

「ヴァーノン・ゴッド・リトルー死をめぐる21世紀の喜劇」

DBC(Dirty But Clean)ピエール著 オーストラリア作家・漫画家・映画監督 ブッカー賞受賞作 米高校少年銃乱射事件がモデル 少年犯が自殺し寡黙ゆえ冤罪で死刑判決 逃亡→報道→逮捕→裁判→処刑 現代人の偽善と傲慢の仮面を剥ぐドス黒い風刺作

「塀のそばで」

デル=ニステル著 ユダヤ系ロシア領ウクライナ作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 独ソ戦でタシケントに疎開し反ファシズムの廉で逮捕され獄死 乗馬サーカスの大看板を務める美人娘を持つ父 寄生虫のように支配人に付き纏い掟と病に苦しみながら生きてい…

「ムーンタイガー」

ペネロピ=ライヴリー著 エジプト出身イギリス作家 ブッカー賞受賞作 “私は世界の歴史を書いているの…” 魅力的な冒頭文は戦争の世紀を生きた美女の存在証明 兄と競う幼少期 愛人と流産と出産 シングルマザー奮闘 美大生の弟子 戦争体験と通信員 北アフリカ将…

「逃亡者」

ドヴィド=ベルゲルソン著 ユダヤ系ロシア領ウクライナ作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 反ロシア的テロリスト文学を物しスターリンのテロル(大粛清)の犠牲となった作家 迫害に堪えられずキエフ出身の醜い逃亡者 知人がおらずテロリストになりたいと考…

「ギターの男」

ズスマン=セガローヴィチ著 アメリカ亡命ユダヤ系ロシア領ポーランド作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 ワルシャワ市街ゲットー 奇妙な隣人達の棲まうアパートの異彩を放つ”ギターの男” いつの世も美しいものは反感を買う ギターの音色に嫉妬する隣人と…

「海に帰る日」

ジョン=バンヴィル著 アイルランド作家 ブッカー賞受賞作 海に生まれて海に帰る 老いたる美術家は自身の60もの歳月を振り返る 絶えず繰り返す漣と波飛沫にも聞こえる流麗な文体の記憶 過去と現在が違和感なく交錯する筆致に唸る 生きるとは死ぬまで過去に向…

「パイの物語 下」

鮫との戦い? 人喰い植物の島? ミーアキャットの島? 限界状態の走馬灯? 海亀の誘い? 人虎転生? シマウマ? オランウータン? ハイエナ? バナナ船? 寄ってらっしゃい!観てらっしゃい! (映画もね!) そこの”日本人の御2人”もパイの見た”嘘みたいな本…

「パイの物語 上」

ヤン=マーテル著 スペイン系カナダ人 ブッカー賞受賞作 インド人少年と虎の227日太平洋漂流記 ポンディシェリ動物園館長の息子はインディラ・ガンディー圧政に辟易し珍動物寄贈先のカナダへ渡航を試みるが船が沈没 虎と共に生き延びるため互いを利用する過…

「通過儀礼」

ウィリアム=ゴールディング著 ノーベル賞イギリス作家 ブッカー賞受賞作 大英帝国が誇る巨大戦艦 第1部:牧師の航海日記 第2部:船長の手紙 プライドの高い牧師と船長は階級を分つ限定空間で互いを憎悪し合う それは必要悪の”通過儀礼” 意識無意識の階級差別…

「最初の教師/母なる大地」

チンギス=アイトマートフ著 キルギス作家 2中編 “最初の教師” ソ連併合後キルギスの地を踏んだ最初の教師の物語 保守的な老人と開明的な若者の対立と成長 “母なる大地” 祖国防衛戦争に駆り出された息子 その帰りを待つ母 プロパガンダ感も若干あるが戦争の…

「ブレイネ嬢の話」

ザルメン=シュニオル著 アメリカ亡命ユダヤ系ベラルーシ作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 ユダヤで厳禁の性を扱った初の作家 白痴で巨漢で怪力の女ブレイネ嬢 嫁入りは難しくパン捏ねに専念させる父だが怠ければ怯えながら靴で殴っていた 神が嬢と父に…

「天までは届かずとも」

イツホク=レイブシュ=ペレツ著 ユダヤ系ロシア領ポーランド作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 聞いてくれ 大贖罪日前の悔恨期になると導師は朝に出かけてしまう リトアニア男はそんな訳あるかと笑い飛ばすけれど 小ロシア語で祈ってるのさ 密かに何処…

「みっつの物語」

イツホク=レイブシュ=ペレツ著 ユダヤ系ロシア領ポーランド作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 昇天時に天国と地獄のどちらにも天秤が傾かず現世で3つの魂を救うよう命じられた魂 処刑寸前のユダヤ少女や困難者を救いヨハネの黙示録の喇叭が鳴り響く ユ…

「つがい」

ショレム=アレイヘム著 ウクライナ系ユダヤ作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 (これは寓話ではない) 僕はつがいの七面鳥♪ 今日は何の日?めでたい日♪ つっかっまえろ♪×2 ユダヤ人みたくつっかっまえろ♪ 美味しい前菜用意して♪ 鱈腹満腹食べるのさ♪ 人間…

「所有とは何か」

ピエール=ジョゼフ=プルードン著 フランス哲学者 “第三身分とは何か?ー全てである” “所有とは何か?ー盗みである” 今こそ読みたい社会主義 “無政府主義の父”渾身の所有論 国民国家の黎明〜全盛期にその根幹に巣食う資本主義の収奪を糾弾し真逆の無政府主…