MarioPamuk’s diary

海外文学と学術書の短文感想&忘備録

Entries from 2024-03-05 to 1 day

「海に帰る日」

ジョン=バンヴィル著 アイルランド作家 ブッカー賞受賞作 海に生まれて海に帰る 老いたる美術家は自身の60もの歳月を振り返る 絶えず繰り返す漣と波飛沫にも聞こえる流麗な文体の記憶 過去と現在が違和感なく交錯する筆致に唸る 生きるとは死ぬまで過去に向…

「パイの物語 下」

鮫との戦い? 人喰い植物の島? ミーアキャットの島? 限界状態の走馬灯? 海亀の誘い? 人虎転生? シマウマ? オランウータン? ハイエナ? バナナ船? 寄ってらっしゃい!観てらっしゃい! (映画もね!) そこの”日本人の御2人”もパイの見た”嘘みたいな本…

「パイの物語 上」

ヤン=マーテル著 スペイン系カナダ人 ブッカー賞受賞作 インド人少年と虎の227日太平洋漂流記 ポンディシェリ動物園館長の息子はインディラ・ガンディー圧政に辟易し珍動物寄贈先のカナダへ渡航を試みるが船が沈没 虎と共に生き延びるため互いを利用する過…

「通過儀礼」

ウィリアム=ゴールディング著 ノーベル賞イギリス作家 ブッカー賞受賞作 大英帝国が誇る巨大戦艦 第1部:牧師の航海日記 第2部:船長の手紙 プライドの高い牧師と船長は階級を分つ限定空間で互いを憎悪し合う それは必要悪の”通過儀礼” 意識無意識の階級差別…

「最初の教師/母なる大地」

チンギス=アイトマートフ著 キルギス作家 2中編 “最初の教師” ソ連併合後キルギスの地を踏んだ最初の教師の物語 保守的な老人と開明的な若者の対立と成長 “母なる大地” 祖国防衛戦争に駆り出された息子 その帰りを待つ母 プロパガンダ感も若干あるが戦争の…

「ブレイネ嬢の話」

ザルメン=シュニオル著 アメリカ亡命ユダヤ系ベラルーシ作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 ユダヤで厳禁の性を扱った初の作家 白痴で巨漢で怪力の女ブレイネ嬢 嫁入りは難しくパン捏ねに専念させる父だが怠ければ怯えながら靴で殴っていた 神が嬢と父に…

「天までは届かずとも」

イツホク=レイブシュ=ペレツ著 ユダヤ系ロシア領ポーランド作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 聞いてくれ 大贖罪日前の悔恨期になると導師は朝に出かけてしまう リトアニア男はそんな訳あるかと笑い飛ばすけれど 小ロシア語で祈ってるのさ 密かに何処…

「みっつの物語」

イツホク=レイブシュ=ペレツ著 ユダヤ系ロシア領ポーランド作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 昇天時に天国と地獄のどちらにも天秤が傾かず現世で3つの魂を救うよう命じられた魂 処刑寸前のユダヤ少女や困難者を救いヨハネの黙示録の喇叭が鳴り響く ユ…

「つがい」

ショレム=アレイヘム著 ウクライナ系ユダヤ作家 一日一編 世界イディッシュ短篇選 (これは寓話ではない) 僕はつがいの七面鳥♪ 今日は何の日?めでたい日♪ つっかっまえろ♪×2 ユダヤ人みたくつっかっまえろ♪ 美味しい前菜用意して♪ 鱈腹満腹食べるのさ♪ 人間…

「所有とは何か」

ピエール=ジョゼフ=プルードン著 フランス哲学者 “第三身分とは何か?ー全てである” “所有とは何か?ー盗みである” 今こそ読みたい社会主義 “無政府主義の父”渾身の所有論 国民国家の黎明〜全盛期にその根幹に巣食う資本主義の収奪を糾弾し真逆の無政府主…

「ブラックボックス」

砂川文次著 芥川賞受賞作 これは日本の闇を糾弾する”現代のカフカ”による予言書かもしれない 短気で不器用で転職癖の付いた若者 珍しく長続きした自転車配送業だが彼女の妊娠で急に未来を不安視し運悪く昇給も逃した果てに暴力事件を起こす 刑務所の中で見出…

「世界怪談集」読破記念総書評

“恐怖”は生物の本能の根源 “物語”は人間の文化の根源 従って”怪談”は文化の本質を暴く イギリス フランス ドイツ ロシア アメリカ 中国 東欧 ラテンアメリカ 夢・怪物・風刺・神話・SF・民話・サスペンス・シュール… 時代もテーマも文体も作家も様々な個性豊…

「秋の四重奏」

バーバラ=ピム著 イギリス作家 ブッカー賞最終候補 木枯し吹く老いの秋は夕暮れに 人生の秋を迎えた男女4人の独身同期定年退職者 死期を悟る者… 趣味の読書に耽る者… 介護施設に入り馴染もうとする者… バカンスにクリスマスに忙しい者… 生と死の孤独に寄り…